サッカーが大好きな人がこのまま退部していいのか。
よくない。
退部届けを出した神童と話し合おうと神童家に向かっていた。
「あ、あれ!? ここどこだろう!?」
事前に家の場所は聞いていたが来たことのない場所ということもあって迷ってしまった。
「見ればわかるか……」
先生に神童の自宅を尋ねた時に言われた言葉。素直に受け取って表札を眺めていくが 『神童』の文字は未だない。
神童と一刻も早く話したかった天馬はそわそわと落ち着きがなくなっていく。
そうだ。道を尋ねよう。
辺りを見回すと少し離れたところに公園があった。
「誰かいるかもっ」
駆け出して出入り口から公園を覗く。人はほとんどいない。いたのはたった一人だけ。
「…………うわああああ!」
サッカーボールを巧みに扱っている少年がいた。見るものをわくわくさせる華麗なリフティングに心が躍ってしまう。
目を奪われていると少年は準備体操代わりにしていたリフティングをやめてドリブルを始めた。相手がいると仮想して攻防している。あの場にはいないDFが天馬の目にも見えていた。
どちらも優秀なサッカー選手だ。一筋縄ではいかない。少年の顔は険しい。
しばらくして少年の足元からボールが離れた。仮想相手にボールを奪われたようだ。「……これでまだ手加減してるんだよなぁ」と呟く少年に天馬は拍手をした。
「すっごい!! サッカー上手なんだ!!」
賛辞の音と言葉に少年は振り向いて目をパチパチさせた。誰だろう。見たことない。
「俺、松風天馬! 君は?」
「……天雷朝陽だよ。えっと…松風くん見かけたの初めてなんだけれど最近来た人なのかな?」
「うん! 天雷…さん? あれ? 年上?」
落ち着いた様子と垢抜けた顔つき雰囲気に同級生ではないんじゃないかと感じた天馬は首を傾げた。
そんな天馬に朝陽はくすくすと微笑を浮かべる。
「雷門中二年、天雷朝陽。松風くんは一年生かな?」
「先輩っ!? すみません!!」
「別にいいよ」
雷門中の制服を着ていて見たことのない顔なので転入生か新入生。同じ二年なら己の耳にも入る、と推理して朝陽は年を当てた。
緑と青のオッドアイ、エメラルドとサファイアの瞳に見つめられた天馬は照れ臭そうに、だけど素早く頭を下げた。
朝陽は柔らかい声で笑みを浮かべ続ける。
「どうかした?」
暇でなければ立ち止まって見知らぬ男子のサッカーなんて見ない。用があるのだろう、と天馬に尋ねる。
天馬はぱっと顔を上げて元気はつらつと道を尋ねた。
「キャプテン、じゃなくて、神童拓人さんのお家ってどこだかわかりますか?」
「……神童拓人?」
「はい!」
途端、朝陽は苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
「(あれ?)」
表情の変化は天馬でも気がつくほど大きかった。
「(変なこと聞いちゃったかな……!?)」
朝陽は少しして微笑んだ。にこりと、それはそれは見本のような笑顔で。
「キミってもしかしてサッカー部?」
「はい!」
「……神童拓人さんの家は───」
天馬の返事に感情を全て殺して案内をした。神童の家まで丁寧に説明する。
「青い屋根の噴水がある豪邸が神童さんの家だよ」
「あっちか……。ありがとうございました!」
「どういたしまして」
天馬が背を向ける。笑みを貼り付けていた朝陽は天馬がいなくなるのと同時に大きなため息をついた。
「胸糞悪い奴と喋っちまった…!」
舌打ちしてサッカーボールを拾う。
やる気も失われた。今日はこのまま帰宅しよう。
「あああ!! 一つ聞き忘れました!!」
荷物をまとめていると出て行ったはずの天馬がダッシュで戻ってくる。指がボールに食い込んでしまったのは不可抗力だ。
「天雷先輩って雷門中サッカー部じゃないんですか? 見たことないんですけど……」
「……とある事情から部活はしてなくてね。それより早く行かなくていいの?」
「あ、はい! 本当にありがとうございました!」
今度こそ天馬はいなくなる。
確実に一人になったことを確認した朝陽は貼り付けていた優等生の面を剥がした。
「……あんなサッカーする奴らと誰が一緒にやるか」
脱いでいた上着を持って天馬が向かった方へ歩いていく。
「…………クソッタレ」
豪邸の前を通るが目もくれないで通りすぎる。数秒後、目的の我が家のドアに手を伸ばした。
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