無機質のぬくもり

フランスでジャンヌ・ダルクの勇気の兜を手に入れた私と豪炎寺くんは雷門中のサッカー棟に向かっている。
豪炎寺くんと鬼道くんからも訳を聞いた。守のこと、大介さんのこと、大介さんの考えた最強イレブンのこと、時空を旅していることなどいろいろ。ノートの翻訳を頼まれた時からは想像できないほど壮大なことになっていた。

サッカー棟に着くとサッカー禁止と書かれた貼り紙が貼ってあった。豪炎寺くんは華麗にスルー。無視していいんだ。私もガン無視するけど。サッカー棟に足を踏み入れてミーティングルームに向かう。いない。それならフィールドかな。

豪炎寺くんが立つとフィールドの自動ドアが開く。目の前に広がるのは懐かしい緑色の芝。ゴールポスト。サッカーボール。


「……おぉ」


感嘆から息が漏れた。懐かしい気がする。数日サッカーをしていないだけなのに何年間もサッカーから離れていたような感覚。目の前が眩しすぎるよ。

豪炎寺くんがジャンヌ・ダルクの兜がアーティ……なんとかとの説明をしている間、興奮から豪炎寺くんの背中をぺしぺし叩きながらフィールドを凝視していた。


「豪炎寺くん!」

「どうした?」

「ボール! ゴール! 芝! サッカー!」

「そうだな」


小さな子どものようにきらきらとした瞳で豪炎寺くんに話しかける。豪炎寺くんは私の頭をぽんぽんとした後また子どもたちに話を続けた。サッカー禁止令のことだ。私は事前に聞いている。
サッカー禁止令が敷かれたけれども日本にはまだまだサッカー禁止令に従っていないものがたくさんいる。私だってそうだ。処分しろと言われたユニフォームスパイクボール全て残してある。知りませ〜んありませ〜んで通している。処分したくないからね。
エルドラドは徹底的にサッカーを排除しようと動いている。隠れてサッカーをやっているサッカーが好きな人たちがこの頃襲われているのだ。雷門中にも襲われた者が何人かいるそうで。無事勝てたようだ。エルドラドは完全にこの時代からサッカーを消そうと企てている。


豪炎寺くんが真剣な話をしている間も私の視線はグラウンド。いいないいなやりたいな。私もサッカーやりたい。隠れてできる場所なんて限られている。ランニングや筋トレは堂々とできるんだけどサッカーだけはどうしてもできない。たまあにこっそり人気のない鉄塔広場や寂れた公園でサッカーボールではないボールを使ってサッカーをしている。見つかった時の言い訳のためにサッカーボールは使えない。
……いいな。私もサッカーやりたいな。


「久しぶりじゃな嬢ちゃん」


ぼんやりとグラウンドを眺めていた私の前に急に現れたのはオレンジ色の石。それと聞き覚えのある声がした。
そうだ、大介さんがいるんだった。挨拶しないと。きょろきょろ見回すが大介さんらしき人がいない。あれ? 私の知らない頃の大介さんを呼んだのか? でも私の知らない人もいない。黄名子ちゃんと目があった際に手を振られたので振り返しとく。いつもと変わらず元気だ。


「……知っているのか?」

「黄名子ちゃん? もちろん。可愛い女子後輩」

「……そうか」


豪炎寺くんはどうしたんだ? 知っているに決まってるじゃん。ホーリーロードの時に黄名子ちゃんも警戒したよね。一緒に何度か雷門の試合観ているよね。その時に話題に挙げたよ。内容はなんにも覚えてないけど。流石に今はそう簡単に忘れたりしないって。雷門の子とは何度も会っているのだから。記憶力アップしているんだよ。
そうじゃないそうじゃない。目的が変わるところだった。


「豪炎寺くん、大介さんはどこ?」


裾をくいくい引っ張ると「そこだ」とある一点に顔を向けた。あれ? そこさっきまで顔を向けていたのに、と戻すとあるのは浮いているオレンジ色の石。いない。とても小さくて視界に入らないというわけでもなく、天井に張り付いているというわけでもない。何度も何度も辺りを見回しても大介さんはいない。あれ?


「豪炎寺くん」

「その石が大介さんだ」


また服を引っ張ると今度は詳しく教えてくれる。いし? ………………医師? 発音おかしいな豪炎寺くんは。お医者さんが大介さんか。
きょろきょろまた見回すが白衣を着ている男の人はいない。白衣を着ていない知らない男の人もいない。おかしいのは先ほどから周りをうろちょろしている浮いたオレンジ色の石だ。きっと未来の科学なのだろう。


「嬢ちゃん、ワシが円堂大介じゃ」


大介さんの声がまた近くから聞こえる。やった! 久しぶりに会えるんだ! にっこり勢いよく顔を向けると私の髪が顔のスピードに追いつかず置き去りにされて顔面を覆った。早く顔を見たくて適当に整えて目をぱっちり開けて名前を口にした。


「大介さん!」

「久しぶりじゃな嬢ちゃん」


目の前にいたのは上下に動いているオレンジ色の石。なぜかそこから声がした気がして。


「嬢ちゃんは豪炎寺とくっついたのかのう?」

「………………なにこれ」


石が喋ったんだけど。石から声がするんだけど。
石を指して豪炎寺くんに尋ねると指すのはやめるように言われる。素直に従うと説明がされた。説明にフェイくんも加わり大介さんが石となった経緯はすぐに理解はできなかったが頑張って理解する。


「……先に教えておいて欲しかった」

「鬼道から聞かなかったか?」

「豪炎寺くんは聞いてたの?」

「ああ」

「……確信犯だ」


言い忘れではない。面白がって私には伝えなかったんだ。

「いいえ。いいえいいえ」と笑顔で否定しまくっている朝陽と会話している石をじっと見つめる。……喋っている。石と喋っている。何をあんなにも否定しているんだろう。ずっといいえを繰り返しているからなのか倉間くんが物理的に距離を取ったよ。


「豪炎寺くんありがとう。フェイくんもありがとね」


説明してくれた二人にはお礼しなきゃ。鬼道くんには体当たりしよ。豪炎寺くんにはしなかったけどフェイくんには頭を撫でてお礼する。この前お家でした時とは違って受け入れて寄ってきてくれた。やったね、仲良しになった証拠だ。


「離してやらないと危険だぞ」

「誰が?」

「いや…もう手遅れか」


こてんと首を傾げる。豪炎寺くんはよくわからない。
「姉さんは全員皆平等にあの距離なんです」「守にもそうだったのう」といいえから変換した会話をしている朝陽と石…ではなく朝陽と大介さん。


「豪炎寺さんが特別な訳ではないので。一郎太さん以外には皆平等!」

「一郎太とは……ほほう。風丸か」

「はい」


否定から肯定に変わった。話していることがわからない。「とんでも、……ではなくて偽の事実を作られますよ」と一乃くんがこっそり伝えてくれたけれど偽の事実とはなんだろう。それと「おい、戻ってこい!」「天雷に見られる前に来いっ!」「天雷先輩はまだですけれどこっちはもう手遅れですよ」とこちらもこそこそしている。手遅れだって。マサキくんが豪炎寺くんと同じこと言った。


「偽の事実って?」


雷門中がコソコソ喋っているけれど平然と一乃くんに尋ねる。囁き声にする意味がわからないからね! 普通の声量にした方がちゃんと伝わるんだよ! 「うわっやりやがった!」「ご愁傷様…」と誰かが発した。誰だ。私は悔やまれるようなことをしてしまったのか。


「……風丸さんとお付き合いされてる事実ですかね…」

「私が? 一郎太と?」

「はい…」


とんでもない事実が作られているぞ。どうしよっか。ゴッドエデンの時にも似たようなこと起きたね。あの時同様何もしなくても真実がちゃんと伝わるからほっといていっか!
「一郎太とこの前一緒にランニングしたよ。お互い職がないから誘いやすい!」「……そうか」と一郎太の話題になったので豪炎寺くんに近況を伝える。すごい複雑そうなそうかだった。否定しろよ、まぁいいかみたいな顔してる…と中学生に思われていることは知らずに今度壁山くんと三人で飛鷹くんのところ行って食材全部食べる会開くけど一緒にどーう? とお誘いしていた。職がないから予定がつくんだよね!


「それか豪炎寺さんと結婚している流れになってますね!」


ん?
「余計なこと言わないでくださいよっ。ほら! 完全にこちらに意識向いているじゃないですか!」と速水くんが浜野くんを責めてる。結婚? よくわからなくて豪炎寺くんに顔を向けると目があった。絶対に豪炎寺くんも同じことを思って私を見たんだ。


「……ご結婚しているんですか?」

「記憶上してないよ」


フェイくんに質問されたので正直に答える。もしかしてタイムパラドックスってやつか? 歴史が変わった? 歴史といっていいのかわからないけれど奇妙な感覚だ。


「してたっけ?」

「本人たちがわかっていないんですか!?」


そんなこと言われてもねー、車田くん。タイムパラドックスがあるって聞かされると自信が無くなるんだよ。豪炎寺くんと結婚している流れになっているってことはそういうことなんでしょ?


「記憶上していないんだけどタイムパラドックスでしてる?」

「俺も記憶上はしていないが改変は受けないんだ」

「そう言ってたねー。どう証明すればいいんだろう」


どうする? と豪炎寺くんと悩む。歴史の改変をきちんと受けていて私たちが結婚していたら絶対に知るものに聞くしかないよね。誰にしよっか。


「反応おかしくね…?」

「二人揃って天然…?」

「剣城くん…その顔はどんな気持ちなんですか…? 祝福…で合ってますか?」

「いろいろ混ざってんじゃない? フェイくんの時はわかりやすかったけど」

「それなら神童の方がひどいぞ」


話した結果夕香ちゃんに決定した。電話をしよう。豪炎寺くんがかけているすぐ近くでスタンバイ。私も知りたいからね。


「夕香、一つ聞くが俺と天雷は結婚しているのか?」

『……は?』


電話をしているのは豪炎寺くんだから私ははっきりとは聞こえないけれどとても困惑した一文字はわかった。


『ど、どうしたのお兄ちゃん』

「確認したいんだ。俺と天雷は、」

「夕香ちゃんちょっと聞きたいことあるんだけど」


……おお。
豪炎寺くんの手元からスマホが無くなる。朝陽が奪っていった。ついでにフェイくんも連れていく。「あ、朝陽くんっ!? 違くて…!」とフェイくんは話しかけているが電話中のため会話はできない。


「……おそらくしてないな」

「わかった」


朝陽の様子から判明したようで豪炎寺くんが教えてくれた。改変にはなってなかったか。そっかそっか。


「二人とも変わってないのう」


解決すると石が目の前に飛んでくる。びっくりする。理解はしたけれど驚く。石が大介さんか……。


「豪炎寺、なぜ嬢ちゃんもここに来たのかね?」

「天雷がいた方がヨーロッパは動きやすいので手伝ってもらいました」

「そうかい。ありがとな嬢ちゃん」

「………………はい」


それでも大介さんの優しい朗らかな性格は顕在だ。姿が石に変わっても人間の大介さんがこの場に立って私の頭を撫でてくれているように見えた。


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