必要なくても守りたい


最近スリや詐欺が多いよね。


ぽつりと出してしまった話題。これがいけなかったらしい。思ったよりも食いついてきてしまった。


「紗夜は大丈夫か!?」

「今のところ何も被害はないよ」

「今のところじゃダメだろ……!!」


今後はどうなるか未定だからなんとも言えない。

ついこの間生徒総会が行われた。三年生は引退して二年生が新しく委員長に就くことに。しかし悲しいことに生徒会長は継続。泣きたくなった。大半の人が権力と暴力に逆らえなく支持率90%以上だった。泣きたかった。その上生徒会本部役員は今年もなし。決まった日にはまた同じことしないといけないのかよっと生徒会室で一人机をどんどん叩いた。一度やっている分今年よりは楽になるよ。うん、きっと。

引き継ぎ業務は全くなかったのだが新委員長たちと顔合わせをして本日の下校は遅くなった。そしたら山本くんが待っていたのだ。野球部の先輩から今日が引き継ぎ会だというのを聞いていたらしく、私は何も伝えていないのに校門に立っていた。その姿はまるで少女漫画にありそうな他校の彼氏が迎えに来たシーンだった。一瞬感動した。しかしすぐに女子先輩たちの視線に背筋が凍った。怖ぇ。今回の委員長たちと上手くやっていけるのだろうか。恭弥としか上手くやっていけないよ。最初から印象最悪じゃないか。イケメンはべらせているクソ女という陰口聞こえていたから。はべらせてねぇよと反発する勇気なんて私には存在しない。

以前一方的に約束された帰るのが遅くなったら送っていきます契約。だが遅くなっても一切教えないので山本くんはたまに怒ってくる。その怒り方がとても軽いので私は一向に連絡しない。人間というのは恐怖でしか考えを変えないのだ。嘘だ。
今回は元体育委員長に聞いたようなので練習後待っていたのだろう。そこまで心配してもらわなくてもいいが最近犯罪は起こっている。


「そういえばオヤジも言ってたな……。オレにって教材を売りに詐欺師が来たって」

「買っちゃったの?」

「いや? オヤジがいうには子どもはそんなものいらずにのびのび育てってさ」


それもそうかもしれないが山本くんはもう少しお勉強をするべきだ。山本くんの場合時間がないだけで覚えはいいから野球部引退したら成績ぐんっと右肩上がりになるんだろうな。やればできるタイプなのだ。天才肌なのだろう。


「紗夜は教材は必要ないじゃん。だけどスられたらどうすんだよ」

「一応防犯対策としてお財布や高価なものはバッグに入れるようにしているよ。後スタンガンもあるからいざとなったらビリッと」


チャックでしまるバッグにいれている。スクールバッグなど。ポケットやカゴのようなタイプの上が開くのだと盗まれる危険性があるから。変なのが近づいてきたら護身用にスタンガンがあるので当てればいい。それでも盗まれたら警察と恭弥に訴えるよと笑うとなぜか山本くんは苦虫を噛み潰したような顔になった。なぜ?


「……ヒバリは強いけどさ…なんていうか、……オレでも良くないか?」

「相手犯罪者だよ?」


そこらの不良じゃないんだよ? もしかしたら前科があるかもしれない相手なんだよ。殺人犯や暴漢ではないから甘く見ているかもしれないが犯罪者であることには変わりない。もしかしたらひょろひょろしていて山本くんの方が体格がいいかもしれないが相手は犯罪者なのだ。お金を盗んで騙し奪って並盛住民を困らせて泣かせている罪人。力の弱さや性別なんて関係ない、犯罪者。
そんな人たちの相手は警察や恭弥でいい。中学生がどつにかする必要はないんだ。山本くんは元気よく野球に取り組んでいればいいんだよ。


「紗夜が困ってんなら助けになりたいじゃん!」

「……なんで?」

「友達だし」


だよね。紗夜がってわざわざ名前で言わなくて友達がって最初から言えばよかったんだよ。特別な子みたいな言い方をされて一瞬息が止まりかけた。


「オレにとって紗夜はすっげー大切な友達なんだ。だから守りたいんだよな」


山本くんは楽しそうにからから笑う。
特別な意味はない、そうだ、お願いだから赤くならないで。


「あっつーー」

「だよなぁ。秋だっていうのにまだ暑いよな」


ぱたぱたと火照った頬を手であおぐ。残暑があるから納得してくれた。山本くんは部活終わりだから余計に暑いだろう。鎖骨に汗が浮いている。隣にいても汗のにおいはするがそれでも汗臭いとはならないのが不思議だ。匂いのケアでもしているのだろうか。不快にならない汗の量。イケメンだからだろうか。イケメンは身体の作りが違うんだ、きっと。
変な汗が浮き出てくる。最近女子からの視線が鋭くなる一方だからどうにかしたいのに。小学校の頃はまだ平和だった。そういう系統の嫉みはなかった。

鳥の鳴き声が町中に響く。もう秋なのだ。山本くんと出会って半年過ぎたのだ。


「オレにも頼れよ」


ニカッと笑うと白い歯が見える。ぽんっと頭に手を乗せられて「うぎゃあ!」と色気のかけらもない声を上げた。イケメンのスキンシップには耐性がない。心がキュンキュンする。いろいろ破壊力がすごい。


「そうだ! 寿司好きか?」

「お寿司? 大好き」

「オレんち寄ってけよ」


お寿司でなぜ山本くんの家? 断る暇も考える暇も与えられず手を握られてどんどん引っ張られていく。普段は歩くペース合わせてもらっていたが足のコンパスが違うんだ。歩幅は山本くんの方が大きく小走りでついていくことになる。


「なんでっ!?」

「オレんち寿司屋なんだ」

「お金っ、そこまで持ってない!」


スられてもダメージが少ないようにお財布には千円札一枚と小銭しか入っていない。今日はどこも寄り道する気なかったから必要最低限しかないのだ。


「大丈夫だって。オヤジ人にあげるの好きだし」


だからといって息子の判断一つで関係ない女子にあげるわけないだろう! あげるのはお世話になっている人だけだ。
断ろうといろいろ理由を言うが山本くんは大丈夫の一点張り。強引にことを進めていく。……千円札一枚あれば約10皿は食べれるか。お店に入って一皿で帰るのも私の気分が悪いのでぎりぎりまで食べてお邪魔しよう。10皿も食べれば満腹。今日の夕飯はお寿司だ。久しぶりに食べる。二日目のカレーは冷蔵庫に眠っているから明日食べましょう。


「着いたぜ」


夕飯もお財布事情もなんとかなって顔を上げるとどこからどう見ても個人店の回らないタイプのお寿司屋さんがあった。


「ただいまー」

「おう武! おかえり!」


混乱しているうちに引っ張られて中に引きずり込まれる。

ここ、一皿百円なんていう中学生のお財布に優しいお店ではない。

職人さんが目の前で握るタイプのお店だ。勝手に全国規模のチェーン店で働く回るタイプのお寿司屋さんだと思ってたが高級店だった。


「や、山本くん??」


私本当にお金ないよ?
これだと食い逃げか冷やかしだ。お願い私を帰らせて。店主さんから隠れるように山本くんの後ろに立つ。今から帰ってもいいかな?


「オヤジ! 今日友達連れてきたんだっ。同じクラスの紗夜!」

「おおそうか!! 武がよく話す嬢ちゃんだな! いつも武が世話になっているみたいじゃねぇか!! 今日は好きなだけ食っていってくれ! おっちゃんの奢りだ!」

「な! オヤジ人にあげるの好きだから」


な! じゃないんだよお……。
回らないお寿司屋さんに入店したのは初めてで身体が変に震える。なんともないのに何かしていないと落ち着かなくて意味もなくカバンを肩にかけ直す。恭弥の家で職人を招いて食べたことはあったけれどあれはまた違うじゃん。あの時も緊張で食べ物が喉を通らなかったけれど今日も通らない。

カウンター席に案内された。店主さんの真ん前という特等席。握る姿も見れるし隣には山本くんが座るし。


「さァ、何から握ろうか!」

「………………………カッパ巻きをお願いします」

「あはは とりあえずマグロでいいんじゃないか?」


やめてよ山本くん! 高級店のマグロなんていくらするんだと思うんだ! カッパ巻きだって高そうなんだから!!
店主さんは「あいよォ!」と握り始めてしまった。きれいで筋を傷つけない包丁さばき。さすが職人。


「好きなだけ食べてけよ」

「う、ん」

「オレ本当に紗夜にいろいろ世話になって助けられているんだから。───ありがとな」


赤点回避させれたことはほとんどないけどね。こんな高級寿司くれるなら一度全教科赤点回避させれるようにしないと申し訳ない。

親子に見つめられてもぐもぐと咀嚼する。「美味しいです……」と感想は言えたが味は緊張のしすぎでわからなかった。舌の上でとろけたのだけはわかった。


お腹いっぱいになるまで味は何もしなかった。はした金を今日払って残りを後日持ってきます、と約千円を置いていこうとしたら拒まれた。山本くんのお父さん本気で困っていたからお金を払うのは諦めたが今度何かお礼に渡さないと。とても美味しいケーキを渡そう。友達だからって無償で甘えさせてもらうわけにはいかない。親しき仲にも礼儀ありだ。そういえば…どこの親も子どもの友達には甘くなるのだろうか?

帰る時は暗くなっていて家まで送るって言われたが断固拒否した。そこまで世話になったら申し訳なさすぎる。


だがその日、気をつけていたのにいつのまにか財布は無くなっていた。初めての回らない寿司屋に動揺し過ぎていて帰り間際に払う払わないで財布を取り出した時ファスナーを閉じるのを忘れていたらしい。


叫び嘆いた数日後に犯罪者は捕まったと恭弥にお知らせを受けて、中身が空っぽになっていた財布はなぜか綱吉が届けてくれた。