瓜二つな初心者

坂本龍馬班の面々が坂本龍馬にサッカーを教えていると闖入者が現れて坂本龍馬に襲いかかった。正体は新撰組一番隊隊長沖田総司。刀を持って襲いかかって来たが錦や朝陽が庇ったり追いついた沖田班の剣城がサッカーボールを沖田の手に当てたことで殺伐な争いは中断したが、ザナーク・ドメインが関わっていたことでサッカーで対決することになってしまった。5vs.5のミニゲーム。沖田総司とザナーク・ドメインの関係は沖田班でもわからないけれど、ミニゲームだとしてもエルドラドが関わっている以上勝たないとならない。
坂本龍馬班は坂本龍馬を発見してすぐに一度ザナーク・ドメインとミニゲームをしているため二度目となるが今回は坂本龍馬を味方として、沖田総司を敵としてフィールドに立つ。そのため雷門の残りのメンバーはミキシマックス候補者の錦 剣城、キーパーの信助、そして天馬となった。朝陽は今回見送り。だからフィールドの外から試合を眺めていた。


「(…………は?)」


そして始まってすぐに呆気に取られる。一緒に眺めている雷門イレブンも同じく驚いているが、彼らが驚いているのは沖田総司は病人のはずなのにそれを感じさせない上手なプレーをしているからだ。それもびっくりな出来事。でも朝陽にはそれ以上に言葉が出てこない衝撃があった。


「……なぁ朝陽…似てないか?」

「似てるってより…一緒じゃね」

「……そうだな」


神童も気づいたようだ。さすが朝陽に次いで一緒にサッカーをした時間が多いチームメイト。たった数分の少しのプレーだけでわかっている。
沖田のプレースタイルがある人に似ている。度々ある人が重なる。いや、間違えた。度々重ならないだ。大部分が同じ。パスの受け取り方はそっくり。ドリブルして坂本龍馬を抜く。それは完全に思い浮かべている人のフォームと一致した。


「ありゃ、始まっちゃってるね」


そう、この声の持ち主に。

「真白さん!」と目を見開いた太陽に続き、次々がやってくる真白を発見する。「ほうほう。やっぱりユニフォームの方がやりやすいよね」と試合を眺めながらやってくる真白は好奇心あふれる面持ちをしている。みんなして心配していたのは杞憂で済む能天気さだ。一番取り乱していた朝陽は胸を撫で下ろす。

無事だ。見つかった。危ないことに巻き込まれてなかった。よかった。


「フェイ、見つけてくれたんだな。ありがとう」

「…………………」

「フェイ? どうしたの?」

「……へ? あ、うん」


フェイも先ほどまでいなかったのだが、それは新撰組の屯所で大きな音がした時に気になるから先に行っててと分かれただけで真白と違って迷子ではない。「急にみんないなくなっててびっくりしたよ。どこ行ってたの?」と迷子の自覚がない真白とは違う。だからフェイに関しては心配していなかったが、なぜだろう。真白と一緒に来たフェイはどこかぼんやりとしている。霧野や黄名子が声をかけているが首を横に振り、試合について説明を求めた。


「朝陽たちもいるじゃん。坂本龍馬はどこ?」

「あの人だよ。沖田総司はあの人」

「へぇ…」


真白も状況は飲み込めてないようで太陽が説明をしている。朝陽は意識的に息を吐いて試合に視線を戻した。もう一度よく観察してもやっぱり同じ。真白がいなかった時は心配のあまり心に余裕がなくて重ねていた可能性はない。日を置いても同じことを思う。


「……坂本龍馬の動き素人じゃないよね。教えた?」

「そうみたい。天馬たちと一緒にやってたみたいだよ」

「だからユニフォーム……。着替えれたのか。いいな」


試合はまだどちらも0点。沖田総司も坂本龍馬も素人とは思えない動きをする。それでも坂本龍馬は雷門中やザナーク・ドメインの実力にまだついていけない。しかし沖田総司は同等。それに関して真白は何を思うのか。じっと試合を眺めている。


「沖田総司のチームメイトってエルドラド?」

「うん。キャプテンはあそこにいる」


沖田総司のチームメイトは見たことがない。だから真白は誰なのかずっと考えていたのだが、天馬が抜かれた。天馬が抜かれる実力者で合点がいったのだろう。太陽は真白がまだエルドラドと会ったことないことを思い出して丁寧に教える。試合に出ていないキャプテンもきちんと教えてあげると「なるほどねぇ」と真白の目がスッと細んだ。何がなるほどなのか朝陽にはわからなかったが口を挟むことはない。それよりも沖田総司のプレーだ。坂本龍馬との1on1。勝敗は沖田総司に上がる。今のフォームは完全に姉と一緒。姉のプレーがインプットされているのではないかと疑う沖田総司のサッカーに朝陽と神童以外も気づき始めている。つい最近扱かれた影山は「(……あれ? どこかで……)」と首を傾げている。念願叶って先日一緒にサッカーができた太陽も「(今の……。真白さん反応してないから偶然…?)」と思案している。フィールドで沖田総司と対峙して真白と一緒にサッカーをしたことがある剣城と天馬はもうわかっているだろう。『なぜっ』とか『なんで!?』とか表情に出ている。やりづらそうだ。


「沖田総司がエルドラドについている理由はよくわかっていないけど…ザナークは沖田総司に力を与えたって言ってた」

「力?」

「うん。サッカーで勝負させるためにけしかけたんだと思う。……病気が嘘のような動きだよね」

「今は大丈夫なんだって」

「え?」


…………え?

太陽は間違ってない。朝陽も同じことを感じた。
今は大丈夫なんだって。それはまるで誰かから聞いたかのような言い方。その誰かはもちろん雷門イレブンではない。じゃあ誰に?


「(……姉さん、沖田総司については一度も聞いてきてねぇな)」


会話を思い返すと真白が太陽に聞いていたのは坂本龍馬のことばかりだ。太陽が親切心で沖田総司についても教えていたので二人について聞いていると思っていたけど、真白が聞いていたのは坂本龍馬だけ。真白と酷似を通り越してそっくりの動きをしている沖田総司は完全にスルー。


「(もしかして……)」


一つストーリーが出来上がった。これなら沖田総司が真白のプレーにそっくりなのに説明がつく。


「姉さん」


おでこに触れてあれ? と首を傾げ手を見つめている真白に朝陽は尋ねる。間違っていて欲しいなと思いながら。


「ここに来るまでに沖田総司と会ってた?」

「うん」

「沖田総司にサッカー教えたりした?」

「うん」


悪気ない肯定だ。しんと静まり返ったギャラリーだが、朝陽だけは「そっか」と涼しげに微笑んだ。

円堂大介が目をつけザナークが力を貸して真白が一から叩きこんだ選手はエルドラドの仲間となっている。それはサッカーを取り戻したい雷門イレブンにとって最悪な状況。


「何やっているんだーー!!」


「よくわかったね。見てた?」「ううん、動きがそっくりだから」「うそっ。ほんとだ。あれ? 朝陽、腕どうしたの? 赤いよ」「刀の峰が当たった」「なんで?」「沖田総司が坂本龍馬を斬りかかろうとしたから間に入って逃がそうとして失敗した。まぁ峰だしなんともないよ」「あぶねーことしてるなぁ」と朝陽と話していた真白は思わず耳を塞ぐ。いち早く我に返ったワンダバの耳がキーンとなるほどの大声に次々と正気に戻っていく。


「沖田総司はエルドラドについているんだぞ!」

「知らなかったよ」

「知らなかったで済むか!!」

「済まないの?」


良かれと思って教えたのに叱咤される。「済まねぇよ」とボソリとヤジが入ったが「狩屋くん!」と口元に人差し指を立てた影山のおかげでそれ以上広がることはない。


「なぜそうなった!」

「たまたま沖田総司に会ってミキシマックスを頼んだらサッカーを教えてくれたらいいよってなった」


私とってもナイスなことしてるでしょう? と伝わってくるにこやかな笑みで真白はグッドサインを出す。「うっぐっ……それならいいか…?」と悩ましげに腕を組んだワンダバに「ちゃんと説明できてないから後は頼んだよ」と真白は補足を入れたがこれにも唸るだけ。ミキシマックスの了承を得れたことは嬉しいことだが、代償に強敵を育てられた。喜ばしいことなのか嘆かわしいことなのかわからない。試合はいまだに両チーム無得点のままなのだから。


「(よく同じ動きができるなあ)」


ワンダバに任せることができた真白は自分と同じフォームだと言われている沖田を見る。オフェンスもディフェンスも大部分がそっくり。言われるまで気づかなかった。
確かにサッカーを教えたのは真白だ。サッカーを知らない沖田総司にとって見本が真白しかなかったから真白を真似るしかなかったとしても同じすぎる。例え一緒の動きを心がけても違くなってしまうもなのなのに。プロ選手のフォームを一時間も教わることなく真似ることができる初心者はこの世にどれだけいるのだろうか。思わず口角が上がってしまう。


「(でもなあ…)」


試合を観ていると同じ組み合わせばっかり目にする。攻めと守りはその時によって変わるけど、沖田総司と坂本龍馬の組み合わせをたくさん観る。なぜかは明々白々。沖田総司が攻めでも守りでも坂本龍馬に突っ込んでいくからだ。
練習していた時は冷静で周りが見えていたのに今は坂本龍馬しか見えてない。坂本龍馬に固執している。倒したくて倒したくてたまらないと伝わってくるプレーに真白は考え込む。

熱くなりすぎだ。


「このままじゃ埒があかない」


両チーム無失点の試合は勝敗はつかない。エルドラドが関わっている以上絶対に負けるわけにはいかないんだ。
霧野が悩んでいるのがわかった狩屋は元凶の一人に話しかける。


「どうするんですか? 真白さん」

「え?」

「沖田総司をああしたのアンタでしょ」


ああした。
真白は黙り込む。責められてどうすればいいのかわからなくて申し訳ないっていった表情は微塵もない。黙々と考えて、少ししてぱあっと明るく笑った。


「そこまで言われちゃ仕方ない。試合出るか!」

「それ以外で」

「えー…」


許可が出たから大暴れしようとしたのに却下され真白は一気に落胆する。他の方法? エルドラドを追い出して代わりに沖田総司のチームメイトに雷門がなるって方法は考えたけどできないだろうから口に出す前に諦めた。


「アドバイスとかありませんか?」


相談を持ちかけている相手はプロだ。突破口を開いてくれる可能性は大きい。霧野の一言で真白の思考は変転する。
アドバイス。それなら簡単だ。顕著となっている弱点を攻めればいい。


「勝ちたいならあそこを狙えばいい」


真白が指したのはボールがラインを割る直前まで攻防していた場所。実力者勢揃いのミニゲームで唯一初心者の二人。


「沖田総司と坂本龍馬…?」

「沖田総司ってディフェンスでもオフェンスでも絶対坂本龍馬に突っ込んで行くから。狙う場所がわかっていれば取れるでしょ」


たった数分のミニゲームで坂本龍馬と沖田総司の1on1を何度見ただろうか。数えきれないほどの攻防はポジションの関係で起こっているわけではない。沖田総司の執念とも呼べるしつこさで故意的に起きている。
攻略は簡単。でも実行できるだろうか。沖田総司は円堂大介が見出してザナークが力を与え真白が一から教えた選手。プロである真白と同じフォームでサッカーをする相手に本当に対処できるだろうか。 

───本当に全く同じか?

沖田総司は素人だ。どれだけ力を与えられ教えられたからって一日でプロと全く同じことはできないはず。同じフォームだとしてもキレが違う。決断の早さも違う。突き入る隙は必ずある。


「ありがとうございます」


狙う箇所はわかった。じゃあどのようにして弱点をつくか。霧野が考えているとフェイが「いい案がある」と提案してきてくれたので採用させてもらった。フェイに選手たちに伝えてきてもらい試合は再開する。真白の目のつけた箇所でフェイの作戦は上手くいき、そのまま雷門に一点が入ってミニゲームは終了。


「……終わり」


ミニゲームは雷門の勝利で終わった。サッカーと円堂を取り戻したい真白にとって喜ばしい結果。それは揺るぎない事実。


「……もっと冷静だったらなぁ」


なのに悔しいと思ってしまうのはサッカーを教えてしまったからなのだろう。

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