無念と後悔と少しの安堵と

ホーリーロード準決勝戦、新雲vs.雷門は雷門中が勝利。新雲学園は残念ながら負けてしまった。いい試合だったけれど、負けた。


「ありがとうございました天雷さん」

「いえ……。優勝させることができず申し訳ございません」

「いいえ、天雷さんがコーチに就任してくださり皆は大きく成長しました。こんなにも楽しい試合ができたのは天雷さんのおかげです」


狩部さんに褒められて照れ臭い。コーチは初めてしたけれど思っていたより面白くて楽しかった。新雲のみんなは意欲的で教え甲斐があった。今まで私がサッカーを教えた子どもは朝陽と拓人くんぐらいだ。けれど二人には一から教えたわけではなく、ちょいちょい一緒に遊んだという表現がふさわしい。コーチと生徒という立場は一切なかった。テレビの企画で子どもとサッカーをやりましょう的なことはあったけれどそれもまた別。だから私にとって初めての生徒は新雲イレブンなのだ。今回コーチをしたことでみんなが監督コーチ師匠をやろうとするわけが理解できた。欲を言うならばもう少しこのチームのコーチをしてみたかったな。

フィールドに顔を向けると倒れている太陽くんが視界に入る。本来サッカーをしていい身体ではない。それなのに一時間ずっとフィールドに立ち続けて、聖帝と約束した化身は二回までというルールも破っている。雷門中相手に手加減はできない。怒ることはできない。私も化身ドローイングのために雛乃くんを交代させる手配をしちゃってる。

携帯を確認すると聖帝からすぐに医療チームを向かわせるって連絡が来ていた。了解。すぐに行けるように準備しとかないと。


「……………………………」


少し気になってゆるりと顔を向けると視線がばちりと交わった。………ふふふっ。いい試合をありがとう、という意味を込めて拳を出すと同じような動きをしてくれた。ありがとね鬼道くん。次は負けないよ。
医療チームが来ることを天馬くんと楽しそうにお話ししている太陽くんに知らせないと。名残惜しいかもしれないけど切り上げるよ。


「たいよ、」

「───神童っ!!!」


呑気に太陽くんを呼ぼうとしたのにかき消された。
霧野くんの声だと理解した時にもう一つ張り上げた声が轟いた。


「拓人っ!!!」


朝陽の声。

その次は天馬くんが拓人くんの名前を叫んだ。太陽くんに手を貸していた天馬くんは太陽くんをほったらかしにして走って行く。まだ準決勝の対戦相手が決まっていない頃から太陽くんは嬉しそうに天馬くんについて語っていた。仲良くなれたとも聞いていた。天馬くんは仲良しの人を急にほったらかしにして去って行ったりはしない気がする。それなのに今は動けない太陽くんを置き去りにしていった。

つまり今はそれほど切迫した状況になっているのだ。

雷門中のみんなが次々と拓人くんの名前を叫ぶ。新雲学園も全員が驚愕した顔でとある一点に注目している。


「おい!! 拓人!!」


朝陽の声が鼓膜に届く。尋常じゃない声色。大きくなってからこれほどのものは聞いて……たことはあるけど珍しい。

何があったの?

みんなに倣うと雷門中の黄色いユニフォームが大量に見えて。そしてその中心にはぐったりとしているグレーの波打った髪の持ち主が横たわっていて。


「拓人くん……?」


雷門イレブンの様子から相当危ないことは伝わってくる。鬼道くんや春奈ちゃんの声も響き渡る。

───怪我。


「鬼道くん!! 今から医療チームが来る! それで拓人くんを病院まで運ぶ!」


太陽くんは少し遅れても平気だ。緊急性が高い拓人くんを優先する。
医療チームは鬼道くんに存在を教えた後すぐに来て。フィフスセクターとは無関係だから雷門中は気兼ねなく拓人くんを引き渡せるだろう。

拓人くんに対してはこれ以上できることはない。


「太陽くん」


拓人くんも心配だが太陽くんも心配だ。
フィールドに足を踏み入れる。座り込んでいて拓人くんを目で追っていた。


「もしかしてあの時の……」

「太陽くん」

「………真白さん…」

「身体は大丈夫?」

「……うん、僕は…」


拓人くんが怪我をしたと思われる接触は太陽くんが関わったプレーだ。だからか動揺が大きい。拓人くんがいなくなってもずっと倒れた場所を凝視している。


「拓人くんは平気だよ。太陽くんも戻ろうか」

「………………はい」


ぽんっと背中に手を置く。お疲れ様と言葉をかけると戸惑いと不安が混ざった笑みをした。拓人くんが気掛かりなんだろうな。太陽くんを病院に連れて行った時に拓人くんの容体も聞いてこよう。







太陽くんを入院させて医師と太陽くんの容体について話した。少し無茶はしたけれども悪化はしていなかった。試合前と同様手術が成功すればサッカーをできるようになる。嬉しいことは嬉しいから今は喜ぼう。太陽くんとハイタッチ。手術は大変で辛くて苦しいだろうけど頑張ってね。私は今日で新雲学園のコーチを辞任するけど今後も会おうねお見舞いに来るねサッカーやろうねと約束して病室を出た。

そして向かったのは。


「鬼道くんっ」

「天雷……」


手術室。

手術中の蛍光灯は点いていない。中には誰もいない。手術は終わっている。どうなった。鬼道くんに尋ねると手術は成功したとのこと。よかった、一安心だ。それなのになぜか雷門中は誰一人喜んでおらず、どんよりと暗い。その理由もすぐに教えてもらえた。拓人くんは決勝戦に出られないのだ。


「そっか…」


雷門は大きな戦力を一つ失った。故意ではない。新雲イレブンに故意的に怪我をさせようとする人はいない。不運な事故だ。それでも怪我をした人がいる。


「……あれ? 朝陽は?」

「気分が悪くなって外の空気を吸いに行っている。霧野が付き添っているから平気だ」

「あーー……ありがとう」


手術室にいいイメージがある人は少ないだろうが、朝陽は他の人より悪いイメージを抱いている。思い出してしまったのだろう。付き添いもいるから自分を見失うこともないはずだ。鬼道くんはそのことを知っているから考慮してくれたのだろう。


「ねぇ鬼道くん」


もう少し拓人くんや朝陽に付き添いたいけれど時間がない。息をついて鬼道くんに向き合う。長い髪がさらりと揺れた。


「私ね、この前正体がバレちゃってよ。今日の試合結果次第で今後どうなるか決まるの」


フィフスセクター本部に行ったら処遇が決まるんだけど……行く前からわかっている。鬼道くんも私がどんな処置をされるかはほぼほぼ理解している。
私はもうフィフスセクターにいられない。


「……私の独断で喋るね。あまり詳しいことは教えられないけれど、よかったらレジスタンスにでも提供して」


革命のために私ができること。
悪役を演じる友達のために今の私にできること。


「次の対戦相手は豪華だよ」

「もう次がわかってるんだな」

「そりゃあ………………そういえばあっちのリーグは逆らってんだろうか従ってんだろうか……」


把握していない。聖堂山vs.千羽山はフィフスセクターの指示通りに試合をするのだろうか。指示通りなら聖堂山が勝ち上がる。指示通りではなく実力だとしても恐らく勝つのは聖堂山だ。豪炎寺くん虎丸くん砂木沼さんの豪華メンバーに鬼道くんはどう対抗するのか。でも手に入れた情報によるともうすぐゴッドエデン調査班が帰ってくから鬼道くんはコーチに戻るのかな?


「まあいいや。提供する情報、というより単語かな。───ドラゴンリンク」

「ドラゴンリンク……」

「秘密裏で探ってみて。口外しないでね」


中学生にも念を押す。ドラゴンリンクが出てくることはないだろうけれど、もしもの場合だ。これが私にできることかな。


「それじゃあ怒られに行ってきます」


行く意味ないから行きたくないなぁと考えながらエントランスに向かう。子どもたちの横を通ることになって、近くにいる人たちの頭にぽんぽんと手を置く。拓人くんなしでも頑張ってね。優勝してね。誰も報われない結果にはしたくない。


「あ。そうだ」


一つ忘れてた、と振り返る。


「私忘れっぽいから天才の脳みそで記憶しておいてよ」


─────セカンドステージチルドレン


鬼道くんは眉を顰めた。これが意味する事は私も知らないけれど聖帝と千宮路さんが重要そうに話していたから。覚えといてたぶん損はない。

お願いね、と薄く微笑みを浮かべて今度こそ病院を後にした。

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