バレンタインデーB


綱吉の家でエプロンを身につけてチョコを作っていた。綱吉は嬉しいだろうな。可愛い京子ちゃんハルちゃんと美人なビアンキさんが綱吉のためにチョコを作ってくれるのだから。
綱吉の他にもリボーンやランボイーピンもいるのでいっぱい作りたいよね、チョコフォンデュにしようという話になった。

順調良く、たまにビアンキさんのところから煙が出ている気はしたがビアンキさんに限って変な調理していることはないだろう、と小麦粉を練る。チョコフォンデュにつけるお菓子を作っている。フルーツでもいいけれどここも手作りにしたいよねってことでチョコは京子ちゃんとハルちゃんに任せて私はフォンデュにつけるパウンドケーキ作りだ。小さく爪楊枝でさせるサイズに切り分ければ大量にできるはずだ。サクサク系のクラッカーはビアンキさんが作ってくれてる。一度ポルターガイストが起こって生地全て台無しになって作り直しになった。私のだけ。ショックで立ち直れなかった。原因はフゥ太という少年だというが誰だそれ。知らない。また増えたのか? ビアンキさんがとっ捕まえてゲンコツをしていた。強くカッコいい大人の女性だった。


───紗夜、紗夜紗夜


計り直しているとか細い糸のような声がどこからか聞こえた。


「誰か呼んだ?」

「いいえ?」

「呼んでないよ」


ありゃ? 空耳か? 確かに名前を呼ばれたと思ったんだけど。気を取り直してレシピを確認すると、


「紗夜…っ!!」


また聞こえた。やはり名前を呼ばれている。京子ちゃんハルちゃんビアンキさんは各自持ち場について真剣に調理中。なんだろうときょろきょろ見回すと廊下に繋がるドアの隙間から綱吉が手招きしていた。私? と指で確認するとこくこくと頷かれる。
今日の沢田家台所は男子禁制だ。指先だけでも入室するとビアンキさんから鉄槌を下されることになる。だから綱吉は入ってこれずに私を呼んでいる。
早く早くっ、と強い意志が感じられる。なんだろうな。小麦粉をテーブルに置いて手を洗う。スリッパの音を鳴らさないように気をつけてて扉を開けると思いっきり腕を引っ張られた。


「え?」


そこからの男性陣のコンビプレーは鮮やかだった。
綱吉が素早く私を引っ張り変に騒げないように口を覆う。予想できなかったことで、身体が前に倒れて膝をついたが全ては倒れない。音を立てないように綱吉が間に入って支えた。私の身体が外に出た瞬間、フゥ太と呼ばれていた学校に来てランキングを告げていった男の子が扉を閉めた。


「な、なに?」

「しーーーー!!」


ついてきてと手招きされるので逆らうことなく綱吉の後ろをついていき階段を上がる。後ろにはフゥ太と呼ばれた少年。怯えるように後ろを窺っている。私何も言わずに出てきちゃったんだけどいいのだろうか。

通されたのは綱吉の部屋。「おじゃましまーす」と足を踏み入れる。男子の部屋とか少しそわそわする。何か見せてはならないもの隠していたりしてないのかな。男子の部屋とか入る機会普通ないよね。もう中学生だし。

座布団をさしだされて敷いて座る。私の前で綱吉とフゥ太くんは正座した。畏まった態度に私も慌てて背筋を伸ばす。


「紗夜……」

「紗夜姉……」


神妙な声。リボーンでさえいつものようにふざけていない。何かあったのだろうか。私も不安になる。綱吉の許可を取らずに勝手にチョコを作ったことが原因? だけど作ってるから京子ちゃんからチョコがもらえれるんだよ?

二人は同時に地面に手のひらをつく。ビクッと身体を揺らしてしまった。


「「お願いです!! 助けてください!!」」


土下座まではいかないがその真似事になっていた。
助けるって何を……?


「どうか! 紗夜様っ! ビアンキを台所から追い出してください!!」

「ビアンキ姉のポイズンクッキング食べたくないよ〜〜〜〜」

「な、なんで!? ポイズンクッキングってなにっ!? 毒!?」


二人が何を言っているかよくわからないけれどとりあえず頭を上げてもらった。姿勢も崩してとりあえず話しましょう、とビアンキさんの特異体質を教えてもらった。
聞いて後悔した。恐ろしかった。どうやって接していけばいいかわからない。それに獄寺くんが哀れに思えた。異母姉弟だからビアンキさんに苦手意識を向けていたわけではなく特異体質の被害者だったからだ。

ビアンキさんは作ったものを全て毒にしてしまう恐ろしい体質をお持ちしていたのだ。愛情を込めて好きな人に振るっても毒になる。作っても作っても全て毒になるらしい。もちろん今日作っているチョコもビアンキさんが手を加えれば毒と変化する。


「………………………嘘だろ、あの美人さんが……」


ちょっと恋愛に対しての思いが平均より強めの人かな、ぐらいにしか思ってなかったビアンキさんが料理ど下手?? 下手という次元とは違う世界に入り込んでいるだと?

ずーん、と綱吉の部屋は空気が重くなる。フゥ太くん曰くビアンキさんの毒殺の苦しさはランキング3位だと。フゥ太くんのランキングは百発百中なので外れることはないそうだ。

ビアンキさんをチョコに触れさせてはいけない。そこで台所に入れる私になんとか話をつけてこいと二人は頼んできているのだ。


「…………無理」

「そこをなんとかっ!!」

「ビアンキさんリボーンにあげるって喜んで作っているから無理」

「そんなーーーっっ!!」


なぜ私たちはビアンキさんにチョコの作り方をレクチャーしてもらいに来たんだろうか。確か……みんなで作ると楽しいよね一緒に作ろうね、と話が決まった時にビアンキさんがそれなら教えてあげる愛のこもったチョコの作り方を、とか言ってくれたからだった。ハルちゃんがのりのりになっちゃったんだ。
あの日を今は心底後悔している。みんなで作るなんてしなければよかった。ハルちゃんも京子ちゃんも各個人個人で作ればよかったんだ。毎年手作りしているっていうから作れることは作れるのだ。殺人に手を貸したくない。加害者になりたくない。

……それに人が死ぬところを見たくなんか、ない。


「やっぱりヘソに一発死ぬ気弾撃っとくか」

「オレは普通にチョコを食べたいの!! 今年は紗夜が初めてくれるんだからっ!!」

「……ごめん、いつもあげなくて」


あげるべきだったのだろうか。クラスメイトの中には友チョコだよと女子全員に配っている人はいたからその人にだけは返していた。そっか、お世話になっていた……お世話していたのかもしれないが仲良かったからあげるべきだったのか。来年はみんなに作って持ってくか。
ヘソに死ぬ気弾を撃つと何を食べても平気になるらしい。だけどそれだとフゥ太くんが食べれない、とクゥーンと子犬のような鳴き声で訴えてきた。可愛いじゃないか!!


「……ビアンキさんはリボーンにあげれれば満足だからリボーンが食べれば……」

「それはオレに毒を喰らえと言ってんのか」

「……ごめん」


よしよしと抱きついてきたフゥ太くんを撫でる。にこにこと嬉しそうに腰に巻きついてくるのだ。わあ可愛い。


「……羨ましいなら来る? ツナ兄」

「は、はあ!!? 行けるわけないだろ!! そんなことよりビアンキを追い出す方法を考えなきゃ!!」


どこに? 台所に? 男子禁制だよ。
変な綱吉。なんか真っ赤だし。普通恐怖だと青にならない? 赤は怒りじゃない?

ビアンキさんを台所から引き剥がす方法。私がちょっと出かけましょうと言っても後でねとかわされる。チョコを作ってる時のビアンキさんは恋の戦中なので誰も邪魔はできない。したら敗北する。


「あ! そうだ、大人ランボだ! 大人ランボなら昔の彼氏と間違って地の果てまで殺しに行くぞ!!」

「怖っ」


それにその作戦はランボに囮になれと頼む方法だ。もし私が10年バズーカで過去に呼ばれて囮になれと言われたら綱吉に烙印を押すこととなるだろう。失望してしまうよ。だから辞めといたほうがいい。ランボだって同じだ。10年後のランボはよく知らないがランボには変わりない。可哀想だ。

綱吉も囮は可哀想だとさすがに思いやめた。前例もあるんだって。やった後かよ。


「若き…ボン…ゴレ…」

「噂をすれば」


何? この呼び方をするのは10年後のランボのみなの? ふーん、と顔を向けて私は悲鳴をあげた。
ランボの顔は血まみれで床にもどろどろと血液が流れていた。くらり、めまいがする。倒れそうだったがずっと抱きついていたフゥ太くんが手を伸ばして支えてくれた。

マフィアの世界やっぱり怖いと今日改めてマフィアとは関わらないと決めた。血まみれになるまで抗争を頑張らないといけないなんて。しかし真実が発覚して私たちは全員白けてしまった。血は全て鼻血で、出た訳は女性からもらったチョコを全て食べるから。ランボはバレンタインデーは毎年血まみれの惨事になるらしい。顔中血まみれなのは10年後の今日は風が強かったらしく鼻血が飛び散ったらしい。……私も10年後はハーレムが作れるぐらいモテるのだろうか。10年って偉大ダナーー。


「っ、紗夜さん……。すみません、なんでもないんです」

「……そっかあ」


私を視界に入れて涙ぐんだランボ。10年後で何かあったかな。10年後の私が何かしたのかな。そもそも私たちの関係は10年後も繋がっているのだろうか。

ランボはほっといても出血多量で病院送りになりそう。ビアンキさん問題はふりだしに戻る。みんなでうーんと悩む。だけど何にも思いつかない。

悪魔の足音が近づいていることには気づかなかった。そもそも音がなかった。


「リボーンちょっといいかしら? 味はビターがいい? それともスイート? あら紗夜、ここにいたのね」


お探しになられていたらしい。訪ねてきたのは湯煎して溶け切ったチョコが入っているボールを持つビアンキさん。あら〜〜完成間際。どうするんだろう。
あははと苦笑いするとビアンキさんはかっと目を見開く。苦笑いがまずかったか!? とバリアをした。


「ロメオォ!!」


私じゃなかった。ランボを誰かさんと間違えたビアンキさんは泡立て器で殺意が込もった攻撃をした。泡立て器が壊れて目玉が飛び出るかと思った。その後もビアンキさんの攻撃は続きそうになったが死ぬ気モードになった綱吉がランボをお姫様抱っこして窓から飛び出していった。お姫様抱っこといってもコの字だった。コを90度回転させた抱っこ。足が地面にすれていた。


「今のうちに完成させてくれ」

「あ、……はい」


乙女の夢であり、だけど体重がバレるからやって欲しくないものを見ていないで台所に戻れだと。リボーンも顔に出てないだけで結構本気だったらしい。


「そんなにビアンキさんの料理食べるの嫌ならこっぴどく振ったりはしないの? 食べたくないぐらい言えばいいのに」

「言えるわけねーだろ。マフィアは女を悲しませない生き物なんだ」

「こそこそと知らないところでこんな会議されるほうが私だったら悲しいけど」


一歳児でもプライドはあるんだね。はいはい、今のうちに完成させてきますよ。


「あ、待って紗夜姉! ランキング調べさせて!」

「今はチョコを優先してくれ」

「はいはい」


フゥ太くんにまたねと約束して階段を降りる。


「ツナ兄の命をかけて守りたい人ランキング、大切にしたい人ランキング、それにずっと一緒にいたい人ランキングと頼りになる人ランキング全て1位の紗夜姉には興味あるのに……。紗夜姉のランキング知りたかったな」

「……ニッ それ詳しく教えてくれ」


二階でされていた会話。普通の子である私には聞こえるわけなく、その頃の私はもう完成させてあったビアンキさん手作りクラッカーをどうしようか悩んでいた。

捨てるわけにはいかないし……致死量ぎりぎりの範囲で食べてもらうしかない。とりあえずパウンドケーキ完成させよ。