指、唇、その全て(青黄)
何の気なしに曲げた黄瀬の首は、ゴキキ…とものすごい音を立てる。それは、冷蔵庫前にいた青峰が思わず振り返るほどの音だった。
「うおぅ…。大丈夫かお前。今の、折れてね?」
「自分でもびっくりしたっス…」
思いの外、体は疲れているらしい。曲げた首に手を遣れば、背後から伸びてきた手がそこに重なった。
「やっへやふ」
アイスをくわえたままの青峰が何を言ったのかは不明瞭だったが、言葉よりも雄弁に手が物語っていた。
首元を親指で押されて小さく息が漏れる。どんな気まぐれか、青峰はマッサージをしてくれるらしい。
「…きもちいー」
スポーツ選手だからか、はたまた黄瀬のことなど知り尽くしているためか、青峰の手は的確に体を解きほぐしていく。
されるがまま身を任せていた黄瀬は、腰に手が回るのを感じて視線を下げた。
青峰の左手はアイスが消えた棒だけを持っていて、食べるの早いなー、とかぼんやり考える。
対して青峰の右手は肩から首へと上がり、そこにかかる髪を掻き分けた。あれ?と思うより早く、後ろ首にひやりと触れるものがあって、その冷たさに黄瀬は文字通り飛び上がる。
「っひゃ…!」
反射的に窓際まで逃亡した黄瀬は、真っ赤な顔で唇の感触を生々しく残したままのそこに手を当てた。
「いきなり何すんスか!」
「うなじがエロい」
「欲望のままに行動すんな!」
至福の時が台無しだ。
怒る黄瀬に、青峰は左手を伸ばした。
「もうしねぇから、こっち来い」
黄瀬は無言でカーテンを握る。青峰は持ったままの棒をぴこぴこと動かした。
「アイスやっから」
「ゴミじゃないスか!」
こいつは本気で機嫌を取る気があるのか。毛を逆立てる黄瀬に、青峰は今度は両腕を広げてみせた。
「キスしてやっから、こっち来い」
緩んだ手から、ふわりとカーテンが落ちる。やつの思い通りになるのはシャクなのに、勝手に足は動いてしまう。
黄瀬はぽふりと、赤く染まった顔を青峰の胸に埋めた。
「…ずるいっス」
青峰はくつくつと楽しげに笑う。その指が、唇が、彼の全てが、いつだって自分を翻弄し、そして幸せにするのだ。
促されて顔を上げる。青峰からは、ソーダアイスの香りがした。


fin 2014/7/9

課題『専属マッサージ師』、『夏っぽい話』


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