言葉は薄っぺらい。裏側が透けている
裏庭に呼び出されて向かうとなぜか学校にいる泣きじゃくるランボといつもの三人とリボーン。気のせいではなかったら壁がまた壊れているんだが。何回校舎を怖せば気が済むの。恭弥という学校への異常愛を持つ男を知っても何回も破壊できるのはある意味すごい。
「どういう状況?」
「……なんでお前がここにいんだよ」
「呼ばれたから」
じゃなければもう家に帰ってる。
タバコを吸っている獄寺くんに目の前の状況の説明を求めた。なんかランボの保育係を決めていて選ばれたやつが綱吉の右腕なんだと。これだけの説明ではほとんどわからないけれど……とりあえず、
「……獄寺くんもイタリアンマフィア的な何かなの?」
「当たり前だろ」
「………へーー」
綱吉だけじゃなかったのか。
保育係という役割に就くために今は山本くんが挑戦しているそうだ。野球部の彼らしくキャッチボールで遊ぶとのこと。休日の父親と息子ですか。日本男児なら全員が一度は通るであろう道。イメージでは通っている道。アンケートしたら通っていない人もいそうなキャッチボール。ランボも興味を示したようでグローブを受け取った。
私が来ていることは獄寺くんしか気がついていないんだろうなあ。ランボに意識を向けている綱吉と山本くんとリボーンはこちらを見ない。
「獄寺くんは綱吉の右腕になりたいの?」
「あったりまえだろ!!」
「ランボならアメあげとけば好きだって言ってくれるよ」
「アメェ? ……なんで鳴神がアホ牛の好み知ってんだ」
「前に会ったことあるからかな〜、へ!?」
獄寺くんとの会話は途中で消えた。会話している場合ではなかった。目の前で起こった衝撃の事実。山本くんがランボの顔面に豪速球を放った。山本くんの球を1メートルも身長がない、もしかしたら50センチもないんじゃないだろうかランボが受け止めれる訳はなく、ランボはそのまま校舎まで吹っ飛ばされる。……並中野球部って軟式だよね……?
野球の動作に入ると手加減ができなくなるという恐ろしい一面を持っていた山本くん。私、何度かキャッチボール誘われたことあった。山本ファンクラブの女子が怖くてずっと断っていたけれど……もし受けていたら私はランボみたいに歯が欠けていたのだろうか。ランボは乳歯だからよくはないけれど、まだいい。私もう永久歯だ。二度と生えてこない。
さあっと血の気が引く。……並盛生怖いのしかいない。校歌通り平凡でいろよ……っ。
怖くて獄寺くんに少しだけくっつく。生存本能であり、やましいことをかんがえているわけではない。顔を赤らめた獄寺くんだがそういう感情はいっさいないの。
「じゃあ次は紗夜、いけ」
「ん!? あれ!? いつから紗夜いたの!?」
「…………………今〜〜」
さりげなくさらりと嘘を吐く。リボーンは結構前から私が来ていたことに気がついていたらしい。もしかしたら獄寺くんに話しかける前から気がついていたのではないだろうか。でも嘘はつく。山本くんの恐ろしいところなんて知らない。そうやって思い込まないと同じクラスにいることはできない。たとえ私の席が角になって山本くんも角になって一番遠い距離になっても私は豪速球を当てられる危険性がある。気がついたら歯は折れて鼻の骨は折れて鼻血だらだらだ。当てられるまで投げられたことにも気づかない。……神様どうかお願いです。どこでもいいので席替えしても山本くんを私より前にしないでください。
「紗夜選手交代、っていってもオレすごい泣かしちまってんだけど……」
「とてつもなく難しくしたね……」
「悪ィ! だけど紗夜なら一瞬で泣き止ませられるよな!」
私参加する前提のお話ですね。ランボはいいんだけど、綱吉の右腕とか興味なさすぎる。隣の獄寺くんの睨みが怖いからどちらかというとやりたくない。絶対やりたくない。やってもいいけれど右腕はいらない。
やりたくないけどやらないといけない空気。日本人は空気を読むから嫌だ。リボーンもにっこり見つめてくる。くっ……やらないとなのか……。
「何やってるんですかーーー!!!」
天からの救いが。右腕やだなあ獄寺くんを敵に回したくないなあ、とうじうじしているとどこからか女子の声がした。
「ハル!!?」
綱吉曰く、ハルという女の子。他校の生徒で今日は新体操部の交流試合で来ていたそうだ。獄寺くんが視線でそうなのかと訴えてきているが知らない。全ての部活の日程を把握できるわけない。どんな万能者だ私は。獄寺くんに1位を奪われた日から勉強に精が出なくなって10位まで落ちて獄寺くんにめちゃくちゃ笑われた女だぞ? 二回目だというのに満点を取れないなんて……どうして。90点台は取れるのに……!!
一位になれる学力はないけれどあの子の中学はわかる。
「緑中の子……」
「ハルも知り合い!?」
「制服……」
制服でわかっただけだ。知り合いではない。緑中は頭いい名門だから有名。部活で来たのに一人で他校をうろちょろする行動からはあまり頭のよろしさを感じないが。
保育係は緑中の子で決定ということで私は帰宅しよう。カバンを持ってリボーンに「帰るね」と告げた。リボーンにまだ「やってねえだろ」と言われたが知らない。聞こえないことにしよう。
歩き出そうとしたら綱吉に腕を掴まれた。
「っ、綱吉っ!」
「お願い! 残って!! マフィアなんかに巻き込むつもりはないけど!! お願いだから!」
私綱吉にマフィアに誘われていること伝えた覚えはない。リボーンからファミリーにするって聞いたそうだ。全力で拒んでいるから安心してとのこと。綱吉気が弱いから本当に心を許している人以外強く出れないじゃん。そんなんで安心できるかっ。
「リボーンさん!! 鳴神をボンゴレに入れるおつもりですか!!」
「ああ」
「無理です!」
「もう決めた」
なんという赤ん坊だ。本人の意思と仮マフィア10代目と現マフィアで右腕候補の意見は全て無視して自分の意思だけを通してくるとは。
「獄寺だって紗夜を認めてんだろ。お前がちゃんと名前で呼ぶというのはそういうことだ」
「なっ……!! ちっ、違いますよ!! その、これは……なぁ赤髪女!! っ、じゃなくて……」
「……赤髪を忌み嫌んでいるわけではないから気にしないで」
校長室に呼び出された日のことを獄寺くんは思ったより記憶に残っているようだ。赤髪女と私を呼んですぐにヤバいと口を覆っていたのが理由だ。
微笑むと獄寺くんは決まり悪そうにして顔を逸らす。
「紗夜ってマフィアやりたいの……?」
「そう見える?」
「見えない」
「正解」
即答だった。よかった見えなくて。見えてたらショックだ。私は寿命を迎えるまで安全で安心で安定した生活を送るの。そう決めてるの。
綱吉もだよね、とわかりきっている質問をするとはにかまれる。私たちは平穏な生活を送りたいのだ。
「絶対絶対ぜっっっったい!!! 紗夜は巻き込まないから!! ヒットマンとかマフィアとか……危ないし紗夜には似合わない」
「ありがとう」
いい機会だった。最初からのことを全て綱吉に聞いていく。リボーンに死ぬ気弾。パンツ一枚の理由に額が発火していたこと。
今日に至るまで全て教えてくれた。巻き込まないと言いつつ全てを知ったら巻き込まれたのと同じ気がするが綱吉はどういうつもりだ。というのは一度置いといてとりあえず目の前にいるランボについて尋ねた。
「じゃああの子はイタリアから来た殺し屋で…入江くんの弟さんじゃ……」
「入江って誰? ランボに兄弟がいるかは知らないし今はうちに居候してるよ」
夏休み明け二日目に全学年全クラス名簿を眺めたが入江の名字はなかった。名前は忘れてしまったので入江だけを頼りに探したが並盛にはいなかった。じゃあなぜあの眼鏡の入江くんはランボと一緒にいて私に話しかけてきたのだろうか。
「ランボのこと知ってたんだ」
「夏休みに少しね」
「そっか。───紗夜!!!」
綱吉が慌てて声をかけてきた。危険が迫っているような焦った声。なんだろう。小首を捻ろうとしたら
「紗夜さん!!」
「ゴフッッッ」
トラックが当たりにきたような威力が。何かが出るかと思った。女子らしくない声をあげてしまった。
その間もぎゅうぎゅう恨んでいるのではないかと思えるぐらい抱きしめてくる誰か。本当に誰だろう。胸板しか見えない。はだけている胸板しか見えない。
「ようやく貴女に会えた……」
「ランボ!! 離せよ!」
ランボとは誰のことだ。ランボとは私より何倍も小さい子のことだぞ。綱吉は変なことを言う。というより本当に私は誰に抱きしめられているの? 怖いんだけど。カバンに入っている恭弥がくれたスタンガンを使いたいほど怖い。今使ったら私も痺れるから使わないだけ。準備だけはしとかないと。震える手でカバンのファスナーを開ける。だが震えていて上手く開けない。怖い、怖い。なんで見知らぬ人に抱きつかれているんだろう。怖いっ。
「……まだ貴女はいるんですね…」
「紗夜怖がってんだろ!」
見知らぬ人は嬉しそうに私を抱きしめる。どんな顔をしているかはわからない。かたい胸板で何も見えない。声は震えていて、ただごとでないことは伝わってくる。
綱吉が誰かさんを引っぱっているようだけど誰かさんの腕の力は強くて離れる気配はない。怖いし恥ずかしいしで変な汗がたらたら流れてくる。
「離れろ!!」
「っ、若きボンゴレ! お願いです! 未来を変えると約束してください!」
「何がだよ!」
……………………っもう無理っっ!
「あああっっ!!」
私は勢いよく誰かの胸を押す。男の人は私に拒まれると思ってなかったらしく、ありえないと泣きそうな表情になった。イメージしていたより何倍も女性に困らなさそうな顔だった。
見知らぬ人に抱きつかれたら誰でも叫ぶから! 少しだけ反応鈍かったかもしれないけど真っ当な反応だから!!
なぜ急に抱きついてきたのか、誰なのか、その疑問は解消する。泣きそうになっていた癖っ毛のある牛柄のシャツを着た人は急に爆発した。爆発したのだ。ええ!? 声が出そうになったが白い煙の中に小さな人影が見えて慌てて手を伸ばす。二頭身サイズのもじゃもじゃ頭の子は私の腕の中にすぽりとおさまる。
「おー! 紗夜だ!」
「ランボ……」
「ランボさんって呼べーー!」
どういうこと? ランボはどこから現れたの? 先程までの牛柄のシャツの人はどこぞに?
ペチペチ胸を叩くランボの頭を撫でる。ふわふわしていた。
「……未来を変える?」
リボーンの声を聞いていたものはいたのだろうか。