愛だ恋だと声をあげるな
「ぎゃはははははは!! 紗夜はオレっちの愛人だもんね! ツナなんかにあげないよ」
「変なことっ、言ってないでっ、離れろ!!」
「10代目のお手を煩わせてるんじゃねえぞアホ牛!!」
「ん〜〜〜……紗夜困ってるしやめような」
「よかったな紗夜。モテモテじゃないか。マフィアの才能あるぞ」
「あなた一体誰ですか!? ツナさんに近すぎます!!」
烏合の衆。なぜその集団に私がいるのだろうか。
ランボが急に現れた意味は理解させてくれた。10年バズーカという摩訶不思議なアイテムがあるようで被弾すると10年後の自分と5分入れ替わるそうだ。な〜るほど、と返事したけどなんだそりゃ。現実にありえないっての。混乱している間に周りが騒がしくなった。
綱吉は私からランボを引き剥がそうとする。だがランボは私の腕の中からいなくならない。勝ち誇ったように豪快に笑っていた。獄寺くんは言わずもがな綱吉の味方であり、共に剥がそうとしている。綱吉と違う点といえば綱吉はランボの脇を掴んで力ずくで剥がそうとしているが獄寺くんはダイナマイトを常備しているところだ。最近並盛町で起こっていた爆発の犯人はもしかしてお前か……? 学校以外は管轄外なのでどうでもいいが学校は全てお前じゃないだろうな……?
山本くんは笑ってランボを注意する。リボーンはにやにやと成り行きを見守る。モテモテとは違う状況だぞ。それに取り合っているのはランボであって私ではない。それとなぜそこでマフィアの才能? モテる奴は全員マフィアなのか? それならアイドルや俳優はどうなる。
そんなこんなで私の腕の中にいるランボを中心に賑やかだ。いい年した中学生が子どものランボに何をしているのか。苦笑が漏れる。その中でも断トツでおかしいのは緑中の子だった。
「ツナさんとはどーゆー関係ですか!?」
「友人です」
なんなんだこの子。青い春なのか青い春なのか青い春なのか!!?
ぐいっと顔を前に出して眉を近づけた女の子。聞いてくることが綱吉との関係やら距離の近さとか。綱吉に恋している女の子にしか見えない。これで無自覚ということはない……よな?
「本当ですか……?」
「同じ学校で同じクラスの友人なだけです」
「本当の本当のほんっっっとーーですか!?」
「本当の本当の本当です」
「ツナさんにフォーリンラブじゃないんですね!?」
「はい」
フォーリンラブとは斬新な表現だ。恋しているとか好きなんですねとかでよかったのではないだろうか。そもそも綱吉をそんな目で見れない。
ほっと息を吐く緑中の女の子、と獄寺くん。なんだお前? 尊敬する人がこんな女に好かれてなくてよかったてか? それでもいいけど隠せ。表に出すな。
安心したのとは真逆の反応をしているのは綱吉。ガーン!! とアゴが外れるほど口を開いている。何にショックを受けているのだろう。綱吉が好きなのは京子ちゃんだ。だから私の綱吉に対する恋心は関係ない。人としては好いているんだからいいではないか。これが嫌いだったらショックを受ける理由はわかる。この時リボーンの「これだから無自覚の二股野郎が」と吐き捨てている声を聞いていれば何か違っていたのだろうか。そんな未来はないので不明。
「はひーー…よかったです。あなたみたいな可愛くてスタイルのいい子がライバルだったら大変でした」
何なのこのいい子はっ!!!
嬉しくて涙が出そうだった。ぶわっと何か出てきた。思わず反射的に口元を手で隠す。もちろんランボは落としていない。緑中の子は変な反応をする私に首を傾げる。尊い子を見ると反射的にこうなっちゃうんだよ。
よく見ると、見なくても緑中の子は美少女だ。目は大きくてぱっちりで良い意味で普通の髪色と目の色。表情豊かでお腹の中には何も隠していない元気な子。腰は細いし。羨ましい。
「そういえばまだ自己紹介していませんでしたね。三浦ハルです!」
「鳴神紗夜です」
「紗夜ちゃん! よろしくお願いします!」
やった、美少女とお友達になれた。同じクラスの京子ちゃんも美少女だけど友達といっていいレベルかわからない。彼女はたぶんクラスメイトだ。ほとんど話したことはない。嬉しいな今日はお赤飯でも炊こうかな。めんどくさいから却下。
「ねえねえ紗夜」
「なにランボ?」
「ランボさんこれあげる」
ランボはもじゃもじゃの頭に手をつっこむ。探している途中でカランと地面に落ちた何か。拾おうとしゃがんだら腰が抜けた。
「は、はははははははハル、ちゃん!」
「はひ!? ハルもデンジャラスで触れません!!」
助けを求めたが普通の女の子が触れることは無理だった。私も動けない。ランボはその間も腕の中にいて「えっとねーないじょー? うんっとね」と探してぽろぽろと地面に落としていく。同じのが他にも数個落ちてきて気絶するかと思った。
ランボは昨日教室まで綱吉を探しに来ていた。ということは校舎に入り込んだのは初めてじゃないのだろう。セキュリティはどうなってんのかという話はまた今度。ランボが何度か入り込んでいるというなら今までの爆発を全て獄寺くんのせいにするのは訳が違う。ランボの髪の毛には何をどうやって入れているんだ容量パグっているじゃん! というレベルでゴミから武器まで突っ込んである。
「無理無理無理! やだやだまだ死にたくない!」
「あはは 子どものおもちゃだって。紗夜本気にして可愛いな」
軽く言いのけてぽーんと拾った手榴弾を上に投げる山本くん。おもちゃなの? そっくりなおもちゃなの? ランボが綱吉やリボーンと一緒に普通にいるから持っている手榴弾は本物だと思ってしまった。そうだよね、ランボは普通の子だもん。ハルちゃんみたいに綱吉と仲良しなだけの普通の子。安堵から息を吐いて震える足に力を入れる。山本くんの笑みでなんとか立てるようになった。よかった。顔を上げると綱吉と獄寺くんが何言ってんだまだわかってねーのか、みたいな顔で山本くんを見つめている。
……それは、どういう意味かな?
「実際見たほうが早ぇだろ」
リボーンが山本くんの肩から降りてきて地面に落ちていた一つの手榴弾を手に持った。ピンを取って真上に投げると────
バーーーーン!!!
爆発した。
秋空に爆風。わあとてもいいけしき。
「あわわわわわわわわわわ」
「おおすっげえ花火」
マジかこいつ天然か。
腰がまた抜けた。ぺたりと地面にお尻をつける。膝上5センチのスカート丈だったことで下着は見えない。他のおしゃれな子たちみたいに短くないんだ恭弥に怒られたから。
「つ、つつつつつつつ」
「うん」
たった四文字の名前も喋れなかったが意味は通じたらしく綱吉はランボを受け取ってくれた。人間凶器みたいな子だ。なぜ手榴弾を持ち歩く。獄寺くんのダイナマイトといい勝負。
「あった。紗夜やるー!」
「あああありがとととと」
受け取ったものはよくわからないもの。何だろうこれ。
「ランボちゃんは紗夜ちゃんのこと好きなんですね」
「おう!」
ハルちゃんはよく普通に喋れているね。精神の問題だろうか。心の強さの問題だろうか。問うと「マフィアの妻になるためですから」と頬を赤くされた。よくよく考えると三角関係発生しているじゃないか。ハルちゃん→綱吉→京子ちゃん。これで京子ちゃんに好きな人がいてその人がハルちゃんを好きだったら四角関係だし、そんな人がいなくても京子ちゃんがハルちゃんを好きだったら誰か一人は救われることのない三角関係の始まりだ。泥沼が発生してる。京子ちゃんとハルちゃんは知り合いかな?
「立てるか?」
「うん。……待ってやっぱ無理」
「家まで送るぜ」
立とうとしたが爆発を見た私は恐怖で足が小鹿のようになっていた。そんな私に山本くんは背中を見せてしゃがむ。
……おんぶしてくれる、という意味だろう。誰が誰に? 私が山本くんにおんぶしてもらうってこと? え、死ぬじゃん。山本ファンクラブに見つかったら夜道ぐさっ!! じゃん。なんでわざわざ自分から死に走らないといけないの。絶対嫌。
「大丈夫だよ。しばらく座っているから。山本くん部活あるでしょ? 行ってきなよ」
「あ! ハルもそろそろ部活行かないと! ツナさん見にきますか?」
「行かないよ!!」
「はひーーそうですかぁ……。わかりました……」
部活組はこんなところで時間を食っている場合ではない。山本くんもだよ。野球部エースなのは今も変わらないんだから行ってきなよ。三年生が引退してから前よりも期待されているんでしょ?
ひらひらと手を振ると山本くんは納得いかなさそうに眉を顰めたがそれでも向かってくれた。
「紗夜ちゃん! また今度ハルとたくさんお話ししてください!」
「うん。お願いします」
ぎゅっと両手を握られる。近くで見るとさらに可愛い。綱吉はこんな可愛い子に好かれているのか。了承すればいいのに。まあ揺るがない京子ちゃんへの想いも綱吉らしいけど。
「今度ガールズトークしましょうね」
耳元で囁いたハルちゃんはにっこり。
ばいばーい、と手を振ってハルちゃんも見送る。部活やればいい運動になるだろうなぁ。腰細くなるかな。だが私にそんな時間はない。文化系の週一部活ならあるけれど運動部の毎日部活に捧げれる時間はまったくない。
山本くんもハルちゃんもすごいなあとほわほわと眺め、綱吉と獄寺くんランボにリボーンにも帰っていいよと微笑みかけた。たぶんみんなが帰らないのは地面にへたりこんでいる私を配慮してだ。一人にさせて帰るのは良心が痛むとかそんなところ。
「大丈夫だよ。少ししたら復活するだろうから」
「だからって置いてけれないよ。オレたちのせいなんだから」
「……チッ めんどくせ」
「ご、獄寺くん!!」
いたくないのに拘束されて不機嫌な獄寺くん。とても居心地悪いから早く帰って欲しい。
「獄寺が紗夜をおぶってやればいいだろ」
「えっ!?」
「やだ」
もしそれで重いと言われて落とされたらどうする。ショックで数日は寝込むぞ。数日どころか一生引きずる。獄寺くんの顔を見るたびに思い出してしまう。
獄寺くんも嫌だと顔にありありと書いている。綱吉が「それならオレが運ぶよ」と申し出てきたが、言っちゃあ悪いが綱吉の方が落としそう。ランボを抱えてるのに私まで持てるわけないだろう。
「いいよ、本当に大丈夫だから帰って」
「マフィアは女に優しくするもんだぞ」
強気で拒否したがリボーンは聞いてくれない。ほら獄寺、と催促する。やめてくれお願いだから! 獄寺くん苦悶している。少しして上着を脱いで渡してくる。
「………………………………乗れ」
「嫌だ」
「さっさと乗れ!!!」
どんなに怒鳴られても私は地面とくっついている。がんばれ私の足復活しろ!! だが未だに生まれたての子鹿である。
「しゃらくせえ!!」
「え、」
無理矢理腕を引っ張られて肩に乗せられる。勢いで立ち上がられて気がついたら獄寺くんの手は膝の裏。
「それじゃあ帰りましょう10代目!」
「う、うん……」
おんぶしてしまえば私の存在はないらしい。綱吉の横を歩く獄寺くん。生徒の前を普通に通るんだ。恥と何あいつという女子からの視線が身体に刺さり明日以降がとても恐怖だった。
とりあえず……おんぶしてもらった後だが獄寺くんが貸してくれたブレザーを腰に巻こう。……腰より顔かな?