「明日出発するって」
「そうなんだ。気をつけてね」
それから数日後、学校から帰ってきた朝陽からタイムトラベルの決行日を聞いた。その後も7の力と8の力だからDFとMFだとかパーフェクトなんとかっていうエルドラドのチームがあるとかお喋りしていくうちに朝陽はちょっと違和感を覚えたのだろう。
「姉さんも行くんでしょ?」
「え?」
「だから伝えとけって円堂さんに言われたんだけど」
身に覚えのない約束を持ち出されて困惑する。私も行くの? 聞いてないよ。一緒に行こうとも来いとも言われてない気がする。
「楽しみだね」
行く気は全くなかったがにっこりと太陽くんに言われちゃったので用事もないし行くことにしよう。幕末同様面白いことがあるかもしれない。沖田くんみたいにサッカーが上手な人と巡り会えるかもしれない。それは少し楽しみ。もし会えたらまた鬼道くんと豪炎寺くんに教えてあげよっ。でも興味ないかな? 沖田くんのことを伝えた時微妙な反応だった気がする。だけどお話の最中にストップをかけてもっと詳しく教えろって聞いてきたから興味はあるのかな? とりあえず会えたら教えてあげよう。
とか考えて白亜紀へ来た私は早々にやる気を失っていた。あのね、今回の対象は恐竜なんだって。恐竜ってサッカーできないじゃん。やっぱり人間いないじゃん。来た意味ないじゃん。なんで私は呼ばれたんだろう。大介さんに聞くと白亜紀は危ないからだって。そうなんだと納得していると「人選ミスじゃね?」って聞こえた気がしたけど誰も私に話しかけてる様子はなかったので気のせいだね。
今回の7と8のミキシマックス候補は恐竜とは決まってるけどどの種類かは未定。大人の引率として子どもたちと候補となる恐竜を探していたら人間と会った。この時代にも人間がいるんだね。大発見。帰ったらみんなに教えてあげよう。
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白亜紀で会ったトーブくんから強い恐竜を明日紹介してもらえることとなり、今日は夜遅いこともあり白亜紀で夜を明かすこととなった。眠りについてどのくらい経ったかはわからない。夜中に目を覚ましてしまい二度寝を決め込もうとしたけど黄名子ちゃんがいないことに気づいてしまった。いつもならそのまま眠っても問題ないけどここは恐竜が闊歩する時代だ。恐竜に襲われている可能性もある。現に昼間追いかけられた。心配だから探しに行こう。いないのは黄名子ちゃんだけだよね? 葵ちゃん茜ちゃん水鳥ちゃんは寝ている。男子側はわからないけどそっちは大介さんがいるから大丈夫。黄名子ちゃんを探しに行かなきゃ。
「黄名子ちゃん」
「っ、……なあんだ真白さんか。びっくりさせないでよ〜」
遠く離れていない場所で黄名子ちゃんは草陰に隠れるように立っていた。声をかけると俊敏に振り返り、私だとわかるとほっと息をついていつものように溌剌に笑う。
何を見ていたんだろう?
「天馬くんとフェイくん?」
黄名子ちゃんが見ていた先には雷門ユニフォームを来た二人がいた。笑い合ってサッカーをしている。楽しそう。
「うん」と黄名子ちゃんは小さく口角を上げる。珍しい。なぜかそう思ってしまった。なんでだ? ……控えめに笑う黄名子ちゃんを初めて見るからだ。落ち込んでいるのかな? サッカーに混ざりたいのかな?
「一緒にやろー! って混ざってきたら?」
「……うーん、やめとく!」
次に笑う時はいつものように元気いっぱいの黄名子ちゃん。一緒にサッカーやればいいのに。だからこんなところで二人を眺めていたんでしょう?
「……真白さん」
「ん?」
「少しお話しない?」
「うん?」
改めてお話ししましょうって言われることは重要なことなのかな? 私と黄名子ちゃんの間に改めて話すことはないんだけど。
「いいよ」と頷くと黄名子ちゃんは「ありがとう」と笑う。それはどこにもあるやり取りなんだけど、なんか……なんか上手く言えないけど、ちょっと普段とは違うやり取りにも思えたのは私の考えすぎなのかな?
「こっちで話そっ」
「うん」
だからなのか、場所を変えるため移動している道中、私は少し前に豪炎寺くんと交わした言葉を思い出していた。
「どうしたの? ありゃ。黄名子ちゃん、顔に泥がついてる」
ここで役に立つのが今回は衣装替えを拒否させてもらったため私服のポケットに入っているハンカチだ。今日はたまたま入っていた。ふふんっ役に立ったね。
「……真白さんのそういうところ、うちのお母さんとおんなじ」
「そう?」
「……うん」
ハンカチが無事あったので黄名子ちゃんの頬についた泥を落としていると黄名子ちゃんはぽつりと零した。黄名子ちゃんのお母さんは見たことないなあ。部活の保護者会で見たことあったっけ? 考えたところで拓人くんの両親と天馬くんの両親代わりで出席する秋ちゃんとマサキくんの所と京介くんの所以外覚えてないや。朝陽 一年生の時部活入ってなかったから余計わかんない。黄名子ちゃん一年生だから関係ないっか。覚えてないだけでいたんだろうな。私が覚えてないだけで。
「はい、できた」
拭き終わると黄名子ちゃんは俯いてしまう。おや? 下ばっかり向いていたら気分が暗くなっちゃうよ。フェイくんもだけど最近の子は俯くこと多いなあ。
「どーしたの?」
「……真白さんはフェイに好かれてるなあっていつも思うの」
「ほんと? 嬉しいなあ」
フェイくんは学校に通ってない組だから日中に会うことも多いからね。自惚れじゃなかったら好きだと思ってくれている。私もフェイくん大好きだから嬉しいよね。この前は太陽くんと三人でイナビカリ修練場で特訓したんだよ。久しぶりにやって楽しかった!
「……羨ましい。うちは…どうやってフェイと関わればいいかわからない」
黄名子ちゃんがそんな悩みを抱えていたなんて。びっくりして目が点となる。
黄名子ちゃんはサッカー部員のみんなと仲が良い。他校生で関わることが少なかった太陽くんとも旅を始める前から親しかった。それなのにフェイくんとはできない? フェイくんが未来人だから? 色々考えちゃうのかな?
「うちの役目はうちより真白さんの方が適任やんね……」
「役目?」
……サッカーのこと? エルドラドとの試合? 出場していいの? 許可が出た? 大人だから我慢していたけど試合をしている子どもが代わってくれと頼んできたなら出ていいよね。鬼道くんも豪炎寺くんも大介さんも止めないよね。
「黄名子ちゃん」
いつまでも俯かない。
ガシッと頬を挟んで視線を無理矢理合わせる。不安げに揺れている瞳が私を正面から映す。
「私はいつだって試合に出れるよ。今すぐ出てって言われても問題ないよ。サッカーできる日は少なくなっちゃったけどそんなことを理由に怠けてない」
「え…?」
「いつだってどこだって問題ない。試合するなら絶対に勝つ。だから遠慮なく頼って構わない」
はっきりと断言する私に驚いているのか、黄名子ちゃんは面食らっている。
心配しないで。私はサッカーで誰にも負けたくない。相手が未来人だとかエルドラドだとか関係なく勝てる。だからね、ずっと秘めていた隠し事を打ち解けるような不安さを持つ必要はないの。
「それとね、黄名子ちゃん」
もう一つの悩みも悩む必要ないのよ。
「難しいこと考えないでフェイくんと関わっていいんだよ。黄名子ちゃんの感じるまま接していいの」
未来人でいつか別れの日が来るかもしれないとか未来人と仲良くして歴史に影響が出るとか考える必要はなしっ!
「黄名子ちゃんにとってもフェイくんにとってもそれが一番幸せだよ!」
ね!
「真白さん……」
仲良くなりたい人がいるなら仲良くしようよ。相手が過去の人だろうが未来の人だろうが関係ない。別れは寂しいけれどだからといって遠慮して距離を置いて過ごしている方が寂しいよ。
「うちがフェイと関わっていいのかなぁ……」
「いいに決まってるよ。ダメって言う人がいたら私に言って。戦うから」
私は黄名子ちゃんを応援するから。
ぶんっと拳を突き出すと黄名子ちゃんは「戦うのはダメやんね。また怒られちゃうよ」と控えめに笑った。鬼道くんのことを言っているのだろうか。いいもん。可愛い後輩が困っていたら力になるのが先輩だからね。鬼道くんなんて怖くない!
「でも……ありがとう」
ぴたりと腕にくっつく黄名子ちゃんの表情は見えない。
「うち、真白さんに出会えてよかった」
今日の黄名子ちゃんはいつもと様子が違う。だから何度も以前に豪炎寺くんから聞いたことを思い出す。
「……真白さんにお願いがあるの」
私は黄名子ちゃんを可愛い後輩だと思っている。サッカーに真摯に向き合い努力を怠らない実力のある選手。たくさん話しかけてくれていて慕ってくれているんだろうと思っている。でも思い返すと話した内容を覚えていない。いつ話したかも記憶にない。新雲のコーチに就任した時も黄名子ちゃんの対策をした覚えはない。ゴッドエデンにも来ていたはずだけど捕まったのか選手として試合に出ていたかも定かではない。
「うちと一緒にフェイのこと見守って」
『菜花黄名子はパラドックス……サッカー禁止令以前まではいなかった存在だ』
なんでそんなことを言うのかな。
聞きたかったけど「お願い」と押し殺した声に私は黄名子ちゃんの頭を撫でながら「うん」としか言えなかった。
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