その眩しさを誰にも知られないで
お茶の景品で当たった豪華客船で島旅、が実はリボーンに仕組まれたマフィア関係だと知ってしまったツナ。豪華客船に乗っている人は全員マフィア関係者。がっくりと肩を落としたが、マフィアランドは超楽しいリゾート地だとたまたま同じく乗船していたロンシャンから教えてもらった。リボーンが補足するにはマフィアランドはマフィアが警察の目を気にせずゆっくりくつろぐために各ファミリーが莫大な資金を出し合って建造したスーパードリームリゾートアイランドだという。
ちょうど見えてきた。甲板にいたツナは壮大なマフィアランドを一望する。島の頂点からぐるりと山を囲う長いジェットコースターに大きな観覧車。宿泊用のホテルもたくさんあり、サーカスのためかテントもあった。浜辺もあるので海で遊ぶこともできる。
「す…すげー遊園地!」
大人が本気を出して作った遊園地だ。目玉が飛び出る衝撃を受けた。実際マフィアが真っ白な気持ちで休めるようにドス黒い金を大量につぎこんだから資金は莫大に使われている。セキュリティも完璧で、マフィアランドは移動できるだけでなく強力な妨害電波で誰からも察知されない。それに上陸できるのは麻薬に手を出さないマフィア界ではいいマフィアと呼ばれるファミリーのみ。ボンゴレやキャバッローネのような。ロンシャンがいるということはトマゾも。
「あーー!! デートには最高だよ!」
「確かに……」
また彼女が変わった、後ろ姿がビアンキに似た彼女連れのロンシャンがツナのすぐそばで叫ぶ。
たしかにそうだろう。マフィアとか抜けばただの大きな遊園地だ。
「(京子ちゃんとか紗夜が喜びそうだ……。……連れて来たかったなぁ)」
一緒に来たのは母親。無断でついてきて勝手に乗船手続きを終えていたのはいつもの家にいるメンバー。トキメキは無く、代わりに違う意味で心臓がバックバク動きそうなお騒がせメンバー。
ほわん、と意中の人とマフィアランドでデートをしていることを妄想する。一緒にジェットコースターに乗って海で遊んで最後には真っ赤に染まる景色を眺めながらの観覧車。彼女の髪に負けじと赤い海が見れる可能性だってある。素敵なデートでしかない。
「(あれ? 今オレが思い浮かべた相手って……) っっ!!」
楽しい妄想の最中に後ろからドンッと柔らかい衝撃が来た。
「どうしたランボ。部屋で大人しく…………………」
母、他に一緒に来ているのはリボーンにビアンキにイーピンにランボ。これらのメンバーの中でツナに突撃するのは一人しかいない。なんかいつも以上に背中に柔らかいものが当たっているがランボ以外にそんなことする人はいないのだ。ランボは船酔いしていて嘔吐しそうだった。体調がよくなっても着くまでは部屋で眠っていてほしい。その方がツナも気が休まる、のに
「紗夜!?」
「変な人しかいない怖い日本人じゃない……」
細い指でツナの服を掴んで背中にくっついていたのはここにいるはずがない人。ツナは紗夜の真っ赤な髪から視線を下に向けてぼっと顔から火を出した。
私服の沢田一家とは違って黒いドレスを身につけている。肩には白いショールを身につけているが、それでも肌の露出は普段以上。いつもは隠れているはずの谷間が見えてしまった。同級生を変な目で見てしまったことにツナは自責の念に駆られた。
「(おおき……じゃなくて、うわああああああ!!)」
「ここどこ。私家にいたんだけど目を覚ましたら船に乗っているし服もいつの間にか変わっているし……何これ」
「(ちかっ……っ当たっていたのって……!!)」
「ここ日本? 私パスポート持ってないよ!?」
ツナは真っ赤な顔で目を瞑り上を向く。だがたまに目を薄く開いてしっかりと目に焼き付ける。
紗夜は数時間前まで自宅にいた。ゴールデンウィークに入ったのだから学校は休み。家でのんびりしていた。ゆっくり休んでいると首に何かが当たった、と思った瞬間に気絶したらしく目を覚ましたらどこかの部屋のベッドの上で眠っていたのだ。
起き上がると服は変わっているし見たことのない部屋だし、で少しパニックになったが窓から外の景色を眺めたら海の上にいるということがわかった。余計パニックになった。
それでもなんとか落ち着いて恐る恐る扉を開けて部屋を出る。少し歩くと日本人の風貌ではない外国人がいて。チラ見されることもあって胃がキリキリと痛んだ。たまに話しかけられて、日本語の人もいれば聞いたことのない言語でも話しかけられて紗夜はなんとか愛想笑いで切り抜けて来た。一応パーティードレスを着ていたことで視線を集める数は少なかったが。
意味わからないっ! 部屋で籠っている!
そう決心したが、いた部屋の場所がわからなくなってしまった。道中屈強なガードマンとすれ違ったりもしたが起きた時にお腹の上に置いてあった乗船手続き書を見せたことで何事もなく事は済む。一定の場所で立ち止まっても注目を浴びるので不安になりながらうろうろしていたらツナを見つけたのだ。嬉しくて背中にぶつかってしまったのだ。
「誘拐されたの…?」
「違う……よねリボーン!!」
「マフィアランドに招待したんだぞ」
「帰りたい……」
パスポートの手配もリボーンの手によって行われていたらしく、紗夜の口からは大きな息が漏れ出た。服装を変えたのは誰だとの質問にリボーンはにやりと笑うだけ。悲鳴をあげかけた。誰かに服を脱がされ下着まで外されてドレスを着せられたのだから性別だけでも知りたいのにリボーンは答えてくれない。もしリボーンが赤ん坊の見た目をしていなかったら掴みかかっていただろう。
「…………………………」
ツナだって楽しみに向かっていた気持ちが一瞬で降下する。誰かが着替えさせたという事実。モラル的にやってはいけないことが立て続けに起こっている。自分でもよくわからない苛立ちともやもやにツナは首を捻った。
「5月5日までには帰りたいんだけど……」
「それは大丈夫だぞ」
「……ならまだいいか」
興味ないくせに子どもの日とかぶってしまっているから覚えていて、そのことに触れないと理不尽な鉄槌が紗夜には下される。
はあ、と赤い唇から息が漏れ出た。いつもは可愛い女の子に色気が加わっている。化粧もほんのりされているらしく真っ赤な口紅が艶かしい。
「綱吉?」
「なんでもない!!」
じっと紗夜に見惚れていると紗夜が気がついた。優しい声で名前を呼ばれて慌てて用があって見ていたわけではないことを伝える。
「沢田ちゃんもデートじゃん」
「えっ!!?」
「あはははははは」
ロンシャンが揶揄うように肘でつんつんと突いてくる。ツナは動揺して顔がおかしいことになっているのに対して紗夜はから笑いして受け流している。
教え子の恋は全く脈がないことにリボーンは呆れたように肩をすくめた。
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沢田一家の水入らずの旅行にお邪魔しちゃうとは……。リボーンたちがいる時点でみんな邪魔しているか。それに正確には沢田一家ではない。父親がいない。お父さんはどうしたの、と聞いて離婚とか言われたら何も言えなくなってしまうので聞くわけないが。
トマゾファミリーもいて。パンテーラちゃんに気まずすぎて話しかけたけど会話してくれなかった。声を聞いたことがない。パンテーラちゃん服可愛いよね。白色のワンピース。甘ロリというのかな? 制服の時もワンピースの上からブレザーを着ているだけだから目立つ。風紀委員に見つかったらゲームオーバーの格好。去年一年間見たことなかったから気配消すの上手い人種なのだろう。
内藤くん曰く嫌われているわけではないらしい。
マフィアランドに行こうとはしていなかったから私の荷物はない。着せられたドレスのみ。綱吉のお母さんが褒めてくれて照れ臭かった。リボーンとビアンキさんも褒めてくれた。ビアンキさんが綱吉に「なんであなたは何も言わないの」と怒られていた。ごめん綱吉。なぜか私が謝ってしまう。
荷物は何もないのでみんなが海に飛び込んで行っても私は水着がない。綱吉のお母さんと綱吉もなかったが。それなら綱吉と遊んでいようかな、と思った矢先に綱吉は入島手続きをしろとリボーンから言いつけられている。じゃあ私は綱吉が戻ってくるまで砂遊びしてよ。パーティードレスで砂遊び……浮くぅ〜。服が汚れる〜。くれるとは言ったがドレスなんて汚せるわけがない。……のんびり待つか。
「紗夜……!」
「え?」
ベンチに腰を下ろす。船の中ではドレスは全く目立たなかったがマフィアランドでは浮いている。みんな着替えたんだ。いいな私も着替えたいな。
ぼんやりとコバルトブルーの海を眺めていたら綱吉が私の前に立った。
「入島手続き一緒に行かない? 一人で行きたくないし……嫌な予感するし」
「別にいいけど……」
「ありがとーーっ!!」
最後はボソリと呟いていたが聞こえていた。入島手続きに嫌な予感もないだろう。ただ招待状を見せるだけで済むんだから。私の手元にもリボーンからもらった招待状がある。船の中でこれを見せたら屈強なガードマンに囲まれずに済んだ。
ほっ、と安堵の微笑を漏らした綱吉。どうせ待つぐらいなら一緒にいた方が楽しい。
立ち上がって吐き慣れてないヒールで歩きづらい砂の上を進む。
「……ねえ、リボーン。綱吉のどっちの親がボンゴレの血族なの?」
「……聞きたいか?」
綱吉のお母さんは肝っ玉が座っている。今の状況でもマフィアに不審感を抱かない。マフィアのことを知らないのに。マフィア関係者だけど知らないふりをしているというより京子ちゃん山本くんに似たタイプだ。つまり天然。
ほぼわかっているけれど確信はないからリボーンに尋ねた。歩きづらく履き慣れていない私とは違って綱吉はどんどん歩いていってしまっている。私とリボーンが綱吉の家庭をもしかしたら壊してしまうかもしれない話をしていることは知らずに進んでいる。
「…………………………ううん」
リボーンの含み笑いに私は静かに首を横に振った。
「紗夜ー?」
「ごめーん今行くー!」
立ち止まりすぎて綱吉が階段の上から呼んで来た。微笑を浮かべて手を振って私はまた歩き出す。世の中は知らない方がいいことでありふれているのだから。
「ごめんっ手貸して」
「あ、歩きづらいよね! ごめん気がつかなくて」
───父親だ。
綱吉は気が付かない。不思議に思ったこともないのだろう。……それともすでに気がついていて、だけど辛い現実から逃れるために知らないことにしているのかもしれない。