並盛中の生徒会長について


「鳴神さんって最近京子と仲いいよね?」

「うん」

「……ふーん」

「……………………いまの、なに?」


オレもそう思う。笹川さんと仲がいいかだけ聞いて図書室から出て行った黒川。オレは意味わかるんだけど。ただ何も知らない鳴神さんの立場になると今の何だな。


並中には男子の憧れが二人いる。一人は誰もが知っている並中のアイドルでマドンナである笹川さん。無邪気な笑顔に誰とでも仲良くなれる心優しい性格の持ち主だ。
そしてもう一人は鳴神さん。こちらもアイドルかつマドンナであるけど……そんな目で見たら命がいくつあっても足りない。鳴神さんは昔は困ったように笑うことが多かったがここ最近は楽しそうだ。優しくて頼りになって可愛くてスタイルがよく大人っぽいところもある。どちらも1-A。同じクラスのオレは多分視界にも入っていないだろう。


今から語るのは鳴神さんの方だ。鳴神さんは一年生ながら入学初日に生徒会長に選ばれたことで有名になった。先輩から聞いた話なんだが前年度は生徒会本部に誰も立候補も推薦もなく終わったそうだ。どこからかの圧力によって。したくてもできなかったそうで。……伏せてみたがそれがどこなんてここ並盛に居れば嫌でもわかってしまう。
鳴神さんに仲の良い特定の友人がいないのも群がる男がいないのも告白がほとんどないのも不良にはターゲットにされるのも全てその人のせいだった。

風紀委員長のヒバリさん。

彼が鳴神さんの周りにいるからだった。噂では家が隣だとか。あと噂では付き合ってるとか振ったとか付き合ってないとか。いや、どれだよ。


鳴神紗夜と仲良くしたら雲雀恭弥に目をつけられる
鳴神紗夜を泣かしたら咬み殺される
鳴神紗夜に唾をつけるようなことすればあの世行き
鳴神紗夜を人質にとれば簡単に雲雀恭弥を誘き出せる


全てたった一人によるものだった。そういうオレも小学校の頃まだ顔も知らなかったヒバリさんにトンファーでやられている。低学年特有の好きな子に意識されたくてちょっかいをかけるをしたのだ。赤髪気持ち悪いっと振り向いてほしくて何度も言い続けてたらヒバリさんにぼっこぼこにされたのは今でも覚えてる。やべえ身体が震える。あれ以来鳴神さんには近づかないようにした。

鳴神さんに手を出せば男女共に待つのは死、これ一つなのだ。ヒバリさんは女子には手を出さないと鳴神さんは言うがそうではない。鳴神さんには手を出さない、なのだ。
二学期頃から鳴神さんは山本や獄寺とも仲が良くてそのファンクラブに目をつけられることもあった。事件は当然起こる。オレは見かけてしまった。帰宅した後の鳴神さんのロッカーを漁っている女子生徒たちを。くすくすと嫌な笑い方をして物を隠そうとしていた。オレは勇気なくて隠れてしまったのだが、そこにちょうどヒバリさんが通りかかり女子たちは弁明もなしに入院させられていた。やべえ。


そんなこんなで鳴神紗夜に関わると雲雀恭弥から制裁を加えられることは並盛生徒ならほぼみんな知っている。だから関わらない。関われない。仲良くしたくてもみんな距離を置く。仲良くしようとしても友達が静止をかける。必要以上に話しかけられないのだ。
鳴神さんは優しくておしとやかで頑張り屋で、可愛いことや成績がいいことも鼻にかけないいい人でも仲良くしたらあの世行き。みんな怖くて一定の距離を取ってしまう。だからいつも鳴神さんは困ったように微笑んでいた。オレたちが線引きしているのをわかっていたから。鈍感ではないのだ。ヒバリさんが全ての原因というのは知らないみたいだけど。そこも気づいて欲しかった。

だけど先程も述べたように鳴神さんは最近いい笑顔をするようになった。線引きしない友人が現れたようだ。命知らずな沢田や山本獄寺が鳴神さんに関わるようになった。最近は笹川さんもだ。小心者のオレは獄寺には話しかけられないので沢田や山本にヒバリさんは大丈夫か聞いたら沢田は無言だった。山本は負けねえと意気込んでいた。何かはあったらしいがそれでも鳴神さんと仲良くすることを選んだ三人は強いと思う。オレにはないものを持っている。


全校生徒を恐怖で黙らせて鳴神さんを生徒会長にしたのもヒバリさんのわけだが、それは鳴神さんとの関わりを作るためじゃないかとオレは考えている。そうしないと学年不明のヒバリさんは鳴神さんと学校で関わる時間はない。それに生徒会長は風紀委員長より立場的には上。鳴神さんならいいんじゃないか、と許したのではないか。生徒会本部が四月からずっと一人なのも鳴神さんを変な男に取られないため。自分より優先する女友達を作らせないため、とか。もしかしたらほんのちょびっとの可能性で風紀委員長より上にいる人間を増やしたくないから。

……違うよな。妹がうるさく騒ぎながら聞かせる恋愛話に影響を受けてるな。あのヒバリさんがそんなまどろっこしいことするわけない。あの人ならつきあえと脅してどんな手を使っても鳴神さんと交際する。オレのイメージはこれだ。今考えていたことが万が一吐露したらオレは終わりである。


「あの…」

「ふぁい!!?」


考えごとをしていたら憧れの人に話しかけられた。上擦った声が出てしまう。鳴神さんはきょとんとしていたがすぐに微笑を浮かべた。


「卒業式に三年生の教室を彩りたいんだけど上手く華やかに飾り付けできる本とかってあるかな?」

「多分あそこのコーナー……」

「そこか。ありがとう」


もうすぐ卒業式。鳴神さんは忙しいらしい。それはそうか。たった一人なんだから。本来生徒会本部でやる仕事を一人でやっている。
何かを悩んで吟味して一つの本を手に取った。ぱらぱらとめくって唇に指を置いて考えてパタンと本を閉じる。


「貸し出しお願いします」

「はい……」


簡単な操作をして終わり。話す時間なんてない。


「……あのさ、飾り付け一人でやるの?」


うん、そうなんだ。三組分だから大変だよね

じゃあオレ手伝うよ


この流れでいけばいい。鳴神さんに手を貸そうとするものはこの学校にいない。ヒバリさんを怖がっているんだから。

勇気出して尋ねた質問。流れはできているんだから後は言う勇気を持つだけ。
ごくりと唾を飲み込む。なんか口の中が乾いてきた。
鳴神さんは楽しそうに笑う。それはいつも教室で見ている───


「綱吉と獄寺くんと山本くんと京子ちゃんが手伝ってくれるって言ってきてくれたんだ。五人でやるよ」

「、そっ、か……がんばってね」


オレは遅かった。他人の真似事で勇気を出したところでヒバリさんに出会ったら逃げ出すに決まっている。夕暮れの教室に鳴神さんと二人っきりのところをヒバリさんや風紀委員に見つかったら窓から飛び降りてでも逃げたくなるんだ。


「……ありがとう心配してくれて。──くん」


にこっと微笑んだ鳴神さん。オレに向けられた笑みはいつも見ていた薄笑いではなくてツナたちに見せている微笑み。


「……覚えられてるとは思わなかった」


押し付けられた図書委員。今日初めてやってよかったと思えた。


うちの生徒会長。
彼女はもう悲しそうに薄い笑みを貼り付ける人間ではない。彼女の周りには少しだけど人が集まり始めて。
これからもっと集まるのではないか。ツナたちのようにオレとは違う世界で生きる人たちが。
オレとしてはとても嫌だが、好きな人が楽しく笑えるならそれが一番なのだろう。