バレンタインデーC


家に帰ると机の上にチョコが置いてあった。来てくれたんだ。後でお礼の電話しなきゃ。今年は抹茶のチョコ。抹茶が好きな私はとても嬉しい。プロだからほぼ既製品のようなものだ。毎日少しずつ食べよう。

お目当てのチョコを手に入れてにこにこのまま私は何年も続く問題に向き合う。


「そろそろ不法侵入やめない?」


あれ? 応答がないぞ。実はこのやりとりは初めてではない。だから応えてくれないの? 同じこと何回もするなってこと?

綱吉の家から帰ってきたら恭弥が不法侵入していた。おや、これだけ聞くととんでもない人だな。とんでもないんだけど。
家に帰ると鍵が開いていて電気も点いていたので万が一のために私はスタンガンを取り出して忍び足で家の中に踏み入れた。自宅のはずなのに強盗のような振る舞いをした。誰だ誰だ。怖いけれど頑張って恐る恐る明かりがあるリビングに近づいていたら帰ってくるの遅かったねと後ろから声をかけられた私の気持ちはわかるかな? 怖い一択だよ。誰だとか確認している場合もなく悲鳴をあげて無意識にスタンガンをつきつけたよ。勇気を出すために用意していたスタンガンを使用してしまったよ。不法侵入の相手が恭弥だったから当てずに済んだけど、他の人だったら当てていたよ。危ない。恭弥でよかった。

恭弥の不法侵入はこれが初めてではない。もちろん常習犯でもない。そもそも不法侵入という言い方は間違いである。まぁ、不法侵入ではあるけれど……そんな物騒なことではない。恭弥が戸締りをきちんとしている我が家に入れるのは合鍵を持っているからで、恭弥に渡した経緯もその人の考えも私は理解しているから。でもびっくりするから連絡は欲しい。居ていいから連絡が欲しい。そしたら強盗か恭弥かの二択で迷わなくて済むのに。


「なんで帰ってくるの遅かったの?」

「綱吉の家に寄っていたから」


今日は料理するのめんどくさいし夕ご飯は卵かけご飯にしよう。おかずはいらない。めんどくさい日はいつもパンかカップ麺かお米なの。炭水化物オンリー食事。美味しいよ。


「……沢田綱吉の家に寄ってた、ねぇ」

「…………………今度一緒に行く?」

「行かない」


ありえないとは思った。置いてかれてショックを受けているんじゃないかと一応社交辞令でも誘ってみたがお断りされる。予想通りだったからよかったが。だけどなんであんなに声の色がいつもと違かったんだろう。冷えているというか……直球に言うと機嫌が悪い。


「チョコ渡したんだ」

「……渡したね。みんななんとか生きてるよ」

「意味わからないんだけど」


毒殺事件が起きるところだったとは言えない。チョコフォンデュは京子ちゃんハルちゃん担当で、つけるものは片方ビアンキさん特製クラッカー、片方私が作ったパウンドケーキだった。綱吉とフゥ太くんとどうしよっか覚悟を決めようかとアイコンタクトをしたよ。リボーンは眠かったから寝たのか、それとも寝たフリをしたのかはわからないけれど鼻ちょうちんを出していた。逃げたのだ。
私は提供側で食べなくとも自然だったけど綱吉とフゥ太くんは京子ちゃんとハルちゃんの純粋な眼差しに負けていた。


「私パウンドケーキ作ったんだよね。みんなそれを食べて───」


バリンッ、食器が割れた音がした。恭弥が持っていた湯呑みが跡形もなく割れていた。中身と破片は全て床に溢れている。恭弥にはかかってなくてよかった。掃除機と新聞紙と雑巾を取りにいこうとしたら首根っこを掴まれてソファーに無理やり座らされる。


「続き」

「湯呑み……」

「後でいい」


よくないよ。スリッパ履いているから足の裏を怪我することはないけれど先に掃除したほうがいい。もうっ、と振り解いて掃除用具を取りに行く。
ちょうどよく割れるタイミングが重なったのかなと思っていたんだけど恭弥の顔から察するに違う。握力で割りやがった。

掃除をし終えて道具を片付けたんだけどまだ機嫌が悪い。
……話を変えよう。


「今年のバレンタインデーはどうだったの?」


意図的に高めの声を出して恭弥と同じソファーに座る。恭弥は私の手作りチョコを食べていた。このチョコ好きが。甘党め。これを言うと否定するんだが。チョコ好きなのがイメージにそぐわなくて恥ずかしいから否定しているというより、言葉通り好きでも嫌いでもないからといった様に。まぁ恭弥は世間のイメージとか気にしないか。


「下駄箱と応接室に大量にあった」

「そっかあ。それなのに告白はないんだ」

「そんなのいらない」

「今全国の男子まで敵に回した」


スタイルの良さで女子を敵に回しただけじゃなくて男子まで回した。全人類敵に回した。告白をそんなのだって。顔がいいから何を言っても許されるわけではないのよ。告白したいけれどしたら咬み殺されるかもしれないからできない女の子いっぱいいるんだよ。並中生は恭弥の性格を知っていても慕っているんだ。すげえ。私もチョコあげているし同類か。でも女の子たちは本命でしょ? こちらは9割いつもありがとう1割作らないと咬み殺されるチョコだから。

感想はないが不満もない。いつもと同様無言で食べている。そんなにチョコが好きならと二年前にお徳用板チョコを渡したらその場で粉々にされて仁王立ちされた。このお坊ちゃんが。チョコ好きなんじゃないのか。粉々になったチョコは私が調理して恭弥の胃袋に届けられたよ。


「恭弥は話しかけづらささえどうにかすれば今すぐに彼女できそうだね」

「いらない」

「いるいらないじゃなくてできるできないの問題よ今は」


恭弥のかざしている風紀を知ってみんなチョコを渡しているのだ。並中を守り並盛の秩序を正す。どんな形でさえ平和を保っている並盛のヒーロー。孤独を好んで凛とした佇まい。


「彼女できても仲良くしようね」

「うるさい」


今日は恋バナをたくさんしていたから染み付いちゃったみたい。ディーノさん好きなんです誤解は女性陣にだけはいまだに解けない。京子ちゃんにまで伝わらないように祈る。ハルちゃんは純粋に応援してくれているみたいだがビアンキさんは純粋半分リボーンへの片思いを邪魔するディーノさんを私に渡して邪魔者排除しようとする半分なんだよ。本人から直接聞いたよ。


「結婚式には呼んでね」

「うるさい」


恭弥の結婚式は人少ないんだろうなあ。新郎新婦以外も教会入れるかな。それとも和婚で袴と白無垢かな。恭弥は白スーツも袴も似合いそうだね。私をゲストとして入れさせてくれるかはわからないが。恭弥群れるの嫌いだから式開いても新郎新婦の家族以外入れなさそう。
なんだかんだ恭弥は一番に結婚しそうなんだよ。気がついたら誰かと恋人になっていて夫婦になっている気がするんだよ。知らぬ間に。


「相談ぐらいはしてよ」

「なんの」

「そういえば前に恭弥の好きなタイプを教えてくれって頼まれて適当に恭弥より強い人って答えちゃった。当たっているよね」

「僕より強いのはいない」


当たっているね。強い人好きだよね。好きで名前を覚えて興味が出て頼み事を聞いてあげようと思えるもんね。よし、合っていた。あの人三年生だからもうすぐ卒業だ。卒業前に告白できるといいな。赤らめて髪の毛くるくるしている姿可愛かった。

……卒業式なんだよね。生徒会の仕事盛りだくさんなんだよね。三年生を送る会もあるし。どちらかというと生徒会は三送会の方がメインだ。卒業式は先生方がやれ。それでも卒業式は生徒会がやることはたくさんある。コサージュを一人一人に渡してつけないといけない。入学式もだ……。


「……………きょうやぁ」

「却下」

「まだ何も言ってないんだけど」

「紗夜が猫撫で声をしたときは全て却下の件だから」

「生徒会本部人増やそうよっ!」

「却下」


くそがっ!!

恭弥とは長い付き合いなのだ。そのおかげであまり顔に変化はなかったがチョコを食べて少しだけ機嫌が戻ってきていたことはわかった。だから今のうちにお願いをしようとしたら言う前に却下されるし言った後も却下されるしっ。もう少しチョコあげればいい? だけど他の女子からもらったチョコ盛りだくさんじゃん。増やしたら健康に害が出るからやめとかなきゃだね。
うあああああっと奇声をあげて頭を抱えていると恭弥のため息が聞こえる。誰のせいで苦労しているんだっ。瞳孔が開きそうだよ。


「少し手伝ってあげる」

「……お願いします」


恭弥も大変なのだ。学校の運営の何かをしていて並盛町についても何かしているから。あまり踏み込まない方がいいから知らないでいるが大変なのはわかっている。

「ありがとう……っ」とお礼をしてしまったがこの事態を招いている元凶は目の前の男だよな。







余談だが、次の日なぜか綱吉の目がパンダになっていた。獄寺くんが訳を尋ねていた。今朝方なぜか下駄箱で待ち伏せしていた恭弥に理不尽にトンファーでぶん殴られたとのこと。
なんで機嫌悪かったかは最後までわからなかったけれど一日引きずっていたのかよ……。なぜ綱吉に八つ当たりしたんだ……っ。やっぱり綱吉の家に連れてかなかったのがいけなかったのか……。