text | ナノ
いつも煩いほどの元気が取り柄な隣の席のクラスメイトが何故か私の机で泣いていた。





「どうしたの」
「いや、それがな」

困ったように笑いながら状況を説明するクラスメイトその2の白石の言葉を要約すると、彼が昨日見た夢で私が死んだらしい。なんて奴だ。私に恨みでもあるのか。そう思ったけれど目の前で泣きじゃくるコイツに悪意があるとは思えない。私の席に座る彼の代わりに隣に腰を下ろすも、彼は私に気付いていないように泣きじゃくる。そんな彼を置いて白石はジュース買ってくるわとやんわりと彼を私に押し付けて去って行った。

小さく溜め息を吐いて彼の肩を叩くと、案の定振り返った彼の頬に人差し指を突き刺す。むに。ハリのある赤ちゃんのような頬に思わず目を細めると、彼の驚いたような目と目が合った。その目は赤く充血していて、私の顔を見た途端、目を見開いた。おいおい、私は幽霊か。

「みょうじ…」
「なーに忍足」
「良かった…」
「あのね、夢は夢だよ」
「そうなんやけど、なんかリアルで凄い怖かったんや…」

何故か腕を伸ばし握られた手は温かくて、私の存在を確かめるようなその動作に苦笑する。そのまま忍足はぽつりぽつりと昨日の内容を口にする。何故か忍足と私が一緒に帰っていて、その日は雨で、スリップした車が猫に突っ込んで行こうとして、私が猫を救って、轢かれて、死んでしまう。
ドラマの見過ぎだよ、と笑い飛ばすも目の前の彼は眉を下げて悲痛そうな顔は変わらない。

「なんで俺は助けられへんかってんやろう…」
「私を?」
「…おん」
「でもそしたら忍足が死んじゃうじゃない」
「みょうじが死ぬ方が嫌や」

お人好しだなぁ。と思いつつも夢のことでこんなに真剣に話されては敵わない。未だに夢の内容で後悔している彼に、目を細めながら口を開く。

「ねぇ忍足」
「…なん」
「私は死なないよ」

手をぎゅっと握りながら、目が赤い彼と視線を合わせる。忍足は目を丸くしながら、口ごもる。

「でも…」
「だって現実の忍足は絶対に私を助けてくれるし、ちょっと膝を擦りむいたりするかもしれないけれど、笑い話しにして助けた猫を二人で抱きながらまた家路を歩くんだよ。それでその後は猫を引き取るか引き取らないかで揉めるんだけど、最終的には晩ご飯の話しになるんだよ。現実の私と忍足は絶対死なない。だって君はスピードスターでしょう?」

いつもいつも煩く繰り返される彼の二つ名を口にすると、途端に晴れていく顔。目は相変わらず赤いけれど、顔はスッキリとしていた。単純な奴だと思いながらも、その顔を見て安心する自分が居た。

「当たり前や!浪速のスピードスターはトラックより速いっちゅー話しや!」
「はいはい」
「あ、もう立ち直ったんか」

面倒な忍足を私に押し付けてジュースを買って帰ってきた白石は驚いたように目を丸くする。私は忍足を適当にあしらいながらやんわりと彼を白石へと返す。すると忍足はいきなり立ち上がり、ジュースのプルタブを開けようとしていた白石の前で立ち上がった。途端に怪訝そうに顔を歪める彼へも臆せず堂々と胸を張る忍足が何故かかっこ良く見えた。

「白石!俺はみょうじを助けるで!」
「なんなんこいつ…」
「可愛いじゃん。素直で」


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