「う、っんーー…………」
「これは……」
「汚ねェ」
「未来から借りてきたはいいけど全然読めんぜよ」
「まあ、長い間誰にも解読できなかった暗号だもんな…」
「でもこれ本当に字なのかな?」
未来から不法侵入して盗んで来た、もとい借りてきた覇者の聖典は誰にも読めない暗号のような文字らしきものが羅列していた。いっそうのことマスターD本人に聞きたいが、マスターDがどの時代の誰なのかもわからないためお手上げ。
暗号を解こうとみんなでうんうん唸っていると秋と春奈が差し入れに。二人のおかげでようやく少しだけステップが進んだ。
「この字、円堂監督が昔持っていたノートと同じ字よ」
円堂守が昔使用していたノート。つまり覇者の聖典は円堂大介が書いたものということだ。マスターDとは円堂大介の頭文字だった。円堂が読めるなら過去に行き円堂に読んでもらおうとしたが、円堂は生まれてから死ぬその時まで厳重に監視されていて接触は無理だと。
またそこで少年少女は唸る。
フェイだけは一つ考えがあった。ノートを生み出した本人に聞くやり方。だがそれは時空を移動することになりエルドラドに追われる可能性がある。だから出来るだけタイムトラベル無しで解決したかった。でも天馬やみんなの表情から難しいと読み取れる。仕方ない、運に身を任そうと考えていた案を口に出そうとした時、
「円堂監督以外にも読める人がいるわよ」
救いの声が。フェイは顔を上げて春奈に向ける。フェイよりも先に雷門中生の方が反応していて、天馬の部屋が活気付いた。
「……俺? 俺、流石にこんな古代文字は読めませんよ」
春奈と秋の視線の先にいた朝陽は目を丸くして柔らかく微笑んだ。成績優秀だけれども赤ん坊が殴り書きしたような字は読めない。
「そうじゃなくて……」
「真白ちゃんが読めるわよ」
おお! と歓声が上がる。大袈裟から細やかまで差はあるがみんな喜びを露わにしている。
一人以外は。
「朝陽先輩!!」
「あー…わかった。聞いてくる」
「今から行きましょうよ! 真白さんどこにいますか!?」
「今日中に聞いとくから明日またここ集合で」
「え? 今からみんなで聞きに行くのはダメなんですか?」
天馬のつぶらな瞳に朝陽は口を閉じた。どうしたのだ。朝陽は姉が見せ物になるのを嫌うため紹介や仲立ちはほぼしない。でも雷門サッカー部はもう真白とそれなりに交流しているためガードは緩くなっていた。だからいつもなら乗り気はしないけれど会わせてはくれる。切羽詰まった事情なら殊更。
でも朝陽は渋っている。
「何かあったか?」
「別になんにも、……歴史変わったじゃん」
言いふらすようなことではないので神童に尋ねられても応えるつもりはなかったが、もう日は経っている。現実では経っていないけど、歴史では経っていることになっているんだ。
「円堂さんが亡くなっているからショックを受けてる」
「っ、そうか……」
円堂が亡くなって一ヵ月が経ったことになっているが、多くの者がまだ引きずっている。秋や春奈も円堂が亡くなる前と同じ心持ちに戻れてはない。簡単に立ち直れる事ではないため誰もが朝陽の姉に対する心遣いに納得する。
朝陽の姉に対する心遣いは理解できるのだ。数年前に家族を失ったことで大きく変化した真白を身近で見てしまった秋や春奈、そして家が近所で朝陽と遊ぶことが多かった神道はよく分かる。
そしてもう一人。あの事件を身内から聞いた彼も。
「朝陽先輩は真白さんに円堂監督のことを言ってないんですか?」
「切り出し方がわからない」
それにフェイやワンダバから他言はあまりしないで欲しいと口止めされている為無闇に教えることはできない。
「……昨日真白さん私のところに来たんですよ。木野さんの所には行きましたか?」
「ううん、来てないよ」
真白の話題になったから昨日の真白との会話を思い出した春奈は苦笑を浮かべる。想像通り秋には頼んでなかった。
「どうかしたの?」
「魔王の生贄にならないかと素敵な笑顔で尋ねられました……」
「そ、それは……」
「魔王復活させようとしてましたよ……。やめましたが…あれは本気でした」
隣で話されている会話は中学生にもちろん聞こえている。
「ま、魔王?」
「朝陽先輩…真白さん疲れているんですか……?」
「…………………」
「おいおい大丈夫かよ」
「……ふふふ 魔王、見てみたい」
「茜さん……」
本気で心配されると朝陽も言い返せない。自分も思ったから。魔王とはなんだ。
真白や春奈 秋は魔王のワードで意味が通じる。春奈と真白は当事者だ。生贄を捧げ魔王を復活させて何をしようとしたのだろうか。怖くて聞けなかった。
「風の噂で聞いたんだけど…真白ちゃんエイリア学園復活させるとかなんとか……」
「……それは実行される前に兄さんが止めますよ……きっと」
輝かしい笑顔で企んでいる真白が思い浮かべることができてしまい秋と春奈は顔を見合わせてから笑いする。真白はサッカー禁止令が出されてしまってからまたおかしくなった。だけどそのおかしさは友達が止めることのできるいつものやつ。円堂のお葬式の参列に並んだ一ヶ月前に比べると元気にはなっているのだ。
「そ、そういうことだから! 真白さんなら読めるわよ!」
「真白ちゃん少しは元気になってきてるから聞いてみたらどうかな?」