慣れ親しんだ姿は無くなっていた

ホーリーロード優勝後、天馬は豪炎寺が考案したサッカー教育プログラムによって全国各地で子どもたちにサッカーを教えていた。ホーリーロードが閉幕して三ヶ月。サッカーはみんなが熱くなれるスポーツに戻った。

天馬はプログラムを終えて稲妻町に戻ってくる。またみんなとサッカーができると心躍らせて帰ってきた雷門中では目を疑う光景が起こっていた。
サッカーの練習場所であった第二グラウンドでは野球部が元気よく練習を行っていた。サッカー棟があった場所ではバスケ部やバレー部が活動していた。

天馬が雷門を離れている間にサッカー部の場所は全て他の部に奪われていた。どういうことなんだ。天馬は休憩していたバスケ部員に声をかける。バスケ部員は「サッカー部はここにはない」と天馬を訝しげにジロジロと見る。部室は移動したんだ。それならどこに移動したのか尋ねたかったけどバスケ部員が顧問の先生に呼ばれたことで話は途中で終わった。


「みんなひどいよなー。サッカー部の場所が変わったんなら連絡してくれたっていいのに」


久しぶりにみんなとサッカーができると楽しみにしていたのに誰一人部員はいないし練習場所も見つけれない。どうしたんだろう。少し不思議に思っていると神童を発見した。ようやく見つけた。嬉しさのあまり大声で名前を呼びながら駆け寄る。「キャプテン!」と呼ぶと「俺がか?」と疑問を持たれる。それもそうだ今は俺がキャプテンだ。間違えましたすみません、と天馬は笑う。

神童の異変には気がつかなかった。キャプテンと呼んだ時、神童は俺じゃなくてお前がキャプテンだろと呆れた様子ではなくて、何言ってるんだこいつはと不可解な面持ちをしていたことに。

サッカー部がなぜ誰もいないのか、天馬の疑問に神童は恐ろしい言葉を返した。


この学校にはサッカー部なんてもともとない、と。


冗談。どっきりですかあ!! やめてください!
天馬が調子づいても神童は意味がわからないといった様子で眉を寄せる。


「俺は音楽部の神童拓人だ」


転校生なのか? と尋ねる神童は本気で天馬を知らないでいる。サッカーをしたいなら他の学校に行くしかないなと続けて神童は呆然としている天馬を置き去りにしていった。


「………どうなってるんだ?」


わけがわからないまま天馬はまた歩き出す。
そこをたまたま見ていたものが一人。


「……あれ? あの人もしかして…」











「みんなどうしたんだろう……」


学校中を自慢の足で走り回ったらサッカー部員には次々と出会うことができた。だが三国は相撲部で車田はラグビー部。一乃や霧野はサッカーは興味ないと読書。青山はバドミントン部。速水は忙しいと話を聞いてくれない。倉間に天城はサッカーなんて知らないと言う。浜野は釣り竿を持ちながらお前誰だよと初対面の対応を。狩屋と輝は天馬が声をかけたらアイコンタクトしてお前の知り合い? と押し付け合っていた。錦にいたっては胴着姿だったことから聞くまでもない。
望みの二人も同じ。入学当初から一緒に頑張っていた信助ならと期待した結果、期待した分だけ落胆が大きかった。信助には卓球部に勧誘されてしまう。勧誘から助けてくれた葵は書道部に勧誘してくる。

全員サッカーを知らなかった。

天馬はため息をつく。サッカー部に何があった。なんでサッカーが好きなみんながサッカーのことを忘れているのか。考えながら校門までとぼとぼ歩く。


「っ、いた!」


ショックで頭から抜けていたことがあった。共にホーリーロードを勝ち抜いた仲間は後二人いる。


「君っ!」


肩ががっくり落ちる。久しぶりにみんなと楽しくサッカーをやりたかったのに誰一人天馬を覚えていない。たった三ヶ月で天馬を忘れるほどみんな非情ではないはずなのに。


「そこの人!」

「はい!? ………あ!」


天馬に話しかけて来たのは青と緑色のオッドアイを持つ男子生徒、天雷朝陽。雷門サッカー部の一員だ。


「カバン落としたよ」


先程神童と話していた時に落としたようだ。驚きのあまり落としたことに気づかず、その後も持っていないことに気づかないでいた。
探して届けてくれたんだ。感謝を伝えなきゃだけど歓喜が極まってそれどころではない。


「……………………せんぱい。朝陽先輩!!」

「っうわ!」


カバンを渡そうとしたらきらきらとした瞳で顔をぐいっと近づけられる。驚いた。


「朝陽先輩! 聞いてくださいよ!! みんな酷いんですよお〜。サッカーを知らないとかサッカー部がないとか───」


カバンを渡しに来ただけなのにぺらぺらと話されて受け取って貰えない。困ったように微笑む朝陽の様子に気がついた天馬は目を丸くして一歩退く。


「朝陽先輩!? どうしたんですか!? いつもだったらうるさいってアイアンクローしてくるのに!」

「え? ……まずカバンをどうぞ」

「ありがとうございます。……え? 本当に朝陽先輩?」

「一応俺の名前は天雷朝陽だけど……君は見たことないね。転入生かな?」


話の要領を掴めないけれど頭がおかしい人だと納得した朝陽は笑って流してカバンを渡す。至極真っ当な対応。なのに何故か相手の男子生徒は頬をつねって夢か現実かの確認。いつの間にか仲間だと勘違いされてしまったのだろうか。自分は普通の中学生だ。


「俺ですよ! 松風天馬です!」

「……どこかで会ったことあったかな?」

「サッカー部です!朝陽先輩の後輩です!」

「サッカー部?」

「……あの、朝陽先輩って何部ですか?」

「俺? そうだなぁ。強いて言うのなら……」

「うんうん」

「帰宅部だね」


ずこっと前のめりに倒れてしまう。やっぱりこの人もサッカー部を知らない素振りを見せた。
誰も彼も知らない。サッカー部は無いと言う。


「大丈夫?」


倒れた天馬に手を差し出す朝陽はとても優しい。いつもの朝陽と違う。いつもの朝陽も手は貸してくれるかもしれないけど、優しさしかない表情はしない。何やってんだよと呆れたように笑って心配してくれる。素の表情を見せてくれる。
今の朝陽もいつもの朝陽ではある。校内で見かける朝陽だ。朝陽は校内とサッカー部だと多少態度が違うから。天馬だから多少と表現するが、他の者は別人とも表現する。過去に態度の違いに大笑いして揶揄ったものは制裁を加えられていたこともある。
そうだ。そのことを揶揄えば朝陽はいつも通り接してくれるかもしれない。幸い朝陽は他の先輩達と違って話を聞いてくれている。


「朝陽先輩!」

「………はい」

「そのっ、優等生のふりって大変そうですね〜〜」

「………………………」

「すみませんでした!!」


狩屋を意識して真似してみたができない。元々人をバカにすることはないため不慣れ。違和感だらけになった。ポカンと口を開ける朝陽に素早く頭を下げる。失礼なことをした自覚はある。


「(もし先輩たちが俺にドッキリを仕掛けていてこんな態度なら………)」


天馬は顔を上げる。後一つ、確実に朝陽の本性を出す方法がある。だが成功したとしても天馬は無事ではいられない。ごくりと唾を飲み込み、逆襲覚悟で実行する。


「俺この前真白さんと姉弟のフリをしました!!」


姉関係のことだ。会いましたお買い物しましたお喋りしました一緒にサッカーをしました程度ならそうなんだで終わる。天馬は終わる。人によっては尋問される場合もある。しかし天馬でも姉弟のフリをしましたとなると豹変される。きっとこれだけは誰が言っても同じ目に遭う。それにこれは嘘ではなく事実。確実に素の朝陽が見れるだろう。


「………….あれ?」


どんな仕打ちが来るか怯えながら待っているけれど一向に痛みは来ない。怒りに染まった声色もない。怯えつつもゆっくりと目を開いたら朝陽はへぇと納得していた。とても平和だ。


「君、姉さんと知り合いなんだ」

「あの…俺真白さんと姉弟のフリをしたんですよ。怒らないんですか?」

「事情があったんだろ? そのぐらいで怒らないよ」

「いつもだったらとても怖い顔で顔面掴んだり壁まで追い詰めたりするじゃないですか!!」

「……俺が?」

「はい!」

「そんなこと誰にもしたことないけど……」

「え!? してますよ! 他の人が真白さんのことをお姉さんって呼ぶのは虫唾が走るって前に言ってたじゃないですか!」

「ええ……?」

「俺はないですけど剣城や狩屋には会うだけで怒ってますよね…? 狩屋は俺のせいじゃないってよく言ってて……」

「剣城? 狩屋? ……うーん俺用事あるからごめんね」

「朝陽先輩!?」


これ以上会話をしても話が噛み合うことはない。身に覚えがないことだ。姉はいるけれどそんなことで怒ったりはしない。姉が誰と会おうが自由だ。姉の交友関係に一々口を出したりはしない。姉の交友関係は狭いため、朝陽と同い年ぐらいの人と知り合いなのは珍しいなと感じる程度で何もしない。顔面を掴むなんて非常識なこと知らない人にやるわけがない。そもそも人生で一回もやったことがない。


「今日は姉さん早く帰ってくるから聞いてみよっかな。確か鈴音さんも帰り早かったかな」


変な人に絡まれたことを家族団欒の時間に話してみよう。

|
INDEX
×
nanoへのご支援
- ナノ -