本来天馬率いる一軍チームの方が実力は上だ。元々一軍を占めていたメンバー勢揃いで新しく入部した一年もほぼレギュラー扱い。化身を扱える実力者が天馬含めて五人いる。練習でGKをしていたのは三国だったためフィールドにいた化身使いは四人だったが、一乃率いるチームは0。化身を出せない面々も実力者の勢揃い。一乃率いるチームに比べて個々の実力は断然天馬率いるチームの方が上だ。
それなのに試合は押されに押された。パスは上手くいかずカットされる、ゴールには簡単に攻め込まれる、連携が出来てない。全て指示が上手くいっていないことから生まれる失敗だった。
「はあ……」
帰り道に信助と葵に励まされたが一人になるとまたため息が出てしまう。下校だけで二桁は行っている。
「ただいまー……」
「おかえり天馬」
ため息をつきながら木枯らし荘の玄関を開ける。出迎えた秋は天馬の様子がおかしいことにすぐ気がついた。とぼとぼと背中を丸めて元気のない様子に秋は首を傾げる。部屋に向かう天馬を秋は「そうだ」と引き止めた。
「今、真白ちゃんが訪れてきてるの」
「……え?」
「真白ちゃん、朝陽くんのお姉さんよ。何度か会ってるって前に言ってたわよね?」
「なんで…?」
「天馬に用があるみたいよ。真白ちゃん今私の部屋にいるんだけど、天馬の部屋に向かうように言っていいかしら?」
戸惑いながらも首は縦に動いていた。「じゃあすぐに言うわね」と秋は天馬に微笑んで呼びにいく。
「真白さんが俺に?」
雷門サッカー部の前に現れたりばったり出くわしたことなら何度かあったが、真白が天馬個人に会いに来たことは一度もなかった。
たくさんのクエスチョンマークが浮かんだがとりあえず部屋に行こうと天馬は首からかけているカバンのひもをぎゅっと握って歩き出した。
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天馬の部屋にノックが響く。「はい」と返事をすると扉は開いた。
「こんばんは、天馬くん」
「こ、こんばんはっ!」
緊張でガチガチになっている天馬に真白は笑みをこぼしてお盆から飲み物とお菓子を机の上に置く。秋が用意してくれた。
「畏まらないでよ。もう私はフィフスセクターじゃないから」
秋が用意してくれたクッキーに真白は手を伸ばす。急すぎの来訪に天馬ベタ褒め秋手作りはなく、市販で売られているクッキー。それでも美味しい。バターの風味が広がった。
「あの……」
おそるおそる話しかける天馬に真白の唇から咥えていたストローが離れる。オレンジジュースが入ったグラスを机の上に置いて小さく吐息を漏らした。
「もうすぐホーリーロード終わるね」
「はい」
真白はまたコップに手を伸ばしストローを咥える。オレンジ色の液体が上昇していく。ストローをくるくる回して。からからと氷が音を鳴らした。
「(え? ……あれ?)」
それ以降喋らない。くるくるずっとストローを回している。はい、だけなのはおかしかったかと考えてしまう。言葉を繋げるべきだったか。
「ぜ、絶対勝ってサッカーを取り戻しますから!!」
「……うん。お願いします」
ストローを回していた手が止まった。正解だったことに表情を明るくさせる天馬に対し、真白はきょとんとしている。びっくりした。どれから喋ろっかなと思索していたら宣言された。ストローを回していたことに意味はない。勘違いから生まれた宣言だけれども嬉しいので真白はふんわりと微笑んだ。
「天馬くんは、…………………」
考えがまとまって口を開いた真白の視線はとある一点で止まった。口までもが止まった。どうしたんだろう。倣うと見つけたのは天馬がサッカーに出会ったきっかけのボール。隣にはキーホルダーもある。
「昔出会っていたのは本当だったんだね」
青いイナズママークがついたサッカーボール。真白は立ち上がってボールに近づく。天馬に触ってもいいという許可を得てボールを優しく抱いた。
繊細で美しい姿に天馬は息をするのも忘れる。真白がイナズママークが描かれたボールにどれほど思い入れを持っているのか天馬は知らない。
「………ありがとう」
満足した真白はボールを元の位置に戻す。今度は横にあるサッカーボールのストラップを手のひらに乗せる。
「まだ残っているんだね。長持ち」
羽のついたサッカーボール。安っぽい素材で簡単な作り。10年の年月で紐はくすんでいるが、サッカーボールと羽はきれいに保たれている。
「……そういえばあの時真白さん……」
天馬も初めて会った10年前のことを同じように思い出していた。ボールをぶつけて謝ってさようならするかと思っていたらぶつけてしまったお姉さんが急に走って話してきた。確かその内容は……───
「……探していましたよね? 誰かを探して……」
「……うん。よく覚えているね」
真白はキーホルダーを棚の上に戻して座り直す。オレンジジュースが美味しい。
「あれって……聖帝なんじゃ、」
「天馬くんは一年生だっけ?」
「は、はい」
カランッと氷が鳴る。真白の飲み物は半分も減っているのに天馬はまだ一口しか飲んでいない。用意されてあるクッキーもほとんど減っていなかった。
「私は二年生の時だけど私も公式戦で急にキャプテンを命じられたよ」
「え!? そうなんですか!?」
「うん。FFIで」
「ええええええ!!?」
「知っているかな?」
観ても覚えてはいないだろう。当時の天馬はまだ2〜3歳。記憶に残していろとは酷だ。天馬の記憶ではイナズマジャパンのキャプテンは円堂だ。それ以外はいない。
「天馬くんとなった経緯は違うけどね。試合数十分前に急に任命された」
「急ですね……!?」
「うん、急だった。みんなが押し付けてきた。それが私が初めてキャプテンをした試合」
驚きの連発。だからなぜ真白が今朝決まった新たなキャプテンは天馬だということを知っているのかという疑問なんて浮かぶことはなかった。
「その時はいろいろあって……キャプテンもゲームメーカーも試合にいなかった」
「円堂さんと鬼道さんが…!?」
「他にも数人。それに久道さんと響木さんもいない」
FFIという大舞台で数時間前にキャプテンに就任されて、監督不在普段フィールドで指示を出す選手もいない中試合を行った。
天馬と状況は少し似ている。キャプテンでありゲームメーカーである神童が怪我で試合を見送ることとなり、後任したのは天馬。似た境遇を通ってきた真白なら天馬が抱えている悩みの解決方法を知っているのではないか。天馬は正座し直して真白に問う。
「あー私のは参考にならないよ。負けたから」
「負けた!?」
声が裏返った天馬に真白は「うん」と素直に頷く。
「FFIでイナズマジャパンが唯一敗北した試合」
「え!?」
神に愛された天才と謳われ、今現在はキャプテンに就任している実力者の真白さんでも初めてキャプテンをした試合では負けた……?
「……俺……」
「(ぎゃっ! 間違えた!) ちょっ! あのっ! ……天馬くんは私と違うからそんなに落ち込む必要ないよ」
天馬の表情は青くなった。神童がいない間に負けてしまうのではないか、革命を終わらせてしまうのではないか、と不安でいっぱい。真白は慌てて声をかける。不安を煽るために来たのではない。
しかし真白がなんと言おうと天馬には届かない。天馬の中の真白は今現在の真白であって、昔の真白を知らない。指揮しながら思いっきりプレーができなかった真白は存じない。FFIの陰謀を知らない天馬は円堂や久道がいなかった理由も知ることはない。だから初めてキャプテンをした試合では負ける恐れがあるとしか思っていない。
「……天馬くんは拓人くんと違うよ」
それは不安でもやもやしていた頭にすっと入ってくる。
「どう足掻いたって天馬くんは拓人くんと同じキャプテンにはなれないよ」
顔を上げると口角を少しだけ上げた真白が。
「天馬くんと拓人くんは違う人なんだから」
同じにはなれない……
キャプテンと俺は違う……
「天馬くんには天馬くんのやり方がある。一人で全て拓人くんの代わりが出来ないなら仲間に手伝って貰うんだよ」
天馬に人望があることは知っている。真白は残っているオレンジジュースを全て飲み干して立ち上がった。
「頑張ってね決勝戦。応援してるよ」
「コップどうする?」と聞かれ反射的に「そこに置いといてくださいっ」と返すと真白は軽く頭を下げて部屋を出て行った。
「待ってっ、待ってください!!」
「そろそろ帰らないと朝陽にお掃除されちゃう。今日は私がしようって決めてたの」
「もう少し話を聞かせてくださいっ」
「これ以上はないよ〜」
事態がようやく飲み込めた天馬は慌てて部屋を飛び出る。帰ろうとしている真白の手を両手で握って引き止める。でも真白の意思は揺るがない。帰るんだ。
「どうしたの、天馬。騒がしいけれど……どうしたの?」
騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた秋は首を傾げる。
「ただいま〜〜……うわっ真白さんじゃん! ……何やってんの?」
仕事から帰ってきた木暮も同じく疑問を抱いて。
「俺っキャプテン初めてなんです! 教えてください!」
「だいたいはっ、そのときの勢いでっ、どうにかなるっ」
「全然上手くいかなくてっ!」
「なんとかなるさっ、だよっ」
お互い力いっぱい出しているが均衡が保たれているため動くことはない。玄関の前で奮闘することになった経緯は全くわからない木暮と秋は顔を合わせ、もう一度二人を見入る。
「キャプテン達のように上手くいかないんです!」
「拓人くんと同じになろうとするのがそもそもおかしいんだってっ」
「真白さんは初めてキャプテンをした時はどんな感じだったんですか!!」
「大丈夫だって! 頑張れ! 天馬くんのやり方でゴーだよ!」
木枯らし荘の玄関で何をしているのだろう。騒ぎを聞きつけて次々に住民が出てくる。
キャプテン。中学生。初めて。
それらの単語が出てきたことで木暮は二人が何を話しているのか理解でき、
「………坊主の賭けを勝手にする真白さんを参考にしちゃダメでしょ」
ぼそりと呟く。聞こえていた秋は苦笑を浮かべた。
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