ホーリーライナーに先に着いたのは雷門中。チームメイトと会話したりして意気込んでいると準決勝の相手である新雲学園が姿を現した。ここまで勝ち進んできた貫禄はある。どいつもこいつも強者の雰囲気を醸し出している。
「強そうですね……」
「10年に一人の天才、か……」
春奈が天才の正体を調べる。根淵か真住か佐田ではないかと予想していた。
誰が来ようと関係ない。本当のサッカーを取り戻すため、フィフスセクターに与する新雲学園を倒すのだ。
緊迫感が漂う中人影が一つ近づいてくる。雷門サイドの人間は誰も気づかない。新雲学園からは姿が見えるので親しげに声をかける。
こんにちは。こちらですよ。
まだ選手が来ていなかったのか。雷門中も倣って顔を向けると───
「なっ!?」
「嘘っ!?」
「マジかよ!!」
「はあ!?」
「っ!」
「───天雷!!」
鬼道の声には反応した真白はいつもの微笑みで手をひらひらと振ってホーリーライナーに乗り込む。狩部監督と佐田の間に座った真白はバインダーを取り出して話し始める。
「なぜ天雷が……」
「……兄さん、真白さんの名前が…」
春奈が素早く調べ上げると新雲学園コーチの欄に天雷真白と見知った名前が書かれている。事前に調べた時にはなかった名前が新雲学園の味方として存在していた。
ありえることではあった。でも絶対に無いだろうと確信していた。真白は聖帝の味方とは言っているが本気で敵として雷門中に立ち塞がるとは思っていなかった。フィフスセクターとしていろんなことをしていたのは知っていたがまさかコーチに就任していたとは思いもしなかった。見るよりプレイする方が好きな真白が指導者として現れるとは。
「……俺たちも行くぞ」
動揺を見せてはいけない。子どもたちの不安を煽ってしまう。鬼道は表情には出さずにホーリーライナーに乗る指示を出したがもう手遅れ。
「鬼道監督! 大変です! 天雷先輩が息してません!!」
「朝陽!? 気を保て!!」
剣城や神童など真白と親しくしている人間はダメージを大きく受けていたが、一番酷かったのはDFの要の一人。天馬と霧野が声をかけていたが彼には何も届かなかった。
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「………………………………一瞬意識が飛んでた」
「一瞬ではないな」
気がついたら朝陽はホーリーライナーに乗り込んでいた。真正面には新雲学園がいる。試合前のいざこざを防ぐためなどといった理由で行き来できないように仕切りはされているが、透明のガラスであることから対戦相手は丸見え。声は聞こえなくとも動きは丸わかりだ。朝陽の意識を飛ばし数名に大ダメージを与え、雷門に動揺を生ませた人は間違いなく仕切りの向こう側にいて。
「天雷」
新雲学園がいなかったら暴れていた。新雲学園がいるから今は大人しく座っていると鬼道に声をかけられる。なんだよ今テメェと話してる暇ねーんだよ考え中だ、といった眼差しが鬼道に向けられる。態度の悪さにいろいろ思うことはあるが朝陽の性格を知っているがために流せる。
「アイツが新雲にいたことは知っていたか?」
気絶した時点で答えはわかっているけれど、一応。考え中話しかけるなといった視線を向けてきた時点で確信しているけれど念のため。答えはやはり予想通りで。
朝陽は息を吐いて背もたれにもたれる。視線の先の姉は選手や監督と話していて。何をしているのだろう。談笑? 調整? わからない。
「………真白さんが新雲にいるのはフィフスセクターだからか?」
朝陽の考え事は終わっただろう。隣に座っている霧野は恐る恐る声をかける。タイミングは間違っておらず、朝陽は鬼道に向けた眼差しではなく、いつもと変わらない眼差しで霧野を一瞥する。
「命令したのは聖帝だろうな」
視線はすぐに真白の元に戻った。
姉は指導者になることを好まない人だ。一生現役でいたいと語る人だ。朝陽とサッカーをする時も真白は指導者というよりも練習相手として存在していたような気がする。
「なんだかんだ革命には反対ってことか…」
誰が呟いたのだろう。ぽつりと生まれた言葉に誰も異論を唱えることはなかった。
管理サッカーを推奨している聖帝の味方として現れた真白は本当に味方なのか疑うほど雷門に対して何もしなかった。頑張れと応援することもあった。フィフスセクターの人間なのか疑い忘れることもあったけれど、今こうして雷門の前に立ちはだかっている。
雷門中OGの元イナズマジャパンの現役プロサッカー選手。憧れの存在は革命を許していない。
「……姉さんが」
そんな悲しく苦しい現実に似合わない声。発生主の表情はいつもと変わらず涼しげだ。なぜそんな顔ができる?
「フィフスセクター、ってかイシドシュウジの味方についてンのは管理サッカーや革命がどうこうだからじゃねーよ。ンなのはずっと前から気づいてる」
またまた注目を浴びる。
フィフスセクターのトップにいる男の味方をしているのは革命が関係しているからじゃない? どういうことだ。何を言っている。
「姉さんフィフスセクター大っ嫌いだからな」
だって真白は努力しない下手くそが嫌いだから。どれだけ下手くそでも勝てる試合を意図的に作り、努力を止める選手を増やすフィフスセクターを真白が好むわけはない。
選手全員から視線を受けていることに気がついている朝陽は同じ答えに辿り着いているであろう人をちらりと確認した。その人は朝陽を見ていない。やっぱり気づいている。あの人たちは朝陽よりも練習しない下手くそに冷たい真白を知っているから。
「じゃあなぜ天雷さんはフィフスセクターにいるんだ?」
「イシドシュウジがいるから」
それだけ。たったそれだけなんだ。
「イシドシュウジってあの人だからな」
あの人。誰を指しているのかわからない言葉に思いがけない人物が反応し立ち上がった。天馬の驚いた声がする。
「……知ってたのか。いつからだ」
「白恋戦前。姉さんが雷門の練習を見に来てくれた日。お前も知ってたのかよ」
「……………………」
無言の肯定。
はぁと朝陽はため息をつく。
イシドシュウジの正体がわかれば親しい人間は真白がフィフスセクターについている理由がわかる。だからレジスタンスもほぼ真白を放置していたのだ。
でも朝陽は真白が新雲学園のコーチをしている理由は知らない。イシドシュウジに頼まれたからとはいえ真白なら断りそうな案件なのに。朝陽がもし雷門のコーチをしてよと頼んだら真白は絶対引き受けないだろう。それなのになぜ新雲のコーチ。彼女好みの練習熱心の選手たちがいるとしてもなぜ一人も知り合いのいない新雲のコーチをするんだろう。それだけは朝陽だけではなく、真白と長い付き合いの鬼道にもわからなかった。
問いただす時間もタイミングもなく試合開始時間となってしまった。相手ベンチには真白がいて、真白も同じく鬼道に視線を向けてきている。ニヤリと挑発するように楽しそうに口角を上げて。
久しぶりに勝負しようよ。
あの宣戦布告は今日のことだったか。
中学生がサッカーを取り戻すために必死に頑張っているのに彼女は何をしているのだろうか。真白が新雲のコーチに就いた真意を全ては理解できないけれど、一つの要素は自分だという確信が鬼道にはある。
いいだろう。
まだフットボールフロンティアと呼ばれていた頃のように、まだ同じチームでサッカーをしたことのないあの頃のように勝負をしよう。
真白のニヒルな笑みに鬼道も応えるように口角を上げた。
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