撮ってくれてあった録画を見直すと朝陽の知らない親善試合があった。サッカーではなく一方的な暴力。ラフプレーと表現してはならないレベルの酷さだった。
記憶と違う試合。でも異議を唱えているのは一部だけ。朝陽神童天馬信助。記憶に齟齬がある人に共通しているのは剣城の歴史の改変を正すためにタイムトラベルをしていたことだった。よくよく見ると日本の代表は剣城の改変を正すときに戦ったチーム(一部入れ替わっていた)だった。日米サッカー親善試合にエルドラドが関わっている。エルドラドは本格的にサッカーを奪いに来た。
サッカー禁止令を無くすため、正しい歴史に戻すためにアメリカチームと交代して日米サッカー親善試合に乱入した。試合に勝たないと全て戻らない。けれどプロトコル・オメガ2.0には敵わなかった。
プロトコル・オメガ2.0に負けた。負けた代償は大きい。サッカー禁止令は継続。円堂は捕まる。そして…多くのチームメイト。サッカーをしていた意味がわからないと霧野たちは吐き捨てて鉄塔広場から去っていってしまった。
意味がわからない。どうして急にサッカーが嫌いになったんだ。
未来の科学者クロスワード・アルノ博士の推測によると、プロトコル・オメガ2.0のベータが最後にした行為はマインドコントロール。雷門は邪魔だ。邪魔者を排除するためにサッカーを嫌いになるように植え付けた。それで霧野たちはサッカーが嫌いになってしまったようだ。
朝陽が無事だったのは化身使いだったから。言われてみれば化身を持つ選手は誰一人熱意を失われていない。去っていかない。アルノ博士曰く、化身は人の心の強さが形となって現れたもので、化身持ちは化身が障壁となり光線を返すことができた。霧野たち化身を持たないものは跳ね返すことができずにダイレクトに浴びてしまったからマインドコントロールされてしまったようだ。
「(……ん? 化身使い?)」
説明を聞いて朝陽は一つだけ違和感を生じた。朝陽以外は引っかかりを覚えなかったようでプロトコル・オメガ2.0を倒してマインドコントロールを解くと天馬を筆頭に鼓舞していた。時間が経てばサッカーが嫌いという偽りの気持ちを受け入れてしまう可能性があるから早くしないといけない。
特訓は明日からだ。化身アームドを身につけようと激励しながらみんな帰っていく。
さてどうしよう。気になるから聞くか。
「なあフェイ、少しいいか?」
「? うん」
「帰らないのか?」と足を止めた神童に先に帰っててくれと声をかけてフェイと二人っきりになる。家が近所のため理由がなければいつも一緒に帰っている。今日も「待っていようか?」と心配そうに尋ねられるが「大丈夫」と伝える。「俺はサッカーを嫌いになることなんてないよ」と付け加える朝陽に神童はほっと息をつき、また不安がっていたことに気づかれたことが小恥ずかしそうに帰って行った。
これで二人っきり。
「フェイ」
「うん。なに?」
「なんで化身を出さなかった?」
「っっ……」
朝陽の何ともない質問にフェイは蒼ざめて表情が強張る。
「僕が化身…?」
「出せるだろ? だからフェイもマインドコントロールを受けなかった」
フェイは肯定も否定もしない。項垂れて喋らない。
なぜフェイはおかしな反応をしたのだろう。ただの疑問だ。化身を持っている人はマインドコントロールを受けないで済んだと聞かされたらフェイも化身を使えると考えるのが普通だろう。でもフェイは一度も化身を使っていない。二度一緒に試合をしたがどちらも使用していない。200年後には化身アームドという新たな強力な戦法もある。勝つためになら化身を使うべきではないだろうか。フェイはサッカーを取り戻すために200年後から来た未来人だ。現代人よりサッカーを取り戻したい意思は強いはず。なのになぜ化身を使わなかったのだろう。不思議だ。
「僕は……その、」
「うん」
体力が限界に近いから。出すタイミングがなかったから。そんなのでいいから言ってくれればいい。そしたら納得する。ふとよぎった答えだけはしないで欲しい。
「フェイーー? 帰らないの?」
責めるわけでも急かすわけでもなくフェイの返事を待っていると、天馬が鉄塔広場に戻ってきた。帰ろうとしたけれどフェイがいないことに気がついて戻ってきたのだ。
「朝陽先輩と話して………」
天馬は途中で言葉を失った。どうした? 辺りを見回すが何もない。朝陽とフェイ以外誰もいないし、不審なモノも見当たらない。
「どうした、天馬」
「朝陽先輩!! 違うんです! 俺も悪いんです!!」
天馬は持ち前の俊足で朝陽とフェイの間に入る。二人ともびっくりだ。何のことだ。二人して天馬を凝視する。
「フェイだけじゃないんです!! 俺も中学生の真白さんに会いました!!」
「…………………………は??」
「……天馬?」
一応フェイの前ではまだ優等生を演じていた。そもそもサッカー部に本性を見せたのだって見せようと思ったからではなく気がついたら知られていたんだ。
それは今回も同じ。
もう剥がれた。
「いたたたたたたた!!!! 朝陽先輩肩が変なことになります!!」
「どういうことだてめえ姉さんに会ったってなんだ」
「朝陽先輩この前誰にもこんなことしたことないって言ってたのに!!」
天馬を絞めながら尋問している。
「中学生の姉さんに会ったってどういうことだ。説明しろよ」
天馬の叫び声に帰らずに下で待機していたらしい他のメンバーも走って戻ってきた。神童と錦が朝陽を天馬から引き剥がす。
「説明」
「え!? ……フェイと話してたのってそのことじゃ…」
「何のことだよ」
「…………フェイ逃げるよ!!」
「天馬!?」
ちらちら忙しなく目を動かしていた天馬はフェイの手を掴んで走って逃げていく。
逃げていく二人に明日締めようと決心して「離してくれる?」といつもの声で頼めば錦も神童も解放する。神童や錦、信助は息を吐いて歩き出す。朝陽も一呼吸置いて帰ろうと歩き出した。
「どうかしましたか?」
「なんでもねーよ」
剣城に下手に言うことでもない。フェイの化身云々より今は中学生の真白に会ったことの方が朝陽は気になる。
「(姉さんに聞けばわかるかな?)」
帰ったら聞いてみよう。真白の場合覚えていない説が有力な気もするけど。それにしても羨ましい。
歴史の改変がされてしまったことで大切な姉がまた傷ついているとは知らずに朝陽はゆっくりと帰路に着いた。