楽しみはいつも目前にある

きっかけはいろいろあったが最後の決め手は誘われたことだろう。初めて雷門中の試合を生観戦した。
雷門中vs.白恋中の試合。白恋中も最後は本当のサッカーを思い出していた。結果は雷門中の勝利。また響木さんに聖帝選挙の票が入る。それでもまだイシド現聖帝の方が多い。

観客席の前の方にいたこともあり、士郎くんが雷門ベンチから白恋中の雪村なんとかくんを応援している声が聞こえてしまった。笑っちゃった。教え子であっても相手チームの選手をベンチで応援するとは。それも公式戦で。抑えきれなかったんだろうな。

絶対障壁を破る練習は無駄にならずに終わった。ダブルウイングというタクティクスで破ることができた。

……もし、白恋中に士郎くんがいた状態で今日の試合をしていたら士郎くんはダブルウイングを破る策を見つけていたのだろうか。
今回の試合は指導者の優劣も決め手になった気がする。白恋中の指導者は雷門中に妨害工作をすることしか考えてなかった。実力のある選手をフィールドから出すのも戦略だけれども。


………うん、決めた。


守と鬼道くんに挨拶しよっかな。
人がいなくなった観客席を去る。さーって、長い間思いふけっていたからな。まだスタジアム内に雷門中はいるかな? 更衣室とかでもたもたしてて欲しいねえ。







「よかったまだ、……………」


スタジアムの外に雷門中と白恋中がいて、中心では二人の選手が言い争いをしていた。お互い喧嘩っ早いのか大人が羽交い締めして止めていた。
その中心人物の一人が私の弟だとわかってすぐに言葉を失うことになるとは思わなかったけれど。他校の選手とも一瞬で仲良くなるなんて……そのコミュニケーション力がお姉ちゃん嬉しいけれど同時に羨ましいよ。

感動でいっぱいになっていると、私の声が届いていた人達が大きくジェスチャーをしてきた。
全員の顔と名前は覚えてないけれど、してきているのは拓人くんにピンク色の髪の毛の子。確かDFだった。その二人のジェスチャーでみんな私に気がついた。マサキくんと眼鏡の子は青ざめた。大声で私に何かを喋ろうとした……えっと、昔沖縄で会った子と影山零治の甥と名乗った子とゴーグルを頭に装備した子の口を京介くんとマサキくんと色黒の水色の髪の子が素早く塞いだ。強盗犯みたいな動き。
雷門中の静かな騒ぎに白恋中の同じく見守っている人々が私に気づきこそこそと会話をする。一応ダテ眼鏡かけてきたんだけど意味なかったかな?

羽交い締めしていない大人がため息をついている。その間も拓人くんとピンクの子はいろんなジェスチャーをしながら私と騒ぎの中心を交互に見ていた。えーっと……今は関わらないで素通りしてくれって意味かな? わかったの意味を込めて丸を作る。ほっと息をつく雷門ほとんどを見届け背を向けると、


「っ!! 待ってください吹雪先輩の恋人さん!!」

「だから姉さんはそいつとは赤の他人なんだよ!! ……姉さん!!」


士郎くん恋人いたの?
驚きの事実に振り返ってしまった。
中心で言い争いをしていた人物は私の弟と士郎くんがお家に滞在していた間何度も話してくれた人物、紺色の髪を持つ選手───白恋中の雪村豹牙くんだった。二人を羽交い締めしているのは守と士郎くんで。
叫んだのはその中心人物の二人。ほとんどの人があちゃーー、と頭を押さえていた。


「吹雪先輩のことをそいつって言うな!!」

「はあ?? じゃあなんて言えばいいんだよ」

「吹雪さんだ!!」

「ぜってえ嫌だね!」


わあ、朝陽ったら本音で会話しちゃって。仲良しだねえ。同い年というのも仲良しの要素なんだろうなあ。

見つかったならもう消えなくてもいいよね。中心に行くのは少し気が引けるので鬼道くんの所に行こっ。


「ねえねえ鬼道くん、聞きたいことが三つぐらいあるんだけど」

「頭が痛い……」

「一つ目はね、あの中心の事の発端は何? うちの子コミュニケーション力すごいね」

「お前だ……っ! コミュニケーションとかの問題ではない……!」


眉間に指を置く鬼道くんをぺしぺし叩くと意外なお返事が。私? 私は何もしてないよ。
うーんと考えながら中心を眺める。大人二人は全力を出しているけど終わることはない。子どもが全く言うことを聞いてあげない。朝陽は守のことを慕っているから迷惑かけることほとんどしない。士郎くんの話を聞いた限り、雪村なんとかは士郎くんのこと大好きらしいから迷惑かけないと思うのになぁ。不思議。


「あの……」


こそこそと声をかけてきたのはマサキくん。ピンク色の髪の子の後ろに隠れている。隠れる対象は私じゃなくて白恋中や中心人物であって私からは丸見え。


「お姉さんは」

「狩屋その呼び方は辞めた方がいい。朝陽がキレる」

「っひえ」


チームメイトの姉だからお姉さんと呼んだマサキくんをピンク色の子がすぐに止めた。そうなのかな? 鬼道くんに答えを求めるとまたため息を吐いていた。疲れることがあったのか、疲労が表情にも出ている。


「真白さんは」

「………よく名前で……」

「え? 霧野先輩何か言いましたか?」

「なんでもない」

「そうですかぁ? 真白さんはヒロトさんとお付き合いをしているのでは……?」

「してないよ。私たちは仲間であって友達なの。えへへ ずっと仲良しなんだ」

「え!? 嘘だろあの人っ!!」


なんでそんな勘違いしちゃったんだろう。ヒロトくんどうかしたのかな?


「ヒロトさんって誰だ?」

「え!? ……っとまあ俺の知り合いです」

「……狩屋くん、実はヒロトさんは10年間ずっと片思いをしているの」

「マジで!?」

「嘘っ! 私知らなかった!」


春奈ちゃんの同情溢れた声にマサキくんの声が裏返った。私も裏返りかけた。10年も一緒にいたのに全然知らなかったよ。


「あれ? あのー、音無先生? 吹雪さんは?」

「……彼も同じく10年間片思いしているの」

「え! 士郎くんも!? ……ほほお、二人とも純愛だねえ」


ゴーグルを頭に装備した子に春奈ちゃんは会話になっていなかったがまた驚く事実を返した。


「真白さん……、私早く真白さんのウエディングドレス見たいです……!!」

「そっかあ。でも相手がいないなぁ」


10年間も想われているなんてその人たちは幸せ者だね。あれ? でも私前に30になってもお互い未婚だったらヒロトくんと結婚するという契約したよ。サインもさせられたよ、緑川くんに。その日のうちに誰かに破り捨てられたらしいけど。
どういうことだ緑川くん。ヒロトくんと小さい頃から一緒にいるくせにヒロトくんの想い人の正体を知らないの? 片思いしていること知らないの? 春奈ちゃんは知っているのに?


「ねえねえ鬼道くん知ってた? 私びっくりしちゃったよ」

「俺たちの間では知らない人間の方が少ない」

「ありゃりゃ。緑川くん知らないんだね」

「あいつも知ってる」

「あれ?」


少し声に怒気がこもっていた。怖いよ〜とつんつん頬をつつくと指を握り潰されるところだった。ぎゃあと軽く悲鳴を挙げると解放される。
緑川くんはなんで知っているのに契約を結ばせたんだ? 私もよく考えずにヒロトくんが30まで未婚なんてことないと決めつけて冗談でサインしたけどさ。ヒロトくんが未婚なんて絶対にない。性格良くてサッカーが上手で社長のヒロトくんが見向きされないことはない。サインした時緑川くんは涙ぐんでいたけど今思えば不思議な光景だ。ヒロトくんに置いてかれた時は未婚者集めてシェアハウス建てよ。鬼道くん、一緒に住もうね。

鬼道くんの肩をぺしぺし叩きながら緑川くんの不思議な行動の理由を考えていた私には外部の声は聞こえていなかった。鬼道くんも相当な頭痛だったらしく何も聞こえていなかったらしい。








「ヒロトさんが10年も片想いしている相手って……」

「ええ、その通り」

「吹雪さんの相手は……」

「同じ女性よ」

「「「「………………」」」」

「(二人以外にもまだいるけれど……。……兄さんはどうなんだろう。もし真白さんのことが好きなら私は兄さんを応援したい……)」











真ん中の争いは終わる気配がなく、最終的にチームメイトが協力して二人を引き剥がしていた。白恋中の子たちが何人も頭を下げて雪村くんを引きずっていく。


「吹雪先輩の恋人が!! 俺は吹雪先輩のために───!!」


最後まで騒がしかった。士郎くんも一度白恋中の子たちと話してくるらしい。荷物はまた後で取りにくると慌てて声をかけて一緒に去っていった。照れ臭そうに雪村くんに笑いかけてた。仲良さそうでよかったよ。


「真白はどうしたんだ?」


やつれた守に声をかけられて当初の目的を思い出す。士郎くん恋人騒動と士郎くんヒロトくん10年間の純愛騒動で頭から抜けてたよ。士郎くんの10年越しの想いは伝わったようで何よりだ。彼女さんいつか紹介してくれないかな。

本人が聞いたら青も白も通り越すぐらい血の気がなくなる勘違いを私はしていたらしいが誰も訂正してくれないから仕方ない。

目的目的と頭の中で復唱してすうと息を吸う。


「雷門中と白恋中の試合観てて思ったの」


少しだけ口角を上げて守と鬼道くんに喋りかける。聖帝から頼まれていた件、渋っていたが受け入れることに決めた。雷門と白恋の試合を観て、決めた。


「久しぶりに勝負しようよ」


後がない公式戦で。緊張いっぱいの命をかけた舞台で。


「……じゃあ、またね」


要件は済んだ。誰かが何かを言う前に私はその場を離れる。これから向かう先はフィフスセクター本拠地。聖帝に会いに行かなきゃ。


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