6月の花嫁に憧れて
突然すぎて驚く暇もなかった。
帰宅したら結婚式の招待状があった。身内に結婚できる年齢の方がほぼいないので誰かと予測できぬまま封を開けると……
「リボーンとビアンキさん??」
年齢を隠す気のない人の名前が書いてあった。ビアンキさんの年齢は知らないがイタリアって何歳から結婚できるんだろう。たぶんビアンキさんは16は超えていると思うがリボーンは見た目が18いってない。本当に呪いなのかは知らないが、中身と外見が釣り合っていなくても見た目は赤ん坊。もしかしてもう18歳超えてるの?
結婚する二人の名前を見た瞬間私は動けなくなり疑問がたくさん浮かんでいた。
いつするんだろう……はあ!?
日付を確認すると今日となっている。もしかして一年後かと希望を抱き年月日をよく確認しても今年の今日だった。
結婚式に参列できるような服ないよ!!
……あった。そういえばマフィアランドに行った時に黒いドレスをもらったんだ。結婚式に黒いドレスと白いショールってよかったっけ? ドレスはこれしかないから今回はごめんなさいということで着ていく。服装調べて準備して……ああ!! もう!急すぎる!! なんで平日にやるのかなあ!?
ビアンキさんの花嫁姿はとても綺麗だった。ジューンブライドに憧れていたらしくてリボーンにお願いしたら何度も頷いてくれたそうだ。幸せいっぱいで穏やかなビアンキさんに急すぎるとは文句言えなくて、京子ちゃんとハルちゃんがビアンキさんに声をかける後ろで私は微笑みだけを浮かべていた。
結婚式って白いストールだめなんだって。だからって言って黒いドレスだけもだめなんだって。だからストールを大慌てで買ったよ。明るめのストールを。髪の毛も梅雨だから思い通りにならなくて身支度は大変だった。
「オレリボーンに会いに行くけど紗夜も一緒に行く?」
「行く……」
ジューンブライドに憧れている女性たちの幸せな空間にいれなくて私は綱吉についていくことにした。
綱吉は珍しくスーツ姿。家にあったのかな? 大慌てで買いに行ったのかな? どちらだろうあははははは。
「……なんか機嫌悪い?」
「いや?」
「オレの気のせい? 口数少ないけど……」
新婦控え室を出ると綱吉が私の様子を伺いながら喋る。機嫌は全く悪くない、少し疲れているだけだ。事実だが疲れを表に出しているつもりはなかった。綱吉以外には気づかれていないのに。綱吉すごい。
なんでもないよ本当に、と口角をあげると綱吉はわかりやすく胸を撫で下ろした。そして少しそわそわし始める。リボーンの新郎姿を見るのが楽しみなのだろうか。リボーンとビアンキさんは結婚しても綱吉の家に居候するのかな? それは気まずいね。そわそわするね。
「あのさ、紗夜」
リボーンの新郎控え室に入ろうとドアノブに手を伸ばすと綱吉が意を決したかのように声をかけてきた。
何度か口を開閉させて、
「紗夜はジューンブライドに憧れる!?」
新郎控え室の前で大声を出した。必死なのはわかる。いつも以上に多い汗に大きく開かれた口。力強く目を瞑ったからか眉間にはシワが寄っていた。
新郎控え室の前だ。もしかしたら中のリボーンに聞こえているかもしれないがまあいい。
「私は嫌だね」
「嫌なの!?」
「うん。そもそもジューンブライドはヨーロッパで始まったものなんだよ。ヨーロッパでは6月は天気に恵まれて多くの人に祝福されるから幸せになれるということだけで、日本とは気候が違う」
風習だけが伝わってしまったのだ。日本は6月は梅雨が多く天候はあまり良くない。私は髪の毛がふざけたことになるので結婚するなら湿気がない時がいい。結婚式にはきれいな姿で出たい。
「へえ……始まりはそうだったんだ。紗夜って物知りだね」
「……前に調べたことがあるんだ」
へらりと微笑んで新郎控え室を開ける。これから結婚する人たちの前で話すことではなかった。これは私の考えでありビアンキさんとは違うということはリボーンもわかっているだろう。気分を害してませんように。
「おおリボーン。ボルサリーノ被ってないと印象変わるね」
「決まってるなー!!」
髪の毛全て逆立っている。セットなのか髪質なのかどちらだろう。
綱吉がリボーンに駆け寄って祝辞の言葉をかける。馬子にも衣装は褒め言葉ではないけどね。……ということはリボーンは獄寺くんの兄になるのか。見た目が一回りも年下の人が兄になるなんて気まずっ。獄寺くんどんな心境なんだろう。
「パキ?」
獄寺くんが今どんな心情で転がり回っているか想像していると何かが壊れたような音が部屋に響いた。なに?
「もげーーーー!!」
綱吉の絶叫まで響くものだから気になって覗き込むと綱吉がリボーンの左腕をもぎ取っていた。
「あーーーーーー!!!」
グロすぎて気絶しそう。腰が抜けた。今私は殺人現場にいる。真っ青になって加害者こと綱吉に顔を向けると綱吉は同じく青色になって目撃者の私に腕を向ける。
「誰だ!?」
「私は巻き込まれた無関係者です!」
「紗夜!?」
我が身が可愛くて思わず口走っていた。自分の無実だけを告白していた。
綱吉の傷害現場にやって来たのはディーノさん。
「何だ、ツナと紗夜か」
ディーノさんは腰が抜けている私とリボーンの腕を掴んで泣いてる綱吉を見てほっと息を吐いた。マジかよマフィア怖い。安堵のため息を漏らす場面じゃないよ??
ディーノさんは私の脇の下に腕を回して立たせてくれた。いつもなら『ディーノさんスーツかっこいい やだ支えてくれているイケメン』とか思うが今は腕がもげたことしか頭にない。グロイ。恭弥だって四肢をもいだことは一度もしていないのに綱吉がした。
「あーわかってる、これは人形だからな」
綱吉からリボーンの腕を受け取ってプラモデルを組み立てるように簡単にはめたディーノさん。
人形??
足はまだプルプルしていてディーノさんの腕に掴まっていないと立てなかった。ディーノさんは恥ずかしいから綱吉に掴ませてもらおう。
そういえば……あのリボーンが綱吉に腕をもぎ取られるまで何もできないというのもおかしいし、もぎ取られてからも声はあげずに表情を動かさないし血は流さないし……。
リボーンに似た人形がここにある訳をディーノさんが話していく。リボーンは結婚することを知らず、勝手に決まっていたから逃げたらしい。リボーンが逃げたことで中止になり、ビアンキさんがブチ切れてここに集まった人間を皆殺しにしたりしないように身代わりを置いていったとのこと。リボーン人形はボンゴレの最新技術で作られており、リモコンで操作すれば簡単な動作と片言の言葉は話せる。
「……帰らせてください」
「いやっだめだ!!」
お願いだから帰りたい。しくしくと顔を覆う。怖いしおかしいし命は危ういし片棒をいつのまにか担がれているし。なんでお祝いに来て危ないことに巻き込まれるんだろう……。
「マフィアって怖い……」
「違うぞこれは!! 毒サソリが怖くてリボーンが非常識に逃げたというだけでマフィアが怖いわけではない!! オレはしない絶対に!!」
ディーノさんの当たり前の正論も聞けない。マフィアに対しての株がどんどん下がっていった。
順調に進んでいた人間と機械の結婚式。ディーノさんの部下はリボーンをまだ見つけれていないようだ。事情を知ってしまったからそわそわしてしまう。同じテーブルの綱吉とディーノさんから落ち着けと何度も声をかけられたが無理だった。一歩間違えれば死である結婚式で穏やかに祝福なんてできなかった。獄寺くんに「なんかモーター音しねぇか?」と尋ねられた時は終わりだった。私は無表情と無言を貫いといた。
やはり不自然なことは起きてしまい、機械のリボーンにシャンパンを飲ませてしまったビアンキさん。機械に水は天敵だ。一瞬ぶっ壊れてビアンキさんもリボーンが偽物だと悟った。死を覚悟して逃げ出そうとしたが綱吉とディーノさんの機転で誤魔化せた。
ちょうどタイミングよくお色直しとなったから機械を直せる。
綱吉とディーノさんによって私までもが新郎控え室に行かされた。共犯にさせる気がありありと伝わります。
ディーノさんがリボーン機械を直しているとまたこの事情が他人に漏れた。獄寺くんに。義理の兄と腹違いの異母姉の結婚式がめちゃくちゃなことに怒りに来たのかと思いきや協力をしにだった。
「どーせ姉キが勝手に式ひらいてリボーンさんが身代わりを置いて逃げたってとこじゃないスか?」
ヒントなしで100点満点の答えを導いていた弟。マフィアこえぇ。それとも兄弟姉妹なら全員こんな感じなの? 兄弟姉妹の考えていること100%当てれるようになるの? すっご。
「やっぱりニセモノだったんだな」
「……私この距離でもモーター音なんて聞こえないよ……」
獄寺くんは己の聴覚を誇るべきだ。耳がいいことは戦闘でも有利だろう、たぶん。後ろからわっと驚かしたくても小さな足音で聞き取られてできないんだろうな。
「さすがピアニストの息子だね」
「……関係あるのかわかんねえけどな」
音楽やっている人は耳がいいのかな? 獄寺くんは情けなく笑った。教えてくれたのはそっちだから。別に侮辱するための言葉じゃなかったし普通の会話だし。
獄寺くんはディーノさんからリボーンを動かすリモコンを奪い取る。右腕のオレがやるんだって。嫌な予感がしてきた。それは綱吉も同じようで私に視線を送ってくる。こくり、頷いといた。私たちにできることは全責任を押し付けることのみだよ。
ここのセキュリティはガバガバらしくてまた一人事情を知ってしまうものが。控え室に入ってきたのは
「それおもちゃかなー? おもちゃだなー」
ランボだった。さらに嫌な予感がした。水と油の関係の獄寺くんとランボに知られたら全てが終わりの気がする。ディーノさんまでもが表情を強張らせていた。終わりですね。
「……おいでランボ」
「紗夜!」
しゃがんで手のひらを出すとランボはジャンプして飛びついてきた。よいしょっと抱っこする。
「オレっちあれで遊びたい!」
「あれはねぇ、バカで弱い人が遊ぶものだからねぇ。ランボは天才ヒットマンで強いから難しいなぁ」
「ぎゃははははは! だからあいつ持ってんだ!」
獄寺くんから咎めるような視線がきたが仕方ないじゃないか。それしかランボから興味を失わせる方法が思いつかなかったんだから。獄寺くんが頭いい天才強いということはみんな知ってるからちょっとした嘘で睨むなよ。ディーノさんと綱吉も苦笑いしていた。ディーノさんにだけは謝ったら頭をポンポンされた。そういう女子憧れシチュエーションを簡単にしないで欲しい。顔が赤くなっちゃう。
もちろんこれだけでランボの頭からリモコンの存在を消すことはできなかった。一時凌ぎだった。ランボと獄寺くん、少しディーノさんのドジによってリボーンがニセモノだということはビアンキさんにバレて荒れた。
新技の千紫毒万紅というポイズンクッキング究極料理を編み出して触れたものを全てポイズンクッキングする恐ろしい行動に出た。
ディーノさんが守るように前に出てくれて惚れそうになった。吊り橋効果かもしれない。ビアンキさん怖いんだもの。
ビアンキさんはリボーンが結婚指輪を渡しに来たことで我を取り戻し、ポイズンクッキングを辞めた。実は結婚指輪ではなくてピアノ線がとびだす武器らしいがビアンキさんは知らない方がみんな幸せだ。
結局結婚式は中止となり、この日私はマフィアの結婚式には絶対に参列しないと心に決めた。