Buon compleanno!


「獄寺くんはバカなの?」


綱吉は己の誕生日当日に入院した。病院でささやかに誕生日会が開かれている。今は病院着に白いベッドの上だ。リンゴを剥きながら訳を聞くと全ては獄寺くんのせいだった。

マフィア、というよりボンゴレファミリーには特有の文化があるらしく、奇数才の誕生日にボンゴリアン・バースデーパーティーをしなくてはいけないらしい。ボンゴリアンってなんか少しかっこいい。ボンゴレではなくてわざわざボンゴリアンと言うのがムカつく。アサリでいいじゃん。
ルールは至極簡単で誕生日を迎える主役が参加者の用意したプレゼントや出し物に点数をつける。一番高い点数をとった参加者は主役から豪華プレゼントをもらえて最下位は殺されるという単純かつおかしいルール。納得できないがたった一言、“掟”で片付けられるマフィアはやはりロクなものではない。

このことは事前にリボーンから説明を受けていた。祝いにこないか? と。そうなのだ。驚くべきことにリボーンの誕生日は綱吉の一日前だった。死ぬのは嫌なのでお断りしたが。聞いてしまった手前、贈り物はするべきだと思い郵送で送った。コーヒーが好きだと聞いたので専門店の珍しいコーヒー豆を贈りました。昨日の夕方には届いていることだろう。

綱吉はその話を当日聞いたらしく何も用意してなかった。だが棄権は死を意味する。そこで獄寺くんと手を組んでタネも仕掛けも本当にない手品をしたそうだ。箱に閉じ込められて身動き取れない状態で剣をぶっ刺されるというクソみたいな手品、というより根性でなせるもの。死ぬ気モードになってあらゆる関節を外して全ての剣をぶっ刺しても傷一つつかずにすんだが、無理に身体を動かしたことで関節は戻らなくなり身体中に痛みは残り日常生活もままならず入院。


全てを聞き終わった後の感想が最初の一言だ。


「綱吉ただでさえ身体かたいんだから」

「あはは…本当に。……紗夜……その、無理してリンゴ剥かなくていいからね?」

「え? 無理なんか……あ」


手を止めると手元のリンゴはとても歪な形になっていた。皮は勿体無いほど厚くなっていたり赤い部分が残っていたり。
………………ああ、無意識だった。


「ごめんね。ちゃんとやる」

「わっ、さっきと全然違う。なんで最初だけ下手くそに切ったの?」

「あはは」


二個目以降は滑らかにきれいだ。うさぎさんにもしてやろうといくつか皮を残す。もううさぎごときで喜ぶ年ではないかもしれないが。

……無意識だった。癖でやってしまった。ここが病院なのがいけない。わざと、歪に下手くそに、包丁に不慣れなフリをしてしまう。


「今日はボンゴリアン・バースデーしないの? 綱吉13になったんでしょ? 奇数才だよ」

「そんっっっな恐ろしいこともうしたくない!!」

「ずいぶんと適当な掟だねえ」


私がリボーンの誕生日会を断ることを認められた理由はボンゴレやマフィアとは無関係、これだ。もし綱吉が本当にマフィアの世界に仲間入りして10代目となれば二年に一回ボンゴリアン・バースデーをしなくてははらない。10月14日は嬉しい日から憂鬱な日に変わる。獄寺くんも綱吉についていくだろうから綱吉は一年に二回も憂鬱な日々を過ごさないといけない。獄寺くんは何月生まれなのだろうか。予想では夏か秋。冬や春生まれっぽくはない。


「一位になって豪華プレゼント何をもらったの?」

「………………さ、参考書」

「あら」


そんなので喜ぶ変態希少なのに。綱吉はゲームとかあげといた方が喜ぶだろう。そんなこといいながら私からのプレゼントはゲームなんていう高価なものではない。中学生だからいいんだよ。中学生は1000円程度でいいの。友人同士ならそのぐらいが妥当。


「ということで私からはこれを」

「どういうことで!?」


「ありがとう」と嬉しそうに口もとを緩めた綱吉は大切にプレゼントを抱える。帰ってから中身は開けてね。いろいろ恥ずかしいから。正直者のリアルな反応は見たくない。


「リボーンって昨日でいくつになったの?」


包丁を水道できれいに洗ってしまう。奇数才といったらランボと同い年だろうか。ランボ5才って言ってたからそのぐらいかな?


「えーー……多分一歳」

「一歳!?」


ありえない。どこの世界に一歳で機関銃を扱え綱吉の家庭教師ができるだけの頭があり恭弥に気に入られる赤ん坊がいるの!? いるわけないだろ!! 前世の記憶があって一歳児の振る舞いができなかった私でさえ当時は有象無象の一人だったんだから。


「そういえばよく知らない」と綱吉はぽつりと呟いた。「うーん」と考えているがはっきりと口から出たことはないようなのだ。昨日で奇数才になったとしか。


「そうそう酷いんだよ。みんなはまだしも母さんは普通忘れる? 息子の誕生日をさぁ」

「連続だとついでになっちゃうの嫌だね」

「ほんと。これから毎年リボーンと一緒にされるのかなぁ……」


これからもずっと一緒にいる気なんですね。だがなんだかんだ綱吉のお母さんは綱吉の誕生日も祝おうとしている。ケーキを買ってきてプレゼントも渡して。二日連続ならケーキはまとめる家庭も多い中、綱吉のお母さんはどちらも用意したのだ。綱吉のケーキはランボに踏まれたらしいが。哀れな奴。


「だから嬉しかったよ。紗夜が覚えててくれて、プレゼントを用意してくれて、こうやってお祝いに来てくれて」


綱吉は笑った。とても安心するような笑顔。普段出されない笑み。大人っぽいけど13歳の笑み。全てを飲み込んで包容してくれるような、そんな笑顔。


「ありがとう」

「う、ううん……」


いつもと違う綱吉に変になっちゃってヘンテコな表情になった。


「私、だけじゃないじゃん。獄寺くんも覚えてたんでしょ!」

「そうだけどっ」


あっ戻った。


「獄寺くんと紗夜は違うっていうかっ! その……なんて説明すればいいんだろう」


獄寺くんは恐怖でもあるけれど私には脅威は感じない、じゃない? 知らないけれど。
あまり病人の部屋に居座るのも悪いので私は席を立った。帰るねと伝えると綱吉は時計を確認する。


「まだ来てから20分も経ってないのに……!!」

「うん、20分も経ったね」


綱吉にとって20分は短いんだね。私にとって20分も病院にいるということはありえないことなのだ。


前はすぐに帰っていたから。


病院にいい思い出はない。どうしてもこの世界で犯してしまった罪を思い出す。いや、罪というほどではないのだろう。私を責めるものはいなかったのだから。一人を除いて。みんな私を普通の、なんのしがらみもない子だと思い込んでいるから。


荷物をまとめてまた学校で、と綱吉に挨拶をした。


「あ、綱吉」

「ん?」


出る間際に今年はまだ言ってなかったことを思い出した。


「誕生日おめでとう」


また一つ年を取った。
12で綱吉の周りは大きく変わった。13ではどうなることか、少し楽しみでもある。私は綱吉の物語を見ているだけでいいのだ。