静かな独占欲

ミニゲームが終わり、私たちは坂本龍馬の隠れ家にいた。坂本龍馬はどこかに行ってしまい、沖田総司はきっと新撰組屯所に戻ったのだろう。どうしたものか。私はミニゲームが終わってからずっと同じことを考えている。

負けちゃったなあ。偉人には興味ないからどっちが勝とうが最初は良かったけど知り合っちゃったから坂本龍馬より沖田総司に勝って欲しかった。だからといって雷門が負けるのは許せないんだけど。なんでエルドラドを頼っちゃったの? あーっと…名前忘れた。あの人がキャプテンやってるチームなら実力はあるけど頼っちゃダメだよ。チームでサッカーしたかったら私が一緒にしたのに。雷門生徒がまだ残っていたんだから、キーパーがいない問題さえ解決すればミニゲームできたよ。なんで私じゃなくてエルドラドと組んじゃったかなあ。私だったら勝てたのに。それと病気。治ってないじゃん。今は大丈夫じゃないじゃん。反動がすごかったじゃん。『次は俺の番だな。何をすればいい、ゴホッ』だよ。話し最中に体調不良になったからびっくりしたよ。肝が冷え切ったよ。何も言えなかった。ただ咳き込む沖田総司を見てることしかできなかった。


「姉さん」


乱入してエルドラドを追い出せばよかったとか沖田総司にサッカーを教えたこととかぐるぐると悩んでいると朝陽が隣に座る。「はい」と持っている団子を私に差し出した。


「わ〜ありがとう」


いっぱいある。どれにしよっかな。みたらしもらおう。


「どうしたの?」

「来る途中もらったんだ」


もぐもぐと咀嚼してごくり。沖田総司についていろいろ考えてたから知らなかった。太陽くんに「真白さん、こっち」「ぶつかるよ」「……どうかした?」ととっても話しかけられたのはわかってるんだけどな。


「……あのさ」

「ん?」

「……やっぱなんでもない。菜花さんたちに渡してくるね」


もしかして一番に選んじゃった? 大人なのにいいのか? 子ども優先だったか? 食べちゃったから仕方ないね。
全員分はないようで女子だけに渡して、「ほんっとモテるな」と水鳥ちゃんに話しかけられている朝陽の腕には私がいない時にできたアザがある。沖田総司といろいろあったようだけど、わざと峰打ちにされたって朝陽は言ってたし沖田総司も試合後に朝陽に謝っていた。本人たちはカラッとしているから私がとやかく言うことではない。そうだよなー沖田総司はなー。試合後にミキシトランスするチャンスがあったんだけどワンダバくんに今はできないだろ! って反対されたからチャンスを逃してしまった。サッカー教えたのは楽しかったけど。たった少しの時間教えただけなのに経験者と同じ動きができるなんて大したものだ。私の動きをトレースしたようだけど、沖田総司にとって最良の見本は私じゃない。タイプが違う。沖田総司の最大の力を出すには私を見本にしちゃダメだ。誰がいいかなぁ。時間があったら大介さんに相談してみよう。


「真白さん、すみません。今少しいいですか?」

「京介くん。大丈夫だよ」


京介くんは「失礼します」と隣に腰を下ろす。団子食べる? 食べかけだけど、と京介くんへ串を傾けたが断られた。そっかあ。全部食べちゃおう。


「……真白さんは沖田総司についてどう思いましたか?」

「え? えー…んー……どうねぇ…」


どうかぁ。どうって言われたら…律儀な人? サッカー教えるからミキシマックスをよろしくっていう約束を私が坂本龍馬側にいたにも関わらず守ろうとした。朝陽に刀を振るったようだけど峰打ちってことは傷つけるつもりはない。あたり構わずではなく区別をつけている。信条がある人? なんだろうなぁ。


「……少しだけ、兄さんに似ていませんか?」

「優一くん?」

「沖田総司が兄さんと重なって見えたんです」


京介くん曰く、何かをやりたくても身体が万全ではない、絶望の淵にいながら決して諦めずに戦う姿が似ていたそうだ。
優一くんは足の怪我でサッカーができなくなった。それでもずっと諦めないで心が折れることなくリハビリを続けている。沖田総司は病気を患っている。歴史通りだと治ることのない病気。動くことは苦しいはずなのに国のために戦っている。
私は沖田総司がサッカーをして万全な体調じゃないとわかった時から一之瀬くんを少し思い浮かべていた。それと太陽くんも。一之瀬くんと太陽くん、そして優一くんと沖田総司も怪我や病気に屈することはない。いつ治るかわからない、沖田総司に至ってはもう治らないとわかっている怪我や病気を患うってことはどういう気持ちなんだろう。私も日常生活に影響する怪我をしてサッカーができなくなって辛かったことはあるけどそれは数ヶ月我慢すれば絶対に治るよって保証されていた。本当の意味で彼らの気持ちはわかりはしない。


「……辛いね」

「……はい」


私は病人にサッカーを教えた。その結果沖田総司はサッカーができるようになってしまった。私がしてしまった。
どうでもいい人なら病気でサッカーをしようが何とも思わない。普通にやって勝ってやる。でもこれから先も一緒にいたい人とは完治するまでしたくない。だから太陽くんとサッカーするのは完治してからだった。無茶して悪化させたくなかったから。だけど沖田総司は若くして死ぬ。完治はしない。じゃあ好きなことを好きな風にやらせてあげるべきなのだろうか。私だったら止めてほしくない。でも咳き込む沖田総司を見て何とも思わなくはなかった。

本当にどうすればよかったんだろう。答えがわからない。









「……少しいい?」


その後も京介くんと話していた。私が沖田総司と会ってからみんなと合流するまで何をしていたか聞かれたので話していると今度はフェイくんに話しかけられる。「どーぞ」とにこやかに承諾したのにフェイくんは困ったように唇を結ぶ。ありゃ? だめでーすときっばりと断るべきだったかな。


「だめの方がよかった?」

「あっ、やっぱり剣城がいない時の方がいい?」


京介くん?

いてもいなくても私はどっちでもいいけど。京介くんに聞かれたくない話があるのかな? どっちの方がいいんだろう。京介くんの横顔はいつもと同じで心当たりはなさそうだ。


「フェイくんが決めてよ」


私も京介くんも思い当たる節はないから。
フェイくんは困惑していたけど私と京介くんに動く気配はないからか、隣に座ることにしたようだ。緑色のツインテールがぴょこぴょこと動いていて動物みたいだなぁとかちょっと思っちゃった。


「……真白さん」

「なあに?」


フェイくんは不安げな表情を私に向けて唇をキュッと結んだ、かと思いきや視線を落とす。「手に触っていい…?」と絹糸のようにか細い声に「いいよ」と前に出すとフェイくんは触れる。生まれたての赤ん坊に触れるような優しい触れ方。


「っえ?」


フェイくんの目的はわからないけど自由にさせていると腕を後ろから引っ張られた。薄いガラスの作り物に触れるようなフェイくんの触れ方ではそれだけでするりと私の手から外れる。


「どうした?」

「……なんでもないです。すみません」

「そう?」


あーびっくりしたよ。手はまだいるかな? 体勢を元に戻して驚いているフェイくんの前に両手を出す。なぜか固まっていたフェイくんは少ししてから私に視線を戻して「もう大丈夫!」と手に触れることはなかった。そして私に近づいて声を潜める。


「怪我してたよね…?」


フェイくんは私が一人でいた時に怪我をしたことを知っている。大したことはなかったけど流血していた怪我は数十分で完治しない。でも完治したのだ。見る影もないほどきれいにさっぱりと消えている。これは私も雷門のミニゲームを見ている時に気づいたのだ。


「してたけど治ったね」


フェイくんが潜めてくれたのが意味ない平然とした声で私は返す。ほら、と手のひらを向けたがさっきたくさん見たからもう見る必要ないかっ。


「……………………よかった」


フェイくんは息を吐いて表情を緩めた。心配させちゃってたみたい。みんなと合流する直前にフェイくんは目を覚ましたけど、怪我について話す前に試合の観戦をしちゃったのがいけなかったな。「ありがとう」と緑色の髪の毛に手を伸ばすとフェイくんはふにゃりと口元を緩めた。

話すべきだったな。話すべきだったと言えばもう一つ。


「私もしかしたらさっきフェイくんの知り合いに会ったかも」

「え?」

「洋服でね、でもエルドラドじゃないんだって。名前は言わなかったんだけど……なんとかかんとかってやつでフェイくん達と同い年ぐらいの男の子」


言い忘れるところだったよ。幕末まで会いに来たのにフェイくんは気絶していて会えなかったのに存在まで教えられてなかったら悲しいよね。
「それいつ頃のことですか?」「みんながミニゲームしている時か直前ぐらい」「エルドラドでは?」「違うって言ってたんだけどなあ」と京介くんが予想してくれているがフェイくんは黙って考えている。


「ワンダバに聞いてみる」


未来から来た人ってのは間違いない。フェイくんは立ち上がってワンダバくんの元に行く。「情報が何もないんだが!?」とか聞こえたけどいっぱい伝えたよ。


「……フェイや雨宮と親しいですね」

「うん? んー…そうだね。仲良しだよ」

「…………真白さん」


──────────。


低く抑えた声で耳打ちした京介くんは私が何かを喋る前に去っていく。

………あらまあ。


「可愛いなぁ」


朝陽もそうだけど最近の中学生って大人をちゃんと慕ってくれて素直でとても可愛い。私とは大違いだ。

フェイや雨宮とばっかり仲良くしないでください

だって。
とっても可愛いなぁと私は膝を伸ばして破顔したのだ。

|
INDEX
×
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -