「おっ、真白」
円堂を見つけた真白は駆け寄って飛びつく。円堂はびくとも動かずに真白を受け止めた。
「よく来たな」
「おう!」
真白は元気よく手を上げた。
吹雪が稲妻町に来た翌日、吹雪に誘われたこともあり真白は雷門中に足を運んでみた。一日何も予定が入ってない日だったし、親友たちに会いたかったから満面の笑顔で了承したのは昨日のこと。
「来ちゃった来ちゃった。よっ! 久しぶり鬼道くん春奈ちゃん」
真白は協力者になってから初めて顔を合わせた二人に笑いかけた。中学生のような無邪気な笑顔。液晶越しでは滅多に観ることのない真白に「ああ」「久しぶりです」と和やかに返す。
「じゃあ俺着替えてくるね」
「いってらっしゃーい」
共に雷門に来た朝陽はユニフォームに着替えに更衣室へ向かっていく。バイバーイと真白は元気よくぶんぶんと手を振った。テンション爆上がりだ。もし第三者が今の真白を見たらこれが本当に世界で活躍しているプロサッカー選手天雷真白かと疑うほどはっちゃけてる。昔から真白を知っているメンバーしかいないからこそ気負わずに安心しきっているのだろう。
「真白さんがサッカー観にきてくれて朝陽くん嬉しいでしょうね」
「そうかなぁ?」
「そうですよ。前に自慢していましたよ。お姉さんは銀河一可愛いって」
「……なぜそんな嘘をついた」
「真白ちゃんは銀河一可愛いよ」
「違うの。今はお世辞はいらないの」
「本当なのに」
どうしようと真白は顔を覆う。
誇張されてる。どんなふうに真白が想像されているかは本人はわからないが、銀河一可愛いが自分の容姿ではないのはわかっている。
オーバーすぎる表現に真白は帰ろうか考える。がっかりされるのが目に見えてわかっているのだ。だが何度も言うが銀河一可愛いと言っている本人たちは本気で思い込んでいる。弟も隣にいる成人した男性も。
「鬼道くん……私、銀河一可愛い?」
「………………」
「ゴーグル寄越せや」
「紙袋ならあるぞ」
「さいっこうじゃないか鬼道くん。さすが天才ゲームメーカー」
可愛らしくて愛おしい顔はしているが銀河一かと言われるとそれは違う。世界には真白以上の容姿の持ち主はいる。
顔を隠したい真白の意図を読み取った鬼道は何故か持っていた茶色い紙袋を渡す。それを真白はすぽりと被った。ちょうどいい大きさ。
「待って前見えない」
一度外して目の部分に二つ穴を開ける。冗談で渡したのに本気にされるとは思わなかった。
「その嘘 拓人くんや京介くんは否定してくれなかったんだね」
「……神童と剣城と知り合いなのか?」
「うん」
よいしょと真白は被り直した。視界はいつもより悪いが前だけは見える。狭まった視界では真正面にいる人間しか見えなくて、真白は驚愕している鬼道に首を傾げる。
「どうやって知り合ったんだ?」
「拓人くん家近所だよ。近くに豪邸あるの覚えてる?」
「……あそこか」
「あそこです〜」
けらけら笑っているのが紙袋越しでも伝わってくる。昔から変わらない笑みだ。
「それで剣城は、」
「……真白さん、ですか?」
もう一人との知り合う経緯を聞こうとしたちょうどその時、ミーティングルーム室にやって来た剣城が鬼道の声に重なった。
「京介くん。正解よ。よくこれ被っている不審者が私だってよくわかったね」
剣城一人だけの登場だ。顔を顰めながら真白に声をかける剣城に真白は紙袋を外して髪を撫でまくる。
「っ、真白さん!」
「否定してほしかったなあ」
優一の病室でよく会っている二人は親しくて。抱きしめるように撫でられるのはいつものことだが兄以外の前でされるのは恥ずかしい。抵抗するが真白は聞いてくれない。本気で抵抗しない限り撫で回すのはやめない。
「あのねえ、優一くんが京介くんの練習姿見たがってたから写真撮ってもいいかい?」
「っ! それはいいです! 離れてください!」
「真白ちゃん離れよっか」
吹雪に手を取られたことできょとんと真白がしている間に剣城は距離を取る。吹雪の視線が痛かった。
「剣城、みんなは?」
「……少し、騒動が起こっていて」
「……おう! 真白か!」
「はい」
「え? 私?」
「気にすることないよ」
世の中の女性を虜にする美しい笑みはいつもの如く真白には効かない。「士郎くんが言うならそっかー」と楽観的にケラケラする。
「プロの天雷さんがいるの!!?」
「姉さんに近づくんじゃねェ下衆ども!!」
がやがやと急に外に外が騒がしくなり、メンバーを押しのけるように部員が飛び込んできた。
あ。まずい。
真白はさっと吹雪の後ろに隠れる。
「もっと早く言えよ天雷〜」
「こうなるから言いたくなかったンだよ」
「あわわ……すごい人が身内にいるんですね」
弟と知らない男子の声が聞こえてくる。真白を探している。でも少年たちは見つけれない。吹雪の体型はがっしりとしていないが、真白ぐらいなら正面からは隠せるのだ。
どうしようどうしよう。真白はぐるぐると考えながら手元に視線を落とす。
「……ない。ないないないっ。紙袋っ」
「あそこに落ちてるかなぁ」
「なんで!?」
吹雪が教えてくれた地面に落ちていた紙袋は「なんだこれ」と狩屋に拾われた。剣城をぐしゃぐしゃに撫でている時に落としていたらしい。完全に無意識だった。
「あ! 吹雪さんの後ろ!」
「てめぇ! 姉さんに近づくんじゃねーよ!!」
「見つかっちゃったよ真白ちゃん」
「……やだ」
ぎゅっと吹雪の服を掴んで真白は密着する。銀河一可愛いと嘘をつかれているんだ。絶対に紙袋なしで顔面を晒せるか。
「あの、真白さんの顔みんな知ってますよ」
「え?」
「真白さん有名人ですし」
広告CMポスターグッズインタビューバラエティ番組、そして試合。たくさんのメディア進出をしている真白はテレビを点ければ映るし、真白のグッズは10年前から今の姿のものまで幅広く売られている。顔を知らない方が難しい。
「……それもそうか」
天雷真白の容姿は雷門サッカー部員は知っている。全員同じ顔を予想している。銀河一とか頭にない。
春奈のおかげで悩み事は消えた真白はぽんっと手を合わせた。
「………ふぅ」
一息ついた真白は吹雪に「ありがとう」と声をかけてから部員の前に出た。
