チャイムの合図で雪合戦


紗夜は一つくしゃみをする。先程まで表情に出さずに心中で実況をして遊んでいた。楽しかったが明るみに出たら記憶喪失になりたいぐらい恥ずかしい遊び。リボーンの話は半ば流していたのだ。
ずぴっと出てきた鼻水をすすってマフラーを鼻まで上げ直す。


「(やっぱり寒いな……)」


冬空の下、雪が溶けない気温の中一歩も動かずに座っていれば寒いに決まっている。コートの下は制服。肌は顔以外出されていないが脚はタイツ。耳と鼻は赤くなってしまっていた。はあ、と白い息を吐いて膝に顔を近づける。紗夜が楽観的に考えていた30分が思っていたより長かった。こんなことなら一人で生徒会の仕事を片付けて暖かい部屋にいた方がよかったのかもしれない。


「3チームになったことだし雪合戦のルールを変えねーとな」


服装が弥生時代ぐらいまで遡ったリボーンからルールの変更が各チームに出された。奪い合うのではなくレオンTURBOとなって走り回るレオンを捕まえたチームが勝ちに変更だ。

ビアンキは戦場を把握しようと周りを見回した。リボーンの粋な提案はエクセレント。さすが愛した相手。だがそれでもビアンキのチームは不利なのだ。人数が他に比べて一人少ない。自分のチームの毒牛中華飯はランボとイーピンの三人。他はどこも四人ずつ。戦いにおいて人数の少なさは不利だ。それに一人はランボ。圧倒的に不利となる。
恐喝すればさらに人を引き摺り込めれないか、周りを見回した時、膝を抱えて傍観している赤髪の少女を見つけた。白景色だからいつもより余計に赤は目立つ。きれいな赤。


「紗夜」

「、へ」

「私たちのチームに入りなさい」


見つけたら即行動。一拍置いて紗夜はビアンキを焦点に入れた。返事をする間もなく、ぐいっと掴まれて立ち上がらされる。


「待てよビアンキ!! 紗夜を危ない目に遭わせるなって!!」

「何ツナ、文句あるの?」

「な、………ないです」


誰からの文句も受け付けない。そんなものは眼光で黙らせる。紗夜だって後ろで何も言わずについてくる。顔は病的レベルで青ざめているけれど。本人が何も言わなければいいのだ。ツナだけは味方についたが一瞬で強者に従った。


「紗夜ーー!!」

「っランボ」


にっこにこの可愛らしい笑顔でジャンプしてきたランボを紗夜は受け止めることができずに雪の上に尻もちをつく。お尻が冷たかった。


「ビアンキさん……その、私運動能力ここにいる誰よりも低いと思うんですけど……」

「ツナよりマシなのは知ってるわ」

「あーー……実は巷で噂になっているんですが、私負け女らしく……」

「大丈夫よツナがいるから」


紗夜の平均的な身体能力はプロ級のマフィア集団の中に入れたら底辺になってしまう。出たくなさすぎて嘘までつくがここには不幸な男がいる。ツナは知らぬところで第二ラウンドが始まる前に二つも流れ弾を受けてしまった。


「……いや、でも……」

「そう、ごめんなさい。跳ね馬と違うチームになりたくなかったのよね。だけど愛は障害があるほど深くなるのよ」

「跳ね馬?」

「ディーノよ」

「……出させてください!!! なのでもう何も言わないでください!!!」


最終的には勘違いによって屈服される。くっ、と紗夜は悔やむ。本人の前で好きだと周りに勘違いされているこの恥ずかしさ。ディーノもなんとなくわかっているのでビアンキの勘違いに振り回される紗夜に同情して微笑む。目があった紗夜はぼっと顔を赤くしてわたわたと頭を下げた。


「……紗夜……あんな顔され続けると男は勘違いしちまうぞ」

「いいじゃーか。ボンゴレと縁を深めるチャンスだぜ」

「やめろって。逆に縁を切られるだろ」

「プロポーズしてみろ! そろそろボスの奥さん見たいよなっ」

「お前ら……他人事だと思って……」









「紗夜紗夜! 勝つぞぉ!」

「○△▽○○+□!!」

「……そうだね」


子ども二人の意気込む姿に紗夜はふわりと微笑んだ。ビアンキを敵に回すのだけは危険だ。やるしかない、と紗夜はランボを地面に置いて雪玉を作る。


「(やっぱり寒いなあ)」


はあ、と白い息を吐いて紗夜は手袋を外した。悲しくも第二ラウンドの始まりの合図はおろされた。


「(さっきまでも殺伐としていたのに……第二ラウンドの方がルール無視だろう)」


雪玉をせっせっと作っていく。そうすればビアンキとランボとイーピンが投げていってくれるのだから。前線に立ちたくなかった紗夜は三人を盾に雪玉を作ることを望んでいたし、チームとしてもありがたい役割だった。補充してくれてビアンキが一手間加えればそれは毒だ。猛毒となり凶悪な武器となる。


「(献身的だな)」


毒牛中華飯の雪玉に対抗するのはキャバッローネファミリーの実弾入り雪玉。紗夜の予想は大当たり。青ざめながらも紗夜は雪玉を作り続けていく。流れ作業のように手を止めることはない。遊びに夢中な少年少女たちとは違ってリボーンは紗夜を観察できるのだ。若いながら目立つのではなく後方支援を自ら望む姿勢を評価する。

人生“二週目”だからか。

雪合戦という遊びなのだから他のもの同様前に出ればいいのに雪玉を作るだけ。手袋は濡れないよう外してしまったので、外気に晒されて雪に触れている手は赤くなっていた。

紗夜が雪玉を次々に作り上げていく。手を止めると一瞬でなくなるのだ。毒牛中華飯とキャバッローネファミリーの標的は漁夫の利を得ようとしていたボンゴレチームに代わる。第一線を慣れているビアンキやイーピン、キャバッローネの目を欺けるのはそう簡単ではない。


「(うわああああ! フゥ太くんの周りだけ無重量空間だ!)」


フゥ太がランキングを駆使して作戦を作る。ランキング星との交信は初めて見た紗夜は手が止まる。星の王子様というより雪の王子様だった。雪を無重力で浮かばせて壁を作る。きれいな防壁。

ボンゴレチームは攻守分けてきた。守備としてダイナマイトを投げてきた獄寺に慌てて紗夜は飛び上がって地面を蹴る。


「ランボっっ!!」


雪で滑ってしまったがダイナマイトは阻止できた。紗夜は。同チームのランボは直撃した。キャバッローネファミリーのボノも。少しずつ戦力は減らされていくのか。


「紗夜っ早く作りなさい!!」

「はいっ」


だが毒牛中華飯は遅れをとった。レオンTURBOはディーノ、一歩遅れて山本が奪いに走っていく。だが部下が視界からいなくなってしまったディーノが階段で足を滑り大きな雪玉の一部となって転がってきた。山本も巻き込まれてディーノと共にリタイア。


「勝機っ。今のうちにたたみ込むわ! 紗夜も作るのをやめて投げなさい!」

「はいっ!」


紗夜はビアンキの指示をそつなくこなすのみ。逆らってはいけない人の指示を聞く。命は大切に。

だが指揮官の指示通り動いていても大きな怪物には敵わないことを知る。ディーノがスポンジスッポンのエンツィオを雪解け水の上に落としたのだ。巨大なエンツィオの前では誰も何もできない。天干ししたところで水はそこら中地面にあるのだ。


「……山火事以来ですね」

「冷静だね!!」


ツナから褒められたのかよくわからない言葉をいただいたが冷静なんかではない。当てはまる言葉は現実逃避だ。


「(マフィアの遊びって……)」


危険だなあ


エンツィオが倒れてくる。動くことはできない。巨大な力の前では平伏すしかなかった。


「(でも楽しかったなあ)」


大騒ぎしてはしゃいで雪まみれになって。いつぶりだろうか。みんなで雪遊びをしたのは。実弾やら毒やらダイナマイトやらで物騒なものが飛び回っていたがいい思い出になる。


「(天干しされれば縮むから……一ヶ月後には脱出できるかな)」


まだ2月半ば。気温が下がるのはいつになるだろうか。


「うへっ!?」


潰されるのを覚悟して目を瞑った。だが誰かに引っ張られた。目の前ではバダーンと100キロ、いや1000キロあるのではないかと思えるほどの音が鳴り響いた。


「何これ?」

「きょーやさいこー」


助けてくれた命の恩人。言い過ぎだがもしエンツィオの下に巻き込まれていたら紗夜は自力で脱出できなかった。

紗夜が安堵するとレオンTURBOが走ってくる。雲雀がしゃがんで止めた。


「何これ?」

「それちょーだい」

「いいけど」

「待って紗夜!! それは卑怯じゃない!?」

「そんなことないよ〜」


一番幸運なのではないか。雪玉を作るだけで他何もしなかった紗夜がレオンTURBOを手にする。WINの旗がレオンTURBOから出る。


「リボ〜ン」

「優勝は紗夜だな」


いえ〜、と手を挙げる紗夜。大きな雪玉から喝采が起きた。気絶していなかった山本とディーノからだ。どちらも手が出ていないからハイタッチはできないが相手チームだった紗夜のいいとこ取りを褒めてくれた。


「……………………」

「えーっと……ヒバリさん? どうしてここに?」

「……別に。群れる標的に一方的に雪玉をぶつけようとしただけだよ。……君たちみたいな、ね」

「ヒィィィィーー!!!」


鋭い眼光で睨みつけられる。標的にされたのは群れているからだけじゃなく、もっと他の私怨があるような喋りと氷のような声。


「すっげーな紗夜!!」

「もってんな」

「いえー!」


楽しげな声が雲雀の耳に届いてくる。


「(───耳障りだ)」


賑やかで楽しそうな声。一番身近にいるひとの声がどうしようもなく聞いてられない。うるさくて仕方ない。鼓膜に直接騒音を流されているようだ。


「……うるさい紗夜」

「えっ、……ごめん?」

「休日になんで学校に忍び込んでいる」

「私だけじゃなくてみんな…」


声量は友人と話す普通の声。学校にいるのは紗夜だけではない。紗夜は一応制服を着てきていて一番校則通りの格好なのだ。怒られるべき部外者や私服集団は雲雀がスルーした。


「……その、生徒会の仕事があるから来ました」

「終わって遊んでるんだ」

「……まだ始まってもないよ」

「はあ?」


怒られる心当たりがようやく出てきた紗夜は目を逸らす。尋問に似た恐ろしい何かにツナと山本とディーノは見守るしかない。リボーンだけがにやにやと。雲雀が弱点をあからさまに出しているのだ。


「やれよ」

「……うん。じゃあねみんな」


威圧感。命令口調。紗夜は逆らえるわけがなくレオンをリボーンに渡してとぼとぼ歩いていく。


「……大丈夫かな紗夜……」

「紗夜を心配するより自分の足元を心配した方がいいぞ」


丸まっている背中を見送ったツナ、だがリボーンの指摘に下を向くと………


「イーピン!!? ヒバリさんに惚れてるんだったーーー!!」


残り二筒リャンピンとなったイーピンが足元にしがみついていた。
リボーンは一人だけレオンをハングライダーにして逃げる準備をした。










「あ、爆発」

「余計な口出ししてる暇あるの」

「ないです……」