大空のリング戦C


何度も何度も吐血するXANXUSさん。呼吸器官のどこかが壊れたのか、苦しそうに呼吸するXANXUSさんは自嘲気味に口を開いた。


『オレと老いぼれは血なんて繋がっちゃいねぇ!!』


血を拒んだと綱吉がスピリチュアル発言した時より静まり返った空間。XANXUSさんが9代目の御令息というのは知っていた。実子だと思っていたみんなの思い込みが覆る。


……血が繋がって、いない?


確か……ボンゴレは世襲制だ。だから綱吉に話が回ってきた。初代の血を受け継ぐ沢田家に。

ロン毛さんだけは知っていたらしくXANXUSさんの出生を語っていく。観覧席の声が学校の敷地内に響く。チェルベッロさん達が何かをしたようだ。ここにもマイクがあるのだろう。ロン毛さんの語りにみんな耳を傾けた。


XANXUSさんは下町で生まれ、生まれながら炎を宿す珍しい特異な人だった。炎を宿すXANXUSさんにXANXUSさんの母親は息子が9代目との子どもだという妄想に取り憑かれた。

…………お、おぉ。最初の導入だけでXANXUSさんを憐れんでしまう。同情するなと叫んでいたのに。


9代目はXANXUSさんと面会させられて、惻隠の情を示して息子だと嘘をついた。9代目の言葉を疑わなかったXANXUSさんは横暴でわがままで傲慢に育ち、9代目の息子という地位を振り翳すも、威厳実力ともに10代目候補として文句のない男に成長した。


……恐怖政治の始まりだ。典型的なおぼっちゃまになったんだ。


そんな時、一つの真実を知った。ボンゴレ初代の血筋ではない、養子だということを。ボンゴレボスは血で後継者を決めている。養子ではどれほど10代目に相応しい男と成長しても10代目になりうることはできないのがボンゴレの掟だ。

怒り狂ったXANXUSさんは半年後に揺りかごという名のクーデターを起こした。


それが隠されていた全て。


ふと、ディーノさんと一緒に首を傾げたメールの内容を思い出した。


『10代目となりえるのはたった一人。片方は資格がない。もう10代目は決まっている』


資格がない……資格が、ない。


「…………あ、メール」


ディーノさんを指さしてしまった。ロン毛さんの決死の激白で沈黙に包まれた観覧席ではつぶやき声も周りにいるもの達には聞こえてしまったようだ。マイクが拾うことはなかったから綱吉とXANXUSさんは会話をしていく。観覧席だけは私を見ていたのでディーノさんに「メールです。カルロさんからの」とだけ言えば全てわかってくれた。他のメールを見ていない者はなんのことかわからないだろう。鋭く瞳は尖らせてくるけれど、ごめんなさいスルーします。


XANXUSさんに綱吉の言葉は届かない。9代目は血や掟なんて関係なしにXANXUSさんのことを本当の息子だと考えていたと優しく語りかけても一蹴されてしまう。
無償の愛などいらない。ボスの座だけを寄越せ、と。


……本当の親から無償の愛を受けれない子どもだっているというのに。


───ああ、羨ましい。


無償の愛なんていらないと言いきれるのは愛を今までずっと向けられてきたからだ。ずっと……ずぅーっと、クーデターを起こしても、向けられていた。だからXANXUSさんは無償の愛をいらないと言えるんだ。親からの愛情はいらないと。息をするように与えられているから。


───苦しいなあ。


胸をきゅっと掴む。
白虹の守護者という立場は世の中のマフィアからしたら羨ましいのだろう。裏社会トップのボンゴレファミリーの幹部クラスの立場。ボスの次に偉い……のかな? それほどの立場の守護者の一人。私はそんなのいらない。いらないから……お母さんの愛が欲しい。


………私たちは似ているのかな。ないものをねだるどうしようもない人たち。


一度手に入れたもの。私は前世で、XANXUSさんは9代目の息子と信じて育っていた時。当たり前のようにあったもの。だが、気がつけば手に入れられないものとなっていた。お母さんは私に愛情なんて向けることはない。憎悪、戦慄。そんなものしかくれない。XANXUSさんは10代目の立場、か。


……当たり前のように持っているものはいらない。他の人が与えられているものを欲しがる。


恐ろしく違う世界の存在だったXANXUSさんがすぐ隣にいるような人に思える。お父さんと親子喧嘩して膝を抱えて泣いているだけの小さな子どものように───。


『叶わねーなら道連れだ!! どいつもぶっ殺してやる!!』


あ、似てない。私人の命を簡単に奪うことできない。しね、とか喧嘩の時思わず口から出てしまうことがあるからそれは直したい。

双方ボスは大怪我で動けない。動ける守護者たちがXANXUSさんの命令を実行するため、殺しを防ぐために向かい合う。ヴァリアーは嵐と霧、綱吉側は雷以外の全員。人数的戦力は有利だが怪我の負い方が違う。大空戦で負傷していないヴァリアー二人に流血している綱吉側五人。差し引いても互角かな、とまだのんびりスクリーンを眺めていた。私が行っても人質になってしまうか足手纏いになるかのどちらかでしかないから。
だがヴァリアーの霧が今からここに50人の部下が来ると言い放った。幹部クラスの次に戦闘力が高い精鋭を。XANXUSさんは勝利後、綱吉とその守護者、またその関係者を殺す準備をしていたのだ。もちろん、私含めて観覧席にいるもの全員含む。……他人事じゃなくなってきた。もともと自分のことではあったけど、本当に他人事じゃない。あれ? 私だけは生かしてくれるという話も消えたの? ……どうしよう。

一人のチェルベッロさんがヴァリアーの、守護者以外のものが干渉することは禁じるというルールに反する行為を止めようとしたが、ヴァリアーの嵐にナイフで斬り刻まれた。
暗殺部隊は人を殺し慣れている。それが仕事なのだから。今も一人の命が無くなった。躊躇いはなかった。


「そっちがそのつもりならオレ達がツナ側で応戦するぜ! ここから出せコラ!」

「この場合文句はないはずだ」

「拙者も戦います!!」


ヴァリアーの反則行為にコロネロを筆頭に観覧席に閉じ込められていた人たちが武器を取り出した。チェルベッロさんも大空戦をヴァリアーの失格という形で終わらせて赤外線センサーを解除してくれた。強いと評判のリボーンや元どこかの軍人だったコロネロ、他にもみんながいれば綱吉たちは無事だ。ディーノさんは恭弥と平然とやりあえるし、バジルさんと変態、柿本くん城島くんの戦っているところは見たことないからわからないけれど強いだろう……きっと。裏社会で育ちながらも生き延びてきているのだから。

胸を撫で下ろしたが、私たちの上手い具合には進まない。赤外線センサーは細工されており、チェルベッロさんのリモコンでは操作できなくなっていた。赤外線の解除は不可能。内部からの攻撃で爆発する仕組みとなっており、ぶち破ることもできない。
……ふむふむ。つまり檻の外にいるものだけが自由なのね。……動けるの私だけじゃん。観覧席も同じ考えに至ったんだろうね。全員が私を見ていた。


「………………………………」


このまま指を咥えていても待つのは死。綱吉たちの増援はいない。


「……どなた様か武器を貸していただけないでしょうか?」

「「「っっ!!」」」


赤外線センサーといっても小さな武器を渡せるぐらいのスペースはある。人間が通れないだけだ。
へらりと笑うと動くことのできない者たちが次から次へと言葉をかけてくる。


「今までのような奴らと違うのは見ててわかっただろ!?」

「危険です! 鳴神殿のような女性では到底敵いません!」

「あいつらは人を殺すことになんとも思ってねーんだ!! 紗夜ちゃんがいっても命を無駄にするだけだ!」

「………そうですよね。知ってます」


情けないことだがみんなの言うことは事実。平凡な学校で過ごしていた一般人が殺しを職業にしている暗殺者に勝つなんてありえない。綱吉達がおかしいんだ。


「殺傷能力が低い武器を貸してくれませんか?」


諦めたと思われていた。貸してください、と譲らない私にみんな言葉を失った。


「……武道の経験は」

「全くない」

「リボーン!!」


ごめんね、と笑うとリボーンは首を横に振る。私に合う武器を考えて愛用の銃を一つ貸してくれた。このタイプの銃は威力もないから肩に負担はあまりなく変なところに撃たない限り死ぬことはないそうだ。コンパクトで小さく、赤外線センサーの隙間も簡単に通る。


「ありがとう」

「……ああ。無茶すんなよ」

「うん」


弾は6発。銃なんて扱ったことない。どれだけ相手が静止していても一発で当てることなんてできない。6発連続で撃つのが正解だろうか。
自分の武器を何も分からない小娘に渡すリボーンの気持ちを考えてもう一度お礼を言い、痛む肩と足の怪我も気にせずにグラウンドまで走る。


「……どう考えたってあいつが行ったところで勝機はない。それでもリボーン、お前があいつを行かせたのはあの女も守護者だからか?」

「……コロネロには紗夜がどう映ってんだ?」

「平和ボケした女」

「だけじゃねぇだろ。お前も初めて会った時から紗夜に何か感じてるはずだ」

「………人一倍死を恐れて、何かを抱えている変な女、だなコラ」

「ああ。紗夜は自分だけでなく周りの奴らも死なせたがらないんだ。オレが武器を渡さなかったら丸腰で突っ込むほどの無茶な行為をするぐらい死者を出すことを嫌っている」

「それでも……死人が増えるだけだぞ。無茶じゃねえ、無謀だ。全然違うのはわかってんだろ」

「そんなことねえぞ。無茶な行為だ。紗夜は白虹の守護者だからな。あらゆる全てをつなぐ、な」


一心不乱に走る私の耳にアルコバレーノの会話は届かなかった。