『だがっ! 得点差以上に帝国の猛攻が続いているっ!! やはりっ、一人少ない影響が出始めているのでしょうか!?』
「チームメイトを放っておいてお前はこんなところで何をしているんだ?」
覇気のない小さな優一の声。
『雷門! またも攻めは不発だ!』
静かな病室に実況の声が響く。
「お前にとってサッカーというものはその程度のものだったのか? 答えろ、京介」
帝国の二点目が決まる。
「お前が男と話しているのを聞いた」
「っ」
優一が毛布を床に投げ捨てる。露わとなる怪我をした両脚。
「京介、俺はお前に頼んだか? この足を元通りにしてくれと頼んだのか? 一度でも!?」
静かな問い詰めに剣城は声を出さない。
「サッカーの勝敗を管理する機関、フィフスセクター。お前がそんな奴らと関わっていたとは……。そんなのが俺たちの好きだったサッカーか? 上手くいったら楽しい。失敗したら悔しい。ドリブルで抜きたい。シュートを決めたい。そんな一つ一つの思いが溢れて胸の奥が熱くなる。サッカーはそういうもんだろ、京介!!」
優一の瞳から涙が流れた。久しく見ていない兄の涙。
「っ、兄さん……」
「お前はサッカーを裏切った。俺たちの好きだったサッカーを裏切ったんだ! 出てけ!」
剣城はゆっくりと立ち上がって兄に背中を見せた。廊下に出るとドアを閉めて悔しそうに奥歯を噛み締める。すぐ近くにいる真白にも気づかないで。
「早く行きなさい」
聞き慣れない女性の声がした。ぽんっと頭に手を乗せられたのには反射的に叩き落とす。
顔を上げると女の人が微笑を浮かべていた。
「試合会場は帝国。近場だからすぐに行けるよ」
「だがっ……」
「お兄さんは試合を観ている。答えはそこで出しなさい」
万札を握らされる。急に見知らぬ女性にお金を渡されて恐怖と驚きから押し返そうとしたが、女性は一歩後ろに下がってしまった。ほとんど変わらない身長。いや、剣城の方が高い。
「タクシー、そこに呼んである」
そこ、と門を指す。窓から見下ろすと確かに車が一台。
剣城は真白を揺れる瞳で見た。変わらず口角を上げている女性。だけど少し悲しそう。
「っ! ありがとうございます!」
「……がんばれ」
真白の声は届いたのか。
剣城は病院ということも忘れて走って行く。一目散に階段を駆け降りていく。
「証明するんだよ。貴方の本当のサッカーで」
ぽつりと廊下で呟く。
「兄を大切に思っていることを証明してみろ」
誰にも真白の声は届かない。
「兄弟。兄弟の絆以上に大切なものはないはずだからな」
ある日の聖帝の言葉を思い出して真白はクスリと笑みをこぼした。
「言葉足らずだよなあ……」
兄弟の絆以上に大切なものはない。
豪炎寺の言葉を剣城は間違えた解釈をしてしまった。確かにフィフスセクターの聖帝からシードへ出した言葉なら雷門を妨害しろという意味なのかもしれない。だけどあの一言は聖帝イシドシュウジとしての言葉ではなく、豪炎寺修也の言葉だと真白は思っている。
「大好きな兄のために自由なサッカーをしなさい、という意味だろうなぁ」
「むっずかしいねえ」とからから笑い優一の病室の扉を開けた。涙を流しながら何かに堪えている優一にハンカチを渡して落ちていた白い掛け布団を拾う。
「……ありがとうございます」
「いーえ」
布団をかけ直してそのまま去ろうとする真白に優一は慌てて声をかけた。
「よろしかったら一緒に観ませんか」
震えている拳に濡れている瞳。どのくらいかはわからないが、こうなった原因は真白にも多少ある。
少し天を仰いで模索する。
「お言葉に甘えて」
「ありがとう」と愛嬌のある笑みで真白はベッドの横のイスに腰を下ろした。
二人して一言も喋らずにテレビに視線を注いだ。
ハーフタイムには先ほどまで病室にいた人が雷門ベンチに現れ、後半はフィールドに立っていた。