タイムジャンプの心構え

『真白さんは行かないの?』とか『一緒に行きたいな』とか『神童さんやワンダバやフェイくんに相談したら大丈夫だって』とか『天馬や信助くんも賛成してるよ』って太陽くんに毎日のように誘われていて、そのことを知った大介さんにも軽い口調でお誘いされ、朝陽にまで『雨宮うるさいから一度だけでもどう?』って誘われたので一度ぐらいならと軽い気持ちで次のタイムジャンプに同行することを決めた二日後、鬼道くんから会えないかって誘われたので雷雷軒で会うことになった。


「はろー飛鷹くん。あれ、鬼道くん早いね」


待ち合わせ時間の前だってのに私が雷雷軒に入ると鬼道くんはもういて飛鷹くんとお喋りしていた。「こんにちは天雷さん」と私の来店に話題は途切れ、気にすることなく私は鬼道くんの隣に座って醤油ラーメンを注文した。


「最近風丸と壁山と一緒に来たんだってな」

「うん。今私たち集まりやすいんだよ」

「…………………そうか」


とっても微妙な『そうか』だった。この会話前にもした気がする。あれ? しなかったっけ? サッカー禁止令が実行されてからサッカー関係の仕事を日本で主にしている人は暇だからね。豪炎寺くんは後処理とかでとても忙しそうだけれども、プロ選手であった私たちは練習ができなくなって一気に暇になったよ。すっごい集まりやすい。ここ最近たくさん会ってる。不幸中の幸いってやつなのかな。緑川くんだったらそう言ってくれるかも。半田くんには落ち着いたら職探ししろよって言われた。絶対しないって言い返した。だってサッカー禁止令は無くなるからね!


「今日はどうしたの?」

「今度雷門に同行するって聞いたが事実か?」


誰が鬼道くんに伝えたかはわからないけれど、伝わるの早いなぁ。「うん」と頷いたけれど鬼道くんはあんまり驚かない。確かなソースからの情報だけれど念の為の確認って感じ?


「誘われたから行くことにした」

「……そうか」


鬼道くんには私を誘う人の心当たりがないようで、ちょっと考えている。だんまりで考えているので当然だが私は鬼道くんの考えていることがわからない。飛鷹くんがこの前雷門中のサッカー部の奴らが来てましたよ、と教えてくれたのでそのことについてお喋りしていた。食いっぷりがいいんだって。


「幕末に興味があるのか?」

「え、幕末? ないよ。なんで突然歴史」

「次の行き先は幕末だろ」

「そうなの? 私聞いてない」


次は幕末なんだ。今4の力まで終わったから幕末で5の力を手に入れるのかな。誰なんだろう。受け取る候補は誰なんだろう。
一緒に行くと決めたのに情報を持ってない私が鬼道くんには少し不可解だったようだ。じゃなぜ着いていくことにしたと聞かれた。それは誘われたから。そう答えると私は誘われただけで動くような人間じゃないんだって。身に覚えはないが、飛鷹くんは納得していた。そんなことないのに。


「私 太陽くんと結構仲いいんだよね」

「雨宮か…」

「今暇だし」

「……そうだな」


用事がない時に仲良し相手からお誘いされたら断ったりしない。それは鬼道くんや飛鷹くんに対しても同じ。幕末や歴史や過去に興味なく、好きな偉人もいない私が一緒にタイムトラベルをすることにしたのはそれが理由。


「それと」


そしてもう一つ。


「エルドラドに少し興味がある」


タイムジャンプ先で毎度のように会って試合をしているのなら次の行き先でも必ず出会える。


「それが理由だろ…」


最後の理由だけ淡々としていた私に鬼道くんはため息混じりでそう言った。

一度顔を見てみたいものだ。サッカーだけでなく、守まで奪ったエルドラドはどんな顔をしているのだろう。


「鬼道くんだってムカつくでしょ?」


サッカーも守もかけがえのない大切な存在だ。あっちの勝手で奪い取っていいものではない。今日まで黙って見守っていただけ褒めてほしいね。
鬼道くんはどうなの? 隣に座っている鬼道くんに流し目を送っても返事はない


「お待たせしました」

「ありがとう」


数秒だけ一切音がない不思議な時間が生まれたけど、机の上にラーメンが置かれたので私は真っ直ぐとなっていた口角を上げた。美味しそう! いただきますと手を合わせて箸を取った。


「今日も美味しいね!」

「ありがとうございます。今から俺ゴミを捨てに行きますが、気にせずごゆっくり食べててください。他に客もいないんで」

「はーい」


今日は雷雷軒にお客はいない。だから私と鬼道くんは平然とサッカーについて話していたのだ。サッカー禁止令が実行されてからも雷雷軒でならサッカーについて話せる。飛鷹くんになら聞かれても問題ないからね。それでもタイムジャンプとかのことは話していいのかわからないので話題にしたことはない。私や豪炎寺くん鬼道くんだけでなく、他の同世代にもちらほら知っている人がいるのは知っているけれど。私の判断で全て話して怒られたくないからあまり言わない。意識せずに言ってたことはよくあるけどなんでもない! で誤魔化してるから大丈夫。誤魔化せてないけどなって前に佐久間くんに言われだけど大丈夫! 誤魔化せてる!


「気を遣わせたな」

「そうなの?」


ゴミが溜まってたから捨てに行ったんじゃなくて、心遣いなの? あれ? 幕末に行くって言っちゃった。追及してこなかったから聞いてなかったんだね。それか戯言だとスルーしたかな? どちらにしてもよかった!


「……エルドラドはともかく、現地民には余計なことをするなよ」


もぐもぐとラーメンを食べて残り半分くらい、鬼道くんが話を戻した。それまでは無趣味で今暇で塗り絵を始めたからオススメある? ない。っていうお話をしてたのに。


「昔の日本は今とは違う。尾張では織田信長への反逆者として仕立て上げられかけたそうだ」

「危ね」


何をしたら反逆者になるんだろう。ワンダバくんが銃もどきを向けたんだって。今も銃を向けたら逮捕だよ。多分今の時代ならおもちゃで済むから逮捕はないか。それに逮捕であって処刑ではないからなぁ。


「間違えても現地民には殴りかかるな」

「エルドラドは?」

「ふらふらと消えたりするな」

「しないよ」


私はいくつだと思われてるんだ。まぁ今もたまに見知らぬ土地で気がついたら見知らぬところに一人でいることはあるけれど鬼道くんといる時はしたことがない。鬼道くんと親しい人がいるところでもしたことがない。ちょっと集団から逸れちゃっても誰かは一緒にいるからね。


「俺と豪炎寺は用があり一緒に行けない。お前のことを知る奴は誰もいない。くれぐれも逸れたり暴走したりするな」


鬼道くんって出発前の雷門中生にも同じことを言ってるのかな。帝国でも同じようなことを言いつけているのかな。

その後は次から次へと決まり事を言いつけられる。たくさんあった。鬼道くんの口が止まることはなかった。正直最初の方は覚えてない。わかったのは鬼道くんにとっては中学生より私の方が旅をさせたら危ない人だと思われているってこと。


「そんなことないって。私は迷子みたいな印象持ってるみたいだけど、鬼道くん私が迷子になったところ見たことないでしょ?」

「事前に予防しているからだ」

「私すぐに殴りかかったりしないよ」

「いや、昔からしてる。円堂への飛び蹴りや総帥への夜襲」

「片方は未遂だから。一人になっても平気だし」

「グランだった頃のヒロトに怪しむことなく着いていくほど危機感がない奴が何を言ってる」

「うぐっ。……今はそんなことない」


10年の付き合いはお互いいろいろを知っている。どれだけ反論しても全て撃沈してしまった。鬼道くんの長い“幕末における決まり事”は飛鷹くんがお店に戻ってくるまで続く。だから私はほとんど覚えないまま幕末に飛び立つこととなった。

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