奇天烈な銃弾
二年生に進級した。春休みはあっという間だ。卒業式は泣いたよ。昨年度の保健委員長との別れは私にとって悲しいものだった。私に良くしてくれた先輩。これからも仲良くしてくださいとずっと手を握ってしまった。最後の最後まで先輩は私に優しくしてくれた。
新しいクラスはA組。約三分の一は同じメンバー。A B Cの三組だからセオリー通り。仲良くしてくれていた綱吉や京子ちゃんたちとはまた同じクラス。孤独な二年生ライフの始まりにはならない。今年は安心だ。
今年度は安心はできたが安全ではない。私も知らなかったが、並盛にはもう一人マフィアのボスがいたそうだ。トマゾファミリーのボスである内藤ロンシャンくん。本人が公言していて、だけど内藤くんの軽いノリでは信頼性0で冗談にしか聞こえなかったが綱吉の表情から読む限り本当ぽかった。うちの学校は平々凡々並でいいんじゃないのか。校歌で斉唱しているのに。新一年生の入学式でも歌ったのに。どこが並なんだ。
綱吉としてはよかったね。苦悩を分かち合える友人ができて。内藤くんはノリノリでマフィアのボスに対しての苦悩なんてなさそうだけど。いつかできるのかな、綱吉にそんな友人が。
私はA組になったことで全ての運を使い切ってしまったらしく内藤くんとは前後の席になってしまった。内藤くんは前にいる。わいわいがやがや、山本くんとは違うタイプのムードメーカーで陽キャ。早く席がえにならないかな。心から願います。
次の日、午前中は通常授業で午後は帰宅となった。午後は新一年生のためのガイダンスがあるだけで二、三年生はいなくてもいいのだ。必要関係者以外。先生も一年生の方にまわることから二、三年生は授業できない。帰るしかない。部活もまだ始まっていないのでやることはないだろう。新一年生の勧誘の準備でもしてんじゃないかな。入学式で見た一年生はまだ幼さが残っていて、男子は背が低い人が多くて制服はまだつるつるになってない真新しい新品。数人兄姉のお下がりを着ているっぽい人は見かけたが。中学生の一年間って大きいと改めて身に感じた。去年は先輩たちって大きい存在だったからなあ。今年は私たちがそう思われる側か。
新学期の生徒会は忙しい。生徒会本部は特に。入学式初日は新一年生をお迎えして胸にお花をつけたり在校生代表挨拶をしたり。その後も一年生を迎える会の準備、ガイダンスの準備、生徒会部活動紹介の準備進行。爆発するかと思った。
リボーンのある言葉が天からの救いだと縋ってしまうほどだった。
「綱吉!」
ようやく見つけた。歩き回っていればいつかは見つかるかなと用事を済ませながら探していたが全然見つからなかった。生徒会室と体育館を何回か往復してようやく見つけた。
「新学期だから何か新しく始めようとしているんだって聞いたよ」
「紗夜にまで……」
「生徒会に入りたいんでしょ?」
「一言も言ってねーーー!!」
「わーいありがとう!」と拍手で迎え入れる。これでようやく人手不足から解消される。恭弥が許さないんじゃないかって? 知らな〜い。
「いいじゃん沢田ちゃんやろうよ!!」
「うーん……まあ紗夜の手伝いなら別にいいけどさ…」
「え、内藤くんもやるの? ……………………ありがとう」
「今の間に紗夜の思いが全て出ている気がするんだけど」
綱吉には何か気がつかれているらしい。だけど本音が出てしまったのだから隠しようがなかった。これでも笑顔で取り繕ったんだけど。
なんでもいいんだ。ネコの手を借りたいほど忙しいんだから。とりあえずこの二人に持っていた資料を渡す。はああぁぁ重かった。ようやく解放されたぁ!!
山のような資料を手渡して私は自由。二人もいれば私の半分の時間で終わるから……5分で終わるよね。
「5分でそれ全部まとまるから終わったら生徒会室にプリント置いてあるから全種類一部としてホッチキスでまとめといて。全校生徒分よろしく」
「……………………これを5分で…? その後にもまだあるの……? 全校生徒分……」
「いっぱいあるね沢田ちゃん」
綱吉は恐る恐る持っている資料を持ち上げる。
綱吉の質問にきょとんと目を丸くする。
「そうに決まってるじゃん」
「だ、だよねー!!」
手渡した分全てに決まってるじゃないか。何枚あるのかは知らない。……うん、忙しすぎるからって溜めていたツケが来ていたけど綱吉たちが助けてくれるんだ。よかったよかった。春休みサボっていたのがいけなかったよね。
「……紗夜ってすごいんだね」
「何が?」
「優秀なんだなって改めて感じたというか……」
「改めるところあった?」
不思議。まぁいいけど。仕事やってくれるならなんでも。
じゃあよろしく、と私はガイダンスのために体育館に行こうとしたら綱吉が名前を呼んで立ち止まらせる。
「なに? わからないことある? パソコンの起動の仕方?」
「わかるよそれは!!」
「あ! 生徒会室の鍵持ってないからか。はい、これ」
いつも綱吉たちが来る時は私がいるので鍵は空いているし、たまに獄寺くん一人がサボりで使うがあの人は鍵が閉まっていてもあまり公言できない方法で開けるからみんな開けれると思っていた。鍵必要ないと思っていた。
綱吉は資料を持っていて受け取れないので内藤くんに手渡す。
「パソコンでまとめて保存しておいて」
「なんか地味だねーー……。もっと面白いことないの鳴神ちゃん!!」
ダブルピースしてこれ以上の仕事を求めてくる。内藤くんは不満があるらしい。事務作業ができないというのか。
「ないよ。生徒会なんて学校の奴隷なんだから」
地味に決まってるじゃないか。当たり前のことを聞いてくる。ん、違うな。生徒会は風紀委員長の奴隷だ。……ということは私は恭弥の奴隷なの? 違うよな。立場は対等だ。これはおかしい。生徒会は……矢面に立たされる何かだ。
「えーー……。沢田ちゃんももっと派手でボスらしい仕事したいよねーー!」
「オレは紗夜を助けれるなら何でもいいけど」
「もーっ沢田ちゃんったら!!」
「じゃあ私が資料まとめるから新一年生のガイダンス行ってきて。生徒会活動とか話せばいいから」
「おーーっ!! そうそう鳴神ちゃんそういうの! 行こう沢田ちゃん!」
「そっちのほうが嫌だよ!!」
鍵を返してもらい資料を受け取ろうとしたが綱吉がぶんぶん首を振る。行きたくないというのがありありと伝わってくる。昨日もクラス委員長になりたくなさそうだったし、綱吉は人前で目立つことはしたくないんだろうな。気持ちはわかる。私も嫌だ。だけど世の中にはやりたくなくてもやらないと危険なことがある。
鍵を指に引っ掛けてくるくる回しながら行こうよ嫌だのやりとりを見届ける。ついているストラップはホワイトデーにお返しで貰ったキーホルダーだ。可愛いマカロン。お寿司とキーホルダーのマカロンを頂いた。ここまで言えば贈り主は誰か、私の友人たちは察してくれる。名前を出したらファンクラブに刺されるから出してはいけない。お寿司美味しかったなあ。
綱吉の嫌がる姿を眺めていたら綱吉は急にはっ、と私に顔を向け、手のひらまでも向けてきた。
「えっ」
資料が舞う。綱吉が抱えていた資料を置きもせずに私に手を伸ばしたからだ。真っ白い紙が舞う世界で綱吉が私を押した。
スローモーションだった。
綱吉はなぜか痛そうだった。泣きそうだった。
私と綱吉の間を何かがヒュンッと通り抜けていく。それは地面に埋まった。
「いった!!」
勢いよくぶつけたお尻に顔を顰める。紙はまだひらひらと落ちている途中で、今ようやく全てが地面に落ちた。
「ごめん!!大丈夫!?」
「大丈夫だけど……」
急に何? 何が何をしてどうなったら友達に突き飛ばされる事態が起こるの? それもケンカを好まない、穏やか、女子に力で負けることもある代表綱吉に。
実は嫌われてたの? 不安が出てしまったようで瞳を揺らしていたら綱吉は半目になって叫ぶ。
「その……っ! 紗夜にも嘆き弾を撃つような気がしたから……!」
「沢田ちゃん正解だよー。マングスタのやつ外したみたい」
「外したじゃないよね!! 立ってたら当たってたよ!!」
嘆き弾というのは昨日内藤くんがクラス委員長になるために使用された弾らしい。確か一度死んだら自分を嘆きながら生き返る弾。綱吉がよく撃たれる死ぬ気弾も一度死んでから死ぬ気になって生き返る弾だとリボーンに聞いた。ただしこれを聞いたものはボンゴレに入らないとボンゴレが始末に行くぞと事後報告された。卑怯だったから聞いてないフリをした。
…………………もしかして私って前世はそれに似たような弾で……。なんで、ちょうどそこの前後だけ記憶が曖昧なんだろう。
そんなことないか。私の周りにマフィアはいなかった。それに、世界が違う。
「……綱吉」
「ごめん!!」
「ううん、助けてくれてありがとう。さすがに人前で下着姿になりたくない」
「あっ、そうだよね!!」
変なことを考えるな。鳴神紗夜は第二の人生を送っているんだ。……忘れてはいけない、だけど振り返りすぎてもいけない。
薄ら笑いすると綱吉は赤くなる。下着姿を想像してしまったらしく目を合わせてくれない。ありがたい……。今目を合わせたら私がちゃんと笑えてないことに気がつかれてしまうから。
「沢田ちゃんよくわかったねー。マングスタが鳴神ちゃんに撃つこと」
「いや、オレは……紗夜にももしかしたら撃つのかなぁって思っただけで撃たれたタイミングとかは分からなかったし……」
ぱっぱっとお尻についた汚れを落とす。運だか感だかわからないけれど綱吉はすごいね。私は自分が撃たれることも予想できなかったよ。私は綱吉と内藤くんが私に会う前に笹川先輩と変態(並盛の校医のこと)に出会っていることを知るわけがないので、人間って知らぬところで怨みを買っているんだなあと桁違いなことを考えていた。
「じゃあ二人ともよろしくね」
散らばった資料を集めて二人に同じくらいずつ手渡す。時間がないのでまた鍵を渡して私は少し駆け足で体育館に向かった。
ガイダンスが終わり生徒会室に戻ったら資料は何も手付かずでエスケープされていた。何も手付かずならまだしも増えている。なぜか増えている。『ごめん病院行きます』と書かれた紙が置いてあるだけ。何があったかはわからないが戦力外だということだけはわかり、ため息をついて私はイスに腰を下ろした。今日は何時に帰れるかな。