守が奪われた。知らない奴が守を奪っていた。
試合後にエルドラドじゃなかったことが判明した、ザナーク・ドメインのキャプテンが大介さんと同じ石となった守を渡してくれようとしたのに知らない奴が横から持って行きやがった。ローブで顔はわからないけど多分年寄り。誰だアイツ。追いかける前にいなくなりやがった。いなくなり方が瞬間移動だったので幕末の人間ではないことだけはわかっている。おそらくエルドラドと同じ時代の未来人。
「もうっ!!」
あともう少しだったのに!!
「……あ」
どこの誰かわからない老人への怒りが燻っている私を見ている人がいる。沖田総司だ。なんでここにいるんだろう。思いっきり上げていた両手を下げると沖田総司は私の元へ歩いて来た。
「剣城から貴女の居場所を聞いたんだ。貴女と少し話がしたい。いいか?」
「うん」
話すことってあっただろうか。ミキシマックスは終わり歴史も大まかには変わってないからこっちとしては充分なんだけど。
「……試合前に心配してくれただろう。それなのに俺は貴女の厚意を無下にした。すまなかった」
きっと沖田総司は試合前のやり取りで私が怒ったことに気づいてる。後半から沖田総司は雷門ベンチにいたけど会話は一切なかったもんな。
「いいよ。もう怒ってないから」
沖田総司への怒りは守を奪っていた年寄りへの怒りに全て上書きされた。それに…私が沖田総司にイラッとしちゃったのは完全に私の独りよがり。
「こちらこそごめんなさい」
「貴女に謝られるようなことはされてないが…」
「私は君に試合をしてほしくなかった。だから止めようとしたけどそれは私の願望。君が命を打ってまで成し遂げたいことを邪魔しようとした。私だったらされたくないことを私はしたんだ」
私だったら嫌だった。命を削ってでも優先したいことを他人に止められて素直に聞くわけがない。だってそれは自分の容体より大切なことなのだから。なのに私が沖田総司を止めたかったのは、沖田総司とのサッカーが楽しくて沖田総司も同じことを思ってくれているんだろうと勝手に決めつけて仲良くなっちゃったつもりでいたから。
「だからごめんなさい」
「……いや、やはり貴女は謝るようなことをしていない。俺のしていたことは間違っていた。ずっと目を逸らして来ていたがようやくわかったよ。気にかけてくれてありがとう」
心変わりがあったのだろうか。試合中にミキシマックスへ協力的になってくれたから多少はあったのだろう。だって京介くんのミキシマックスが成功することは坂本龍馬の大政奉還成功に近づくことになるから。実際成功しちゃったし。沖田総司の中で何かがあったんだろうな。
「うん」と頷いて小石を蹴る。そろそろみんなの元に戻ろっかな。消えた老人を探したいけどみんなから止められちゃった。頼むから待ってくださいとかどこにいるかわからないからやめようとか言われた。あの老人が未来人だったらこの時代にまだいる保証もないから。やっぱり未来に直接訪問が一番手っ取り早いよね。それでもじっとできずにちょっと出て来ちゃったけど。これ以上先には行くなって言われている。みんなと100メートルも離れてない。これで探せれるわけないじゃん。
「……真白、……で呼び方はいいのだろうか。貴女の名をまだ聞いてなかった」
コツンと蹴った小石は草むらに入り込み、私は顔を上げる。名乗ってなかったっけ?
「天雷真白。好きに呼んでいいよ」
「そうか。俺は沖田総司だ。といっても未来から来た貴女たちなら知っているのだろうな」
「うん」
未来から来たとか言っちゃってよかったなら私も最初っからそう説明したのにね。
「真白、改めて貴女に礼を言おう。気にかけてくれ、そしてサッカーを教えてくれてありがとう。サッカーとは素晴らしいものだな」
「! でしょ!!」
そうなんだよ! サッカーとは素晴らしいものなんだよ!!
沖田総司は最初サッカーを坂本龍馬を倒すための手段としてしか思ってなかっただろう。でも今はとっても素敵な競技だと考え直してくれている。嬉しくて嬉しくて、本当に嬉しくて私は満面の笑みで沖田総司に同意した。
「サッカーはすごいんだよ! 悔しいこともあるけれど、とっても面白くて楽しい競技! わかってくれて嬉しいよ!」
手を握ってぶんぶんぶんぶん振り回す。これはもう友達でいいね。サッカーを一緒に楽しくやればそれはもう友達だよね。沖田くんって呼んでいいよねっ。
「私、沖田くんと一緒にサッカーした時楽しかったよ。沖田くんみるみる吸収して上手になっていくから面白かった。本気で勝負してみたいなぁとも思ったんだよ」
そこからはサッカーの魅力や沖田くんとサッカーした時に思ったことを永遠と話した。サッカーは人との輪を繋ぐスポーツ。沖田くんが参考すべきサッカー選手は私よりも他に適任者がいること。大介さんと話して何人か見つけたの。他にもたくさん。普段の練習のこととか二年ほど前にあった試合中のハプニングのこととかホーリーロードでの子どもたちの活躍とか。いっぱい語った。沖田くんは優しい表情で全て聞いてくれた。
「一番最初に俺と会った時、真白は俺に何よりも大事で何よりも優先すべきことか聞いただろう。真白にとって何よりも大事で何よりも優先すべきことなのはサッカーなのか?」
「……んー…大事だけど、何よりも優先はもうしていないかなあ。サッカーも大好きだけど私には他にもっと大切な人たちがいるんだ」
かけがえのない人たちがいる。何にも買えられない宝物。
「私が沖田くんに京介くんとミキシマックスして欲しかったのはサッカーを取り戻したいからっていうのとエルドラドに捕まっている友達がいて、その人を取り戻したいから」
またムカムカしてきちゃった。楽しくお話ししていたのに。アイツ誰だよ。
絶対に取り戻すんだ。守は死んでない。みんなで泣いて悲しんだあの日を無かったことにするんだ。
「俺は真白たちの邪魔をしていたのか」
「まーそうだけど、同時に協力を求めてもいたし沖田くんは何も知らなかったからいいんだよ。アイツらが沖田くんを唆したのは私たちが先に坂本龍馬と接触したから。先に沖田くんに接触していたら逆だっただろうよ」
ちょっとしたタイミングの違いで起きたことだ。沖田くんが申し訳なく思う必要はない。それより私は沖田くんに言いたいことがある。
「沖田くんは坂本龍馬を倒すためにアイツらとチームを組んだじゃん。なんでアイツらだったの?」
「なんでとは……」
「なんで私に協力を求めなかったの?」
私が沖田くんにイラっとしたのはこれも原因なんだよ。戸惑っている沖田くんはわからないか。そっか。
「私に頼んでいたら一緒に坂本龍馬を倒したのに」
私は坂本龍馬より沖田くんに肩入れしているから。仲良しな沖田くんを応援しているから。アイツらと組まないで私や……んーどうせ選ぶなら沖田くんを一緒に探したメンバーがいいよね。京介くんや太陽くんもメンバーに入れてミニゲームしたのに。キーパーはいないけど頼んだら誰かがやってくれるだろう! だからできたの。沖田くんが私たちに一緒に戦ってくれって言ってくれたらチームを組めたの。
「私じゃなくてあいつらを選んだの悔しかったんだよ。私とーっても強いのに」
ひどいよね。今でもちょっと拗ねちゃうよ。誇張でも慢心でもなく、私はとってもサッカーが上手なんだから。
そんな私に沖田くんは口元を緩めて「それはすまなかった」と柔らかな声色で紡いだ。私もあの時は沖田くんと仲良しかちょっとわからなくて強く言えなかったから。今だったらどんどん言えるのに。仲良しだってわかるのがちょっと遅かった。
「次は私に頼んでね」
「ああ、そうするよ。……呼ばれているな」
ほんとだ。もう幕末を発つのかな。それとも他に用事があるのかな。「今行くー!」と聞こえるように返事をすると私を呼ぶ声は無くなった。行くっかな。
「沖田くん」
「なんだ?」
「私、沖田くんのこと好きだよ。だから長生きしてね」
「……ああ。ありがとう」
沖田くんは自分の身体のことをわかっている。私は沖田くんが若くして死ぬことは知っているけどいつ亡くなるかは知らない。だから沖田くんが私の押し付けにどんなことを思ってどんなことを考えながら応えたのかはわからない。でも、私は沖田くんに長生きして欲しいから。私の思いを伝えたかった。
「……真白」
「ん?」
「また貴女と会うことができたら…その時は俺とサッカーをしてくれるか?」
沖田総司は幕末の偉人。私は現代を生きている。また会うにはタイムジャンプが必要で、幕末にはもちろん私の時代にも時代を旅する技術はない。また会うのはほぼ不可能。もし会えたとしても沖田総司は病気を患っていてサッカーができる体調ではない。できるわけがない。
「うん! もちろん!」
でもね、私もしてみたいと思っちゃったの。
無謀だとわかっていても、また会いたいと思ってしまったから。
「約束ね!」
「絶対だよ!」と小指を出すと沖田くんは「ああ」と同じことように小指を出したのだ。
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