最後の全中が始まると、黒子は急速に離れていった。必死に手繰り寄せても、彼の心に触れられない。彼の失望を止められない。
黒子の中で自分達が、バスケが、色褪せていってしまっているのがありありと分かった。
―――チームのために何ができるか。
ごめんなさい。あなたの教えに背きます。
チームよりも大切なものがあるのです。
あなたのために何ができるか。
そればかり考えている。


奇跡はこの体にも宿った。
世界が変わる。それでも自分は変わらない。何度も何度も誓ってきた。
自分の世界の中心にいるのは、今も昔も変わらずに一人だけだった。
自分のバスケはいつだって、一人のために。
チームメイトに否定され、バスケを否定しようとしているあなたのために。
バスケは楽しい。もう一度、あなたに伝えたかった。
勝てなければ楽しくないのでしょう?あなたの勝利への意志は、この胸にも息づいている。
だからあなたに勝利を捧げる。
また笑って一緒にバスケができるように、全てを捧げる。
「黒子っち…!」
だけど黒子のパスはもう届かなかった。
彼は絶望に目を閉じてしまった。
―――ああ、やっぱり…。
諦めの声が聞こえる。
違うのに。
自分は変わっていないのに、彼が変わってしまった。
黒子の目はもう自分を映さない。
オーバーペースを止める手は、二度と触れることはなかった。


全中終了後の全体ミーティングに、黒子の姿は無かった。
最後に部屋に入った赤司が全員揃っていると告げる。
違うよ。全員じゃない。
影の薄い彼を数え忘れているだけ。
赤司がチームメイトを見つけられないはずがないと分かっていた。分かっていたけれど否定して欲しかった。
「赤司っち、黒子っちは…?」
がくっと膝が折れる。それでも黄瀬は手を伸ばし、すがるように赤司の服の裾を掴んだ。
「ねぇ、黒子っちは…?」
涼太。穏やかな声が自分を呼ぶ。
ふわりと頬を撫でられる。
「テツヤは辞めたよ」
優しく優しく、赤司は世界の終わりを告げた。
黄瀬はその場にへたり込んだ。
力の抜けた手が床に落ちる。
「…そっか…」
勝てば彼を繋ぎ止められると信じていた。祈るように、勝利だけを求めた。
だけど彼は、消えてしまった。
ならば自分も、この残酷で美しい世界に別れを告げよう。
「―――皆に聞いて欲しいことがある」


2012/12/05

戻る