そのナイスアイデアに乱痴気騒ぎ

無事に諸葛孔明と劉玄徳のオーラを手に入れた雷門中は三国志を発った。朝陽の隣には太陽が座っている。旅立つ前に『隣いいですか?』と聞かれたから頷いたのだがなぜ自分に声をかけたのか。まぁ深く考えることではない。向かう時も隣同士だったからとかだろう。
諸葛孔明とミキシマックスを成功させた太陽に賛辞の言葉をかけたりして安穏な時を過ごしていた。行きは内心ちょっと、……ちょっとどころではないぐらいイライラしていたけれども時が経てば落ち着いてきた。太陽は誠実な少年だ。「いつまで持つか賭けません?」と三国志に向かうキャラバン内で朝陽の苛立ちは覚えているけれど頑張って取り繕っている姿で賭けを持ち出した奴とは違う。狩屋は帰ったら絞める。「今日中」と答えた倉間も同様。


「朝陽先輩! たくさん話を聞いてくださりありがとうございました!」

「ああ。信助もおめでとう」


エルドラドとの試合で劉玄徳がGKした以降、劉玄徳にいろいろ思っていた信助の話を朝陽はたくさん聞いた。エルドラドの強力なストライカーのシュートを止められなくて悩んでいる相談にも乗ったりした。だからこそのお礼なのだろう。大したことではない。だから乗り出さずに座っていろ。危ないから。


「───みんな!!」


信助に注意してすぐだった。今度は神童が立ち上がる。本来だったら危ないから座れと言わなきゃならないのだろう。でも神童の様子はそんなことが言える呑気なモノではない。焦っていて余裕がない。窓に食いつくように外を眺めている。どうしたのだろう。朝陽もみんなも神童と同じく窓から外を眺めた。
広がるのは現代の景色。サッカー棟にある芝のフィールド。サッカー棟なら部外者に見られる心配はないから都合がいい。だから着陸場所に選ぶにはなんの問題もない。


「……なんで倒れてるんだよ」


問題があるのはフィールドに次から次へと倒れていく残してきたチームメイトたちだ。「早く着陸してくれ!」と神童がワンダバを急かしている。みんな気持ちは同じだ。咎める者はいない。見ていることしかできない間にまた一人倒れた。

三国志に行っている間に何があった。

仲間が倒れているのはきっとどころかほぼ確実にエルドラドの仕業。三国志に行かずに残っていたメンバーに接触してきたんだ。そうに違いない。
見ている間にほぼ全員が倒れてしまった。焦燥感に駆られる。早くみんなの元に行きたい。一層のこと飛び降りてでもいいから早くみんなの元へ。


「……………あ?」


窓から外をじっと見下ろしていた朝陽は自分でも間抜けな声だったなと自覚するほど間抜けな声を漏らしてしまう。焦っていてあまり気にならなかったが、フィールドに立っている唯一の選手は雷門中のユニフォームを身につけていない。ジャージだ。髪を一つに結んでいる長髪の選手。黒い髪の毛。錦? いや、錦は一緒にキャラバンにいる。よく見ると黒色の髪ではない。紫がところどころ混じっている。


「真白さん…?」


徐々に地面に近づいてきたことで見えてきた。隣に座っていた太陽の独り言に朝陽は胸中で同意した。太陽の独り言が波紋を呼んだかのように、「立っている人真白さんじゃないですか!?」「なぜ雷門のジャージを…。エルドラドと戦ったのか?」「とにかく訳を聞こう!」と天馬や霧野、神童を筆頭に着陸した瞬間飛び降りていく。

いや、そうじゃないよ。

朝陽はまたも心中で否定した。

だって真白は、


「楽しそうだなぁ、姉さん」


曇り一つない満面の笑みだったのだから。








「真白さん!」


タイムキャラバンが着陸した瞬間、神童は真白の名前を呼んだ。それに対し真白は「なぁに?」と倒れている中学生を目前にした大人の声色ではない弾んだ声で応える。可愛らしい満面の笑み付き。予想だにしない反応に神童の足は思わず止まった。


「生きてる?」

「……生きてる」

「無理。もう動けない」


朝陽は神童と真白のやり取りを見守りつつフィールドに転がっている青山と一乃に近づいた。聞くまでもなかったがひどい疲労困憊だ。ドリンクでも持ってきてやるか。用意してあるかな、とベンチを確認すると春奈が転がっている選手たちに渡していた。じゃあ俺はしなくていいか。


「天雷さんはっ、どうなってるんですか……」

「久しぶりにここまで疲れたよな…」


うつ伏せで息絶え絶えの速水とから笑いをしている浜野も同じく動けそうにない。


「朝陽ー!」


疲労たっぷりで動けない同級生たちを見下ろしていると姉が活気あふれる声でぶんぶんと手を振って呼んできた。姉の前にはまだ状況を読み込めてない神童や天馬たちがいる。


「ジャージ借りた!」

「わかった。楽しかった?」

「うん! とっっても楽しかった!!」


ほほを赤く染め、満悦の笑みを浮かべる姉によかったねと返すとこれもまた元気よく頷かれる。姉弟のやりとりを後漢に行っていたメンバーはまだ把握できていない。いや、そんなことはなかった。円堂大介だけは理解している。
「何があったんですか?」「サッカーした!」と困惑しつつも質問している神童に簡潔に返す真白ではしばらくの間は伝わらないだろう。春奈が代わりに説明している。


「で、誰が言い出した?」

「三国さん…」

「あーー…」


ペナルティエリアで三年生同士仲良く倒れている三国か。先輩が言い出したんだから二年は聞くしかないよな。


「聞かなくてもわかるんだな…」

「まァ」


朝陽だけは春奈の説明を聞かずとも理解している。さすが姉弟とでもいうべきだろうか。青山は素直に感心する。

事の始まりは簡単だ。後漢に旅立ったチームメイトを見送った後、帰ろうとする真白を三国が呼び止めた。そして頼んだ。もし時間があるなら練習に付き合ってくれないかと。今の歴史では元になってしまっているが、真白は優れた実力を持つプロ選手だ。強敵のエルドラド相手に三国たちも負けてられない。強くなりたい。そのために強い選手に教えを乞いたのだ。
突然の無茶なお願いに真白は「サッカーしていいの!?」と乗り気で承諾してくれた。やったあ! と喜んで輝の案内でロッカールームに早々に進んでいった。プロに教えてもらうことを拒む人はいない。だからこの時は誰もが三国の意見に異を唱えなかったのだ。「真白さんにか……。真白さんは…」と躊躇していた春奈に気付けばよかったのにと後悔するのは真白に指導してもらった後のこと。


「めっちゃスパルター」

「天雷達が戻ってきてくれた時本当に嬉しかった…」


浜野や一乃にみんな同意見。反論はない。春奈の説明もそろそろ終わる頃のようだ。狩屋や倉間が同情するような目つきで倒れているチームメイトを見ている一方で羨望を抱く選手も。


「いいな。僕も真白さんとサッカーしたい。ずっと言ってるのに」


爛々と目を輝かせる天馬や信助とはまた違うリアクションをするのは太陽だ。拗ねたような物言いをするのも仕方ない。真白と一緒にサッカーをしたいって出会った時からずっと言っているのにまだ実現されていないのだから。病気が治ってからねと我慢させられて、完治したと思えば法律が立ちはだかる。サッカー禁止令なのだから仕方ない。我慢するしかない。だからじっと耐えていたのに知らぬところで他の人がやっていた。羨ましくて仕方ない。

「前から僕言ってるのに」と気を引くように真白の手を取る太陽の姿に朝陽は思わず無言で足を振り下ろした。「…………誰か代わって」と真下で一乃の声がするが朝陽には聞こえない。同級生も応えてくれない。疲れ果てて寝転がっていたら頭の横に勢いよく足を下ろされた一乃と場所を代わっていいとは思えないから聞こえないフリだ。


「うん! 太陽くんともサッカーするよ! 絶対するよ! これからはいつだってできるからね!」


サッカー禁止令が出て以降ずっと我慢させられていたサッカーを思いっきりできて真白はとてもご機嫌だ。終始笑顔。溌剌とした声。太陽の手を握り返して子どものように頬を綻ばせている。

にっこにこで楽しい嬉しい幸せと全身で表現されてしまったらいじけた気持ちはどこかに行ってしまう。「……うん」と頷く太陽の目尻はいつもより優しい。『あ』と一乃が危機感を抱いた時にはもう遅い。二度目の命の危機。誰か代わってくれ。


「絶対だからね」

「うん。これから一緒に住むしいつだってできるよ!」


一瞬スルーしかけた。「うんっ」と太陽がにこやかに平然と返事するからスルーに拍車をかけた。でも聞き逃していい案件ではない。


「…………………姉さん!!!」


「これ、お土産。もらってくれる?」「もちろん。ありがとう、枯れないように頑張るね」とつっこまないでいたけれど、後漢からの帰りのキャラバンで持っていることに気づいた小ぶりの花束を太陽から受け取っている真白を呼ぶ。もう転がっている同級生は知らない。朝陽はまっしぐらに姉の元へ向かった。


「俺聞いてない!!」


朝陽は裂けるほど目を見張って真白に詰め寄る。

初耳だ。一緒に住むも泊まるも聞かされてない。


「言ってなかった?」

「言ってなかった!」

「太陽くんね、しばらく泊まるんだ。新雲からだと雷門まで来るのは遠いから」

「よろしくお願いします」


にこやかな挨拶は好感を覚えるが一切浮かび上がってこない。人当たりのいい笑顔に怒りがふつふつと湧き上がって来るだけ。

一度息を吐く。長く深い深呼吸をして微笑を浮かべる太陽に顔を向け、


「他所に行け」


胸ぐらを掴んだ。

胸を掴まれたことに太陽は少し目を丸くしたが、大きな動揺はない。「嫌です。今日からよろしくお願いします」とにっこり返している。なぜ青筋を浮かべた朝陽を目前に平然とできているんだと霧野は胸騒ぎを覚えながら見守る。「俺の勝ち」「あの人本性出すの早すぎでしょ」と霧野には勝敗がよくわからない会話をしている倉間と狩屋の言う通り、朝陽の対応は今を区切りに変化した。穏やかで優しい先輩が突如ご立腹に。どこかで見たことのある怒り方。ホーリーロード真っ最中にだ。


「お前天馬と仲良いんだろ! そっちに行けよ!」

「すみませんっ。今木枯らし荘いっぱいで入れなくて…」

「木暮夕弥を追い出せ!!」

「え!? それは……」

「朝陽と太陽くん仲悪いの?」

「ううん、仲良くなったよ」

「なってねーよ! 姉さん! なんでうち!?」

「豪炎寺くんとじゃんけんして勝ったから!」

「は!? ……………じゃんけん。じゃんけんか……」


うん、嫌な予感は当たった。元イナズマジャパンの吹雪士郎が泊まると発覚した時と同じぐらいの怒りようだ。あの日よりはだいぶマシだが全く同じ。「神童、剣城」と一言も喋っていないチームメイトに声をかけてまた息を吐く。もう一人ずっと無言な人もいるが、そちらはよくわからないからおそらく大丈夫。保証はないけれど、大丈夫だと信じたいから大丈夫。


「……真白さん」


朝陽がもう何も言わないから承諾したんだとちょっと違う解釈をしている真白に霧野は声をかける。承諾したんじゃなくてじゃんけんが予想外すぎて反論する意思が吹っ飛んだだけ。おそらくまだ反対派だけれども吹雪の時同様すぐに受け入れる。吹雪の時も毎日ガードはしていたようだが出て行けとはすぐに言わなくなったから。
童顔だからもあるが、朝陽のジャージを着ていることでいつもより幼く見えてしまう真白に霧野はいつもだったら絶対に言わないであろうことを口走っていた。


「朝陽に言ってあげてください」


忘れないでちゃんと朝陽と話し合って。決定事項を伝えるとしても事前に。当日は出来る限りやめるように。

霧野の切実なる願いは真白に伝わったのだろうか。ぱちぱちと瞬きして「うん」と了承した真白を見る限りわからなかった。

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