初めて女子と休日に出かけ、遭難しました


休日にショッピングしていた。何も買わなかったけれど可愛い服をたくさん見れて楽しかった。好みのトレーナーを見つけて買おうか迷った。買うべきだっただろうか。だけどトレーナーは家にあるからなあ……。また来年、今持っているのが着れなくなったら買おう!

寒いしコンビニであったかいものでも買って帰ろうかな。


「紗夜ちゃーん!!」


コンビニから出るとちょうどハルちゃんに出会った。寒さに負けない可愛い笑顔。


「紗夜ー!! んぎゃっ」


変な声と共に足にしがみついたのはランボ。この二人は仲がいいんだった。今日も仲良くお出かけするらしい。ハルちゃんに両手を握られた。


「○×△○○□☆○×」


あともう一人いた。ランボと同じぐらいの身長でチャイナ服を来た子。弁髪で……男の子かな? 可愛い声だったんだが幼少期はみんな声が高いからそこで性別を判断するのは難しい。何語かわからない言語を喋る子どもが手を合わせてぺこりと頭を下げた。比較対象がランボなのがいけないのはわかっているが礼儀正しすぎる。話している言語は中国語かな? 日本語と英語しかわからないから理解できない。


「ハルたちこれから山の中のおいしいケーキ屋さんに行くんです! 紗夜ちゃんも一緒に行きませんか?」

「……ケーキ屋さん?」

「はい!」

「ごめんねパスで」

「はひ!? もしかしてケーキ苦手ですか?」

「好きだけど……」


とあるお店以外のケーキは買わないと決めているんだ。フランスで学んで来たパティシエなので洋菓子は全て美味しい。山の中にあるケーキ屋さんはそのお店ではない。私が贔屓している洋菓子店は隣町にあるのだから。
ケーキは好きだけど他の人のお店の売り上げには協力してあげない。絶対に。私の贔屓しているお店とても美味しいしこれから先日本一になる実力だから。恭弥だって気に入ってくれている。


「じゃあ行きましょう!」

「ごめんね。もしよかったら今度隣町の洋菓子店に行ってみて。ケーキ美味しいから」

「隣町? 黒曜ですか?」

「うん」

「わかりました! 今度のハル感謝デーの時に行ってみます!」


よくわからない単語が一つ出たが無視していいだろうか? ハル感謝デーとはなんだ? ハルちゃんが定めた何かの記念日かな?

それじゃあね、と分かれようとしたらランボがくっついていた。引き剥がそうとしても離れない。


「一緒に行くんだもんね!!」

「っごめんね! 私本当に洋菓子にはうるさくてっ」

「嫌だもんね!! 紗夜が行かないならランボさんも行かない!!」


子どもそのものだ。我慢はできないでわがままを言えば意見が通るとわかっている子ども。チャイナ服の子がランボを引っ張って剥がそうとしても全然離れない。タイツが悲鳴をあげそうなほどがっしり掴んでいる。


「ランボちゃんあんなに楽しみにしていたのに……」


ハルちゃんがじっと私を見る。やだ、行かない。絶対に食べない。他人の売り上げに貢献するぐらいなら身内の売り上げに貢献するのが普通だろう。
じーっとハルちゃんは至近距離で顔を見つめてくる。美少女は卑怯だ。可愛い顔を近づけられたら頷く以外の行動はできないのにっ。だけど洋菓子だけは決めている。なになにが食べたいって言うと喜んで作ってくれるのだから他の人の手作りケーキをお金出してまで食べない。


「紗夜ちゃん……」

「行くぞぉ紗夜!!」

「□☆○××……」


美少女と子どもが街中の見知らぬ通行人を味方につける。何やってんだあの集団、とかあの子たち可愛くね、とかそんな声が聞こえる。これ以上ハルちゃんをここにいさせるとナンパに出くわさせてしまう。しかし私は絶対に他の人のケーキは食べない。食べないのに交通費使いたくない。
ずっと凝視してくる三人。ハルちゃんは挨拶時に握った手をまだ離してくれない。


「……三人で行けばいいじゃん」


最初はその予定だったんだから。私なんてここで会わなければ話題にもならなかったんだからここまでこだわる必要ないじゃん。しつこく誘う理由はランボが離してくれないからだけじゃないでしょ。なんで。


「紗夜ちゃんも一緒の方が楽しいじゃないですか!」

「紗夜行くんだじょ!! ランボさんの愛人なんだから言うこと聞けぇ!!」

「□☆☆☆××+!」


弁髪の子なんて会ったのすら初めてなのに……。私は悩んで悩んだ。絶対に決めていたはずのこと、それを今日破ることになったのだ。














「紗夜だっこぉ」

「はいはい」


この子は将来どうなるんだろうか。胸目的ではないのはわかるんだがぺちぺち毎回叩くのやめてほしい。ハルちゃんの視線が刺さったが気づかなかったことにしといたよ。エロ大臣とか変なあだ名つけられないよね、と少し危惧したが10年後は結構なイケメンさんに育っているんだった。一瞬しか会っていないけれど胸を触ってくる人ではなかったので成長したら節操がある人にはなっている。10年の成長ってすごいんだね。


腕の中にいるランボに山の中を案内されながら恋バナをしていた。ハルちゃんの好きな人、綱吉のことを聞いたりイーピン(名前と女の子だっていうことはハルちゃんによって発覚された)の好きな人を全くわからない言語で聞いていた。わかったのは顔を赤くするぐらい好きな人がいるということ。一度イーピン爆発したけど。あれはほんと、……控えめに言っても距離を取りたくなった。腰抜けてしばらく私のせいで動けなくなった。優しいハルちゃんたちは立てるようになるまで待ってくれた。イーピンが爆発した訳はわからなかったが頭を下げてすまなさそうにするので許すしかない。きっかけを与えないようにするしかない。ハルちゃんもそれが分かったのだろう、私に問いかけてきた。


「紗夜ちゃんは好きな人できましたか?」


きらきらなおめめ。期待を裏切るようだができていないので首を左右に振る。「そうですかぁ……」としょんぼりしてしまったハルちゃん。そう簡単に好きな人はできません。


「ハルがツナさんに惚れたのはですね! ツナさんが川で溺れているハルを命懸けで助けてくれたからなんです! 死ぬ気でハルを救う! オレにつかまれーって」

「そうなんだ」

「はい! とても嬉しかったです。飛び込んで助けてくれて……その日からハルのハートはツナさんのものです」


ランボに木の棒が欲しいと言われてその辺の長めのものを渡す。
もじもじと頬を赤らめるハルちゃんは可愛いの一言のみ。綱吉の幸せ者め! シンデレラボーイめ!

ハルちゃんに可愛い可愛い連呼していたら「バカにしないでください!」とぽかぽか叩かれた。本気で言っていたのに。「紗夜ちゃんの方が可愛いじゃないですか!」とぷんぷんされた。ハルちゃんの視力か脳みそはどうかしてしまったようだ。そんなわけないのに。

耳まで赤いハルちゃん。ふふふと笑みをこぼしてふと周りを眺める。恋バナを聞くのに夢中になっていて気がつくのが遅くなった。


この道、本当にあっている?


気のせいでなければ獣道に迷い込んでいる気がする。お店までの道って舗装されていたり整備されている気がするんだけど……。
木の棒をぶんぶん振り回す腕の中にいるランボ。自作の歌を歌っているランボに恐る恐る声をかけた。


「ランボ……ケーキ屋さんまでの道知っているんだよね……?」

「うん!」

「……ケーキ屋さんどこか知ってる?」

「知らない!!」


元気いっぱいの返事に私とハルちゃんとイーピンの足は同時に止まった。


知らない?


「ひ、引き返しましょうか? ここ、なにかデンジャラスな生き物が出そうな……」

「そ、うだね……」


出そう出そう。例えばクマとか。
顔を見合わせて私とハルちゃんは同時にUターンした。イーピンは私たちの早歩きに余裕でついて来れているのでだっこの心配はない。というよりイーピンが一番素早い。


「クマなんてランボさんが倒してあげるよ」

「×××!! ○☆××△▽!!」


イーピンがランボに怒っている様子だ。言葉はわからないけれど表情と声色でわかる。


「クマって大きな音を出せば遭遇しないよね……?」

「そうですね! たくさん話して帰りましょう!!」


出会わないにこしたことはない。私とハルちゃんは声を張り上げて仲良く会話していく。それでも足は止めない。イーピンが年下なのに歩くのに邪魔な枝を折って道を開いてくれている。先導してくれている。


「紗夜ちゃんだって命助けられたら惚れちゃいますよ!!」

「そうかなーー??」

「はい! 紗夜ちゃんにそんな人はいないんですか!?」

「っ……」

「? ……紗夜ちゃん? どうしたん───」

「はちだ」


まさかこんなにも自分が取り繕うのが下手だったなんて。自分のアホさのせいでハルちゃんにも何か伝わってしまったときランボの間抜けな声が。


はちだ?


ハルちゃんとクエスチョンマークを浮かべているとイーピンの荒げた声が。何かに注意喚起しているようにも見えて「どうしたのイーピンちゃん?」とハルちゃんが尋ねた時周りからぶんぶんと嫌な音が。

視線を下げると腕の中のランボは持っている木の棒が何かを突いていた。今も。その先を目で追うと……


「っ、」

「ハチです!!」


驚きからランボを落としてしまった。ハルちゃんの叫びでみんな一緒に大騒ぎしながら走り出す。これならクマと遭遇はなさそうだが後ろからのハチは防ぐ術がない。

この先は崖で行き止まりだった。もう刺されるしかないのかっ。万事休す……!
その時イーピンが肉まんを取り出して構えた。どんっと何かを打った動作をするとハチたちは変な動きをする。


「よかったですぅ……」

「……ごめんランボがいない」


「ぐぴゃあああああ……」とこだまが聞こえる。蜂から慌てて逃げてランボはすぐ目の前にある崖から落ちたそうだ。


「「「………………………」」」


私とハルちゃんとイーピンは無言で頷いて崖を降りる道を探すことになった。

今日はケーキ屋とかそんなところではなさそうだ。