黒幕との対談

今回の聖帝選挙には現聖帝イシドシュウジ以外にも立候補者がいる。響木正剛。これは反抗組織レジスタンスが表立って動いてきたことを表していた。

この事実を知った時思わず声を出してしまった。響木監督が聖帝かあ〜。似合わねっ。
響木監督じゃなくて響木さんだ。どうしても昔のクセが残る。それとも響木聖帝と呼ぶべきだろうか。……無理。笑っちゃう。

ホーリーロードは少年サッカーの指導者である聖帝を決める選挙でもある。勝ったチームが支持する立候補者に票が入るというめんどくさいシステムになっている。
雷門中は響木さんを支持している。準決勝まで勝ち進んできた雷門のおかげで響木さんとイシド聖帝の票はほぼ同じ。僅差で現聖帝がまだ勝っているという状況だ。


もう余裕はない。雷門の準決勝の相手は新雲学園。新雲が勝たないと聖帝選挙は更に不利になる。後がなくなる。詳しくはないから予想だけど。
だからプレッシャーをかける人が多いんだよな〜。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


目の前にはプレッシャーを与える集団の中でも一番与えてくる人がいる。呼び止められてお茶に誘われた理由はわかりきっている。絶対更なるプレッシャーをかけるんだ。
負けるな勝てフィフスセクターの素晴らしさを理解させろ。
理解させる側が全く素晴らしいなんて思ってないから無理だと思います。
高級茶葉を使って淹れてある紅茶は香りが強い。金持ちの茶葉だ。淹れてもらったので一応礼儀として口をつける。……もういらない。社交辞令だから一口だけ頑張った。


「新雲学園の様子はどうかな?」

「とてもいいです。千宮路さんが心配する必要はありませんよ」


心配いらないですよ〜とにこにこする。雷門中を倒すことができるのはあと二校だけ。だからこそプレッシャーをかけてくるのだろう。聖帝命令だとしても新雲には素性の知らない女がコーチに就いているんだからな。心配になるよな。


「貴女はフィフスセクターをどう思う?」

「……サッカーを管理するために必要な組織だと思います」

「勝敗管理については?」

「平等ですね」

「そうか。それならシードについては?」

「サッカーにおける完全なる英才教育。シードを志願してまで受けたがる子どもは多いですね」


建前でも上手い言葉が思いつかなかった。受け答えおかしいかもしれない。フィフスセクターを推奨している人相手にフィフスセクターを貶すことはできない。千宮路さん相手は殊更。とりあえず笑みを浮かべとけ。

千宮路さんは紅茶をゆっくりと啜る。


「それならなぜ弟くんをシードとして養成しなかったのかな?」

「まあいろいろ、…………!」


適当に誤魔化そうとしていたのだが重大なおかしなことに気がついてしまった。
目を見開いて千宮路さんと視線を合わせる。テーブルを挟んでいるのに千宮路さんの目に私がはっきり映っているのが見えた。これ以上開かないのではないかと思われるぐらい赤色の瞳が刮目している。


「貴女の弟はシードとして養成されなくとも化身を使えるほどの実力者」

「な、んのことでしょうか?」


震える拳をぎゅっと握る。動揺を悟らせるな。
千宮路さんはきれいな所作で私を観察する。私とは違って余裕たっぷり。彼はこの時には確信していた。
 

「貴女は女子サッカープロ選手であり、日本代表にも選ばれる実力者。天雷真白さん、それが貴女の名前だ」

「っ」


どっと身体が冷たくなった。ロクな変装をする気はなかったから知られる危険性はあった。中学生には見たことあると第一印象で持たれるし、友達はイメチェン? と首を傾げるけどすぐに私だとわかる。誰一人うわっ気づかなかったと言わない。
いつかはバレると思っていたがよりによって千宮路さんに。一番気づかれてはいけない人。
くっと唇を噛む。


「天雷さんは多忙だと認識している。こんなところで道草を食う時間はないはずだ。それなのになぜいるのかな?」

「それは……」

「もし本当にフィフスセクターのあり方を肯定しているのならなぜ弟の天雷朝陽くんが雷門中サッカー部にいるのかな?」


千宮路さんは柔らかい笑みを向けてくる。だけど感じるのは圧力。笑っているのは表情だけで内心はらわたが煮えくり返っているんじゃないかな。冷房が効いていて涼しい部屋なのに汗がぽたりとあごを伝って落ちる。


「君は」


ガシャンとカップが大きな音を鳴らす。身体が大げさに跳ねた。


「間者としてフィフスセクターに入り込んだのだろう」

「い……いえ! 私は聖帝のためにここにいます!」


声を腹から絞り出すと無表情だった千宮路さんは数秒後に微笑んだ。
ひとまず誤魔化せた。次は朝陽をシードにしなかった理由を考えないと。そこを突かれたら言い訳は出てこない。小学生の頃から化身を使えた弟がフィフスセクターに目をつけられなかった理由、それは豪炎寺くんが上手く操作してくれていたから。だから朝陽がホーリーロードの公式試合で化身を出すまでフィフスセクターは朝陽の存在を知らなかった。豪炎寺くんの善意を無駄にはしない。
頭をフル回転させるけれど何も思いつかない。忘れてましたでいいかな。


「天雷さんに聞きたいことがある」

「っはい」


声がほんのちょびっと裏返った。恥ずかしいが気に留めている余裕はない。背中を真っ直ぐに姿勢良く千宮路さんの言葉を待つ。言い訳はまだ完成していないのに。


「私は子どもの頃ドイツにいてね、貧困だったことからサッカーをする権利すら与えられなかった」


予想とは全く違う話の切り出しに「へ?」と間抜けな声が出た私は悪くない。誰も予想できないよ。

千宮路さんは遠い昔を思い出しながら話してくれた。
サッカーがしたくてもできなかった。幼少期はお金がなかったからボールを買えなかった。盗んででもやりたかったからボールを盗んだ。それが露見してしまいサッカーが本当にできなくなった。
だからどんな人でも平等にサッカーができるようにフィフスセクターを設立した。


「それをなぜ私に?」


あまり興味なかったのでカップを手に持つ。
魔法使えないかなあ。あ〜ら不思議紅茶がなくなりました〜ってやりたい。飲みきれないよ。世間では美味しいと評判かもしれないけれど私には不評なんだよ。カップをくるくる回しながら考える。


「天雷さんも壮絶な子ども時代を過ごして来たから同意を得れると思ってね」


ガラスが割れる音が部屋に響いた。
膝にびちゃりとかかった紅茶に私は気がつかなかった。


「ああ、すまない」


青ざめているであろう私に千宮路さんは何食わない顔で触られたくない過去を平然と出す。


「失礼は承知の上だ。天雷さんのことはあの事件で報道されていたものでね。あの時に一緒に幼少期の育ち方も報道されていた」


20年経った今でも、10年経った今でも、6年経った今でも鮮明に全て思い出せる。どちらのクズの顔も私にしたことも、真っ白で動かない鈴音さんも。
息が下手くそになってしまった。浅く小さくしか呼吸ができない。

きゅっと胸を掴む。苦しい。


「っ、」


ぎゅっと服を掴んでいた手を引っ張られる。相手の力だけで私は立たされた。


「出るぞ」

「…………ご、」


うえんじくん。
いつの間に入ってきたのだろう。気づかなかった。
豪炎寺くんは私の背中に手を回す。


「彼女は気分が優れないようです。すみませんが退室させてもらいます」

「きみはずいぶんとその人を気遣うね」

「彼女は私にとって大切な人なので」


行くぞ、と耳元で聞こえた。身体に力を入れて歩く。豪炎寺くんに支えてもらってなかったらその場に崩れてしまいそう。


「天雷さん、次の試合で証明してもらうよ。雷門を潰して私を信頼させてくれ」


出る間際に最後のプレッシャーが。豪炎寺くんが頭を下げて扉を閉める。

トップクラスの者の部屋に近づく者は少なく、廊下には数人いるだけ。
聖帝が通ると道を開けて頭を下げる。人の目もあり私たちの間に言葉はない。


いつもの部屋に戻って聖帝は人払いをする。誰もいなくなったことを確認してから優しい豪炎寺くんに戻った。


「どうした?」

「なんでも、ない。ごめんね私の正体気づかれた」

「それはいい」


呼吸は元に戻っていた。だけど豪炎寺くん曰く顔が青白い。


「なぜこんなにも怯えている」


今は必要以上に豪炎寺くんに心配事をかけれない。ホーリーロードも残りわずか。最後の仕上げに取りかからないといけない時に余計なことを背負わせるわけには。
千宮路さんが視界から消えて豪炎寺くんが来てくれて温かい手で背中を撫でてくれた。それだけで安心できる。


「少し、思い出しただけ。命日が近いからかな」


豪炎寺くんの撫でる手は優しくて。
少し休みたくて、私は豪炎寺くんに身を委ねた。


|
INDEX
×
nanoへのご支援
- ナノ -