まだ君は自覚していない
体育祭は並盛中最大の年間行事。縦割りでA B Cの三つに分かれての熱い戦いになるらしい。ロングホームルームは準備時間になったり放課後も居残りをしてまで準備をしていた。それは昨日までの一週間ずっとだ。
それぞれ出る競技の練習は頑張った人と頑張らなかった人に分かれるだろう。私は頑張らなかった人だ。そもそも運動が平凡なのだ。そつなくこなしている。体育の成績はずっと真ん中の3である。得意でも不得意でもない。それなら応援を頑張ればいいんじゃないかって?
実はみんなに内緒にしているんだが、いや気づいている人は気づいていると思うけれど入学してから半年ぐらい経つがめちゃくちゃ仲のいい友達がいないんだ。中学生と見栄を張ってみたが小学生の頃もいなかったんだけどね。友達と呼んでいいだろう人は数人いるけれどいつもあの子と一緒だよね仲良いね的な人はいない。クラスの中で一番話す相手が綱吉なのは小学校の頃から変わっていない。これに関しては深く考えると涙を流すことになるので浅くにしとこう。授業のペア作りとか本当に消えればいいんだ。最近は体育などの男女が分かれる授業以外は山本くんが組んでくれるけれどそれはそれで女子の視線が痛い。辛い。もう友達はできなさそう。
そんなこんなで今日は思い出に残る青春の代表でもある体育祭。暑い中行われる。必要ないだろ、自由参加にすればいいのに、と悪態をつけてるのは私だけなのだろうか。
例年怪我人続出と呼ばれている棒倒しも行われるので保健委員長と体育委員長とはほぼ毎日生徒会室で話し合いをしていた。たまに恭弥が私の横にいることもあったのでその時は空気がずしりとしていた。何も発言しないで座っているか寝ているだけ。たまに肩に倒れてくるので前の二人からのおおぉ、みたいな声がつらかった。違うよ、そんな関係じゃないのはこの前の委員長会議で知りましたよね? 咬み殺されますよ?
恭弥がいる意味がわからなかったし今もわからない。風紀委員会ももちろん役割はあると思うよ? 体育祭で浮かれる輩が風紀を乱す前に食い止めるとか、ね? だけどそれはいつもやっていることなのでわざわざ打ち合わせをしなくていいと思うんだ。
打ち合わせ等で帰りが夜遅くなることはよくあった。女子を夜に一人で出歩かせるには、と体育委員長が心配してくれた。まあどうにかなります遅くに帰ることよくあるのでとやんわりと否定していたら山本くんが現れたのだった。体育委員長は元野球部らしくて山本くんが『紗夜はオレが送りますよっ』と引き受けたことですんなりと引き下がった。その時山本くんに聞いたのだが体育委員長と保健委員長は付き合っているらしくカップル繋ぎして帰っていった。とても甘かった。照れたように手を繋ぐ委員長たち可愛かった。打ち合わせで邪魔していたの恭弥だけでなく私もだった。
く〜〜〜っと可愛いカップルで心の充電をしていたら山本くんに送られる流れになった。先輩から助けてくれるための嘘ではなかったらしい。その日から遅くなる日は山本くんに家付近まで送ってもらっていた。嘘をついて助けてくれるなんていう機転山本くんにあるわけないわ、と今は思う。これから遅くなる時は連絡しろよ一緒に帰ろうなだって。忘れたことにしよう。山本武ファンクラブに知られたら……おお、怖い。
「女子生徒を夜遅く一人で出歩かせないっていつの時代だよ。そんなことしていたら女子部は全滅だ」
同じ帰り道どうしで帰っても最後は一人になる人は何人かいる。お隣さんか姉妹や居候でなければ最後は一人なんだ。大会前は夜遅くまで部活する女子はどうするんだ、山本くんよお!!
最後の確認を終えて生徒会室の鍵をしめる。鍵をポケットにしまってA組の一員をしめすビブスを腕にかける。これを着るのはグラウンドに行ってからでいい。
「……いいなあ」
廊下からグラウンドを眺めると楽しそうにはしゃぐ生徒たち。……私もそんな友達欲しい。
「紗夜?」
「綱吉……」
足は立ち止まっていた。ぼんやりと青春を眺めていると綱吉が肩に手を置いていた。気配を感じ取れる種族ではないのでびっくりした。
「どうしたの?」
昨日総大将に選ばれた綱吉。一年生でなるのは歴史上初かなと過去の体育祭を洗っていたら普通にいた。一人目ではなかった。そもそも昨日綱吉に受け渡す前までの総大将であった笹川了平先輩は三年生ではなくて二年生のはず。ボクシング部主将だから記憶にはある。それなのに総大将に選ばれていたのはさすがだ。ボクシング部エース。ボクシングで並盛中の名を全国に広めている男。なんだかんだ笹川先輩と獄寺くんの脅しで綱吉になってしまったが。
「総大将って痛いしロクな目に遭わないし絶対やりたくない……」
ため息をついて総大将のデメリットを指を使って一つずつ挙げていく綱吉が哀れになってきた。綱吉は運動できない側だ。できる、普通、できないの三つに分かれるなら私が真ん中で綱吉は最後。山本くんや獄寺くんは最初だ。
綱吉は本当にやりたくなさそうだった。そもそも昨日から押し付けられた感満載だった。みんな気がつかないから話は進んでいくし、1、2、3年のA組の男子は脅されて仕方なく綱吉を総大将にしただけで本当は嫌だったから白い目で見てきている。
しみじみ思う。哀れだなあ……。
「……嫌なら今から言いに行こう? 一人じゃ言いづらいなら一緒に行くよ」
綱吉の顔色は明るくなったが手に持っているハチマキを見てまた暗くなった。
「刺繍してもらっちゃったんだよね……」
そのハチマキには『綱吉』って書かれていた。総大将用のハチマキ、前日まで笹川先輩に渡していたやつ。ビブスは使い回しだから返却するがハチマキは刺繍するものなのであげたものとなる。予備はない。この上から布をあててもう一回刺繍してもいいけれど見た目が悪くなる。A組の大将の証であるハチマキにそんなことしたら一部の体育祭命のものが許さない。
「……それでも綱吉はやりたくないんでしょう?」
「うん……」
周りがなんと言おうが綱吉にとっても大切な体育祭だ。嫌な思い出で塗りつぶすのではなくて楽しい思い出で塗りつぶそうよ。
「綱吉」
「……なんか、大丈夫な気がしてきた。紗夜に話を聞いてもらったからかな? やって、みようと思う」
嘘だろう?? 私だったら絶対引き受けない。運動得意ならまだしも普通なのだから。お前のせいで負けたなんて言われたら立ち直れない。
瞠目していると綱吉はおかしそうに笑った。
「オレ昔っからさ紗夜に相談してきたじゃん。たくさん。今もだけど」
うんそうだね。綱吉は私以外友人がいなかったから。私も人のこと言えないけれど。小学生の頃も特定の仲良しの子いなかった。なんだかんだ仲の良い友人を作ること苦手なのかもしれない。
「紗夜ってオレの話を聞いてくれるよね。山本たちも聞いてくれるんだけど、なんか聞いてくれなくて」
「ああ……それはいつも同じ教室にいるからわかる……」
聞いてはいるが綱吉の意思は無視なのだ。それも悪気がない。綱吉の意見はほったらかしに話が進んでいく。引っ込み思案で自分の意思をあまり出せない綱吉には相性のいい友人だが、たまに大変だなと同情する。
「だけど紗夜は違うよ! 話すのを待ってくれて本音を聞いてくれて……。その度思うんだよね。オレは紗夜と話すのが一番好きだって」
「京子ちゃんじゃないの?」
「え!?」
「京子ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「なんでっ、紗夜が知って……っっ!」
みんな知っている噂だから。
知らないクラスメイトの方が少ないよ。
微妙な顔をしながらそれでも真っ赤にして「あー」とか「うー」とか呟いている。青春だねぇ。
「体育祭は一つのきっかけだと思うよ。がんばれ」
「え、あ、うん!」
そろそろグラウンド行こっか、と誘って歩き出す。開けていた窓から「10代目ーー! どこですかー!」という叫び声が聞こえてきた。うわっ可哀想。人前で叫ばれて迷子扱いされるなんて。綱吉のお顔すごいことになってる。
「紗夜は玉入れにでるんだよね? 応援するね」
「うん。いいよ玉入れは。運動神経あまり関係ないし。クラスメイトも推薦してくれたし」
男子が多かったなあ。彼らはつまらない競技を女子に押し付けて暴れ回りたいのだろう。ねえ、と綱吉に同意を求めたら顔を赤くされた。
「オレはそういう意味で応援したんじゃないから! 純粋に頑張って欲しいって思っただけで……!」
「うん?」
そういう意味? どういう意味?
ちんぷんかんぷんだ。よくわからんが私も綱吉を応援することを伝えた。
グラウンドにたどり着くと私の行き先は本部だ。クラスの応援席に行く綱吉にじゃあねと手を振って分かれる。応援席で孤独にならないから今日だけは生徒会長であったことを感謝する。
「あの、紗夜!」
「なあに?」
「あの、その……オレ、確かに京子ちゃん好きだけど、……そのっ……紗夜は……その、……紗夜のこと大好きだからっ!」
朱色に染めた頬で叫んだ綱吉は1-Aの席に走っていく。
「……意味が違う好きを並べたらダメだろう」
何も知らない人が聞いたら二股発言だぞ。綱吉ったら。私だったからよかったものの。
「鳴神ーー! これどこに置くんだっけーー!!」
「今行きまーす!!」
悠長にしている暇はなかった。これから始まるのはビッグイベント体育祭。ビブスを身につけて走り出した。