兄弟の夢@

『ここで試合終了! ホーリーロード関東地区予選決勝に進んだのは雷門中だーー!!』


必殺タクティクス アルティメットサンダーは二回連続失敗したが、天馬やチームメイトのおかげで剣城は完成させることができた。

3total2で雷門中の逆転勝利。
一点目は剣城が加わったことで完成したアルティメットサンダーのこぼれ球を拾った天馬のマッハウイング。
二点目は剣城からのパスで信助のぶっとびジャンプ。
三点目は威力を増したアルティメットサンダーのこぼれ球を拾った天馬からのパスで剣城のデスドロップ。

剣城は全ての得点に貢献した。


「(京介……)」


画面越しの弟に優一は微笑む。仲間に囲まれて笑みをこぼしている弟のサッカーは優一の好きなサッカー。一試合空いたが、聖帝の命令通り兄弟二人の絆を示すことができたのではないだろうか。


「(拓人くん上手になったなあ……)」


真白は優一とは違う人物を観ていた。10年ほど前から関わりを持っている近所の子どもを。
化身を出していた神童に唇を固く閉じて俯く。


「今日はありがとうございました」


優一がテレビを消して真白に頭を下げる。顔を上げた真白もまた優一に頭を下げた。


「いえ。こちらこそ見知らぬ他人を一緒にいさせてくれてありがとうございました」


見知らぬ他人?

いや、違う。
他人ではあるが見知らぬ女性ではない。サッカーをやる者なら誰だって憧れる大物。


「……天雷真白さん」

「はい?」

「……プロサッカー選手で…元イナズマジャパンの天雷真白さんですよね?」


疑問符など意味をなさない。
優一の声色は確信した者が持つソレ。 


「ひと、人、人違いでございます……」


隣に座っている女性は青くなった表情を横に向けて、変なポーズで表情を隠した。


「……正体を隠しているんですか? それなら誰にも他言しないと約束します。なので本当のことを教えてくれませんか?」

「……………赤の他人です」


声は震えて上手く言葉にできず、本当のことを教えてくれと頼まれれば間をあける。そこは嘘をつきたいなら考える時間を作ってはいけない。相変わらずの正直者、というより嘘が壊滅的に下手くそ。事前に準備をしていたのなら少しは上手くつけれるが、唐突なアドリブには対応できない。


「そうですか。天雷さんは、」

「それは私の苗字ではありません」

「真白さんはなぜ京介がシードだと知っていたのですか?」

「それは私の名前ではありません」


天雷真白を全否定したがる本人は会話どころではない。誤魔化すことに精一杯である。先ほど冬花に名前で呼ばれている時点で真白を否定することはできないのに。

優一は困ったように苦笑した。テレビ越しで何度も観た天雷真白は毅然とした佇まいで口数が少なく、クールかと思いきや可愛らしい笑顔を多々見せる。
少なくともこんな、優一の目の前で必死に顔を隠してポカをやらかす女性ではない。正体を暴かれるまでの真白だけを見ていたらプロリーグの天雷真白そのものだったが。それでも隠すことはもうできない。


「………………、っっ」


優一が騙されてくれないことを確信し、覚悟を決めた真白は床に正座した。


「……………お願いです。黙っていてください」

「やめてください!」


土下座でもしそうな勢いに優一は慌てて声をかける。先ほど他言しないと口にした言葉は本心だ。床に座るなんてやめてくれ。


「あの、世間に出回ったらいろいろまずいんです。私が、そのっ、フィフスセクターと関わってるのは」


お願いです。黙っていてください。

はらりと髪の毛が床についた。

こちらこそお願いですから顔を上げてイスに座ってください。優一は何度も声をかけるが真白は己の世界に入っているため何一つ聞いてない。
優一にとって真白は大好きな選手だ。雷門中出身の元イナズマジャパンのプロ選手。日本代表にも毎回選ばれる高き存在。
憧れの世界にいるレジェンドに頭を下げられるなんてごめんだ。


「そのっ、握手をしてくださいませんか?」


謝るのではなく握手をしてほしい。

代替案を口にする。ただやめろというよりは代わりに何かしてほしいと言われた方が真白も納得はできた。


「……今、床についた手なんですが」

「構いません」


出された手に真白は服で手のひらをごしごし拭いてから重ねた。優一は嬉しそうに微笑む。真白もふんわりと笑みを浮かべた。


「真白さんはどうして京介がシードだと俺に教えてくれたのですか?」

「……それは、」


座り直した真白に優一は真剣に尋ねる。その誠実さに真白はまた困ったように笑うのだ。フィフスセクターの件になると真白は困ったように薄ら笑いを浮かべる。


「ごめんね」


今はまだ何も言えない。大きな覚悟を決めて悪を演じている友達がいるのだ。台無しにはできない。あの人は表立って動けないから真白の手を借りている。それなのに真白が全てを終わらせたら意味がない。


「………いえ」


ごめんね、と儚い笑みを浮かべた真白にそれ以上聞き出すことはできなかった。


「………あの」

「はい?」


隣にいる女性は弟の優しさを利用した組織と繋がりがある人物。

でも、


「……少し御時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


優一は好意的に笑いかけた。
根拠なんて何もない。勘だ。


「俺と京介の話、聞いてもらえませんか?」


天雷真白は味方だ。


小さい頃からテレビで観てきた人。兄弟の一番憧れの選手の隣で笑っていた選手。FFI決勝戦でゴールを奪った二人技は今も脳裏に刻まれている。

弟を苦しめていた組織と関わっている人間に優しくするほどお人好しではない。だけれどもなぜか真白には弟と同じように笑いかけてしまう。


目を丸くしていた真白だったが、少しするとふんわりと笑って頷いてくれた。


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