text | ナノ

愛していると鳥肌が立ちそうな程甘ったるく呟く彼の言葉が今時のコンドームのように薄っぺらい理由は彼の日頃の行いの所為であると思う。今日も掃除をしていると窓からいちゃつくお盛んなカップル、ではなくもっと低俗な関係の二人組(片方はあいつ片方はビッチと噂の股の緩そうな女)が掃除を放ったらかしてディープキス中なのだからもう私が説明しなくてもいいだろう。今ならこの雑巾を絞ったドロッドロの泥水のように濁ったバケツの水を彼の顔面に掛ける事が出来る気がする。どうしてこんなに乱暴な気持ちが生まれるのか。その理由が分からなかった私は知り合いで一番もの知りな聡明な某こけし男子に聞いたがまともな解答は得られなかった。

「それはな、みょうじ。  じゃないのか?」

はぁ?そんなわけないでしょばかやなぎ!なんで私があいつに!


「愛してる」
「はいはい」
「愛してる」
「はいはい」
「愛してる」
「はいはい」
「愛してるナリ」
「はいはい」
「ダーリン愛してるっちゃ!」
「はいはい」
「…なまえちゃんは今日もつれんのぅ」
「はいはい」

壊れたカセットテープみたいに愛してるを甘く呟く彼にイライラが募りつつも相手にしたら負けだと自分に言い聞かす。さっさと部活に行きなよ。という私の考えもお見通しなのか今日は五時からナリ。と言って貸し出しカウンターに肘をついてにこにこと私に笑顔を向ける。阿呆みたいな笑顔の安売り。写メを取って現像したら一枚いくらで売れるだろうと本気で考えた。私はそんな彼から逃げるように本をめくる。内容が入って来ないのは目の前にこいつがいるからだ。そう言い聞かせてぺらりとめくる。目に入るある単語に顔を顰めると目の前の仁王雅治は「なまえちゃんってばここに皺寄っとるよー」と手を伸ばして眉間の皺を突つきながら笑った。その手を払いのけようとすると力強くその手を握りしめられて目を見開く。目の前にはいつもの巫山戯た調子ではなく不敵に笑う狼が居た。ああ、聞きたく無い。聞きたく無い聞きたく無い聞きたく無い。

なまえ、愛しとるよ
「それはな、みょうじ。嫉妬じゃないのか?」




そして、陥落



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