孤独に気づけずにゆく

アーティーなんとかを届けに来て時間に余裕がある私はミキシマックスで得た織田信長の力を見学した。豪炎寺くんは忙しいようで先に帰った。


「真白さん!」


拓人くんの信長バージョンの見学を終えたので帰ることにした。大介さんに挨拶してサッカー棟を出ると引き止められる。振り向くとユニフォーム姿の京介くんが。


「ユニフォームで外に出るとバレちゃうよ」


サッカー禁止令に従わずサッカーをしているってね。タイミング良く誰も周りにはいないが学校の敷地内なのでいつどこから第三者が現れてもおかしくない。第三者に知られたらサッカー棟を即壊されてしまい練習場所を失ってしまう。
指摘すると京介くんは「少し待っててください」と中に戻っていった。慌てて飛び出してきたのかな。普段の京介くんならユニフォームで外に出てはダメってちゃんと考えてそう。


「なんで呼び止められたんだろう」


壁に背中を預けて京介くんが来るのを待つ。うーん…時空を旅している間に優一くんの様子を確認して報告してくださいとか? それなら改めて頼まなくてもいいのに。京介くんが信長の所に行っている間も勝手にお見舞い行ってたよ。元気そうだった。どこから聞いたのかわからないけれど優一くんが私の中学生時代を知っててびっくり。よりによって中学一年生。一郎太にもっとみんなと仲良くしろと言われて染岡くんや半田くんにあの頃のお前は性格が終わっていたって言われていた頃。


「待たせてすみませんっ」

「待ってないよ〜」


全然待ってない。「お帰り〜」とへらへら笑うと京介くんは安心したように息を吐いた。ユニフォームの上に指定の学校ジャージを羽織っている。首のところからユニフォームの襟は見えるし下もサッカーパンツだから完全に隠しきれてはないけど。ぱっと見サッカーしていたとはわからないからいいけど着替えてきてよかったのに。私は暇人だから時間に余裕あるよ。


「引き止めた訳なんですが、」

「うん 平気だよ。暇だから毎日優一くんのお見舞いに行けるよ」


京介くんは目をぱちぱちさせる。あれ? 違う?
首を傾げて京介くんの次の言葉を待つ。


「ありがとうございます。兄さんも嬉しいと思います。兄さん、真白さんと一緒にサッカーができたことを喜んでいました」

「……タイムブレスレットか」


一度もしてないよと言いかけたが過去にしていたんだった。最近天馬くんとフェイくんから聞いたばかりだったのに。優一くんが私の中学生時代を知っていた理由がそれじゃん。11年経ってるから全然覚えてないけど。ワンダバくんをかろうじて覚えている程度。優一くんは豪炎寺くんと同じくタイムブレスレットのおかげで歴史の改変を受けてないんだって。難しい話だよね。


「俺がいない間兄さんをよろしくお願いします」

「うん」


こくり頷いて話は終わりにはならない。京介くんが私を呼び止めた理由はこれから。


「少し聞きたいことがあるんです。……場所を移してもいいですか?」


サッカー棟の入り口に視線をやり、私だけを映す。その瞳は京介くんの心温かな性格を表していた。これに関しても頷くと京介くんは「ありがとうございます」と背中を見せた。













「僕にとってサッカーは全てだから」


え?

目をぱちくりさせてしまう。最近どこかで聞いたフレーズ。


「尾張に行っている時、フェイが神童さんに言っていたんです」


だから聞いたことがあるのか。手をポンっと合わせる。私のその行動に京介くんは少しだけ不思議そうにしていた。


「どこか引っかかって……ですが何が引っかかるのか全然わからなくて真白さんや豪炎寺さんに相談したかったんです」


豪炎寺くんは多忙でもう帰ってしまったから私に相談したってことだね。
フェイくん……。私は前に聞いた時、同類だとしか感想を持たなかったけれど京介くんはそうじゃないらしい。

眉間に寄っているシワに指を置く。


「京介くんはサッカーが全てだと思ったことはない?」

「全てとまでは……」


数ヶ月前まではシードのやんちゃボーイだった京介くんは思ったことがないようだ。京介くんは優一くんのような家族がいるからねえ。私もいるのになぜ昔はサッカーしかないと考えていたんだろう。あの頃はどこか家族も信用していなかったんだろう。エイリア学園に人質を取られなかったのもそれが原因。


「引っかかった?」

「引っかかりました」


ふふふと微笑んで指を離す。もう眉間にシワはなかった。


「優一くんやご両親には聞いてみた?」


コテンと首を傾けると京介くんは横に振る。じゃあ私と豪炎寺くんが一番になる予定だったんだ。私だけが一番か。下手なことは言えないな。


「……そーだねえ私が思うその意味はね………………教えない」

「……教えてくれないんですか?」


「うんっ!」と大きく笑う。それは10年前に戻ったと思わせる笑顔だったらしく京介くんが少しだけ呆気にとられていた。

僕はそれに気づかず、いつもの私の表情に戻る。


「違和感に気がつけただけすごいよ。本人は隠している気でいるから」


私はそうだった。みんなは関係ないと私の中だけでとどめていたつもりでいた。だが周りを良く見ているみんなには心配をかけていた。
フェイくんも隠しているんだろう。フェイくんと話していた拓人くんは気に留めていないのだから上手に隠している。


「フェイくんと私は違うから断言しきれないけれど、そばにいてくれると嬉しいんだ」

「……どういうことですか」

「どういうことでしょう」


京介くんとの距離を縮めて頭を撫でる。

フェイくんが抱えているものが何かはわからないけれど、以前お家で話して訳アリだとはわかっている。一人だと思い込んでいるフェイくん。笑顔いっぱいで明るく振る舞って、でも心の底では一人だと思い込んでいる。


「記憶喪失だったらどうするか」

「記憶喪失?」

「口に出てた? ごめんねなんでもないよ」


そこまで一緒じゃないよね。さすがに。
フェイくんが家に来た時に私が気がつけたのは泣いていたからだけど京介くんは日常の会話から気がつけている。すごいなあ。仲間が大切だからみんなの異変にすぐに気づけるんだ。気遣いができて心優しい京介くんだから気がつける。


「何があってもそばにいてあげて。そうすればフェイくんはわかってくれるよ」

「……はい」


仲間の素晴らしさに。








ジャンヌ・ダルクの元への出発時間が迫っている。話は長くできない。


「とりあえず海に身を投げ出しそうだったら全力で止めてあげて」

「フェイがですか?」


ないと思うけどもしものことを考えて事前に心構えだけはしといて。
不可解な面持ちの京介くんに手を振る。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


駆け足でサッカー棟に戻る京介くん。
見届けてからぐっと腕を伸ばす。


「京介くんはどこまで意味がわかったのかな?」


サッカーが全て

この言葉は身に覚えがありすぎる。
仲間を信じきれなかった頃の───僕。

目を閉じると中学生の私が脳裏に浮かぶ。
ひとりぼっちで傷ついて泣き叫んでいる僕が。


目を開くとそんなものは消えた。


「……誰かに会いに行こっかな」


寂しくなってしまった。誰かに会いに行こう。本当に忙しそうな人と遠い場所にいる人は無理だけど……うん、会える人はいるな。


「いっちろうた〜 きどーくん〜 さっくまくん〜。アフロディくんはいるかなあ?」


秋ちゃん夏未ちゃん半田くん目金くん他にもいっぱい。

誰に会いに行こうかな。

|
INDEX
×
nanoへのご支援
- ナノ -