きみとぼくとは違うんだってね


小さくなった獄寺くん可愛い。
自分が小さくなったことも気が付かない。鈍感、可愛い。京子ちゃんに子ども扱いされて怒る、可愛い。何もないのに誰かいるって騒ぐ姿、可愛い。偵察しに来た山本くんに抱き上げられて短い手足をブンブン振り回す姿、可愛い。


「可愛い……っ」


噛み締めているのだ。二度と見ることができない獄寺くんを。将来の夢どころではない。可愛い。京子ちゃんの将来の夢まだ聞いてないけれど聞くどころではなくなった。
ランボまで一階に降りてきて獄寺くんに絡みに行く。京子ちゃんも山本くんも気がつかなかったらランボも気がつかない。山本くんはわかったような反応をしたが綱吉に従兄弟と言いくるめられていた。獄寺くん妾の子だって前に言ってたし従兄弟との交流なんて無さそうだけど。綱吉と山本くんは妾の意味を知らないか。ランボは獄寺くんが縮んだ時一緒にいたのになんでわからないんだろう? 5歳児ってそんなものだっけ?
獄寺くんはぐちゃぐちゃ喋りマウントを取るランボを無視する。同い年ぐらいの相手には強気になれるランボはゲンコツを用意して殴りかかろうとしたが、殴られる前に獄寺くんはいつも通り蹴り飛ばした。強い。


「わかったよ綱吉。この子は私が育てる」

「何がわかったなのーーっ!?」


幼い身体でも中学生の記憶はある。その辛さがわかるのは私だけだ。
獄寺くんを抱きしめてこの子は誰にも渡さないと宣言すると腕の中でわめかれた。


「鳴神!! おめえは自分の性別が分かってねえのか! そのっ……オレに急に抱きつくな! ってかなんで鳴神がオレを持ち上げられるんだ!!」

「え〜もう可愛い」

「可愛くねーーー!!」


小さいことに気がつかない鈍感可愛い。視線低くなっているじゃん。私や綱吉や山本くんに抱き上げられた時点で普通気がつくじゃん。何も気がつかない鈍感可愛い。これが母性本能?


「よし、私の家に行こうね」

「なんでだよ!! そんなことよりあいつらが見えねーのか!!」

「うんうん」


よかったねえ念願のオカルト的なUMA的な何かが見えるようになったのかな。「私には何にも見えないよ」と伝えれば獄寺くんは小さくて短い手をもう一度外の電柱に向ける。いるとしたら鳥だけだよ。人はいない。というより電柱に人がいたらもっと大騒ぎになっているから。


「独り身同士一緒に暮らそうね」

「なっ……! その言い方は寄せ! それに……さっきから当たってるんだよ!! む、胸が!!」


家族と共に過ごしていない一人暮らし同士なんだから誰の許可もいらないんだよ。10年バズーカというのは本来だったら5分で元に戻る不思議アイテムだ。だがもう5分以上経っている。いつ戻るかわからないので大きくて事情を知っている人と一緒にいた方が安全なのに。獄寺くんは真っ赤な顔でぎゃんぎゃん喚いている。


「よしチビ、オレが相手してやる」

「なにしやがる野球バカ!!」


腕の中にいた獄寺くんを奪い取られた。あ……、と腕を伸ばした時には遅し。だけど猫のように首根っこを掴まれて持ち上げられている獄寺くんも可愛かった。


「てめーあいつらがみえねーのかよ!!」


ずっと何か見えないものを指さす獄寺くん。それが今度は電柱じゃなくて綱吉の家の天井。見上げたけれど特に何もいない。虫すら見つけることができない。


「……何かいるの?」

「わかるか鳴神!? いるだろちっちゃいのと大きいのの二人組が!! 10代目を狙ってる!!」


必死な訴えに少し本気にしたが私には何も見えない。二人もいるんだへえ。綱吉が狙われているんだへえ。当人はまた変なことを言い出したで済ませちゃっているけれど。獄寺くん綱吉のことに関しては嘘をつかない人だから信憑性はあるんだけど実際何もないんだよなあ。誇張しているだけかな?

獄寺くんはジタバタずっと首根っこを掴まれて暴れている。山本くんが小さい足を向けんな、と注意してようやく自分が縮んでいることに気がついていた。私でも綱吉でも伝えれなかったのに山本くんは伝えることができた。 

ショックで気絶した獄寺くんだったが「10代目が!」と持ち堪える。そして改悪されたダイナマイトを綱吉の上に向かって投げた。パァンと軽快な音を出して鳩や色テープ風船が飛び出る。

獄寺くんはショックを受けてじっと天井を睨むがやはり何もいない。それでも何かを追うように視線を動かしているんだよなあ。


「うーん……」

「どうしたの紗夜ちゃん?」

「目を細めれば何か見えるかなぁと」


京子ちゃんも同じように目を細めてリビングと台所を見回す。素直に信じて真似するの可愛い。私の視線は天井に向けられているけれど京子ちゃんは地面や壁だ。


「なんにもないね」

「だよねぇ」


獄寺くんには何か見えている。霊感でも目覚めたのかな。霊って見える人に寄ってくるっていうじゃない。あまり視える視える連呼しない方がいいと思うんだ。


「お、おい!! キャッチボールおしえやがれ」

「おっ、そーゆーことなら遊んでやる」


え? 死ぬ気?
山本くんとのキャッチボールなんて同世代の獄寺くんがやっても下手したら危険なのに縮んだ獄寺くんが相手になるわけないじゃないか。縮んだことを理解していないの? 先程してたよね? 気絶しかけてたよね? そもそも獄寺くんが山本くんを遊ぼうと誘ったこと初めてじゃない? 逆ならよくあるけれど。
なぜか山本くんさどこからか野球ボールを取り出した。


「……どこに隠し持ってたの?」

「お? 普通だろ? オレ野球好きだしいつでも近所のガキたちとキャッチボールできるように持ってんだ。だけど近所のやつら誰も相手してくれないで逃げちまうんだよな」


当たり前だ。いつも優しい朗らかな人が野球だけ変貌するのだから。
山本くんは嬉しそうにニカニカと笑う。いつも子どもたちに相手されないぶん獄寺くんちっちゃいバージョンとのキャッチボールは嬉しいのだろう。


「あとで紗夜もやるか?」

「やらない」


獄寺くん一人が犠牲になるのだ。私はごめんだよ。
外に行くかと思いきや部屋でやるそうだ。なーるほど。室内なら山本くんは手加減すると考えたのかな? それでも急になんでキャッチボール?

獄寺くんは綱吉の後ろに立ってキョロキョロと辺りを見回す。何かを待っているかのように。
待っていた何かが来たのか目を光らせて山本くんに投げてこいと叫んだ。それに対して山本くんは本気で投げた。室内とか関係なく本気で。やべえ。綱吉に当たる。
しかしボールは見えない何かに当たったように綱吉に当たる直前に跳ね返った。え、怖。バチバチと故障したかのような火花が飛び散って見知らぬ男が現れた。……………え?

獄寺くんが言っていたことは本当だったの?

次に獄寺くんが山本くんに要求したのはジャンピングキャッチ。見知らぬ男が現れてもなおボールを投げれる山本くん。また見えない何かに当たって火花を散りながら知らない人が現れた。


ちっちゃいのと大きいのの二人組。


この人たちはある年齢以下の人間には見える迷彩服を着ていたらしい。製作者は緑色のおしゃぶりをしているアルコバレーノのヴェルデという人。


マフィアランドで出会った艶かしい女性の言葉を思い出す。


最強の七人の赤ん坊。虹の色のおしゃぶりを持つ四人目の名前が出た。光学迷彩を作り出すとか最強かよ。最強なんだけど。
……ということはリボーンは見えていたにも関わらず獄寺くんを助けないでいた。私たちには見えてなかったらリボーンはやはり一歳程度の子ども。……一応イーピンも見えているので五歳以下ということにしよう。それでもリボーンはディーノさんが学生の頃からこの世に存在している。ディーノさんが今いくつかは知らないが20は超えているとして……ディーノさんの中学生時代は14だとすると少なくとも6年は経過している。それでもリボーンはおしゃぶりをつけているから赤ん坊だろう。……いや? あれは最強のアルコバレーノである証であって使用はしていないのか?

……とりあえず子どもにしか見えない光学迷彩を見破っていた。よくわかんなくなってきた。リボーンは実際私たちより長く生きているのか短いのかはわからないが、身体はずっと小さい。赤ん坊だ。

……呪いじゃん。身体が成長しない呪いにかけられているじゃん。え、怖。マフィア世界怖い。どんな魔女を怒らせたらそんなことになるの。


いつの間にか不審者二人は家から追い出されていた。
京子ちゃんに声をかけられていたけれど私は瞳孔が開くほど目を見開いてリボーンを見つめていた。なぜかリボーンも私を見ていて、……諦めたように口元を緩めたのだった。