隣の芝があおいから悪い


今日の午後に参観日が行われた。

授業が始まるまでにダメなところを見られて叱られないように偽っているものやいいところを見せようと予習をしていたものもいた。もちろん普段通り優秀なものから誇張せずに普段のできない姿を見せていたものもいた。

授業参観ではランボとイーピンがいつのまにか教卓にいて、ランボが板書を髪の毛で消したりそれを綱吉関係だと周りに広められたり、ランボが私の名前を呼んだので他人のフリをしていたら泣き出したり、そのせいでクラスメイトにお前の知り合いかよという視線と親御さんの授業の邪魔すんなと戒めるような視線をいただいたり、ビアンキさんの顔を見た瞬間獄寺くんがぶっ倒れて先生とビアンキさんと綱吉のお母さんの手で保健室に運ばれたり。初めて見るサプライズがたくさんだった。参観日なのに自習になる前代未聞のことが始まりかけたりもした。

途中リボ山というリボーンに似たような見たことがない先生が代打して一般市民が通う学校でマフィアと平然と言いのけたりするのだ。やはりリボーンだった。NASAレベルと言われている問題を解いたらマフィアに就職させてくれるとのこと。したくないが好奇心から解いてみたくなった。ノートで真剣に解いている私を近くの席の人たちがモノ好きを見る目で見てきたが、数学は好きなので解きたくなるのは当然の心理。数学の成績は学年クラス共に大体二位。たまに私も一位になれるけれど、その時は100点を取れた時だけ。

一生懸命問題を解いていたら、なぜか綱吉がパンツ一枚で教壇に立って

『てめーらこれしきも分かんねーのか!! ぶっとばすぞ!!』

とか言いやがった。クラスで一、二を争う底辺に見下されてシャー芯が折れた。途中で死ぬ気モードが解けて、顔を真っ赤にして居た堪れなさそうに机に戻っていたが。

そんなこんなで波乱の授業参観は無事終わりを告げたのだ。


授業が終わるまで問題は解けなかった。獄寺くんが答えだけは途中で叫んでいたから獄寺くんは解けるのだろう。√5が答え……。全然たどり着けない。解き方教えてって頼んだら教えてくれるかな?


大体の人がそれぞれの両親と話している。もちろん話していない人もいるがその人たちも話題は家族についてだった。

だから必然だったのかもしれない。私もこの話題に巻き込まれるのは。


「はあ……」

「お疲れ様綱吉」


一瞬綱吉にブチ切れたけれど綱吉が被害者なことは私は分かっている。死ぬ気弾の存在を知るものなら全員分かるはずなんだけどこのクラスには山本くん京子ちゃんという天然がいて私の他に綱吉が被害者だと知るものは獄寺くんのみだ。なんと不幸な男。
今現在は綱吉と席が近く、ため息でさえ聞こえてしまうのだ。声をかけると綱吉は振り返って溜めている不満を少しずつ出した。


「だから来るなって言ったんだよ…。オレが変な目で見られるし……。どうにかしろって言われてもできるわけないだろ……っ。リボーンがオレの言うこと聞くわけないんだから」


うんうん、相槌をしていく。不満を聞いて欲しい人には絶対に否定的な言葉をかけることはしてはいけない。全面的に肯定しないとさらにストレスを溜めることになる。

誰か一人ぐらい掃き溜めがいないと綱吉は限界を迎えてしまうだろう。話を聞くぐらいは私にだって出来る。普段綱吉が抱えているストレスや不満は貰うことはできないけれど、そもそも貰いたくない。貰えないけれど吐き出す場所になるぐらいは。
綱吉の舌と唇は止まることがない。参観日だけじゃなくて数日前から数ヶ月前までのこともぺらぺらと出てきた。溜まっていたのだろう。これは定期的に吐き出す日を作った方がいいな。


「……ごめんね、こんな楽しくない話ばっかりしちゃって」

「大丈夫だよ」


相槌しているだけでほとんど聞いてないから。
そんなこと言ったら信頼関係ズタズタになるので大丈夫だけ伝える。嘘は言っていない。


「溜め込むと身体に悪いからねえ」


いいんだよ好きなだけ話して。私も綱吉と同じ生活送っていたら発狂している自信ある。
「遠慮はいらないよ」と伝えると綱吉は大きく息を吐いた。


「オレほんっと、最近身にしみるんだよ。紗夜と友達でよかったって」

「そんなにか」

「うん。他に話がわかる人いないし」


……ああ、それは……。
できるといいね。話がわかって共感してくれる同類が。そんな人そうそういないと思うけど。私はマフィアとは関係ないから(リボーンがなんと言おうとこれだけは譲れない。譲ったら私の人生計画は終了する)話を聞くことしかできない。綱吉だってボスにはならないと言い張っているけれど血筋の関係で一人しかいないらしい。一人なのに候補というのはおかしいけれど……。ん? 血筋? 両親のどちらかがマフィア関係者?


「つ、綱吉……私まずいことに気づいた。どうしようやばい」

「何が!?」


綱吉の両親のどちらかがマフィア関係者じゃないと綱吉が初代さんと血が繋がっていることにならない。待ってどっちだどっちだ。綱吉のお父さん見たことないからなんとも言えないけれどお母さんは違うよ。あんなにおっとりしているんだもん。だからこそ候補から外れて息子の綱吉に回ってきたのか? これ気づいたらいけなかったやつ!!


「……知りたい?」

「……うん」


神妙な顔つきで尋ねる私に綱吉までもが顔を引き締める。

ふうと息を吸う。私はこの秘密を共に背負ってくれる人を作ろうと小さく囁く。


「綱吉のご両親のどちらかがまふぃ、ふぁっっ!!」

「いっっっ!!?」


喋ろうとしたら綱吉の後頭部に何かが直撃した。床に落ちた何かを綱吉が拾う。それは本来人に当てるための道具ではない黒板消し。綱吉の頭が白くなっている。イスから軽く立ち上がって「ごめんね」と一言入れて粉をはらう。誰だろうぶつけてきたの。謝りに来る人が一人もいないんだけど。


「……リボーン…」

「理不尽すぎるね」


リボーンが当ててきたんだ。一通り教室を見回したけれどリボーンの姿はなかった。


「ごめん、なんて言ったの?」

「あっ……えっと、綱吉の両親のどちらかが……」

「いってっっ!!」


また飛んできた黒板消し。今度は側頭部。綱吉は痛みに耐えるように直撃した部分を撫でる。これは遠回しに喋るなという脅しだろうか。ただなぜか被害を被るのが綱吉という可哀想なことが起きている。喋っているの私なのに。


「……ごめんね」

「なんで紗夜が謝ったの?」

「お詫びにグミあげる……」


カバンに入っていたグミを取り出して綱吉にある分全て渡した。私の軽食。生徒会のお仕事のお供のお菓子。生徒会室に行けばもっと高級なお菓子たくさんあるからこれはあげる。

「ごめんね」ともう一度謝る。なぜ綱吉に伝えてはいけないのかはわからない。綱吉の両親のことなんだから綱吉に知る権利はある。


「よぉツナ紗夜!」

「山本!」

「ツナんち面白かったな!」


私の隣の席の人はどこかに行っているらしく山本くんは空いている席に座った。面白いで済ませていい問題ではないので私と綱吉は目を合わせて苦笑いを浮かべる。


「そうだ! 紗夜見てたか? オレ問題解けたぜっ。紗夜に教えてもらったやつ」


いえー、とピースサインをする山本くんに拍手を送る。おめでとう。私も教えた甲斐があったよ。今日の夕飯は大トロだってね。お父さん教室で宣言していたからもしかしたら山本くんのお家に押しかける人がいるかもよ。今だって親公認の彼女になろうと山本くんのお父さんは囲まれているんじゃ……いない。帰るの早い。


「っ、くっそ……」

「おっ獄寺。体調は大丈夫だったのか?」

「アネキさえいなければ……」

「アネキ?」

「ビアンキのこと」


うっそお!! え、ええええ!? そこ姉弟?? うっわあ、美男美女姉弟が生まれたんだな。


「ビアンキさん名字獄寺っていうんだね」

「言わねーよ。オレは妾の子だからな」


舌を噛みちぎりたくなった。妾の意味がわからない綱吉と山本くんが羨ましかった。今日だけバカになりたいと願った日だった。なんともなさそうに言い張ったが多分気にしている。そうでなければ切なさそうで悲しそうな顔はしない。


「……ごめん獄寺くん」

「別に……」

「今すぐ私の頭を殴って」

「っンなのいいって!! 気にしてねーんだから!!」

「違うの。獄寺くんを気遣うとかではなくて今すぐ記憶から消したいから殴ってほしくて」


消し去りたい。これからどんな態度で接すればいいのかわからない。話しかけるたびに『あっ……』って言ってしまう。


「……あのさ獄寺くん、この問題解き方教えてよ」

「あ? こんなのもわかんねーのか」


これがこうでこうだからこうして、と解き方を教えてくれる。教え方は下手くそだけど上手い。獄寺くんはたぶんある一定以上の頭脳がない人には何も教えれないタイプだ。頭良すぎて。基礎と標準問題はできることが前提。だからたまに何言ってるかわからなかった。ほら、一応私中学生だし。
それでもなんとかついていって最後まで教わる。


「こうだから……答えは√5か」


シャーペンを走らせて最後の最後まで解けた。√5の下にぴっぴっ、と線を引いて答えだということをわかりやすくしとく。しばらく経った頃にまた解いてみようかな。こう言った時は大体解かないときだ。


「すっげ……」

「気持ち悪……」


綱吉、それは褒めてない。たしかに頭のいい人間は考えていることおかしいから気持ち悪いと思うことあるけれど私は普通だから。私は!!


「そういえば紗夜は数学当てられなかったな」

「そこまで成績低くないし授業態度も良だし」


今回は数学が苦手な生徒から当てていった。例外で授業態度悪かった獄寺くん。普段から真面目な私は今日は当てられるかびくびくする必要はなかったのだ。


「お母さんかお父さんに見せたかっただろ?」

「そうだね」

「そういえば紗夜のお母さんもお父さんも顔知らないんだけど誰?」


ただの普通の質問だ。
参観日だから親の話になるのはどこのグループも同じ。平然といる前提で聞いてくるのは答えに困る。獄寺くんみたいに空気が悪くなることを前提で本当のことを伝えるべきか。
獄寺くんはなんとなく言いづらいことだとわかったのかもしれない。だが綱吉と山本くんはきょろきょろと後ろを見回す。


……いやっ、どうにか誤魔化せる!


「……二人とも仕事忙しすぎてさ、それに私来てほしくなかったから参観日のこと伝えてない」

「そうなのか?」

「オレそれでも母さん見つけて来たんだけどっ」


これは全て真実だ。嘘はついていない。
参観日があることは一言も喋ってないから来るわけがない。小学校の頃からずっと伝えたことがない。それでお父さんはよく嘆いているけれど今後も教えるつもりはない。仕事も忙しいし。パティシエさん。


「今度会ってみたいな、紗夜のお母さんとお父さん」

「オレもだなー。いつもありがとうございますって」


私の家族は綱吉達が思い描いている家族ではないのだ。いろんな意味で、想像とは異なっていることだろう。


「……そういえば10代目!! 一ヶ月前に山の主に出会ったじゃないですか! あれからオレいろいろ調べてみたんですよ!」

「おっ、どうなのだ?」

「野球バカに話してねえよ!」

「っ、まあまあ。それにあれエンツィオだし……」


何も答えれなかったら不自然に、だけど二人には気づかれないで変わった話題。海の神山の神という話題に変わっていく。獄寺くんが気を遣ってくれたんだ……。

感謝しきれないしありがたかった。
だけどなぜだろうか。

胸が痛んだんだ。