11年前A

サッカー部に入部届けを出すことができた入学初日。共にサッカー部の一員となった円堂と秋と一緒に帰宅していた。無表情で。円堂に誘われなければ一人で帰っていた。誘われても断ろうとしたけれど、入学する少し前に風丸からチームメイトとは仲良くしろよと言われていたため一緒に帰宅している。マネージャーみたいだけど。そう心の中で吐き捨てて。


「俺、サッカー部ができたらいろいろとやりたいことがあるんだ。フットボールフロンティアっていう大会があって───」

「無駄だ」


円堂の声を遮った知らない声。
真白は顔を上げる。目の前にはお揃いのユニフォームを来た真白たちと同い年ぐらいの子どもたち、アルファ率いるプロトコルオメガが。


「雷門にサッカー部はできない」


アルファの淡々とした言葉に円堂は先ほどまで楽しげに大きな口を開いていたのが嘘のように静かになる。


「木野の知り合い?」

「私、知らない」

「じゃあ真白?」

「…………………」


真白は無言で観察していた。人数は11人。足元にあるのは見覚えのある大きさのボール。変なボタンもあるけれどほぼ毎日見ていた馴染みがあるボール。なんとなく目の前にいるのがどんな人たちか真白はわかってしまう。あのサイズのボールを11人一チームで行うスポーツなんて滅多にない。
真白の睨みはアルファに効かず、アルファは抑揚のない声で円堂に話しかけ続ける。


「サッカー部はできない。確実に」

「どうしてそう決めつけるんだ? わかんないだろ! サッカー部は作れるさ! 本当にサッカーが好きな奴らが集まれば!」

「サッカーが好きなやつなどいない」

「っ! いない……。……なにを言っているんだ。サッカーが好きなやつならいるさ! ここにな!」


円堂の言葉に真白も力強い目でアルファを凝視する。僕もだ。そういった様子で。
円堂のすることを否定するような言葉の数々。なぜ急にからんで来たのか、それが真白が無表情ながら考えていたことだ。誰一人会ったことのない顔ぶれ。集団は円堂だけでなく、たまに真白にも話しかけて来た。知り合いだとすると二人のうちのどちらか。でも円堂は知らないと言うし真白も記憶にはない。


「嫌いになる、まもなく」

「俺はサッカーを嫌いになんてならないぞ!」


円堂は自信持って告げる。円堂にとってサッカーは唯一祖父と繋ぐもの。真白と繋げてくれたもの。幼い頃からフットボールフロンティア優勝を目指して真白と風丸とサッカーをしてきた。大切なサッカーを嫌いになるわけがない。円堂には確証があった。楽しくてわくわくするもの。絶対に嫌いにはならない。

話し合いでは任務が遂行できないことをアルファは事前にわかっていた。これ以上の声がけは無駄だ。サッカーボールに付属しているボタンに足を乗せる。


「(………………上手いな)」


アルファはボールに足を乗せただけ、乗せただけだが相当強いプレイヤーだと真白には伝わって来た。上手な選手。久しぶりに出会った。
ほんの少しだけわくわくしたが、それはすぐに無くなる。


『ムーブモード』


ボールから音がした。アルファが青いボタンを押すと光が円堂やアルファたちを包む。もちろん真白も。

眩い青い光が収まった時にはそこには誰もいなかった。







ここどこ。

目を閉じる前まで僕がいたのは道路だった。どこだかわからないスタジアムじゃない。守も一緒にいる。

サッカーをやろうと知らない人が提案してきた。試合をしようって。
守が説明を求めても答えはない。僕だってわからない。家に帰ろうとしていたのになんでスタジアムにいるんだろう。説明してほしい。サッカーを否定する言葉の数々を口にした男たちはいったい何を考えているのだろう。

それに試合を受けてはいけない。守では彼らには敵わない。これは贔屓目なしでの平等な判断。守じゃ勝てない。いつも一緒に練習していたからこそ守の実力はわかっている。相手の実力は未知数だが…きっと上手。

一対一ならどうにかなるかも。二対二でもカバーをすれば勝てるかな。いろいろ考えを巡らせていると違う方向から声がした。


「円堂監督!」


はあ?
思わず眉間にシワが寄ってしまう。守が監督ってなに?
現れたのは茶色の髪の少しだけ学ランの色が違う雷門中生徒。知らない人。


「じゃなかった……円堂さん! 真白さん! そいつらはサッカーを消そうとしているんです!」

「え……っとお前…?」

「俺! 松風天馬と言います!」


現れた人は説明をほとんどしてくれなくて。大好きなサッカーを守るためにここにいると断言した。意味がわからない。
信じてくれとの言葉に守は信じると言った。理由はサッカーが大好きな人の言葉だから。…………守。


「信じるなんてできない」

「ええ!!?」

「なんでだよ」


なんでも何も信じられないからだよ。


「そんな嘘で守を騙そうとするな」

「嘘じゃないです!! あの……上手く説明できないんですが!! こいつらはサッカーを消そうとしているんです!!」

「……サッカーを消すってなに」


サッカーを消すなんてできっこない。本気で言ってくる男子に少し冷たい声になってしまうのは仕方ない。


「その…タイムパラ? なんとかで…」


しどろもどろの男を冷酷に睨みつける。話にならない。騙すとしてももう少し話を練ってこい。


「真白、大丈夫だって。こいつは嘘ついてない」

「……一応聞くけど理由は?」


目は泳ぐ。言葉は詰まらせる。曖昧にする。
これで嘘をついていないと思える方が難しい。


「サッカーが大好きなやつに悪いやつはいない!!」


ニカッと白い歯を出す守の笑顔はなぜか信用できてしまう。守が正しいと思えてしまう。「……そうだね」と守に同意する僕に詐欺師もどきの男はほっと息をついていた。

守が集団の中心人物に話が本当かと確認すると「そうだ」と肯定。守はサッカーをするという提案を飲み込んだ。

そこでまた更なる問題。サッカーをするための人数が揃っていない。揃っていなかったがまた見知らぬ声と共にいつの間にか人がいた。振り向くと緑色の集団が7人。味方。これで11人。











緑色の人が指を鳴らす。そしたら服が変わった。すごい。すごいけど……

「………………。…………………」


変なユニフォーム。守も同じく変。もう一度僕の格好を確認する。変。ユニフォームが変すぎて表情が険しかったみたい。唯一緑ではない茶色が慌てて僕に声をかけてきた。


「やっぱり8番は真白さんですよね!! 交換しましょう!!」


なにそれ。背番号にこだわりはない。


「あれ? ……あの、真白さん?」


守のところに行こっ。


「……天雷真白って話に聞いていた人と違うね」

「今の真白さんは俺の知っている真白さんと一緒だと思えないんだけど、あの人って本当に俺の知ってる真白さん?」

「うん。彼女が円堂守と共にサッカー部を作りあげた英雄の一人だよ」

「どっちかっていうと朝陽さんみたい……。真白さんが笑ってないのって違和感だなあ……」


消えた場所では茶色と緑が僕について会話をしていたなんて知らない。

守にずっと気になっていたことをこそこそ話していた。


「……やっぱりクマだよな?」

「だあれがクマだ!! 私はクラーク・ワンダバッド様だ!! このテンマーズの大監督様だぞ!!」

「くま、よね?」


短い腕を腰に当てて胸を張るクマのぬいぐるみ。なぜか動いて喋る。
そわそわしちゃう。 かわいい。ぬいぐるみがかわいい。動くと機能は見たことあるけど流暢ではなかった。喋るのも機械音はあったがこれみたいに会話はできなかった。

守の耳元でこそこそと喋る。


「さあ? 売ってんのかな?」


欲しいなあのぬいぐるみ。可愛い。売ってないのかな。少ししょんぼりしていると茶色と緑が近づいてくる。


「あの、フォーメーションはこれでいいですか?」

「ん? ……うーん? いいのかなこれで」

「………いいよ」


守は試合が初めてでよくわからないらしく僕に返事を求めてきた。茶色と緑が考えたフォーメーション。守がGKで僕がMFなら他はどうでもいい。だから僕と守のポジションだけ確認して吐き捨てる。


「よかった!! じゃあ円堂さん! お願いします!」

「……え! 俺が!?」


茶色が守に渡したもの。変なものかと警戒していたがただの黄色い輪っか。キャプテンマーク。
横ではお前がお前がと押し付けあっている守と茶色。


「俺、試合するの今日が初めてだし!!」

「円堂さんがいるチームは円堂さんがキャプテンですよ!! それに俺もキャプテンなんてほとんどしていないし、試合初めてしたの今年ですよ!!」


隣での押し付け合い。終わらない。
なんだかんだキャプテンは中心となるから。今年って一月からなのかそれとも今年度を言い間違えたのか。今年度だとしたら今日からだからほぼ守と同じ。


……まともに試合をするのは3年ぶりだな。


久しぶりだ。今日初めて出会った人たちとチームを組む。今日限りだからどうでも……一郎太にチームメイトとは仲良くしなさいって言われてるんだよなぁ。
茶色はまだ守と譲り合っている。話しかけれるのはもう片方の人。


「……………、ねぇ!」

「僕?」

「………天雷真白。ポジションMF」


緑色は丸い目で僕を見てくる。なんで。僕間違ったことしてないし。今日限りのチームの人に挨拶ってやっぱりやらないのかな。


「僕はフェイ・ルーン。ポジションはFW、かな。僕も試合ほとんどしたことなくて。だけど………サッカーは昔からしてたよ」


一郎太が間違ってたんだと理解した僕は出された手には気がつかずに指定されたポジションに駆け足で向かう。残された緑色が目をぱちぱちして行き場のなくなった手を下げていたのに気がついたのは誰もいなかった。

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