いつからか抜かされた背丈。いつの間にかできていた距離。
いつも隣に居てくれたはずなのに、と、過去に縋りながら行きて行く事が惨めで辛くて、いつしかその背中を追いかける事をやめた。
この季節になると彼が好きだと言っていた色を纏う彼岸花が線路の脇を真っ赤に塗りつぶしていて、私はそこを裸足で踏みしめながら歩く。そのまま彼の好きなその赤が私の不健康な青白い足を浸食して真っ赤になってくれればいいのにと考える。そうしたら彼は私を見てくれるのだろうか。いつの間にか遠くのフェンスの向こうのそのまた奥へと消えてしまった彼の陰が私を見てくれる妄想を、足下の赤を踏みしめながら繰り広げてみる。じりじりと突き刺すようなこの痛みをこの赤は知っているのだろうか。彼は知っているのだろうか。
「お前世話出来んの?」
「当たり前じゃ」
「俺の真似するんやなか」
薄いプラスチックの膜の中でゆらりと泳ぐ金魚を眺めながらからころと下駄を転がして裸足になる。丸井が裸足は危ないと私を叱るけれど、たとえガラスを踏んで血だらけになったとしても、彼の好きな赤だから私は厭わないし、むしろ自分の足を更に愛せる気がした。彼の好きな赤がゆらりと小さな小さな膜の中で泳ぐ。そこにしか生きる世界がない小さな命は彼の好きな色の体を持っていて羨ましいと思った。どうせなら、私もこんな小さい世界で彼と二人だけでゆるりと生きたかった。
ただ、生きるだけ、彼と。
「幸村君に、彼女が出来たって」
その日私は髪の毛を真っ黒に染めた。悪友の二人よりも目立っていた赤を黒に塗り潰した。丸井より真っ赤だった赤を。仁王より目立っていた長い赤を。爪に纏っていた赤も消して黒を纏った。筆箱の赤もポーチの赤も財布の赤も全部黒にした。イチゴ味の飴は代わりが見つからなかったから黒飴にした。黒ではなく茶色いそれは、微かにほろ苦くて泣いた。
「葬式にでも行くんか」
「そうだよ」
「仕方ねーから俺達も付いてってやるよ」
何も考えずにふらふらと彷徨っていると、幼い頃に彼とよく遊んだ海岸へと辿り着いていた。いつの間にか現れた悪友の一人はイチゴ飴を、もう一人は真っ赤な彼岸花を携えて、私は裸足のまま一緒に海岸を歩いた。水が少しだけ冷たくて、まるで彼のようだと思った。彼はもう赤ではなく、彼女の好きな青色を好きになったという。私の知っている彼はもう私の中にしかいないから、せめてこの手で私の中の可哀想で愛おしい彼を葬ってあげようと思った。
真っ赤な彼岸花を波打ち際で手放すと、あっさりと手を離れて波に攫われていった。
赤が滲んだ
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