自惚れてもいいですか
学校帰りのお買い物。もうすぐ恭弥の誕生日もあるしプレゼントを見繕ってウロウロしていた。
何がいいのかな? 恭弥へのプレゼント……。食べ物は保留。最後の手段として……恭弥が必要としているもの。腕時計はケンカの最中に壊れそうだからパス。手首に数gかかっただけで動きが鈍くなるとかどこかの達人みたいなことを言われてつけてくれないのは嫌だ。アクセサリー類も付けているところは見たことない。校則違反だからかな? 服はお隣さんというだけの存在の女子である私があげるのは変だし……。恭弥が欲しがっているもの、普段使うもの……うーむ。
何かで男は金と女と酒にうんたらかんたらと聞いた気がする。とりあえずあげとけばいいのか? 金……恭弥にそれはない。女……もっとない。酒は未成年だから論外。……もう腕時計にしようかな。
「よっ紗夜」
「っ」
「悪ィ驚かせたか?」
うんうん唸りながらなぜかあったモアイ像を購入しようか迷っていると後ろから声をかけられた。毎度思うが気配がない人が急に後ろから声をかけてくるのは心臓に悪い。肩に触れられるのも心臓に悪い。正面から来てくれないと。
「いえ。ディーノさんお久しぶりです」
「久しぶりだな。無事に二年生になれたって聞いたぜ。おめでとう」
日本の中学校ではよほどなことがない限り進級は当たり前のようにできるんだけど……。
褒められて悪い気はしないので頬が緩んだ。それよりディーノさんかっこいい。ネクタイしてるよ。ネクタイ。イケメンがさらにイケメンになっている。イケメンのネクタイやばい。語彙力なくなるほどヤバい。
「何か欲しいものがあるのか?」
「タトゥー……」
「タトゥー? 紗夜が入れるのか? いいとは思うが一度入れたら取れないから慎重に選べよ」
「一緒に見ていいか?」との声にそうではないことを弁明する。ディーノさんの腕にタトゥーがあったから思わずびっくりして声に出してしまっただけだ。首にあるのは知っていたけれど腕にまであったとは。初見は冬だったから薄着のディーノさん初めて見たんだ。腕にもある。
……ディーノさんって本当にマフィアなんだ。偏見だがタトゥーがある人って危険な人のイメージがある。
「彫ったんですか?」
「これか? これはオレがボスになった時に浮かんできたものだ。ボスの証だな」
「…………………………へえ」
想像の斜め上の返答すぎてすぐに返せないし無愛想になってしまった。浮かぶってなんだ。キャバッローネファミリーのボスから代々受け継いだ血筋なのか? 血筋で代々受け継がれていくマフィアは何かが普通の人と違うらしい。
ディーノさんは私が呆けていることがわかったらしく口を開いて笑う。きれいな人が大口開けることは珍しい。人の良さと好かれやすさが滲み出ている気がする。
「紗夜はどうしたんだ? 何か欲しいものがあればオレたちのよしみで買うぞ」
「いえ……誕生日プレゼントを物色しに来たんです。そうだ! ディーノさんだったらどんなものを貰ったら嬉しいですか?」
「オレ?」
「はい!」
大人の男の人の意見。絶対に頼りになるし解決策を導いてくれる。あー、とぽりぽり頭をかくディーノさんは困ったように眉を下げた。
「オレじゃあ日本の女子学生の好みわかんねえな」
「すみません、説明不足でした。男子です」
「男子?」
「はい」
「男子……だんし? え、男子? 男!?」
「、はい」
なんだそのありえないという目は。流石に私の同世代の女子の好みはディーノさんに聞かない。わからないと思うから。男子ならまだいけるだろう。
ディーノさんは目をぱちぱちして「オレは2月4日だし……」と呟き初めてしまった。ディーノさんは2月4日に何かあるのだろうか? 話の流れで行けば誕生日だが、ここで出せる話題ではあるけれど、誕生日繋がりで言えることは言えるけれどタイミングがおかしいから違う。
「……そっか。オレ勘違いしてたな…」
「ディーノさん?」
「んや、なんでもねえ! 相手は……ツナか? 獄寺か? 山本か?」
全員違うので首を横に振る。ディーノさんは恭弥のこと知らないから言ってもわからない。あげる相手が男子と言った時より目を見開いた。そして真剣な眼差しで何かを考え込む。とてもかっこよくていつまでも眺められる美形だった。そうだ、万年筆かボールペンにしよう。
「……なんだ! ただの友達か!」
「? はい」
「オレはてっきり好きなやつにかと思ったよ!」
どうなってるんだディーノさんの頭は。あれか、思春期にある友達と言いつつ好きな人の相談をしています女の子に見えてしまったのだろうか? ……やったことはないけど見たことはあるし、私実際にやりそうだから否定できない……っ。それ以前に恭弥を友達と言っていいかもわかんないんだけどね。
「そうだなぁ学生か…。学生か……あまりいい思い出ねぇからな」
「……ディーノさんの学生時代とても気になります」
「うえっ!? いいんだよオレのなんか!!」
マフィア界あるあるの愛人。ディーノさんは複数の女性と付き合っていて今現在誰が本妻になるかの争いをしているんだと勝手に想像している。愛人は何十人といそうだけどディーノさん誠実そうだから一人の女性しか愛さなさそう。どちらかだろうな。一人かいっぱいか。
という私の妄想とは裏腹にディーノさんからもリボーンからもなぜかディーノさんの学生生活は暗かったようなことが匂わされる。ありえないのに。
「ほらほら! 友達への誕生日プレゼント買うんだろ!」
「今日は見ているだけなので……」
お金もあまり持ち合わせてないから帰ると伝えればじゃあ一つお願いがあると頼まれた。この後予定ないからいいがディーノさんの頼まれごとが予想できなくて心臓がやけに早く動いている。危険なことじゃありませんように……!
「ボウリング場に連れて行ってくれないか!」
ニカッと白い歯を出して、でも少し恥ずかしそうにしたディーノさん。
「ツナに呼ばれているんだけどよ……日本土地勘ねえから場所がわかんなくなっちまって……」
白い粉を運んでくれ、これを地中海に埋めるの手伝ってくれ的な怖いものではない。
ディーノさんに「頼む!」と手を合わせられて頭を下げられたら私は断れない。暇だからもちろんOKだ。
「ありがとな!」
「っ、ディーノさん!! 手!!」
「ん? どうかしたか?」
「手ぇ!!」
急に握られた。お店から出るのも手を繋いで。ディーノさんは女の人に慣れているかもしれないが私は男子にも男性にも慣れていないんだ。手を握るスキンシップでも顔が赤くなってしまうほど経験がないのだ。
この人自分の顔がいいこと自覚してないの!?
「……それが勘違いの原因になんだよ」
「ディーノさん!?」
何を言ってるか意味わかんないけれど手を離してくれない。
一瞬だけぽつりと何かを漏らしたディーノさんだったがそれだけで「じゃあ案内頼む!」ときらきらした笑顔を向けてきた。手はボウリング場に着くまで離してくれないし、車道側は歩いてくれるし道中奢ってくれたし、で……ディーノさんに照れるなという方が難しい。露骨に女の子扱いされることは日本ではあまりない。
ディーノさんは無自覚にいろんな女性を惚れさせている罪な人なんだな、と赤くなった頬を手で扇いだ。
きっと私以外の女性にも同じことをたくさんしているのだから。