学校が異なる二人の逢瀬は、おのずと週末がメインとなる。今日もまた黒子は黄瀬の元を訪れ、二人はベッドの上で恋人同士の触れ合いを堪能していた。
重ねた唇を離す度に軽いリップ音がする。黒子の唇は柔らかくて、黄瀬は夢中で何度も口付けた。
「…ねぇ、黒子っち…」
キスの合間にねだる声は、どうしたって甘くなる。
「今日も…駄目?」
「駄目です」
なのに黒子は逡巡の間すらなく、即答で申し出をはね除けた。
「…つれないっス」
黄瀬が拗ねれば、黒子はその尖らせた唇にキスをする。せめてもうちょっと黒子を感じようと口を開く。深いキスは咎められることはなく、二人の舌はぬるりと合わさった。
「ぅ、ん…」
体の中を掻き回すようなキスは、ついつい性行為を連想させてしまう。本人を目の前にすれば尚更、黄瀬の暴走は止まらなかった。
「…黒子っち…っ」
駄目押しのように、口端を伝う唾液を黒子の唇が拭う。黄瀬の理性は容易く、本能の前に平伏した。
「も…我慢出来ない…!」
「黄瀬くん…」
黒子は困った顔で眉を下げる。
黒子は決して黄瀬に手を出さない。大事にしたいのだという、彼の気持ちを踏みにじりたくはない。けれど、このまま二人仲良く並んで一緒に寝ましょうだなんて、とても言えなかった。ならば。
「俺がするとこ、見てて」
せめてもの妥協案を提示する。さすがにそれは予想外だったのか、黒子は目を丸くした。
「黒子っちは、触らなくていいから…!」
懇願に黒子は迷いを見せる。けれど結局、こんな状態の黄瀬を放ってはおけないと思ったのか、こくりと頷いた。
「…分かりました」


必要な道具を用意してベッドに戻る。黒子と向き合えばまるでこれから初夜を迎えるかのようで、鼓動は早鐘を打った。
「…キス、して欲しいっす…」
「はい」
ガチガチに緊張している黄瀬に対し、憎らしいほどに落ち着き払った黒子は、いつも通り丁寧に唇を合わせる。
キスのために目を閉じた黄瀬は、そのまま妄想の世界へと身を投じた。自分の手を黒子の手に置き換えて、腰から胸までを撫で上げる。それだけで、肌は粟立った。
いつもと同じことをしているはずなのに、いつもと全く違う。本人が傍にいてくれることで、イメージはよりリアルに近い質感を持った。
「ん…」
ベッドに体を倒して胸を弄る。服をたくしあげて直に突起に触れれば、痛いくらいに感じてしまう。
「ぁ…っ黒子、ち…」
「…はい」
薄く目を開ければ、空色の瞳と視線が結ぶ。その涼しげな色の中に微かな情欲の匂いを感じ取って、黄瀬は歓喜に震えた。
一人ではない。一緒に、もっと気持ち良くなりたい。衝動につき動かされるままに下を脱ぎ捨てる。今にも弾けてしまいそうな性器に触れると、反った喉がひくりと動いた。
「ん、ぅ……んっ…」
軽く擦るだけで過剰なまでに体が跳ねる。あられもない声をあげてしまいそうで噛んだ唇を、黒子の指先がなぞった。
「…声、出してください」
唇の間に入り込んだ指は、容易く中へと侵入を果たす。
「…聞きたい」
強引ではないのに決して逆らえない強制力でもって、黒子は黄瀬を駄目にする。
「ぅ、あ…」
一度溢れた声は止まらない。屹立を握る手は余すとこなく濡れ、先走りは後孔まで伝い落ちた。
「は、ぁっ…くろこっち…っ」
黄瀬は準備した道具を、黒子に差し出した。
「これ、持ってて…」
薄い青色のバイブは、誰を思って買ったのかなんて丸分かりだっただろう。でも黒子は何も言わず、男性器を象ったそれを手にした。
「どうすれば良いですか」
「…こっち…向けて…っ」
言われるがまま、バイブは顔の前に差し出される。その先には、凪いだ湖のような瞳がある。
黄瀬は口を開くと、先端に舌先で触れた。シリコン製のそれは無機物にすぎないはずなのに、熱いと感じた。黒子の、熱だ。
「ん…」
竿を唇でなぞる。括れに舌を這わせながら、黄瀬は後孔に指を入れた。
「…ふ、ぅん……んっ」
2本の指で体を溶かしながら、先端を咥える。黒子が押し込む力をかければ、口の中がいっぱいになる。
苦しくて涙が滲む。だけど、気持ち良い。黒子にも気持ち良くなって欲しくて必死に舌を伸ばした。
散々に口内を掻き回して抜き出たそれは、唇との間に糸を引く。黄瀬は唾液でてらりと光る先端に口付けて、黒子を見上げた。
「気持ち、良い…?」
黒子は汗で濡れた前髪を、そっと掻き分けてくれる。
「…はい。気持ち良いですよ、黄瀬くん」
嬉しい。幸せで、胸がいっぱいになる。
「くろこ…ちぃ…っ」
意思を伝えることは出来なかったけれど黒子は理解してくれて、しどけなく開いた足の間に濡れたそれが宛がわれた。
「…入れますよ」
「ぅ、ん…!」
焦らしているかのようにゆっくりと、異物は中に入り込んでくる。黄瀬は必死に息を吐いて、黒子がやりやすいように努める。
長い時間をかけて、黄瀬は全てを飲み込んだ。
「は…っん、ぁ…っ」
「…大丈夫ですか?」
「ん、…うん…っ」
黒子を受け入れているのだと思えば、圧迫感すら愛しい。
黄瀬に苦痛が見られないことを確認すると、黒子は少しずつ抜き差しを開始した。
「あ…んっ、あ、あぁ…っ!」
引き抜かれたものがまた奥に戻る度に、頭まで痺れるような快感が襲う。
中を弄る気持ち良さは知っているはずだった。けれどこんなのは知らない。
一人でしていた時はあれほどイクのに苦労したというのに、今は少し気を抜いただけですぐにでも達してしまいそうだった。
「あ、ぁっ…くろこ、ち…!」
無意識に伸ばした手に指が絡む。直に伝わる熱に、体は更に歓喜する。
不意に奥まで穿たれて、黄瀬は高い声をあげて背を反らした。もう駄目だと思うのと同時に、カチリと小さな音がする。
「ひ、ああぁ―――っ!」
可動式のバイブはダイレクトに性感帯を抉る。頭が真っ白になるくらい気持ち良い。
強く握り締めた手はベッドに押し付けられる。覆い被さるように唇を塞がれたままで、黄瀬は絶頂に大きく震えた。


ふわふわと意識が浮上する。清められた体に、さらりと滑るシーツが心地好い。
事後の気だるさを残した体を起こした黄瀬は、恋人を探して部屋を見回した。
「黒子っち…?」
見える範囲にあの水色は無い。黄瀬が心細さを感じかけたとき、部屋のドアが開く音がした。
「ああ、起きていましたか」
「黒子っち…!」
いつも通り、ストイックを固めたような彼がベッドの傍まで来る。黄瀬が両腕を伸ばせば更に距離は縮まり、二人はゆるく抱き合った。
柔らかな体温に黄瀬の体から力が抜ける。好きだなぁと、至極自然に思った。
「…早く、結婚しようね」
「そうですね」
黒子が吐いた息が、黄瀬の首筋をくすぐる。
「じゃないと、こちらの身がもちそうにありません…」
肩口に落ちたのは悩ましげな呟きで。
黄瀬は、小さく声をあげて笑った。


fin 2014/3/20

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