波乱の体育祭
綱吉ファミリーはたまには大人しくできないのか……っ。
頭を抱えていたら隣に座っていた放送委員会の誰かが憐れみの視線をよこした。
大変だね、可哀想。だからといって絶対に代わりたくはないけれど。
これが彼の視線に含まれていた意味だ。
先程A組がB組とC組の総大将を襲って出場辞退になるまでボロボロにしたと情報が入ってきた。その後すぐにA組総大将の沢田綱吉の命令で襲ったと情報が追加された。
ふざけんなよ、綱吉にそんな度胸があるわけないじゃないか。庇えよ誰か。獄寺くんや山本くんは仲良いじゃないか。そんなやつじゃないって庇ってやれよっ。
私の願いは届かず、獄寺くんが綱吉の勝負前に敵を潰す方法を誉めていたと知った時は頭をマイクに打った。普段何を見ているんだお前は!!!
「鳴神さ〜〜ん……どうするこれ?」
「……放送のスイッチ入れてもらっていいですか?」
プログラム通りではないが少し早めに昼休憩にしよう。保護者の皆様の前で体育祭関係ない大乱闘が起ころうとしているのだから。
「みなさん静かにしてください」
絶対この学校は平凡とはかけ離れている。
「棒倒しの問題についてお昼休憩をはさみ審議します。各チームの代表は本部まできてください」
スイッチを切ってもらってふうとため息をつく。私の声は興奮して暴れようとしていた学生たちを抑制することに成功したらしく、本部にいた生徒たちから拍手が届けられた。そんなものはいらない。とりあえずみんなにもお昼に行ってもらって……私は血の気の多そうな代表たちと話をしよう。私は騒動の原因のA組だから丸め込むことはできない気がするけどなあ……。
「いいっ!! 組んで向かってこい!!」
「それだと平等ではなくなり……」
「極限に知らんっ!! 文句あるなら全員かかってこい!!」
……これだから脳筋は……。
A組代表で来たのは総大将ではなくて元総大将。現総大将が問題を起こしたということになっているので綱吉が来たら荒れるだろう。だからといって脳筋を寄越すなっ。
「会長さぁん、そっちがそういうならオレたちは構わないけど、なあ?」
「そうだよなァ。オレたちは笹川の提案に乗ってやってるだけだからなあ」
穏便に話し合いをしたかったから各チーム一人だけを呼んだ。冷静に話し合ってみんなが納得いくような解決をしたかった。B組とC組の総大将がA組の誰かさんたちのせいで棒倒しに出れなくなったのは事実だ。そう、この目の前にいる鼻に絆創膏をつけたボクシングバカのせいでもあるのだ。この人がC組の総大将を殴っていたのは多くの人が目撃している。獄寺くんも蹴っていたが。とりあえず言い訳はできない。A組が悪いのはわかっている。だけどこの不利すぎる提案を通すことはしてはならない。嫌だ嫌だ愚痴を吐いていた綱吉が本当に絶望に落ちる。
私はにっこりと笑みを張り付けて下手に出るのを意識しながら何度もB組とC組の代表にお願いする。
「それだと人数に大きく差ができてしまい……。B組とC組の皆さんには今回は、」
「お前はどちらの味方なのだ!! A組ではないのか!?」
A組だよっ!!
……もう、無理。やだ、胃に穴が空きそう。キリキリ音がしている。
私が普通だよね? B組とC組合同チームにしろ! と訴えてくる笹川先輩の方がおかしいよね? それを止める私が普通だよね?
口を大きく開き唾を飛ばしてくる笹川先輩。顔に飛沫が飛んでいる。お願いわかって。
多分笹川先輩の中では私がA組の裏切り者になっている。だが実際裏切り者はA組からすれば笹川先輩だ。棒倒しの勝敗に人数の差は大きく影響する。わざわざ負けに走っていく笹川先輩を止めようとしても私では止めれない。彼は暴走車だ。大型トラック並の大きさで時速200キロぐらいでている。その速度と大きさのトラックの前に生身の私が出たらぶっ飛ばされる。
『A組の総大将が今度は毒もったぞーー!』
どこからかスピーカーで聞き覚えのある声がした。
ギロリ、B組とC組の代表が私と笹川先輩を睨みつける。違う私たち関係ない。それに綱吉に毒を盛る度胸はない。
リボーンめ……。お前じゃないか。綱吉は関係ないだろうな。マフィアは毒も持参しているのだろうか。怖い世界だ。
「笹川先輩……」
「なんだっ!!」
「ほんとうにっ、いいんですか!?」
「ああ! まとめてかかってこい!! 一度で全部倒した方が早い!!」
も〜〜知らねっ!! 仕方ないだろう。私とA組の味方は各チームの代表にいなかったんだから!
「あーー……おまたせ、しました。棒倒しの審議の結果が出たのでお知らせします」
A組対B・C組合同チームとなると放送で発表するとA組からは驚愕の声、B、Cからは歓喜の声が。
各代表のお三方は嬉しそうに堂々と胸を張ってお帰りになっていく。それを色のない瞳で見つめてから机に突っ伏す。
……これを、後二回するの? ……次の生徒総会いつだっけ? 来年は絶対に生徒会長やらない、もう決めた。
「なんの騒ぎ?」
「……タイミング計らっていたね…」
「笹川了平と関わるとろくなことがないから」
めんどくさい代表三人がいなくなった瞬間現れた恭弥。ろくなことがないと言いつつも私は知っているんだ。去年、恭弥が笹川先輩のためにボクシングの試合に出たことを。山本くんに教えてもらっているんだよ。恭弥のボクシングとか見てみたかった。ど素人が経験者に勝利したとか、恭弥はどれほど才能の塊なんだ。トンファーなしでも強いとかよくわからん。
項垂れたまま今起こった事実をそのまま恭弥に伝えていく。体育祭見てなかったのだろうか。
「棒倒しなんて毎年のことでしょ。あんな群れる競技好んでやる草食動物たちがおかしい」
「そっかあ、やっぱり毎年かあ。来年も再来年もかあ」
「総大将を事前に倒したっていうのはあまりないけどね。……A組の総大将…あの草食動物は確か……」
恭弥はじっと誰かを見つめている。へえ、と口角を美しく上げた。薄く開かれた唇から見えた舌がなんとも艶かしい。恭弥が女子だったら、と考えてしまう。クールビューティーだったんだろうなあ。女の子だったら今よりももっと仲良くできていたんじゃないか。ありえないことを想像して恭弥を見ているとバチッと視線が交じり合った。
「何変な顔してるの」
「してた?」
「うん」
恭弥が女の子という妄想が顔にまで出ていたのかな? もし恭弥が女の子だったら髪の毛はロングにしてほしい。可愛いよ絶対。私ロングの女の子好きなんだよ。だから私もロングにしている。一番の理由はショートにすると梅雨に恐ろしいことになるからだけど。
「総大将ってあっち消えたんだっけ?」
「そーよ。だから合同に」
「ふーん」
にやり。恭弥はよからぬことを考えているな?
「参加しようかな」
「珍しい」
「赤ん坊に会える気がするから」
「……リボーン?」
「黒いスーツで黄色いおしゃぶり」
私の知っているリボーンだ。リボーンと恭弥の接点ってあった……な。応接室の窓ガラスが破れて煤だらけになった爆発事件の時にリボーンと恭弥は会っている。
恭弥は至極楽しそうに口元が弧を描いている。人間に興味を持つことなんてほとんどない恭弥が一人の子に夢中になれるなんて…お姉さん嬉しいよ。
「頑張ってね」
応援はするが恭弥の勝利は願わない。一応私はA組なのだ。綱吉の勝利を祈るのだ。
「親御さん来てるの?」
「来るわけない」
「だよね」
他の生徒の親御さんが珍しいんだよね。平日だというのにわざわざ体育祭に来るなんて。そもそも恭弥の両親は体育祭を観に来ることはないか。恭弥は出る予定なかったのだから。
「……紗夜の玉入れは僕が見てあげてよ」
「あんな簡単な競技、外す意味がわからない」と学ラン姿のまま恭弥はグラウンドの真ん中に歩いていく。向かう先はB・Cの合同チーム。
百発百中しろと? 私は恭弥みたいに万能ではないんだよ。そこそこ入れたからいいじゃないか。玉入れするたびに思うのはかごを持つ係だけはやりたくないということだね。
あ、綱吉と目が合った。なんでこうなったのーー!!? と目が語っていたので苦笑いして笹川先輩を指さす。私が提案したんじゃないよ、という意味は伝わったらしく顔面蒼白になっていた。あはは、頑張れ。
始まった棒倒し。やはり勢力に差はあり、一瞬で決まりそうだ。殴る蹴るという暴力沙汰は目の前で起きていて。よく自分の親の前でやれるねえ。帰ったらどうやって説明するんだろう。あんた! 友達蹴るとはどういうことなの!! と母親に怒られるのかな?
その間にも綱吉は総大将は地面に足をつけなければいい、というルールを逆手に取って騎馬戦で進んでいた。
わぁすごい。思わず拍手をしてしまう。
…………………母親とか、私には関係ないか。見にくることはないんだから。