はははと笑うカラの声で
ランボ退院祝い&リング争奪戦祝勝会を山本くんのお店でやるとのことで連絡があった。昨日いろんなことあったのに動けるなんてみんな元気だなあ。……本当に、いろんなことをしてしまったのに……みんな……っ。
表向きはランボの退院祝いのみ。京子ちゃんやハルちゃんもパーティーに参加するが、彼女達はリング争奪戦のことを相撲大会だと認識しているからそうするしかない。……私も二日前までは何も知らない一般人だったんだけどな。知ってはいたけれど知らないフリをして相撲大会だと勘違いしているフリができたんだけどそうもいかなくなってしまった。私の人生これからが本当のリスタート、なんちゃって。
パーティーの主役より遅い到着はしたくない。早めに行ったらお手伝いすることあるかな? ということでそろそろ家を出よう。
「わっ、紗夜ちゃんも相撲大会出てたの!?」
「違うよ〜〜。これは別件。ちょっと素足でガラス踏んじゃって」
「はひーー……痛そうです……」
「ガラスでここまで包帯巻く?? ……やっぱり怪しい……」
「あっははは……」
山本くんのお家に着くと、もうすでにみんないた。来ていないのは沢田家と沢田家居候組だけ。準備の真っ最中だったので私も手伝おうとしたんだけど、京子ちゃんとハルちゃんに強制的にイスに座らされた。見た目ほど酷くないんだけどな……。
二人の親切心と花ちゃんの訝しげな眼差しに苦笑を浮かべる。準備しているのに一人だけずっと着座しているの辛い。
「ダメですよー! ディーノさんも大怪我じゃないですか!! 座っていてください!」
「いやっ、そのハルオレのは……」
「いいですから! 紗夜ちゃんのお話相手を!」
「うえっ!? っ、違うぞ!! 紗夜と話すのが嫌なわけじゃなくて……!」
ハルちゃんは強引だなぁ。ディーノさんが私のところに座るのが嫌なのは私を嫌っているからではない。昨日の出来事のせいだ。
ハルちゃんの押しに敗北したディーノさんは観念して隣に腰を下ろした。隣なんだ前じゃないんだ。
「……あーー、昨日はお互い大変だったな」
「すみませんでした……その、朝方まで一人だけずっと……」
「紗夜に好かれるのは嬉しいからいいんだけどな」
「……やめてください惚れちゃう」
ディーノさんの頭を撫でる攻撃は私に効果てきめんなの。
かあっと赤くなった顔を隠すように机に突っ伏す。ディーノさん私のせいで怪我したのに。鍛えているから全て軽傷とはいっていたが怪我したことは事実。きれいな顔や逞しい腕にはガーゼやら絆創膏やらが。服の下もきっとある。
「今度奢らせてください……」
「気にすんなって! 紗夜が悪いわけじゃないんだからさ!」
誰がどう見たって私が悪いよ。ほら、みんな思ってる。
「跳ね馬! 昨日ので懲りてないのかよ……っ」
ディーノさんの撫で撫で攻撃を武装せずに受け入れていると注意された。項垂れたまま目だけ動かすとはぁと呆れている獄寺くんが。獄寺くんも傷だらけだ。
「……ごめんね獄寺くんも」
「……ああ」
ドカッと座る音が前から。重傷者は誰もかも準備から外されるらしい。獄寺くんはディーノさんよりはまだ軽い。
「鳴神殿、足の怪我はどうですか? あれから開いておりませんか?」
「あ、バジルさん。なんともないです」
「それはよかったです。肩はどうですか?」
「揺らしたり触ったり衝撃を与えなければ痛みはないです」
バジルさんが来たので背筋を伸ばす。昨日真っ赤な靴を作り出したことでまたバジルさんが足の手当てをしてくれた。肩の怪我の際にはバジルさんも現場に居合わせていたので存知済み。
バジルさんの顔にもちらほら擦り傷や痣ができていて。とてつもなく申し訳ない気持ちになり深々と頭を下げる。
「謝らないでください。日本にあのようなお強い方がいるとわかり、お手合わせもでき、拙者としてはありがたかったです」
「天使かよ……っっ!!」
「鳴神 疲れてんだろ」
心の声を吐露してしまった。尊さが眩しかった。
昨日の出来事をありがたいと感じている人なんてバジルさんだけだよ。山本くんと笹川先輩も傷だらけだもの。あの二人も怪我人だということからパーティーの準備から外された。「よっ」と手を上げられたので上げ返すと二人揃って獄寺くんの隣に座り、獄寺くんが激怒した。その向かい側でバジルさんにお隣どうぞ、としている私たちはとても平和だ。
それぞれリングを机に並べたり私の知らない三人のリング争奪戦の話を聞いたりしていると沢田家が姿を見せた。
獄寺くんが喜んで飛んでいく。そんなに山本くんと笹川先輩の間は嫌だったか。それほど綱吉が来たことが嬉しかったのか。
リボーンにボンゴレリングを渡されて拒否している綱吉を眺めていると、綱吉の視線が私たちの机に移動したのでみんなで手を振る。なぜか綱吉の顔色はみるみると青くなった。
「え、ええーーーーー!!! なんでみんな怪我増えてるの!? ディーノさんもバジルくんも……なんで紗夜まで!!?」
「じゅ、10代目その辺にしてやってください……」
「オレたちが勝った時には怪我してなかったのに……!! なんで!?」
「10代目、その、本当に……もうそれ以上は……」
綱吉がバンっと勢いよく机を叩いた。獄寺くんから山本くん笹川先輩、バジルさんディーノさんに顔を向けたがほとんどみんな苦笑い。最後に私に向けてきて、私は罪悪感から顔を伏せた。
「……もしかして、オレが気を失った後何かあったの……?」
誰も返事はしない。
深刻そうに尋ねる綱吉は何か勘違いをなさっている。
「紗夜……」
ぎゃっ! ターゲットを一人にしぼった!!
「オレ、守れなかったの……? あの後何かあった……? 足、平気? 怪我、痛い?」
泣きそうに顔を覗き込んで一つ一つ問いかけてくる綱吉に良心が痛む。違うんだ綱吉、綱吉が予想しているような悲劇は起こっていない。
「わ、私のは……バジルさんが……」
「バジルくんが!?」
「拙者はなにも……!」
「大袈裟に手当てをしただけで……私だけは怪我増やしていません……!」
「でも足の包帯……」
骨折した時の対処法並みの量で包帯をぐるぐる巻かれている足。バジルさんに一言入れて取ることにした。足の傷を開いてしまった私にもう無茶できないようにバジルさんがぐるぐるに包帯を巻いたのだ。怪我は増えていない。開いただけ。……私は全く増えていない。
「紗夜は増えてないのは分かったけど……みんなは? ディーノさんとバジルくんは無傷だったのに……」
大空戦に参加していない私とディーノさんとバジルさん。私は問題ないがディーノさんとバジルさんは違う。二人とも本来はないはずの怪我がそこら中にある。何も知らない人たちには相撲大会での名誉の勲章と誤魔化せるが綱吉はそうはいかない。とても言いづらいことにみんな言い淀む。
「そんなことより! ツナ! 何か食べよーぜ!」
「そんなことじゃないよ山本……。何かあったんだよね……? オレが、知らない間に……。獄寺くんも山本もお兄さんも……傷、酷くなってる……」
隠せば隠すほど綱吉が自分を追い詰める。気を失っている間にヴァリアーに何かされたのではないかと変な想像を膨らませる。一度綱吉は後ろを振り返った方がいい。その場にいながらも助けに入ろうとせずに無傷だったディーノさんたちと同じ観覧者たちを。リボーンとコロネロと変態が助けに来ることはなかったからな。変態だけは私とクロームちゃんの手当てをしてやるとだらしない顔をしていたが半径5メートル以内には入らせなかった。クロームちゃんは私が守らないといけない。柿本くんと城島くんは引いたような顔で先に帰ったからな。見捨てたんだみんなは。助けてくれたのはディーノさんとバジルさんのみ。この二人は何があっても信用できる人物だと確信した瞬間だった。
「じ、実はな沢田……全員ヒバリにやられたんだ……」
「なんで喋ってんだよ芝生頭!!」
「へ? ヒバリさん? なんで?」
「…………………そ、そのね、……私がみんなに怪我を負わせた犯人です」
「ええ!!? 紗夜が!? ヒバリさんと紗夜が……? ど、どーゆーこと!!?」
リング争奪戦に参加していた人に誤魔化せるわけがない。不安でいっぱいで瞳を揺らす綱吉には隠し通せるわけがなく、私と笹川先輩が白状してしまった。みんな私を思って隠してくれていたのに……。
「……私が大空戦始まる前に……恭弥の性格貶したの覚えてる?」
「うん……それは、まぁ……」
「………………その声を、マイクが拾っていて……リストバンドつけた全守護者に聞こえてて……」
「……ヒバリさんにも?」
「恭弥にも」
綱吉の顔が白くなった。意味が分かったんだろうね。悪口を聞いていた恭弥が大空戦終わった直後に私を仕留めようとして、みんながそれを止めようと必要ない怪我を負ったということを。綱吉が私からディーノさんに視線を移す。ディーノさんの怪我が一番多いのはディーノさんが一番長く恭弥のお怒りに付き合っていたからだ。
「修行中、なんとなくだが恭弥が紗夜にとある感情を向けていることに気がついてな……」
「「とある感情?」」
綱吉とはもった。顔を見合わせてえへへと笑い合う。息ぴったりだね。
「恭弥不器用っていうか……わからないんだろうな。その気持ちをどうやって扱うのか、どう紗夜に向ければいいのかが」
「……まだ紗夜怒られてるの?」
「朝方までディーノさんと殺りあっていたぐらいは怒られてる」
「うん、ちげーな」
ディーノさんは朝まで私を庇って戦ってくれていた。だからディーノさん一人だけみんなとは怪我の具合が違うんだよね。
生暖かい目でなぜか頭を撫でられる。合っているよ。あっているけどディーノさんの癒しの手は心地よいから払えない。ちょっと恥ずかしいけれど嬉しいから頬を緩ませて目を細める。
「ディ、ディーノさん!!」
ぐいっ。力強く後ろに引っ張られた。私の視界に入るのはディーノさんの丸くなった目。端っこの方にはガッツポーズしている獄寺くんとお茶を飲みお寿司を食べ始めている山本くん笹川先輩バジルさん。
少し見上げると綱吉のオレンジ色の瞳が、見えたような気がしたがいつもの茶色の瞳だった。昨日の印象が強いのか、凛々しい綱吉の表情が重なってしまう。
「その……そうやって……、あの、……紗夜に必要以上に触るのは……なんかもやもやするので……」
「……………おう! 悪いな!」
「いえっ! オレもなんかよくわかんないのに変なこと言ってしまって……」
ディーノさんと綱吉が話しているのに喜びで満ち溢れている獄寺くんが奇怪すぎて何も頭に入らない。目頭をおさえて……なになに? 「10代目ようやくお気づきに……」? あまり聞こえない。変な獄寺くんはビアンキさんに話しかけられて奇声を上げて気絶した。疲れているのだろう。
「鳴神殿とディーノ殿はヒバリ殿の方が大変だったのですか?」
ようやく綱吉が息をつけたという時にお寿司を食べていたバジルさんがこちらを見る。さび抜きとさびあり、どちらも机の上に乗っていた。お茶を一口飲んでバジルさんは首を傾げる。
「拙者としてはヒバリ殿よりその後のヴァリ───」
「うわぁぁああああ!!」
「なんでもねーぜツナ!! 本当に! お前らも、な!」
ディーノさんと大慌てでバジルさんの口をふさぐ。
綱吉と、同じ卓でお寿司を食べていた山本くんと笹川先輩が顔を見合わせていた。
獄寺くん山本くん笹川先輩が疲労で気絶してしまった後、もう一騒動あったことは教える必要がない。……ヴァリアーとあんなことがあったことは……知る必要ないんだよ。……あははははは……はぁ。