世界の終わりを確信した君の命日

朝から虫の知らせがしていた。
フェア精神をどこかに置き去りにしてきた日米サッカー親善試合を観ている最中、コップが一人でに割れた。日本代表のひどいプレー。観る価値がなかったから掃除しようと立ち上がるとガラスの破片が思っていたより遠くまで飛んでいたらしく、踏んづけて足の裏を怪我した。後半が始まる前にはネコの鳴き声が聞こえ、外に視線を向けると黒ネコが二匹も横切った。
そして最後。ご飯の準備をしていた時にリビングから大きな音がした。床には飾っていたはずの写真立てが落ちていて。FFIで優勝した後にみんなで撮った写真だ。隣に飾ってあった朝陽のホーリーロード優勝後に撮った写真は無事だったのに。

特に何も思わずに写真立てを飾り直し料理を終えてのんびりしていたら着信が来た。誰だ〜? 確認すると一郎太。気づかなかったけど夏未ちゃんからも連絡がていた。終わったら見よ。


「はいは〜い。もしもーし」

『………真白』

「どーしたの? 暗いじゃん」


日米サッカー親善試合の件かな? ふざけた試合だったよね。日本代表に知り合いがいなくてよかったよ。……あれ? なんで私が日米サッカー親善試合に出るほどの選手を誰一人知らないんだ? ……まあいいか。


『……雷門のメール見てないんだな』

「今気づいたからね〜。一郎太にも来てたんだ」

『ああ。みんなに送られている』

「……一郎太?」


暗い。声が暗すぎる。何かあったの?
一郎太は鼻をすすった。……泣いている?
どうしたの? 心配になって聞こうとした矢先だった。


『円堂が亡くなった』


………………………え?

手から力が抜ける。ガチャと大きな音が鳴り響いた。







守のお葬式は服装と表情と暗い雰囲気さえなかったら同窓会と呼んでも申し分ない顔揃いだった。国境を超えてサッカーバカが集まっていたのだが、盛り上がることはなかった。押し殺す声に鼻を啜る音とお坊さんのお経しか音がない。
守は24という若さでこの世を去った。まだ実感できないでいる。隣に座っている一郎太と鬼道くんも泣いている。何で、私の目からは何も溢れて来ないんだろう。

みんなみんな泣いている。いろんなところから声を押し殺しているのが聞こえる。
なんで。……なんで私だけ涙が出てこないの。病院に駆け付けても通夜に参加してもなぜかずっと涙が出ない。

告別式となりみんな声をかけに行く。私ものろのろと歩いて向かう。守の関係者は多い。同じ世代から中学生まで。

私の番になって守の顔を覗き込む。交通事故と聞いたけれど顔は怪我していなくてきれいなままだった。でも一切動かない。


「……まもる……ねぇ守……」


「どうした、真白!」


呼びかけても返ってこない。太陽のような笑顔を向けてくれない。目は瞑ったまま。
震える手を守の顔に近づける。白くて冷たい。首に触れると脈が動いていない。


「っーーーーーーーーーー!!!!」


言葉にならない悲痛の叫びをあげてしまった。理解不能の言語を吐き散らす。棺桶に両手を置いて何度話しかけても反応してくれない。


「なんでよ!! ねえ!! 守!!」


俺は真白の傍にずっといる! 苦しい時や悲しい時は絶対に助ける!


「嘘つき!!」


俺たちはずっと友達だ! いなくなったりしない!


「守の嘘つき!!」


子どもや守の家族、守のお葬式に来てくれたみんながいる中声を荒げる。守の遺体にぽたぽた雫が落ちる。
止まらない、徐々に酷くなって守の死に化粧を汚す。


「何してるんだっ!!」


暴走する私を誰かが抑えた。二人がかりで抑えられた私は身動きが取れない。


「ねぇ守!! なんでっ! なんで……っ!!」


傍にいてくれると言ったのに! いてくれないじゃん!
膝から力が抜ける。なんで私の周りからは人がいなくなっていくんだろう。


「あああああああああああ!!!!」


慟哭が式場に響く。一番の親友の死。

抑えていた誰かの手が無くなると私は床に座り込んだ。顔はぐちゃぐちゃで、化粧は崩れてしまう。髪もぐちゃぐちゃになり、服にはいろんな液体がつく。


私は今守の死を理解した。


理解してしまったから涙が止まらない。いつも私を照らしてくれていた大好きな親友。恩人。先導者。道標。


消えてしまった。不運な事故でこの世を去ってしまった。


守のいない世界で私は生きていくの……?


そう。守のいなくなった世界で私は、私たちは生きていかないといけない。


大好きな守。ずっとそばにいてくれると約束してくれていた守。
守は約束を破る。前も一緒にいてくれると言って一度突き放した。あの時は一時的なものだったけれど今回はそうはいかない。


故意的なものではないから誰にもこの憤りをぶつけることができない。事故なんだ。相手も反省している。罰を受けている。
それでも私の頭は、心は、受け入れてくれない。守の死を否定したがっている。お願い、不謹慎なドッキリでもいいから棺桶から起き上がってよ。


違う。これは全て事実だ。


何人もの人がハンカチを渡してくれた。一枚も受け取る気力はない。持ってきたハンカチさえ出す気力もない。
ここはマンガの世界でもアニメの世界でもない。不思議な魔法で生き返ることなんてない。


無理だよ。
私はあなたのいない世界でどうすればいいの……?


最後まで守は声を出すことがなかった。
動くことはなかった。
横たわったままだった。

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