大空のリング戦D
グラウンドについて土手をすべり落ちる。射程距離は短い。反動がないとはそういうことだ。グラウンドに身を隠すものはない。出来るだけ足音をさせないように走って拳銃を構える。戸惑って遅くなってしまったら気づかれておしまい。私の腕だとまだ見つかっていない最初が勝負。最初に数発連打する。
両手で銃を構えて焦点を合わせる。嵐と霧………………狙うべきはこっちだ!!
サイレンサーなんてついているわけはなく、グラウンドに銃声が三発鳴り響いた。綱吉側の守護者は音がするまで私の存在に気がついていなかった。……綱吉側の中学生は。
「ベル」
「わかってるっての」
全て避けられた。狙っていた金髪には完璧に見破られた。ひょいっと後ろに軽くジャンプして全弾避けた。
「気配消せてねぇし。お前自ら死ににきたの?」
「……そんな人、いるんですかね?」
「しぃーーっらね」
私はあいにく自殺願望者じゃないんだ。最後まで生きる。死ぬ時は安楽死で。
弾はあと三発ある。だけど撃ったところで当たりはしないだろう。視界に入ってなくても避けられたのに、見られている状態で撃っても私の今の実力ではどう頭をひねっても当たることはない。
「紗夜っこっち来い!!」
山本くんの声。それができたら苦労はしないさ。
一番最初に威嚇攻撃をした私をヴァリアーの嵐は標的にした。彼は過去に一度私を見逃してくれたが、今回は見逃してくれない。
思い出す。真っ赤な血と鉄の臭いを。充満した死のかおり。
「っっ!!!」
「殺気だけで立てなくなんのかよ」
空気が重い。
初めて金髪と出会った時の記憶がフラッシュバックして、さらに恐怖を与えられる。
「なぁマーモン、こいつも殺していいの?」
「……白虹の守護者か。念のため最後に回そう」
「そーかよ。少し楽しみだったんだけどなー。こいつにナイフ投げつけるの」
ただの女子中学生を殺すことにどんな楽しみを見出すの。
金髪のいう殺気がなくなったのか、少し息をするのがラクになった。軽く息を整えて顔を上げる。
「これ以上は無駄な戦いではないんですか!?」
「無駄? 無駄なんかじゃないよ。ここにいる全員を殺せば今回の件は揉み消すことができる」
「王子としては切り刻めればオッケーだし」
「揉み消すなんてできないっ! 部外者でも知っている人はいる! っ……XANXUSさんが……」
金髪とアルコバレーノの視線が刺さる中、立てなくなっているXANXUSさんにゆっくりと顔を向ける。XANXUSさんは何も言わない。わかっているのかな、私がこれから言うことを。
威勢よく放っていた声が弱まる。私がこれから続ける言葉はXANXUSさんを深く傷つけるもの。
「……XANXUSさんが、現ボンゴレボス、9代目と血が繋がっていないことを知っているものはボンゴレの外に、もういます……」
「……それは君たちがすでに外に情報を回した、ということかい?」
横に首を振る。ボンゴレボスの資格がないと周りに知られればXANXUSさんはどんな手を使ってもボンゴレのボスにはなれない。金髪とアルコバレーノは知っている人物を聞き出したがっている。知ってしまった人間を全員殺すために。
……違う。私たちが広めたのではない。XANXUSさんとロン毛さんが独白を始めてから誰一人連絡は取ってない。
「……大空戦が始まる数日前、正確に言えば5日前の大雨の日、とある人が教えてくれました。どちらが勝っても結果は同じ、10代目になれるのはたった一人だけ、片方には資格がない、と」
「嘘ついてんなら殺すぞ」
「嘘じゃないです……っ」
資格がないのは血縁じゃないから。今考えれば誰でも真実に辿り着くメール。少なくとも一人、カルロさんは以前からこの秘密を知っていた。
金髪とアルコバレーノは顔を見合わせる。視線が私から逸れた隙にクロームちゃんが私の前に立った。
「絶対に私の後ろから出ないで…!」
「は、はい……」
三叉槍を握って警戒するクロームちゃん。本気で足手まといでしかない。クロームちゃんに負担を増やした。
「おい、そいつだれ」
「……教えません」
親切な人を売ることなんてできない。
正直に答えない私にムカついた金髪とアルコバレーノは攻撃体制に入った。クロームちゃんも他のみんなも臨戦態勢に入る。私も立ち上がり武器である拳銃を握りしめた。残り3発。
「え……誰か…来る…?」
「え、」
手に力をこめると、クロームちゃんが独り言を呟いた。もうヴァリアーの増援が来たのかはっや。説得はできないしお荷物になるしどうすればいいんだ。自分の身だけは守ろう、誰のおじゃまにもならないようにだけ気をつけて。使い慣れてる武器のスタンガンは一週間前に壊れたからな。最近スタンガンを護身用として持つのは自意識過剰じゃないかと感じるようになって恭弥に壊れた報告をしていないから新しいのもらっていない。……うん、自意識過剰じゃなかったな。貸してもらった拳銃は殺傷能力は低いと言われても怖いし使い慣れてないから手に余る。……でも、どうにかしないと。
「報告します」
現れたのはヴァリアーと同じ隊服を着た三人組。増援が本当に来てしまった。
「……我々以外のヴァリアー隊全滅!!!」
青い顔で上司に報告する部下たち。またまたみんな言葉を失った。私も拳銃を握る力が弱わった。
どういう、こと?
「奴は強すぎます!! 鬼神のごとき男がまもなく…!!!」
続きの報告をする時間は与えられず
「暴蛇烈覇!!!」
鋼球に吹っ飛ばされた。規格外の実力の持ち主に持っていた借り物の拳銃を地面に落としてしまった。
「あの人…ずっと骸様が話しかけてた…」
「骸と一緒にいた……」
骸が並中襲撃事件を起こした時、一言も喋らずに控えていた人。綱吉とももちろん面識があり、なぜか綱吉と親しげな骸の仲間だった人、ランチアと綱吉に呼ばれた人が私たちのピンチを全て覆した。
そして、無事に10代目後継者争いは終わる。ボンゴレの次期後継者は沢田綱吉とその守護者7名という形で。
……私何もしていないけどそこに入っていいのかな。
クロームちゃんに守ってくれてありがとうとお礼すると頬が薔薇色に染まった。
綱吉の元に向かいすぐそばでしゃがむ。
「……紗夜、」
「おめでとう綱吉」
傷だらけで立てる力も残っていない綱吉。膝をついて微笑むと綱吉もはにかんだ。
「無茶……しないでよ。心臓縮むかと、思った」
「たぶんそれ寿命だね」
疲れている。言い間違えにも気づかないほど疲労するほど全力で戦ったんだ。顔についた泥だけでも落とせないかと指で軽く拭く。
「おうえん……とどいた、よ……」
舌足らずの言葉。瞼はどんどん下がる。
「よかった、まも、れて……。紗夜を、わたさずにすんで……ほんと、によかった───」
喋っている途中で気絶した。安らかな眠りについている綱吉の頭を撫でる。
「……ありがとう綱吉」
私がこの先の人生全てを戦闘力を磨くために捧げても今の綱吉に負けるだろう。それほど綱吉の戦いは私からしたら人離れした、私とは違う世界に行ってしまったように思えた。私なんて忘れて暗い世界に飛び込んだのだと。
だけど、綱吉は戦っている間も私のことを少しは気に留めてくれていたんだ。
今日の壮絶な戦いを見て、私が感じたのは後悔、これが一番大きい。この世界特有のものだと思われる炎での戦いに少しだけ感動もしたけれど、それ以上に恐怖が大きかった。同じことをこれからさせられるのか。命の危険を顧みずに戦わされるのだろうか。
前世の記憶が決定打かはわからないけれど、それのせいで白虹の守護者という役目を押し付けられた。脅しに近い方法で。
今回は戦わずに済んだ。力のないものは見ているだけでよかった。友達が怪我していくのを見ているだけしかできなかった。
「………………ねぇ綱吉」
見ているだけは辛いんだね。何もできなくて堪えるしかないのは辛いんだ。
「私、これから少し頑張ってみるね」
死ぬのは怖いから少しだけ。少しだけでも彼らの世界に歩めたら、見ているだけではなく、みんなのために何かできるのかもしれない。
もう一度綱吉の顔に手を伸ばす。泥まみれ傷だらけの顔だけれどもいつもと変わらない穏やかな表情が存在していた。
戦闘中のかっこいい顔つきとは違って可愛い寝顔の綱吉の顔を眺める。もうおやすみの時間だもんね。
「ねぇ」
「あ、恭弥もおめでとう」
そうだ、みんなにも賛辞の言葉を。くるりと振り返ると…………………なんか私した。
「誰の性格がイカれてるって?」
「……誰だ!! 本人にチクったのは!?」
「これから聞こえたよ」
これ、とリストバンドを指した恭弥はトンファーで破壊した。
……よりによって、あの時の悪口がマイクに拾われていたの……?
「あれいい感じに力抜けてよかったぜ」
「……ただただ気まずかった……。10代目が聞いておられると考えれば考えるほど心は痛み……ベルフェゴールと同じ空間で聞かされ……」
「オカマが応援するって言ってたぞ!」
あ、みんなも知っている。ヴァリアーも全員聞こえている。
目の前でトンファーを構えている人は結構なお怒りだ。
「……………………顔はいいよ!! 顔は全人類の女子8割が好む顔をしているよ! ね、クロームちゃん!」
「紗夜ちゃんの方が好き」
「恭弥の顔より? 嬉しいまってにやける。あ、そんな場合じゃない」
命の危険が訪れた。大空戦が終わったというのに私だけ大空戦の時より恐怖を抱いている。
「綱吉っ!! 起きてっ、あなたの守護者が荒ぶっているよ!!」
「10代目は疲れているんだ! 休ませてやれ!」
「だれっ、誰か!! っ! 藍色のアルコバレーノ赤外線センサー解除してよ早く!!」
この恭弥をどうにかできるのはリボーンかディーノさんだけ。山本くんと笹川先輩が宥めてくれているが効果はない。守るためなのか、クロームちゃんが腕に抱きついてきた。
「……ボスの出生の情報を持っていたやつを吐くなら解除してあげてもいいよ」
「そんなことできる状況ではありません!!」
「静かにしねーとボス起きるぜ」
できるかァ!!
大人しくしたら恭弥に殺られる。抵抗だけ続ければいいんだけど声で勢い感出しとかないと。
ぎゃあぎゃあ守護者が騒いでいるというのに両者ボスは起きない。綱吉の周りでは武器が飛んでいるのになぜ起きないんだ。疲れていようが早く目を覚まさないと綱吉の命が危ないよ。
「恭弥っ! 待てって!!」
「元凶がここに来んな!! ややこしくなんだろ!!」
「う"お"ぉい!! なんでお前みたいな女がカルロと繋がってんだ!!」
「……紗夜ちゃん、私じゃないよ」
「っ! 鳴神殿足の傷が開いてます!! 靴が真っ赤です!」
「うわっ、紗夜早く手当てしたほうがいいぞ!!」
「ヤローじゃなくてかわい子ちゃん二人ならオレが手当てしてやるぜ〜」
「おお! それなら極限に頼むぞ保険医!!」
なんでだろう。とっても後悔している。悪口って本人がいなくても言っちゃならないんだ。
死を免れるために冷静な判断ができてなくて金髪の後ろに隠れてしまうこともあった。カルロさんの名前を隠していたら全てロン毛さんが話してしまうし、ディーノさんとカルロさん、そしてロン毛さんまでもが同級生だと知ってしまうし。
最後にはお互いのボスが気絶しているのにぎゃあぎゃあ騒いでいた。可愛さは微塵もない武器が飛び交う騒ぎ。
「……ヴァリアーとは今後も付き合っていく必要があるから溝は深くねー方がいいとは思ってたんだが……ヴァリアーとの関係を険悪にせずに繋ぐとはな」
「お前が予想していたんじゃないのかコラ」
「こんな騒ぎ予想できるわけねえだろ」
恭弥の機嫌がおさまるまで私は謝罪を繰り返し、最後の最後は大空戦に出た者たちの体力切れで私は助かった。