夢は夢であって叶わないもの


小学生の時の夢について調べるという課題。今後の進路を見据えての内容だろうか。先生方も変なことをお考えになる。
小学生の時の作文取ってあったかな、と押し入れをガサガサと漁ると見つかった。六年間分あるわけなく、見つかったのは小一、二、六の三つだけ。二と六は同じことを書いてある。今も同じ夢である内容。一年生は……何を思ってこれを書いたんだろう。この日はいろいろ限界だったのかな。ぐっちゃぐっちゃに真っ黒のマーカーで塗りつぶされていたけれど裏から読めた。


……持っていくのは二年生のでいいか。六年生だと最近すぎるし。私服に着替えるのもめんどくさかったので制服のまま同グループの綱吉の家に向かう。お邪魔するということで何か手土産持っていった方がいいよなぁ。

と、その前に。台所に立って一年生の目標に火をつける。角からどんどん黒くなって灰となり跡形もなく散っていく。一欠片となった時流しに落として水を出した。


「家族いつまでも仲良く、か……」


壊したのは誰だよ。

銀色のシンクに映る女の瞳は冷え切っていた。
燃えて灰となった幼き夢。二度と戻ることはない。

水を止めてゴミを集め燃えるゴミに捨てる。

……よし、綱吉の家に行くか。















なぜか珍しく綱吉の部屋にではなくてリビングに通された。もう少し遅刻してくるべきだったかな、と思いつつ綱吉の向かい側に座る。京子ちゃんは私服で夏らしい服装で可愛かった。
手土産を渡してまずは私の夢から発表となった。早く終わらせて邪魔者は退散しようと。

全員見事に二年生のを持ってきた。京子ちゃんは学校違うからわからないけれど、私と綱吉は同じだから二年の時に将来の夢を書いたんだろうな。


「天寿を全うしたい」

「わかる」


いろいろ込められた強いわかるを綱吉からもらった。あと最近はマフィアと関わりたくないも加わったと述べるとまたわかる、と。


『将来の夢 鳴神紗夜
私は天寿を全うしたいです』


これだけ書いてあった。ブレないな私。一度目が途中退場だからかな。あっはははは。


「紗夜ちゃんは小さい頃から今みたいにしっかりしていたんだね」

「え? してる?」

「してるよーっ。紗夜ちゃんには安心していろいろ任せられるんだ」


それは安心してるんじゃなくて都合よく使われているんだよ。京子ちゃんはいい子だからあまりないかもしれないが他の人は大体都合良く使ってきている。綱吉がうんうん頷いているがさっきから同意しかしてないね。


「じゃあ次ツナくん? 私かな?」

「綱吉」

「えっ!?」


指名制でさっさと終わらせよう。そうすれば京子ちゃんと二人っきりになれるよ、と親指を出してグッドサインを送ったら首を傾げられた。なぜわかんない。しっかり者の気遣いだぞ。私は綱吉の恋一応応援しているんだから。一応ね。ハルちゃんもしているし京子ちゃんの意思も尊重するから一応ね。

綱吉の作文は京子ちゃんによって読み上げられた。古い記憶だから忘れていたが綱吉は二年生の頃にはもうダメツナと蔑称をつけられていたんだ。久しぶりに聞いたなダメツナというあだ名。そんな綱吉の夢、今とは違かった。当時はまだ会ったことなかった京子ちゃんとの結婚ではなくて巨大ロボになることだった。特撮映画でも観てたのだろうか。


「アハハかわいーっ!」


京子ちゃんの感想が一番優しいものかもしれない。私は何も言えなかった。僕のあだ名はダメツナです、の出だしの時点で言葉を失ったから。
だが一人おかしな反応をする綱吉バカがいた。涙ぐみながらリビングに入ってきた。


「いい作文っスねーー! 巨大ってのが…」


何で獄寺くん一緒の班ではないのに綱吉の家にいるの。自分の班はどうしたのだろう。サボりだろうな。一緒の人困っているだろうに。女子は不機嫌になっているだろうに。
ドクロの服を着た獄寺くん。うすうすみんな感づいているが、獄寺くんは理系人間にしては珍しくオカルトとか信じるタイプである。好きなんだろうなあ。
ひそひそと綱吉と獄寺くんが何か密談している。何を思ったか獄寺くんは窓を開けてダイナマイトをぶっ放した。いつものことだ、と京子ちゃんと見守っていたのだがダイナマイトから出たのはカラフルなテープや白いハト。手品やパーティーグッズに使われそうなもの。
あんぐりと口が開いた。拍手できている京子ちゃんはたぶんダイナマイトを使う獄寺くんを知らない。


「どーゆーことかジャンニーニにきいてきます!」


恐ろしい顔をして部屋から出て行こうとする獄寺くんに はっとなって慌てて飛び上がる。


「待って獄寺くん!!」

「あ???」


久しくもらっていなかった不良の睨みを頂いたが獄寺くんだし怖くない。ガシッと男の人の腕を捕まえる。ゴツイ装飾品をいっぱいつけていた。


「はなせ鳴神、オレはあいつを、」

「私を連れて行って!!」

「……はあ!?」

「お願い!! 連れ出して!」


何か喋っていたが知らん。
お願い、とじっと見つめると獄寺くんは顔を赤くして髪をがしがしとかきむしって私の手を掴んでリビングから出て行った。出ていく間際に綱吉にまた親指を向けといた。


邪魔者は退散するよ! あとはがんばれ!


「あははっ紗夜ちゃんと獄寺くんって仲良しだよね。……ツナくん?」

「え!? ごめん何京子ちゃん!?」

「なんか怖い顔していたよ? どうかした?」

「……なんでも、ない」










なんと気の利く女の子なんだろう私は。獄寺くんは真っ赤になるほど怒りながら綱吉の部屋に戻った。途中リボーンと出会ったが彼も少しウキウキして拳銃を撫でていた。なんだこの武器お披露目会みたいな雰囲気。


「おいジャンニーニ!!」


獄寺くんが綱吉の部屋の扉を壊す勢いで開ける。どんどん我が部屋のように足を踏み入れる獄寺くんと違って私は立ち止まってしまった。


………………綱吉の部屋物騒。


部屋一面に古今東西の武器が飾られていた。この前来た時はいつだったか忘れたがその時は壁中に武器は飾ってなかった。え? どうしたの? ボンゴレボスだという自覚が芽生えて自衛に走った? さっき私にはマフィアと関わりたくないと激しく同意したくせに。
目の前では獄寺くんが一昔前の宇宙船みたいのに乗っている丸い前髪ぴっちり分けの人を凄んでいる。あ、そこにリボーンまでもが加わった。何かを意気投合したのか無言で頷いて二人して暴力をふり始めた。


「ヨヨヨ……そこの美しい方、お助けください!!」


私はさっと目を逸らす。美しいを私だと思い込んだわけではない。ここにいる第三者が私しかいないから私に言っているんだと思っただけで美しいに反応したわけではない。
助けられるわけないだろう。ぷっつんした獄寺くんとリボーンを止めれるのなんて綱吉ぐらいだ。私が止めに入ったら良くて入院、悪くて棺桶行きになる。私の夢は天寿を全うするなのだ。


そこに綱吉が飛び込んできた。
せっかく京子ちゃんと二人っきりにしたというのに……!! なんで有効に使わないんだ!!
二階で騒がれたらいい雰囲気になんてなりたくてもならないだろうけど。

綱吉が来てようやく私も話がわかってきた。獄寺くんが綱吉に説明していく。私にもしてくれた。
この丸い人はジャンニーニというそうで、この人の家庭は代々ボンゴレファミリー専属の武器チューナー。ジャンニーニさんの父親は名チューナーだということで期待して息子に武器の改造を頼んだらしいが武器を全て使いものにならなくしたそうだ。それに対してジャンニーニさんは改造は必ずしも改良となるわけではなく改悪ともなると述べる。


……わかりたくないけれど怒るのはわかる。開き直るな。


怒りっぽい獄寺くんはこめかみに青筋が浮かぶ。まあまあ、ととりあえず宥めてみた。怒り顔だった獄寺くんは少ししてため息を吐いた。


「おや、そちらのお美しい方は10代目の奥様候補ではなくスモーキンボム様の奥様でしたか」

「「なっ………!」」


何をどう思ってそんな発言したのだろうか。獄寺くんをさらに怒らせるだけではないか。二人同時に顔が真っ赤になる。どうしよう獄寺くんが爆発する、と慌てたが解決策が見当たらない。


「どうしたツナ」

「…………………………べつに」

「素直じゃねえな。自分の気持ちに正直になればいいだろ」


待って本当にわからない。不機嫌な綱吉がふと視界に入って私は思わず叫んでいた。


「獄寺くんは綱吉以外の人と結婚する気はないそうです!!」

「「…………はあ!?」」


リボーンだけがぷっと吹いていた。

とんだふざけたようにも聞こえる発言に獄寺くんと綱吉は黙ってしまいジャンニーニさんはヨヨヨと獄寺くんと綱吉に交互に視線を向けている。
日本では法律上同性婚はできない。パートナーとして生涯ずっと一緒にいることも愛し合うこともできるが結婚だけは法律上はできない。法律上ではない結婚ならできる。そこは本人たちの自由だと思う。
私は勝手にここは綱吉がツッコミを入れてくれると思ったが誰も何も言ってくれない。すべった。恥ずかしい。


「あの、その……ごめんなさい……」

「いいぞ面白かったから」


傍観者はそうだろうね。被害者は頭を抱えたり眉間をおさえているんだよ。本当にごめん。


「ねえ、ランボさんのはできた!?」


愉快な弾んだ声。凍った空間にランボの存在は救いだった。
「紗夜ー!」と抱きついてきたランボを抱えてくるくる回る。ありがとうありがとう。
よいしょ、と下ろすとランボはまたジャンニーニさんに話しかける。ランボも武器の改造を頼んでいたらしい。……おお、純粋な子どもには言いづらいぞ。この人は武器を改悪する非常に厄介な人だとは。

獄寺くんにちょっかいを出し始めるランボ、だったが簡単に返り討ちにあう。獄寺くんってよくランボを殴れるよね。ムカついたとしても歳の差あるし体格差もある子どもを私は殴れない。
ランボは泣きじゃくり私の元に来るかと思ったら10年バズーカを取り出した。引き金のところに縄をつけて引っ張ることで己に向けて発砲できるようにしている。頭いいな。そういえば入れかわる瞬間初めて見る……。戻る瞬間はあるけれど10年後と入れかわる瞬間初めて見る。どんな感じなんだろう、と不謹慎ながら少しわくわくしたが何も変わらない。改悪って……と落胆していたが別の可愛いものが存在していた。


顔も悪態をつくところも変わらない。
だが二頭身になり、パンパンのほっぺとむっちむちの身体。


筋肉も骨ばった男の身体もない可愛い子どものまんまる体型。頭大きい。


「かっわ……」


口元を両手で隠す。触りたい抱きしめたい。

精神年齢はそのままで身体だけが縮んでしまった獄寺くんが存在していた。