愛を乞う者よ

沖田総司の後を追うため外に出たのだがすぐに立ち止まることになった。
沖田総司ってどこにいるの?


「真白さん!」


右か左かそれとも道に沿わずに斜めか考えていると呼ばれる。


「フェイくん」


呼んだのはフェイくんで、フェイくんに顔を向けると「いてよかっ、!!」と目を見開かせた。一人ってことはフェイくんも逸れちゃったのかな。まぁそれは今はいい。一人と一人で二人になっただけでまだみんながどうしているかはわからないけれどその問題は後回しでいいんだ。



「沖田総司どこに行ったか見てない?」


と言われても外見がわからないか。えーっとね、と見た目を思い出しながら説明していく。今はみんながまだ散り散りになっていることより坂本龍馬にサッカーを挑みにいった沖田総司を優先しなきゃだよね。ありゃ? 違う?



「真白さん、」

「見た?」

「おでこ、どうしたの…?」


……おでこ。触れるとぬるりとして赤い液体がついていた。血だ。なんで?


「手もけがして、」

「……あー、あれか」


フェイくんが手を指摘してくれたからおでこの原因も見当がついた。エルドラドの下っ端が顔面に蹴り込んできた時のやつだ。ヘディングできちんと受け止めることはできたけど怪我してたんだ。


「大きな音もしたけど何かあったの…? もしかしてザナークと…!」


大きな音ねぇ。怪我した時のやつだよな。
呑気に納得した私に対してフェイくんはとてととても心配してくるのが伝わる表情をしている。声もちょっと上擦ってる。一歩間違えたら泣き出しそうだ。


「ちょっとガーッンってなっただけ」


ダーッンかもしれないけどそんなことより沖田総司と坂本龍馬だ。エルドラドが関わっているサッカー勝負だからまずいんだよね? 止めないとなんだっけ? 早く行かないと。楽しくサッカーしていたらいいんだけど。……沖田総司と坂本龍馬のサッカーだよね。沖田総司は飲み込みが近来類を見ないほど早かったし坂本龍馬も大介さんに選ばれるほどの可能性を持っている……。……早く見つけて混ざらないと!


「沖田総司の行き先は…」


だから私の怪我はどうでも良かった。いずれ止まるもの。おでこも手もおそらく擦りむいた膝も軽傷。忘れ去っていいやつだ。フェイくんは見かけてないから勘で探すしかない。早く行かないと終わる。混ざれない。


「……僕はいらない?」

「………………え?」


フェイくんは俯いている。ぎゅっと拳を握っている。


「だから何も言わないし…いなくなったの……?」


言っている意味がわからない。

フェイくんがいらない? そんなことはない。フェイくんがいないと私たちは守やサッカーを取り戻すことができない。幕末から帰ることも………ワンダバくんがいればできるな。ワンダバくんがいれば時空を移動することはできるから守もサッカーも取り戻してくれるや。

じゃないじゃない。えーっと、フェイくんがいらない? だからいなくなった? うーっんとえーっと。


「違うよ」


意味はまだ理解できてないけど小刻みに震えているフェイくんを見てしまったら考えるより先に言わなきゃだった。


「いらなくなんかないよ」

「っっ!」


ぎゅっと抱き寄せるとフェイくんの肩はビクリと揺れた。恐る恐る真っ直ぐと下ろしていた腕を曲げて私の腕に触れる。冷たい手だ。
どうしてその結論に至ったかは私にはわからない。でも泣いているのはわかっている。怯えているのもわかっている。


「……どうしていなくなったの?」

「なんでだろうね。気がついたらみんないなかった。迷子かなあ? 後でみんな探しに行かないとだね」

「みんなの居場所わかるよ」

「合流できたんだね」

「ずっと一緒だった」

「あれ?」


もしかして私が逸れたのか? 保護者として来ている私が? 沖田総司を一番に見つけたのに? でも今フェイくん一人じゃん。どういうこと?


「……怪我は?」

「……………………っ着地に失敗して……ヘディングに……成功したけど怪我した」


とても悔しいことを伝えてしまった。着地は私のミスだ。とてもとても悔しいけれど着地はまだ知られてもいい。まだね! おでこは力負………………同じぐらい! 私と同じぐらいのパワーでボールを蹴れる選手に完全勝利できなかった証拠。とてもとても悔しいっ。


「……そっか。痛い?」

「悔しい」


今すぐ練習したい。次は完璧に止める。でも相手はエルドラドか…。対戦できる機会はあるか? どこにいるかわからないから沖田総司の所に行けないし今から戻って勝負してこよっかな。その方が沖田総司とも合流しやすい。


「あ、ごめん」


フェイくんが私の肩に触れて押していた。いつまでも抱きしめてちゃダメだったね。ごめんね。
少しは落ち着いたかな? まだ俯いているフェイくんの表情を確認しようとしゃがんで覗き込む。


「フェイくん?」


影で表情は確認できない。話しかけても無言。どんな様子なのかな? わからない。
時間も経ち、もう沖田総司に追いつけないから急ぐ必要はない。沖田総司と坂本龍馬と一緒にサッカーやるのは諦める。……諦める! 新撰組の拠点から10メートルも離れてないこの辺なら戻ってきたら気づいてくれる。フェイくんが落ち着くまではあんまり動かない方がいいよね。休める所あるかな。


「いたっ」

「……………………」


きょろきょろと探しているとおでこに痛みが走る。フェイくんの手が私の出血部位に触れていた。痛い。やめてもらおう、って。


「えっ」


光った! フェイくんの手が光った!
驚きのあまり口が開きっぱなしになる。今の何!?
目をごしごしと擦ってもう一度確認。私のおでこに触れているフェイくんの手は光っていなかった。


「手も……」


見間違いだったのだろう。びっくりして、そして腑に落ちた私に構わずフェイくんは私の手に触れる。包み込むように触れて……


「光った」


見間違いじゃなかった。やっぱりフェイくんの手が発生源だ。


「たぶん…もう、だいじょ、ぶ」

「フェイくん!?」


言い切る前にフェイくんはぐらりと傾いた。近くにいたから地面に伏せる前に受け止めれて怪我はしてないけど大変なことになっている。声をかけても反応はない。目を閉じていてぐったりとしている。脈拍は正常。顔色は白い。血の気がない。

持病? 一日に二人も重症者が判明するってどういうことよ。沖田総司が元気になっらフェイくんが体調不良。移った?
わからないけれど道端にいつまでもいても治らない。キャラバン……どこにあるかわからない。……新撰組は……。


「意識失ったんだ」


エルドラドに貸しは作りたくない。だから近場にある新撰組には頼めなくて、頼んだところで受け入れてくれるかはわからなく決めかねていた私の背後から声がした。誰だ。振り返って姿を確認し、私は伸びてきていた腕を払い落とす。


「うわっ、なに?」

「……それは私のセリフだ」


逆立った真っ白な髪の少年。これだけなら警戒する必要はない。おかしいのは少年の服装と身につけている装飾品。和服ではなく洋服。真っ黒な服で手足の肌を隠していてオレンジ色の膝上丈のワンピースみたいな服。白いグローブにゴーグル。腰につけているベルトはフェイくんがつけているのとそっくり。


「エルドラドが何の用」

「違うよ。おじさんたちの仲間に間違われるなんて心外だなあ」


違う? 嘘だろ。タイムトラベルができるのはフェイくんの時代の人間。つまりエルドラドだ。
警戒心を保ったまま私は少年を威圧的に見上げる。フェイくんが動けないことをいいことに怪我をさせようとでもしたんだろうけどさせない。


「キミ、大人なのにフェイを守ろうとするんだ」


少年は人懐っこい笑みでしゃがんでフェイくんにまた手を伸ばす。させない。手首を掴んで止めると少年はわざとらしく息を吐いた。


「危害は加えない」


…………あれ?


「………わかった」


ゴーグルのせいで顔はわからないけれど今の口元に見覚えがある。だから危害を加えないのは本当のことだと信じさせられた。離すと少年はフェイくんの頭に触れる。優しく労わるような手つき。


「フェイが力を使うとは思わなかった。覚えてないのに」


ゴーグルしているせいで全然表情が読めない。鬼道くんと同じだ。鬼道くんは仲良しだからなんとなくわかるけれど、初対面の人に顔を半分も隠されると何を考えているのかわからない。


「……エルドラドなのにフェイくんを始末しようとしないんだ」

「エルドラドじゃないからね。僕は……キミにわざわざ伝える理由はないな。……けどフェイが力を使う相手か…」


エルドラドじゃないと断言して少年はぶつぶつ呟いていた。エルドラドじゃない? じゃあ誰。否定されると生まれる疑問を私は私で考えていると少年は考えがまとまったようだ。片手をフェイくんの頭に、もう片手を私の頬に置く。


「僕はセカンドステージチルドレンの一人」

「……セカンドステージ、チルドレン……」


どこかで聞いた言葉だ。どこだっけ?
なぜか顔を背けることができなかった。少年はにっこり口もとを描く。下で先ほど見たような不思議な光が一瞬また見えた。


「はい。終わり」

「……何が」

「なんでもないよ」


「フェイはもう無事だからお仲間と合流しなよ。あっちにいるから」となぜか少年に催促されて私はフェイくんの背中と膝裏に腕を回して立ち上がる。おんぶよりこちらの方が早く抱えれた。
あ、無理。落としそう。違うのフェイくんが重いというわけではない。ただ私の筋肉が少し鈍ってしまっただけだ。
ぷるぷると腕を震えさせていると少年がため息をついて立ち上がり私のおでこに指を置く。


「おまけだから」


とんっと軽く押された。いたずらをされた。なんだこの子。


「キミはフェイが上辺ではなく本当に心を許すほどの大人なのかな?」


移動前にフェイくんの様子をもう一度確認するために視線を下ろすと白かった顔に赤みが戻っていた。よかった。これなら今すぐ休ませなくてみんなと合流しても大丈夫。みんながいるのは少年曰く……この少年結局誰?


「君は誰?」

「セカンドステージチルドレンの一人。エルドラドじゃない」

「長い名前」

「名前じゃないから」

「そうなんだ」


また名乗られたから名前かと思ったのに。セカンド…….ほにゃらら。二回も名乗ったのに覚えてない。
じゃあこの子誰? フェイくんを心配するような関係の人だろうから……。


「フェイくんの友達?」

「違うよ、僕はフェイの理解者」


兄弟? それならそう名乗るよね。フェイくん前に一人ぼっちみたいなこと言ってたから違うかな。


「ねぇ、これ、怖くない?」


これ? 首を傾けると少年の手が幻想的な緑色に光る。さっきのフェイくんの手と同じ色。同じ場所から同じ色。なるほど。


「べつに」

「なんで?」

「なんでって……えー……」


聞かれると説明できない。フェイくんも少年もできるってことは未来じゃ当たり前のことなんだよね。私たちにとって手足を動かすのと同じ。それを怖いか怖くないかで測るのは違う。タイムトラベルとかと同じ類いだから……


「すごい」

「は?」

「怖いじゃなくてすごい」


誰が発明したかは知らないけど、すっごい事を成し遂げた。うん、すごいだ。偉大。 



「……ふーん。キミ、あの大人たちと少し違うのかな。まぁいいや。行きなよ」

「うん。じゃーね」


合流したら沖田総司のこと話さなきゃ。すたすたと歩き出した私は「……じゃあね?」と疑問符が乱舞していた少年を知らない。フェイくんを軽々持てていることも気づかない。


「……確か…真白って言ってたかな」


おでこと手が痛まないことも気が付かずみんなとの合流を目指していた。

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